奇跡の生還

* 第1話

「もう起きても大丈夫なのシュピル?」
身体を起こしたシュピルの顔を、まだあどけなさを残す黒髪の少女が心配そうに覗き込んだ。
「ああ、もう傷もだいぶ癒えたようだ、こんなことも出来るぞ」
少女をからかうようにシュピルは軽く少女を抱き上げた。
「おろして・・・」
少女をまじかで見つめる淡いブルーの瞳は優しく、少女は頬を赤らめ、その胸に抱かれていたい感情と、そのちから強い腕から早く逃れたい感情に戸惑っていた。
「ごめんごめん」
シュピルは笑いながら少女を下ろした。
「もう嫌い」
そう言って少女はシュピルを残し部屋を駆け出した。
少女の後姿を見送るシュピルの顔にもう笑顔は見られなかった。
いったい私は誰なのだ・・・
もうここに来て3ヶ月、いまだに自分の過去が思い出せなかった。
私は砂漠の中に矢傷を受け死にかけていた。
ただそうとしかシュピルを助けた少女の父親は言わなかった。
意識を取り戻し体力が回復するにつれ、自分が何者なのか、記憶を取り戻せぬことに焦りを覚える日々が続いていた。

第2話 記憶の中の少女

私は一体誰だろうか…
ここに来てもう何度思ったことだろう…
何とか思い出そうと助けてくれた娘の父親に何度尋ねてもはぐらかされるだけ…
シュピルはどうしても自分のことを思い出したかった…
もし思い出せるなら…夢の中に出てくる少女も…
シュピルは記憶を失ってから不思議な夢を見つづけていた…
緑が広がる小高い丘…
そして高貴な姿の自分と…
黒髪・黒目の娘…
何故だか分かる…
私はこの少女を愛しているのだと…
少女の笑みが自分に向けられると震えるような喜びを感じる…
自分が少女を自分の腕の中に抱きしめようとすると…
少女は決まって腕をすり抜け走っていく…
そして少女を抱き締めるのは…
自分とよく似た金色の髪・琥珀色の瞳をした男…
そして自分は叫ぶ…「ユーリ!!」と……

「ユーリって一体誰だろうか…」
シュピルは思う…
夢の中の「ユーリ」と自分は必ずどこか接点がある…と…
何よりも夢だけで終らせたくなかった…
夢でも分かる…
自分はこの少女を本当に愛していたと…
どうしても会いたい…
「ユーリ」と…
そして自分によく似た「ユーリ」を抱きとめている男…
直ぐに分かった…
「ユーリ」が愛していたのは自分ではなく、この男だと…
「ユーリ」と男と自分には何の関係があるのだろうか…

コンコン

「シュピル入っていい…」
「いいよ…入っておいでよ」
娘が入ってきた…手に何か握っている?
目を凝らせばかなり高価な額飾りだ…
「どうしたんだい?そんな高価な物」
「…父さんの部屋から持ってきたの…これシュピルが砂漠で倒れてた時つけてた物なの…」
「そうなのか?私がこんな高価な物を?」
「……これ…ヒッタイト帝国にしかない宝石で作られてるの…ここ見て…」
娘に言われてシュピルが見たのは…
額飾りの裏に刻まれた
『ザナンザ どうか幸せに… カイル・ムルシリ』
の文字だった……

第3話 記憶の破片

「カイル・・・ムルシリ・・・?誰だ、それは・・・?」
「やだ、シュピル!ヒッタイトの皇子様の名前だよ。本当に、覚えてないんだね。
 ・・・ねぇ、シュピル。あなたは誰?なぜ、あなたがこんな高価な物をもっているの?」
分からない・・・・何も、ワカラナイ・・・・。
頭の中に残っているのは、ただ一つだけ。
”ユーリ”という、女性の名前だけ・・・・。
わたしが愛した女性・・・。その恋は、ムクワレナカッタ・・・?
「・・・アカネ、わたしをヒッタイトに連れて行ってくれないか?」
アカネ・・・わたしを砂漠から拾い上げてくれた少女。
「・・・ねぇ、シュピル。この、”ザナンザ”っていうのが、あなたの名前?
 それとも、誰か他の人の物なの・・・?」
ザナンザ。
懐かしい響き、懐かしい言葉・・・。
しかし、何もワカラナイ。
ヒッタイトへ連れて行ってくれ。そうしてら、何か・・・わたしを知っている者に
 出会えるかもしれない・・・。」
「いいだろう、そこまでお前が決心したならば。」
いつの間に来たのか、アカネの父親がそこに立っていた。
記憶をなくしたシュピルは、ヒッタイトへ向かうことになるのだ・・・。
記憶の破片を求めて・・・。

第4話 ハットゥサの都にて

「へぇ~何年かこないうちにヒッタイトも変わったわね~
何時の間にかシュッピルリウマ陛下からムルシリ2世陛下の世に変わってたなんて~」
アカネが言った…
砂漠から自分を助けてくれた者の娘・アカネと共にシュピルはヒッタイトの都…
ハットゥサに来ていた…
シュピルはハットゥサに不思議な懐かしさを感じていた…
しかしそれは何故だか分からない…
「それにしても…いくらエジプトと戦争が終ったからって、この盛り上がりよう何?」
アカネが不思議に思うのも仕方がない。
街には皆が花をまき散らし、酒が溢れ、祝福の踊りが踊られている…
何においても行動的なアカネは井戸端会議中の主婦に話かけてみた。
「すみません。どうしてハットゥサはこんなにも華やかなんですか?」
「おや?あんた異国の者かい?決まってるじゃないか!
皇帝陛下にお世継ぎが出来たんだよ!
めでたいだろう~現皇帝様と皇妃様の御こならヒッタイトの皇統は安心さ!」
「へぇ~今の皇妃様って誰でしたっけ?バビロニアの王女でしたっけ?」
アカネの言葉に主婦達の顔色は変わる…
「お嬢ちゃん…それは今のハットゥサでは禁句だよ…
それは前々帝の皇妃ナキア…
エジプトとの密通罪とヒンティ皇妃の暗殺罪で軟禁されたのさ…」
ヒンティ皇妃?…その名に懐かしさを感じるシュピル…
アカネと主婦達は話を続けていた…
「しかし皇妃様も大変だね~国母になられたというのに、近衛長官も続けられるなんて…」
「えっ?女の人が近衛長官なんですか??」
「ああそうとも!我が国の皇妃陛下はイシュタル様だからね!」
イシュタル?…イシュタル…何かが引っ掛かる…
「今日は御子が生まれて始めてのパレードがあるから、あんた達も陛下とイシュタル様と皇太子殿下をひと目見られるかもね!あっ!来たよ!」
主婦達の視線の先には沢山の兵達が…
その中央にある輿に若き現皇帝と皇妃…そして生まれたばかりの現皇帝の第1子がいた…

