第4話 幸せの1歩手前(完)

幸せの1歩手前 23

* まだ・・・二人でいるところを見られなかっただけましか・・・。 グダーッと手を伸ばしたままデスクの上に顔を押しつけた。 はぁー 吐いた息が生温かく頬に反射する。 一緒に来なければお呼びかかかる。 一緒に来れば気が抜けない。 どっちがましなんだろ…

幸せの1歩手前 22

* 朝から・・・ やっぱり目立つ二人での出社。 道明寺はゆっくりでいいはずなのにッ。 「お前と一緒に屋敷を出ると西田が喜ぶ」 言った顔はその場で満面にほころぶ。 西田さんより絶対道明寺の方がうれしそうな表情を作ってる。 その顔を見ると私もつられて…

幸せの1歩手前 21

* 静かに1日が流れる。 道明寺と顔を合わせるのは朝と夜のひと時。 会社では忙しいいのか私とすれ違ってもそそくさと足早に去っていく。 立ち止まって話す時間もないと言わけじみた態度。 屋敷に帰ってもそわそわと今一つ落ち着かない道明寺。 挙動不審なん…

幸せの1歩手前 20

* ようやく落ち着気を取りもどした。 そんな表情で側に佇む西田。 鼻で笑って差し出された書類に目を通す。 1枚目には分刻みのスケジュールが印刷された紙。 ない・・・。 いつもならこの下にもう2.3枚続くスケジュール。 「スムーズに進みそうですから」 俺…

幸せの1歩手前 19

「自分の仕事に集中できない。こんな言いぐさなんですよ」 「今日は一緒じゃなくていいんだ」と、意外そうな表情を浮かべる玲子さんの言葉に対する私の返答。 相変わらずのわがままと横暴に加える自己中的考えに私の不機嫌な感情は横に置いておく。 道明寺が…

幸せの1歩手前 18

朝の目覚めで触れる柔らかな唇。 甘い吐息に包まれて終わる1日。 そんな時間が過ごせる日々。 これを幸せと呼ぶのなら今の俺は間違いなく幸せだ。 確かめる様に腕を伸ばす。 触れるはずの温もりは空振りしてわずかにシーツに残る温かみだけを指先に伝える。 …

☆幸せの1歩手前 17 おまけの話

* 「・・・足らなくなった」 「なっなにッ・・・」 うつむいていた顔が俺を見つめて紅く色づく。 「惚れなおしたなんて言われるとな」 背中から抱きつかれて「お願い」と俺を欲してるみたいに聞こえる。 自分にいい様に解釈してるってことはないはずだ。 そ…

幸せの1歩手前 17

* 満足だった。 いや、そのはずだった。 相手先のエントランスでつくしの到着を待つ。 すぐに俺の居場所わかるだろうか? 周りにはガタイのいいSPが数名。 西田に今回のプロジェクトの担当者数名。 男ばかりの集団に何事かの視線を投げながら素通りしてい…

幸せの1歩手前 16

* 「・・・別人だね」 「何か言ったか?」 「べ・別に・・・」 言葉を濁して首をブルブルと音がするくらいに左右に振った。 待ち合わせた相手先の会社のエントランス。 道明寺から相手先に訪問するのは珍しいことだと聞いていた。 それだけ大切な相手なのだ…

幸せの1歩手前 15

* 握っていた携帯を力が抜けた指先が落としそうになった。 そしてまたため息をつく。 「もしかして・・・私の読み当たったのかな?」 同情気味の声。 道明寺の考えを予測できる玲子さんが鋭すぎのか・・・。 それとも道明寺の考えが短絡的なのだろうか。 如…

幸せの1歩手前 14

* 10回をすぎる呼び出し音が続く。 「どうかなさいましたか?」 音程のない言い回しはいつもより癪にさわる。 「出ねぇんだよ」 「仕事中でしょうから、出れないでしょう」 俺様からの電話だぞ。 仕事ならなおのこと俺を待たせるやつはいねぇよ。 「どう考え…

幸せの1歩手前 13

* 「・・・ため息」 「えっ?」 「今3回目」 真向