第5話 奇跡の再会

民の祝福を受け、皇帝一家の輿がやって来た。
どうやらこの日は皇太子の誕生を神殿で祝っていたらしい。
その帰りに民衆の参賀を受けたようだ。
輿の天幕が外れる。
中にいるのは、若い皇帝と美しい皇妃、そしてして可愛らしい赤子。
わぁ~あの皇子様、黒い髪に黒い瞳だ~可愛い~お母様そっくりなのね~」
アカネが黄色い声を上げる。
遠目にも分かる少女のような母に抱かれた赤子の姿。
母の腕でもがいて父親の方に手を伸ばす。
赤子を皇帝に渡した皇妃はシュピル達がいる方を向き手を振った。
さらに歓喜の声が上がる。
(…!!…あの娘は!!『ユーリ』!!)
そう…輿の中にいる皇妃は紛れもなく夢の中の『ユーリ』であった。

「ちょっと!?シュピルどうしたの??」
シュピルはアカネを引っ張って民を掻き分け前の方へ行った。
まじかで見た皇妃…シュピルは確信した…この皇妃がユーリなのだと。
そうすれば隣にいる皇帝は・・・
「ねぇ!シュピル見て見て!現帝様ってシュピルと顔が似てる!!」
…間違いない…現帝は夢の中の『ユーリ』を抱き締めているあの男だ!
では自分は皇帝一家と関わりのある人間?
シュピルは本能的に輿を止めようとした。
この人達なら自分の正体を知っている。
走り出ようとしたその時、シュピルの姿を見た皇帝の第1子が「ア~~~」と嬉しそうな声を上げ
シュピルの方へ手を伸ばした。
その瞬間、輿を担いでいた兵が石に躓き輿がグラリとバランスを崩す。
すぐに体制を取り戻したが皇子だけは皇帝の腕から飛び出し輿の中から落ちていく。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!デイルーーーーーーーー!!」
皇妃の悲鳴にシュピルは走り出し地面ギリギリの所で皇子を腕の中にキャッチ!
皇子は嬉しそうにキャッキャッ!と笑っている。
輿が降ろされ皇帝と皇妃が飛び出してきた。
「デイル!!」「ア~~~~」
皇妃は皇子を腕の中に抱き締める。
「良かった…
怪我をしなくて…
あの‥
息子を助けていただいてありがと…」
シュピルを見た瞬間、皇妃の顔色が変わる。
「ザナンザ皇子!!」
そう皇妃…いや夢の中の『ユーリ』は確かにそう言った。

第6話 王宮

「ザナンザ・・・皇子・・・なの?」
『ユーリ』はいった。
自分の姿を見て、ひどく驚きながらさっきから『ザナンザ皇子』とばかり。
その騒ぎを聞きつけたのか、現皇帝カイル・ムルシリ2世が馬に乗ってやってきた。
「デイルは無事か!?・・・ユーリ、どうしたのだ?」
「カイル・・・・あ、あの人・・・・あの人!」
皇帝陛下は、まっすぐにわたしの方を見てきた。
琥珀色の瞳・・・わたしは、この方を知っている・・・?
「ザナンザ・・・ザナンザか!・・・いや、しかし・・・・そこの者、王宮へ来い。
 デイルを救ってくれてそうだな?」
こうしてわたしは、王宮へとつれていかれた・・・。
もちろん、アカネも一緒に。

「とにかく、そこへ・・・。そなた、名はなんという?そこの娘とはどういう関係   だ?」
「・・・わたしは記憶をなくしております。今の名前はシュピル。この娘は、わたしを
 砂漠から救ってくれた娘です。」
いっきに、皇帝と皇妃の顔色が変わった。
驚いて、そして、安堵の顔色に・・・。
「・・・皇帝陛下、シュピルを知っているのですか?あの、これ・・・。
 シュピルがつけていたものです・・・。」
娘は、額飾りをカイルに渡した。
カイルはそれに見覚えがあり、このシュピルが何者であるかを裏付ける大事な証拠でもあった。
「ザナンザ・・・。そなたの本当の名は、ザナンザ・ハットゥシリ。我が帝国の、 第4皇子だったのだ。・・・しかし、エジプトへ嫁ぐ途中に・・・亡くなったと。」
「わたしが、皇子?この国の・・・?」
皇帝陛下もうれしそうな顔をしているが、さっきからなみだを流して喜んでいるのは皇妃のほうだ。
『ユーリ』この女性は、皇妃だったというのか・・・・?
「・・・ザナンザ、少しの間この王宮にとどまってくれ。・・・娘、ザナンザを救って くれて、礼を言おう。」
こうして、シュピル・・・ザナンザは王宮にとどまることとなる。


第7話 ユーリとアカネとザナンザと

「はぁ~ でも皇子様だったなんてどうりであたしたちとはどこか違うと思っていたわ。
あっ! ごめんなさい。 皇子様に気安く声をかけちゃいけないんだよね…
身分が違うんだもの」
「何を言っているんだアカネ 私を砂漠から助け出してくれたのはおまえだろう?」
皇子だと解った後も、シュピル…いやザナンザ皇子は相変わらず優しかった。
しかしアカネには恋する物の直感で(そう アカネは砂漠で倒れているザナンザ皇子を始めて見た時から、好きだったのだ)ザナンザ皇子の記憶の中の少女が、皇妃ユーリ・イシュタルであることを、そしてザナンザ皇子がその少女を愛していることに気づいていた。

「少しいいかしら?」
黒い髪黒い瞳の小柄な少女の様な皇妃が、三人の侍女を従えて入ってきた。
「アカネさん ザナンザ皇子を助けてくれて本当にありがとう。 
もう一度皇子に逢うことが出来るなんて・・・
 私…嬉しくて 嬉しくて(半分泣き出している) 
記憶がないのにこんなこといわれて困ってしまうかもしれないけれども、ザナンザ皇子!ありがとう あの時私はあなたに命をかけて助けてもらったのよ生きていてくれて、なんて言っていいのか解らないけれどもよかったわ」
(命をかけて? 私はそれほどこのひと女性を愛していたのか?)
考え込むザナンザ皇子を見てユーリは、「疲れているのよね?ごめんなさい ゆっくり休んでからお話しましょう」
そう言うと二人を残して部屋を出て行った。


8話 カイルの愛 ザナンザの思い

ザナンザが王宮に来て早10日。
覚えてもいないのに何故か懐かしいこの王宮の中庭を歩いていると、ふと目の前に皇帝・カイルの姿があった。
「皇帝陛下…」
「ザナンザ…兄上でもいいんだが…」
ザナンザはカイルのことを決して「兄上」とは呼ばなかった。
これだけ似ているのだ。
確かに異母兄なんだろう。
だが記憶が戻るまでは馴れ馴れしく接するのがザナンザには出来なかった。
「いえ…ですか…」
カイルはふぅとため息をつくと、ジッとザナンザを見た。
「変わっていないなおまえは…エジプトへの婿入りを決めたあの時と同じままの瞳だ」
まさに兄の目でカイルはザナンザを見た。
誰よりも願った最愛の弟の幸せ…
2人でヒッタイトの未来を何度話し合っただろうか。
ザナンザは帰ってきたのだ。
ヒッタイトに!
今からでも遅くない。
ザナンザに幸せになってもらいたい。
その為にはまず聞くことがある。

「ザナンザ…聞きたいことがあるのだが…」
「なんですか皇帝…いえ兄上」
ここに来て初めて「兄上」と呼んでくれたザナンザに笑みを浮かべるとカイルは言った。
「おまえはアカネ姫と気が合っているらしいな。アカネ姫のことは好きか?」
カイルの言葉にザナンザは赤くなるとモジモジと答えた。
「はぁ…アカネは私を助けてくれた命の恩人…何年も一緒に暮してましたから…その…」
「そうか…では問題を替えようか」
カイルは微笑んでいた顔を真剣そのものにすると言った。
「ザナンザ…おまえは今でもユーリを愛しているのか?」
カイルとザナンザの間で時が止まった。

第9話 ザナンザの答え

しばらくの時が流れた後、ザナンザが口を開いた。
「私は…自分でもまだ、よくわからないのです。
まだ記憶も、戻りませんし。」これが、カイルの問いに対する、ザナンザの答えだった。
「そうか。そうだよな。記憶も戻っていないのに、昔、愛していた女を今でも愛しているかと聞かれて答えられるはずがないな」
そういうカイルは、複雑な表情をしている。
「あの…兄上。ですが私は、アカネのことが好き…ですし…」
「無理をしなくていい。お前が本音を言っていないことはすぐにわかる。」
しばらくの間をおいて、カイルが再び口を開いた。
「お前は、今でもユーリを愛していることを薄々自分の中で感じているのだろう?
ただ、確信がないというか、記憶がない為に、その気持ちに自信がないのだろう?」
「兄上…どうして?」
「幼い頃から一緒に育った仲だ。
お前の言い草や、顔色を見ていれば、大体何を考えているかは判るさ。」

第10話 考え

「・・・そうですか・・・・。私は、あの女性の夢を何度も何度も見ました。
 そのたびそのたび、記憶のあるときこの女性を愛していた・・・と、いうことを
 深く認識させられました。」
カイルは、大きなため息をついた。
分かってはいる。分かっているんだ。
今のザナンザには記憶がないことを・・・。
ユーリを、愛しているということだって・・・。
しかし、カイルは不安だった。
いつかザナンザは、記憶を取り戻してユーリを奪ってしまうかもしれない。
いつまで経っても記憶が戻らないで、もう一度ユーリに恋してしまうかもしれない。
それを知ったとき、ユーリはどうするだろうか・・・。
「皇帝・・・いえ、兄上。そんなに深く悩まないでください。
 ほら、ユーリ様です。兄上を探しているみたいですよ。」
「カイル~!ザナンザ皇子~!!2人で、何を話していたの?」
はぁはぁと、息を切らしながら走ってきたユーリを、カイルは抱き上げた。
特に意味もない。理由もない。
ただ、ユーリは自分のものだということを確かめたかったのかもしれない。
「な、な、何するの!」
「いや。・・・さ、ザナンザ。一緒に来てくれ。王宮まで一緒に行こう。」

今は、深く考えるのはよそう。
その時になったら、またかんがえてみればいいさ・・・。

第11話 月のかけら

回廊には、真昼のように煌々と月の光が満ちていた。
静寂の中、歩を進めながらザナンザは、いましがた後にした宴を思い返す。

 記憶を失った彼を思いやってか、ごくごく内輪で行われた夕宴は、皇帝と皇妃、乳母に抱かれた第一皇子、わずかな側近だけが参加者だった。
 側近の一人が奏でる弦の音(彼は乳兄弟らしい)、腕の中の皇妃にささやきかける皇帝の低い声。ときどき、はじけるようにこぼれる皇妃の笑い声。
以前、自身がいたはずのその場面は思い出せないはずなのに、胸が締め付けられるほど懐かしかった。
 とちゅう、赤ん坊の皇子がむずかりだした。
皇妃が抱き取り、あやしはじめる。
 柔らかに口ずさまれる子守歌を聞くうちに、自然と口をついて出た言葉。
「あなたは・・・私の母上によく似ている」
皇妃の手が止まった。
信じられない、と言う風に見開かれた大きな瞳から、やがて涙がこぼれ落ちた。
「あ・・なにか、失礼なことを?」
あわてて謝罪しようとすると、皇帝が皇妃を腕に抱き込んだまま、それを制止した。
「ザナンザ、思い出したのか?」
「・・なにを?・・母上?いいえ、なにも・・ただ、漠然とそんな気がしただけです」
胸の中をかき乱されるような懐かしさ。
母にではなく・・


居室として与えられた一角に近づくと、中庭に降りる階段にたたずむ影が見えた。
薄衣をまとった細い影は、月の光を浴びるように、両腕を天にさしのべている。
・・・ユーリ!!
息をのんで立ち止まる。
小柄な人影はふわりと舞い、すそをひらめかせて、中庭にすべり降りた。
闇のような黒髪に、月光がはじかれる。
後を追い、テラスまで急いで近づいたザナンザをくるりと振り返ると、笑った。
「おかえりなさい、シュッピル・・・じゃなくってザナンザ皇子」
「・・・アカネ・・」
凍り付くように動かないザナンザの前で、小首をかしげる
「・・この服、似合わない?皇妃様が、私にって・・」
すそをつまむと、いぶかしげにザナンザの顔をのぞき込む。
「あ、ああ。よく似合っているよ・・見違えた・・」
「そう?」
言うと、嬉しげにまた舞い始めた。
一生身につけるはずの無かった高価で美しい衣装だ。
若い娘なら誰でも無邪気に喜ぶだろう。
アカネの娘らしい姿に、ザナンザは一瞬ほほえみながら、次には表情を消し去る。
そう、見間違えたのだ。
小柄で、黒髪の・・駆け寄って、抱きしめようとした。
アカネに、惹かれている。
そう、思ってきた。けれど、それは似ていたからなのか?
決して、自分のモノになるはずのないひとに。
その姿を目にするたび、心をかき乱すあのひとに。
ユーリ。
皇帝の正妃。
ヒッタイトの女神。
思いをかけることなど、許されるはずのない人。
ようやく、ザナンザは理解した。
どうして、皇子である自分が砂漠で倒れていたのかを。
遠く異国に輿入れするために故郷を去り、辺境で命を落とそうとしたのかを。
記憶を失う前の自分が、何から逃れようとしていたのかを。

第12話 もう一度

「ハットウサを、出てゆく、だと?」
皇帝が、驚いて声をあげた。
口調にかすかに怒りが混じっていたように感じたのは、気のせいか?
「はい、私は以前、カネシュでの知事職に就いていたと聞いています。
そちらに行けば、あるいは記憶が取り戻せるきっかけが掴めるかと」
頭を垂れてうったえる。
皇帝の横では、おそらくユーリが驚いた顔をしているはずだ。
「それはそうかも知れないが・・ザナンザ、私はお前をそばに置いておきたいのだ」
あなたのそばは、ユーリのそばでもある。
手に入らない女が、他の男の手で慈しまれ、愛されていることに耐えてゆけるはずがない。
「以前の私は、陛下のお役に立つことだけを望んでいたといいます。
私は、一日でも早く記憶を取り戻し、またお役に立てるようになりたいのです」
「・・・よいのか、それで」
ユーリのそばから離れて。皇帝は、知っている。
「アカネさんを、連れてゆくの?」
そして、皇妃も知っている。
この3人の間にどんなことがあったのかは、わからない。
ただ、分かることは、皇帝の側に皇妃は寄り添い、自分は遠い異国に旅立とうとしたことだけ。
記憶を失うことになった砂漠にユーリはともにやってきて、自分は我が身を投げだしてその命を救ったこと。
愛する女を、弟を見送らせるために送り出した皇帝の自分に対する気持ち。
 だからこそ、自分は離れなくてはならない。
「アカネとは、一緒に参ります」
真実を知れば、傷つくかも知れない。
それでも、アカネのもたらす幻影はいまの自分に必要なのだ。

第13話 男が女にそそぐ愛


カイルに頭を垂れながらカネシュ行きを願うザナンザを見つめながら、ユーリは、ザナンザと過ごしたアナトリアでの最後の星夜のことを思い出していた。

「王妃を愛してあげて。そしたらみんな幸せになれるよ」
あの頃のあたしには分からなかった。
どんなに残酷なことを言っていたか。

あの頃のあたしは知らなかった。
カイルの腕の中で少女から女になって、あたしは男が女にそそぐ愛は思うだけでは満たされないものなのだと知った。
思うだけでは苦しむだけなのだと。

あたしがザナンザ皇子の思いを受け入れることは永遠にない。
あたしはカイルを愛したのだから。

あたしは愛することを知って残酷になった。
カイルが他の姫君達に残酷になったように。
ザナンザ皇子がアカネさんを愛しているのか、まだ、あたしを思う気持ちが強いのかは分からない。
でも、わずかでも、あたしを思う気持ちがザナンザ皇子の心の中にあるのなら、あたしはザナンザ皇子の前で、何も知らないふりをして、ただ笑っていることはできない。

「アカネさんを愛してあげて。そして幸せになって。」

今は知っている。
この言葉が残酷だと言うことを。
この言葉がはらむもう一つの意味
『アタシハアナタノモノニハナラナイ・・・・』

それでもあたしはザナンザ皇子に言った。

第14話 それから

「アカネを愛してあげて。そして幸せになって」
ユーリが言った。
真っ直ぐな瞳が、私の姿を映しこんでいる。
ユーリの瞳の中のわたしは、身じろぎもしない。
皇帝・・兄上にあんなにも愛されているあなただ。
その言葉の意味は分かっているだろう。
「はい、幸せになるよう、努力します」
それが、あなたの望みなら。
象牙色の頬をすべる涙をすくいたくて、それでも私の身体は動かない。
皇帝が、素早く細い肩を抱いた。
腕の中で守るように、頼りなげな身体を抱き寄せる。
思えば、私の目の前でいつも、皇帝はユーリのどこかしらに触れていた。
まるで所持を誇示するかのように。
共にあった日、今の私と同じようにユーリに惹かれていたのなら、きっと、彼女に触れることを望んだはずだ。
想いを遂げようとしたことすらあったかもしれない。
そうでなければ、見るごとに増えてゆくユーリの肌に散らされた所有の証の説明がつかない。
最高権力者である皇帝は、おびえている。
ユーリが奪われることにではなく、傷つけられることに。
わたしは、過去にあなたを傷つけたのか?
だから、異国に旅立とうした。
あなたは、私を許してくれた。
遠い、砂の降る異境まで皇帝を離れ、私に従ってくれた、祝福の言葉と共に。
それゆえ、私は命を投げだしてまで、あなたを守った。
あなたのために、死にたかった。
あなたが、皇帝の側で幸せになってくれるのだから、それでいい。
「どうぞ、おすこやかに」
ふいにユーリが皇帝の腕をすり抜けた。
そのまま、駆け寄り私の首に飛びついた。
約束して、ザナンザ皇子。必ず幸せになって、戻ってきて!」
甘い匂いが鼻腔をくすぐり、私は一瞬細いからだにまわす腕に力を込めた。
すぐに、引き離す。
「約束します、必ず兄上のおそばに」
見上げると、皇帝の表情は思いのほか穏やかだった。
琥珀の瞳が、私をみつめる。
「・・・待っているぞ、ザナンザ」
声音は柔らかで、彼の想いが伝わった。
私は、こんなにも愛されていたのだ。
必ず、帰ってくる。
砂の中、過去の私は死んでしまった。
愛する人たちを傷つけた私は、もういない。   
 

第15話 新しい旅

アカネと2人、カネシュに向かう馬に揺られている。
カネシュまで同行させてほしいという皇帝とユーリの申し出は断った。
アカネと共に旅立つと決めた今、ユーリと過ごす時間は私の決意を鈍らせる。
私が愛していた少女、ユーリへの想いはハットゥサへ置いてきた。
そして、記憶を取り戻し心からアカネを愛せるようになったときに、ハットゥサへ戻り、その想いを「思い出」という形にして私の一部として受け入れよう。
それにはどのくらいの時間がかかるのか、今は見当がつかないけれど・・・
「シュピル・・・」腕の中のアカネが呼びかけた。
ハットゥサを出発してから、物思いにふける私を案じてか、沈黙を守っていたアカネ。
元々は、過去を知りたいという私のわがままで始まったこの旅。
ユーリとの出会いに戸惑い心を乱され、アカネのことを気遣う余裕がなかったが、アカネも私以上に衝撃を受けているだろう。
それなのに何も言わず、黙って私について来てくれる。
急にアカネが愛しくなり、腕に力をこめる。
(この少女を悲しませてはいけない)そんな思いが頭の中を駆け巡る。
「シュピル。ううん、ザナンザ殿下。本当に私が一緒に行ってもいいの?」
不安そうな顔で私を見上げる。
「当たり前だ。それとも私を一人で行かせる気か?」
やさしく微笑みながら言う。
「それに殿下はやめてくれ。記憶もないのに殿下だなんて言われると、肩に力が入ってしまう。」
「フフッ、じゃあ、恐れ多いけど、ザナンザと呼ばせてもらうわ。
シュピルもいいけど、少しでも記憶が戻るきっかけになれば・・・・」
あんなにいろいろなことがあったのに、私を気遣ってくれる。
そして、記憶が戻ればユーリとの過去もよみがえると知っているのに、記憶を取り戻す手助けをしてくれようとしている。
今までは、アカネの後ろにユーリを見ていた。
しかし、これからはまっすぐアカネを見つめていこう。
助けてもらった恩でも、私の運命に巻き込んでしまった償いでもなく・・・。
「さぁ、カネシュまでもうすぐだ。日の暮れないうちにつかなくては。とばすぞ。」
手綱を鳴らす。「キャッ!」急に、馬がスピードを上げアカネが声をあげる。
「ハハハッ!しっかりつかまっていないと振り落とされるぞ。」
真っ赤な夕日を背にあびる
兄上、ユーリ待っていてください。
必ず記憶を取り戻しアカネと一緒にハットゥサに戻ります。
新たな決意を胸に、2人はカネシュを目指すのであった。


第16話 封印

アカネは今、身ごもっている。

カネシュへザナンザと共に向かったアカネは、そのまま、ザナンザの妃となった。

優しく、思いやりのあるザナンザ。
以前の記憶は完全には戻っていないものの、知事職が十分にこなせるだけの知識に関しては記憶を取り戻していた。
いいや、ほとんどの記憶を取りもどしていたと言った方がよいのだ。
オリエントの歴史を始めとする政治、経済、カネシュの知事としての仕事、その他、日常的な知識、皇族としての作法などに関する記憶は取り戻していたのだ。
彼が取り戻せないのはユーリ皇妃に連なる記憶だけになのだ。
ユーリ皇妃に関わる記憶。それには皇帝も当然含まれる。
彼らと親しい側近達、そういった人々のことは思い出せない。
だが、それほど親しくない人々のことは思い出せるのだ。

アカネは、まだ目立たない腹部へ手をやりながら、もう、このままでいいのではないかと考えていた。全てを思い出す必要なんてない・・・。

アカネはザナンザの記憶を封印しているのは彼自身ではないかと考えていた。
カネシュへ着いてすぐ、自分を妻にしたのも、少しでもユーリ皇妃を思い出すまいとしたからではないかと。
彼が意識的にそうしたのか、無意識でそうしたのかは分からない・・・。

アカネの心は叫んでいた。
『このまま、ユーリ皇妃の記憶は封印して欲しい。嫉妬で苦しみたくない・・・。
私は信じていたい。私が今、抱える新しい命は彼が私を愛したから授かったものなのだと。
皇妃を忘れるための結果がこの子だなんて考えたくない。』
不安定な心は彼女の体を蝕んでいった。

第17話 ザナンザの心

アカネは大きくなった自分のおなかに手をやる。
あ、また・・・。
おなかの中で赤ちゃんが元気に動いている。
自分の中に、愛している人の子供がいる。
そして確実に成長して、この世に生を受けようとしているのだ。
こんなに幸せなことはないのに、アカネの心は晴れない。
やはり、ザナンザの気持ちが心配なのだ。
ザナンザはとてもやさしい。
身重のアカネを気遣いいろいろと気を配ってくれる。
毎晩アカネのおなかに手をやりうれしそうに笑う。
それだけ見ていると、アカネへの愛情は疑いもないのだが、
まだ一度もハットゥサに行こうとしない。
アカネからも怖くてその話には触れていない。
ザナンザ、やっぱりユーリ様が気になるのね・・・。

「あっ、今日もお疲れ様、ザナンザ。」
今日の政務を終えたザナンザが部屋へはいってきた。
「政務も猛毎日の日課になったから、そんなに疲れてはいないよ。
それよしアカネのほうこそ体調はどうだい?今日は暑かったから疲れているんじゃないのか?」
「ううん。だいじょうぶよ。」
「あっ、また動いた。」
「どれどれ・・・?」
うれしそうにアカネのおなかに手を伸ばすザナンザ。
「おお、本当だ、とても元気だな。」
しばらくアカネのおなかに手を当てたまま、黙り込むザナンザ。
そして、不意に顔を上げる。
「この子が生まれたら、一度ハットゥサへ行こうと思っている。」
アカネはハッとして、ザナンザを見つめる。
ついにザナンザは決心したのだ。
その決心がどのようなものなのかはわからないが、ザナンザの心の中で何かの変化が起こったのだ。


第18話 その時

遠くで歓声が上がる。かすかな赤ん坊の声が聞こえる。
アカネは、産褥の床につきながら、ため息をついた。
とうとう、この時が来てしまった。
急速に萎もうとする腹部の痛みに耐えながら、ザナンザの腕に抱かれているはずの我が子を思う。
子が生まれれば、ハットウサに帰らなくてはならない。
新たな皇族の一員としての拝謁を賜るだけだと、ザナンザは言う。
けれど、アカネのかたわらの赤ん坊を取り上げたときのザナンザの声が忘れられない。
「黒髪に、黒い瞳か!」
お前と同じだ、とザナンザは言った。
けれど、あの喜びはそれだけではないのだと、アカネの心のどこかが告げる。
「女の子か。女の子は・・やさしくていい」
生まれたてでしわくちゃの顔に口づけながら、満足そうに目をすがめる。
「よく、がんばったなアカネ。ありがとう」
アカネの黒髪を撫でながら、ザナンザは誰を思うのだろう。
母になって、紛れもないザナンザ唯一の子供の母になってもまだ、惑うなんて。
腹部にまた、痛みが走る。アカネは顔をしかめた。
訪れた陣痛には夢中で耐えた。
痛みに勝てば、ザナンザのなにかに勝てる気がして。 
命を生み出せば、それだけでふたりの間を盤石のものに出来る気がした。
そうして、アカネはここで、萎み続ける身体を抱え、遠くの歓声を聞いている。
考えても、仕方がないのだとは分かっているけど。


第19話 ハットゥサへ…

「兄上、子供は娘が生まれました」
「そうか お前の第1子だな おめでとうザナンザ」
ザナンザはアカネと娘を連れハットゥサに来ていた。
皇族の一員の誕生と母子の健康を皇帝に伝える為に…
部屋にはカイルとザナンザだけがいる。
「よかったなザナンザ 我が子というのは可愛いものだろう」
「ええ 可愛くてしかたがありません」
久々の兄弟の話し合いは長く続いていた。

「まぁぁ~可愛らしい女の御子様!」
3姉妹が歓喜の声をあげる。
ポッチャリとして目が大きな可愛らしい女の子だった。
母親に抱かれ嬉しそうに笑っている。
「本当に可愛らしい女の子ね!おめでとうアカネさん」
ユーリも義理の妹に祝福の言葉をつづる。
「ありがとうございます皇妃様」
アカネは嬉しそうに言う。
その時、アカネはふとあることに気が付いた。

「皇妃様…その子は…」
アカネの目に止まったのはユーリのローブにしがみついている可愛らしい男の子。
「ああ…一年たつとさすがに分かんないよね~この子デイルよ、もう1歳半」
「ええっ!」
一年前にはまだ乳飲み子だった皇子が目の前で立っている子供の成長は早いものだ。
「ほらデイル恥かしがらないの!叔母様にご挨拶は?」
デイルはモジモジしながらアカネの前に来ると、「はじめまちて叔母しゃま…僕デイル・ムワタリでゅ…」
と挨拶を述べた。
可愛らしい甥っ子の姿にアカネは目をすがめる
「丁寧な挨拶をありがとうデイル皇子。 叔母様のアカネよ。 それでこの子が皇子の従兄妹のユマよ」
アカネは娘をデイルの顔に近づける。
「いとこ?母しゃま~いとこって何?」
「いとこって言うのは父様や母様の兄弟の子供のことをいうのよ。 よかったねデイル従兄妹ができて、これで一緒に遊べるよ」
「ほんと~嬉ちぃな~弟が生まれたら三人であしょぼうねユマちゃん」
デイルは小さな指でユマの小さな頬をつつく。
アカネはデイルの言ったことにふと気が付く。
「弟…ということは皇妃様…もしかして…」
アカネの言葉にユーリは頬を赤く染める。
「ええ…この子が乳離れしたらすぐに二人目ができちゃって…もう三ヶ月なの…まだ三ヶ月なのに陛下もこの子も男の子だと決め付けちゃって…」
ユーリの言葉にデイルは頬を膨らませる。
「嘘じゃないもん!絶対男の子だもん!弟だもん!」
「はいはい…もうダメでしょ~お兄ちゃんになるんだから」
ユーリはデイルを抱き上げると太陽のように微笑む。
まさに絵に描いたような母子…
アカネは急に不安になってきた。

(私…ちゃんとこの子の母親になれるかしら…ザナンザの子供を育てていけるのかしら…)

ここに来てユーリとデイルを見てアカネは思ったのだ。
ザナンザの心はまだユーリが占めている。
ユーリに勝つ為には…
(ザナンザが自分の跡を残せるような男の子が欲しい…子供を沢山作って…あの人に私と子供達だけを愛して欲しい…)
アカネの瞳からいつしか涙が流れ、その雫がユマの頬を濡らしていた。
「叔母しゃま…なんで泣いてるの?」
デイルがアカネが急に泣き出したので驚いて声をかけるが母のユーリに止められた。
ユーリはデイルをハディに渡し…アカネの腰掛ける椅子と同じ位にすると、アカネの頭をしっかり腕に抱き締めた。
「アカネさん…辛いのね…私にできることは少ないかもしれないわ。でも貴女の為に何かしてあげたいの…」
そういうユーリの瞳からもいつしか涙がこぼれていた。

第20話 あなた

ユマをあやしながら、歌う。ザナンザを見つけた砂漠の、民に伝わる歌だ。
ザナンザと結ばれて、皇族の一員となったアカネは、最近よく昔を思い出す。
歌って踊って、笑って一日が過ぎていた。
時々、ザナンザを振り返り、彼の穏やかなヘイゼルの瞳が自分を見ていることで胸をときめかせていたあの頃。
砂漠の民の歌は、単調で哀調を帯びている。ゆっくり幼い我が子を揺すりながらアカネは、視界がぼやけてゆくのを感じた。
あのころは、良かった。
ザナンザを見ているだけで。
ザナンザに見られているだけで。
今は、思いもしなかったような贅沢な暮らしをしながら、ザナンザの子供まで抱いているというのに。
きっと、あたしは欲しがってばかりなんだ。
これ以上、今以上に。
満足することがないから、切ない。
ユマは、まどろんでいる。
小さな手のひらが、アカネの服の端をしっかりと握りしめている。
不意に、アカネの声に低い声が重なった。
振り向く。
「・・・あなた・・・」
しっ、とザナンザが口元に指を立てた。
「眠っているんだろう?」
アカネがうなずくと、娘の顔をのぞきこんだ。目元が細められる。
「・・・かわいいな・・」


第21話 共通点、あってはならない・・・・


「そう、なんとなく・・・・ユーリ・・・いや、義姉上に似ている・・・。
まぁ、お前がすでに義姉上と似ているからな。」
そういってザナンザは、アカネの腕からユマを取り上げた。
ユマは、ぐっすりと寝ている。
「・・・かわいいわよね、女の子って。私、男の子もほしいの。」
「・・・そうか。まぁ、いずれ、な。」
そういってザナンザは、部屋を出ていった。

アカネはその場に泣き崩れた。
本当は、ザナンザがいるときに泣きたかった。
そして、叫びたかった。
「どうしてあなたの心はまだ皇妃様にあるの!?」と・・・。
「なんであなたは、私に皇妃様の面影をかぶせるの!?」と・・・。
しかしアカネは叫べなかった。
本当なら、自分はこんな所にいるはずがないから・・・・・。
ザナンザがちゃんとした記憶をもっていれば、今頃エジプトにいたらしい。
もしそこにいなくても、アカネなんかを相手にしない皇族の皇子だったのだ。
しかも、皇帝陛下の弟で信頼があつく、将来も有望だった・・・・。
アカネは、どうしていいかわからなかった。
今のザナンザは自分を愛してくれる。
しかし、いつ記憶が戻るか分からない。
記憶が戻ったときに、自分のことは忘れてしまうかもしれない・・・・・!!
      *                  *
「・・・ねぇ、カイル。アカネさん、不安なんじゃないかな?」
デイルを腕の中にあやしながら、イスに座っているカイルに問いかける。
カイルも、薄々は気が付いていた。
「なぜそう思う?」
「彼女が、あたしと同じだから。・・・あたしだって、不安だったんだよ。
平民・・・っていうか、この世界の人間じゃないあたしにカイルがいつまで
興味を示してくれるのか・・・って。もしかしたらすぐに、綺麗なお后様を
連れてくるんじゃないかなぁ・・・・って。それに、デイルが生まれたときも。」
さらっと、デイルの髪にふれる。
自分とよく似た、黒髪。象牙色の肌。異世界の人間の子供・・・・・。
「この子が、カイルの子供だからいずれ皇帝をつぐって聞いたとき・・・・。
あたし、すっごくふあんだった。だって、だって・・・・・。デイルは、カイルの
子供だけど・・・・。
あたしの子供で。あたしは、異世界の人間で・・・・・。」
いつのまにか、ユーリは泣いていた。
黒い大きな瞳から、ぽろぽろと涙をこぼして。
カイルはデイルをユーリから取り上げ、ハディを呼び連れて行かせた。
「それでね、それで・・・・・。だって、デイル・・・・あたしが、この世界の人間だ ったら・・・って。でもそんなことしても、きっとカイルは、あたしなんか・・・っ て。だって、あたしがカイルにあったのは偶然で・・・・・だって・・・・。」
「ユーリ、もういい。お前がそこまで思い詰めていたとは、思わなかった。
そういうときは、私にいってくれないか・・・・?
お前が異世界の人間だろうと、そんなものは関係ない。
デイルには、この皇帝をついでもらう。
デイルは、私と お前の大事な息子なんだから。それに、この子も・・・・・。」
カイルはそういって、ユーリの腹部に触れた。
新しい命が宿っている・・・・。
カイルと、ユーリの子供・・・。
「あたし、デイルのことちゃんと育てられるかも心配で・・・・・・だって、
だから、あたし・・・・。」
「もういい!ユーリ、何も考えなくていい。確かに、アカネはお前と似ているな。
しかし、そのことに余計な口を出してはいけないよ。
お前がそうしたように、一人で解決しなければいけないときもあるんだから。
それに、いざとなったらザナンザがいる。お前に、私がいたように・・・・・。」


第22話 結婚式

王宮内に与えられたザナンザ一家が滞在している部屋で、ユマが人形を触って遊んでいる。
アカネはそれを椅子に腰掛けて微笑みながら見ていた。
自分と同じ黒い髪、黒い瞳の娘…
この世で誰よりも愛した男性の子供…
ユマがハイハイをしながらアカネのスカートを掴んだ。
「まー」
アカネはユマを抱き上げると頬をつついてやる。
キャァキャァと嬉しそうに笑う。
「アカネ、ユマ」
後ろを向けば何時の間にかザナンザが立っている。
「あなた?どうしたの?皇帝陛下に呼ばれていたはずじゃ…」
アカネの質問に答えることもなく、ザナンザはアカネを抱き締めた。
もちろん腕の中にいるユマごと…
「あなた?どうしたの?」
「………………………………」
「あなた…何かあったのですか?」
ザナンザの様子を見ていればただごとでないことくらい分かる…
それが正妃のアカネならなおさらわかるのだ…

「一体どうしたの?何があったの?」
まさか皇妃様あたりがザナンザ様に何か言ったのだろうか?
だが皇妃様は何も言わないと約束してくれた…あの方が約束を破るわけがない…
「嫌な予感がするんだ…誰かがお前とユマを奪っていきそうで怖いんだ…」
「え?」
「頼む!絶対に離れないでくれ!」
ザナンザは更にきつくアカネを抱き締める。
「あなた…」
「アカネ…」
ザナンザの身体は震えていた…アカネとユマを失うことは彼を脅えさせる?
アカネは微笑を浮かべた…
「あなた…私はどこにも行きません…ずっとユマと2人あなたの側にいさせてください」
あなたが私のことを大切に思っていてくれた…それでもう充分ですから…
「アカネ…ありがとう…」
ザナンザは感謝を込めてアカネに深い口付けをする。

次の日…皇帝・皇妃の進言にてザナンザとアカネは正式に婚儀の儀を執り行った。
ユーリが来た花嫁衣裳を貰ったアカネは輝くばかりの美しさだった。
「ではザナンザ殿下、ご正妃様‥結婚書へのサインを……」
まずはザナンザが書にサインをする。
『ザナンザ・ハットゥシリ』
続いてアカネがサインをすることになった。
『アカネ・セレントゥサリア』
夫婦の署名がされた書簡は焼いて完成させ、それ専用の文庫所に保管されることになる。
これでザナンザとアカネは正式な夫婦となったのだ。
互いに微笑みがかわされる。
しかし‥幸せは長く続かなかった。
「ザナンザ殿下、アカネ妃様…城の外でお2人に会わせろと騒いでいる男がおりますが…」
「何?そうかではここへ…」
「かしこまりました!」
衛兵が去って行き、カイル、ユーリ、ザナンザ、アカネ、デイル、ユマ、皇帝側近達が祝杯を挙げている部屋にやつれた一人の男が現れた。
むろんカイルやユーリには誰だか分からない。
だが…ザナンザとアカネの顔色は変わっている…
「あなたは……」
「アカネ……」
「…お父さん………」
「アカネ…村へ帰ろう…」
現れたのはアカネの父だった。


第23話 うたかた


「アカネ、目を覚ますんだ」
父親はアカネにすがった。
「本当に、皇弟殿下が、わしらのような者に愛情をそそいでくださると思っているのか?
お前は遊ばれているだけだよ」
「ちがうわ」
アカネは頭をふった。
「ザナンザは・・殿下はあたしを愛しいと言って下さった」
あたしとユマを誰よりも大切な家族だと。
「確かに、今はそうかもしれん。
しかし、高貴な方の寵愛など、きまぐれなものだ。お前もやがては飽きられる日がくる」
それは、いつもアカネが怖れていたことだった。
ザナンザのはしばみ色の目が逸らされ、やがて他の女性の上にとまる。
そうでなくても、あの目はあたしを通り越して別の女性を見ているときがあるのに。
「なあ、アカネ。お前への寵がなくなれば、お前の子だって疎まれる日が来る。
身分の低い母親の子だとな。
疎まれるだけならまだよい。
身分の高い方々が、どんなに残酷なことをされるか、知っているだろう?」
「残酷なこと?」
幼いときから、耳にはしていた。
アカネが会った身分の高い人々は、皇帝一家とザナンザくらいだが、その他の皇族の事はよく知らない。
ただ、幼いころの耳にした噂で、寵姫をねたんだ他の妃が、妊娠中の寵姫に危害を加えたとか、生まれた幼い子の姿が見えなくなったとか。
ユマが?
アカネは身震いをした。
大切なユマが、誰かに危害を加えられることがあるなんて。 


第24話 偏見!!

「そんなの、ただの偏見じゃない!!」
ずっと我慢していたユーリが、横から口を出す。
ザナンザの結婚式なので、もちろん皇帝夫妻も参加していた。
「これは、皇妃陛下。・・・何が、偏見なのですか?わたしは、本当のことを述べたの です。身分の高い低いは、必ず関わってくるのです!!」
「なら、あたしはなんだって言うのよ!!」
結婚式に参加していた大半の人間が、息をのんだ。
皇帝夫妻とザナンザ以外、アカネの結婚は望んでいなかった。
身分の問題だって、そのひとつだった。
だから今、アカネの父親がアカネを引き戻してくれることを期待していた。
そう、今のユーリの言葉を聞くまでは・・・・・。
「あたしなんて、この国の人間でもないのよ!?身分だってないわよ!! 
でもね、陛下は・・・ちゃんと私を愛してくれたわ!!ザナンザ殿下だって、
アカネさんをちゃんと愛してるんだから!!」
「し、しかし・・・・・。」
「もうやめるんだな。」
なおも食い下がろうとしない父親に、今度はカイルが口を開いた。
「今この場は、結婚の義の場。このような神聖な場所で、身分がどうのこうのはやめろ。
・・・それに、皇妃が言ったとおり、ザナンザなら平気さ。」
ザナンザは、アカネの肩を抱き寄せた。


第25話 ユーリのデイルへの想い。「

はい。そうですが・・・。」
アカネの父親は皇帝夫妻にそう言いかけた。
「なんだといいうのだ?」
「失礼ながら皇妃陛下は皇帝陛下がご自分のそばから離れるとお考えになったことはございますか???」
ユーリは息をのんだ。
そう。ユーリ自身も一度はカイルが自分から離れていくと思ったことがあったからだ。
「皇妃陛下がお生みになった皇太子殿下だっていつかは平民の子、と言われるとお思いになったことはございませんか?」
ユーリは頭の中が真っ暗になった。
たしかにユーリは考えたことがある。
デイルや、これから生まれてくる自分の子が本当にカイルの子供としてあつかわれるのか。
カイルがほかのきれいな皇女様をどこかから連れてきてしまうんでないか・・・。
そして、ユーリは捨てられるんでないか・・・・・。
「無礼者!皇妃陛下になにを申す!」
側近の中の一人がいいはなった
「あ・・・あたしはそう思ったこともあったけどカイルのことを・・・
皇帝陛下のことを信じていたから・・・」
ユーリがそういうとアカネの父は
「そうでございましょう!いつかは皇帝陛下だってあなた様のそばを離れほかの方に寵を移すでしょう!」
「だからこそ私はアカネにいいたいのです!
『皇族の方の寵なんてものはすぐに離れるだけ』だと!!!」
「いつかは皇妃陛下だって皇帝陛下に捨てられるだけでございましょう!そんなことがないと保障できますか?」
辺りに静かな空気がたちよる。
「わたしは正妃以外の妃はめとらぬ。ユーリ一人を一生愛しぬくと誓ったからだ」
カイルはアカネの父親にそういいはなった。するとアカネの父は
「ならば皇太子でんか・・・いや、ユーリ様の御子を傷つけましょう!アカネも自分の子供が皇太子殿下のようになってほしくなかったらこんなとこからはでていき村え帰るんだ!!!」
アカネの父はそういうとデイルめがけて剣を走らせた。
そのとき!!!
「やめて!」
ユーリがデイルの身代わりになりアカネの父親にさされた。
「アカネさん・・・ザナンザ殿下は・・・そんな方じゃないわ。」
そういうとユーリは気を失った。
すぐさま側近たちがユーリを部屋へつれていき手当てを行った。
「そんな男は極刑だ!」
元老院のひとりがいった。
その男だけではない。その場にいただれもがそう思っていた。

第26話 アカネとザナンザの恋の行方

アカネの父、クレイス・インタブルは地下牢で考えていた。
自分が、こんな薄暗く、湿っぽい所で、兵達に睨まれてこんな惨めな思いをするとは、思ってもみなかった。
いや、本当はアカネを取り戻そうと考えた時からこんな事は覚悟の上だった。
皇族殺しは極刑。
ましては、帝国NO.2の地位にある王妃では、相当ひどい死に方であるだろう。
その上、皇子それも皇太子殿下殺人未遂もある。
間違いなく極刑は免れないだろう。
すると、どこからともなく、足音がきこえた。
アカネだった。
「これは、あかね様。このようなところに...」
「あの、ちょっと、はずして頂けますか?その人と、話がしたいんです。」
「しかし...」
「お願いします!!」
「わかりました。そのかわり、少しだでけですよ。」
「はい!ありがとうございます。」
兵達が行ってしまうと、アカネがクレイスに向き直った。
「...アカネ.....」
「お父さん。どうしてあんなことをしたの?」
アカネの声には、怒りと、悲しみが入り混じっていた。
それは、クレイスには嫌というほどわかった。
「アカネ、すまない。父さんは、お前を連れて帰りたかったんだ。本当にすまない。」
アカネは、がくりとうなだれて許しを請う父を見て、いった。
「お父さん。ユーリ様は、今となっては、私の義理の姉よ。お父さんから見たら、義理の娘よ。
それに、自分の子供がこんな風になりたくなかったらって、お父さんは、マユを、私とザナンザの子供を、自分の孫をも傷つける気で来たの?」
段々、声が震えてきた。
それでも、アカネは自分を押さえることが出来なかった。
「お父さん。もう他の人は傷つけないで。お願い...!!」
アカネは、次々と流れてくる涙を止められなかった。拭おうともしなかった。
アカネは、そのまま階段を上り、行ってしまった。
アカネは、自分の部屋に走っていき、そのままベッドに突っ伏せて泣いていた。

第27話 ユーリとアカネの思い


「罪人クレイス・インタブル。この男の犯した罪は、皇妃陛下殺害未遂、皇太子殿下殺害未遂、その上、イシュタル様のお腹の中のお子殺害未遂、でございます。」
私は唖然とした。
皇妃陛下のお腹の中に、また一人、お子がいらっしゃったとは!!
「皇家の者三人もの方を、御手打ちするとは!それなりの重い罪に問わなくては!」
「お、お待ち下さい!!わ、私は、お、皇妃陛下のお腹の中に、お子がいらっしゃるとは、す、少しも、全く知らなかったのです!!」
すると、周りに居る老議員が一斉に叫んだ。
「ふざけるな!!」
「何とたわけた事を!!」
「この場に来てまでその様な嘘をつくとは!!」
「そうだ!!イシュタル様の御懐妊は、もうとっくに、帝国中に知らされている!!
知らないはずがないだろう!!」
その罵声を破ったのは、皇帝陛下だった。
「この者は、この者は、本当にユーリの事を、知らなかっただろう。」
「し、しかし、帝国中に知れ渡っています!!知らないはずはないでしょう!!」
皇帝陛下は、静かに言い放った。
「クレイスは、この帝国からずっと離れた所に住んでいるらしい。
知らなくてもそう不思議はない。...ただし、極刑は免れないだろう。」
そうして会議が続く事、数時間。私には、数日も経ったかのように感じた。
そうして、老議員議長が処分を言う。
確か、皇帝陛下の側近、イル・バーニといったか。
私は目を思いっきり瞑った。
まるで、これから告げられる全ての事を、受け入れ様とするかのように。
老議員議長が口を開いた。そうして、表情のないような声で、いった。
「クレイス・インタブルの処分を言い渡す。ユーリ・イシュタル皇妃陛下殺害未遂、デイル・ムワタリ皇太子殿下殺害未遂の大罪を犯した罪人クレイス・インタブルには...」
すると、それを遮るかのように、バタンッという音がした。
そこをみると、アカネがいた。
何かを決意したかのような表情をしたアカネがいた。
そして、アカネが言った。
「待って下さい!!」

第28話 アカネとユーリの決断


会議室はざわついていた。
突然まだ幼いような、それでいて女性のにおいを漂わせる少女が入って来たのである。
クレイス・インタブルは、いささか呆然としながら呟いた。
「アカネ...」
イル・バーニは、言った。
「何者だ!!御前の会議であるぞ!!場をわきまえろ!!」
その言葉が合図の様に、二、三人の兵が、アカネをおさえた。
「待って下さい!皇帝陛下にお話があります!!」
アカネは叫んだ。
「クレイス・インタブルは、私の父です!たとえ私の義理のお姉さん、ユーリ・イシュタル皇妃陛下の殺人未遂をやった人でも、私の父でございます!!」
カイルは、静かに言った。
「...話を聞こう。」
「へ、陛下...!?」
一斉に元老人達は騒ぎだした。
「黙れ!!この娘は、皇弟ザナンザ・ハッタゥシリの妃だぞ!!今は皇家の者だ!!」
元老人達は黙り込んだ。
知らなかったのではない。
忘れていたのである。
「娘、申してみよ。」
「は、はい...。実は、一つ相談があって参りました。ど、どうかお願いです!!
ち、父を、お助け下さい!!」
また、元老人達が騒ぎ出した。
「何だって!?」
「何という事を...!」
「そんなこと、許されるはずがない!!」
カイルは、驚きはしなかった。
大体で、予想していたのである。
イル・バーニも驚いてはいなかった。
アカネが、それを遮った。
「変わりに!!変わりに...私の命をお取り下さい!!」
今度は、カイルも驚いていた。
イル・バーニは、いつものポーカーフェイスで判らなかったが...。
クレイス・インタブルは叫んだ。
「そ、そんな事...こ、皇帝陛下!どうか私の命をお取り下さい!!どうか、アカネには、手をお出しにならないで下さい!!」
「いいえ、皇帝陛下、どうか私の命を...!!」
その時、また、会議室のドアがゆっくり開いたと思ったら、ユーリが現れた。
お腹の傷には、治療して、包帯が巻いてあるようだが、まだ痛みが消えないのだろう。 
傷を押さえて、壁をつたいながら、よろよろと入って来た。
その姿が、いたいたしくあった。
元老人議員の一人の肩をかりて、カイルのところまでやって来ると、ユーリは言った。
「カイル、お願い。アカネさんのお父様を助けてあげて、アカネさんも助けてあげて」
「ザナンザの妃の父親がどうして私を殺そうとするでしょう。この事件は偶然にも悪いことが重なっただけです」
また、会議室はざわついた。
幸いにもユーリーが刺されたことはまで宮廷外には広まってはいない。
「このものはあくまでも偶然にユーリにけがを負わせただけである。
命を取ることもあるまい」
「よって国外追放とする」
皇帝の言葉に会議内のざわつきはぴたりと収まった。
第29話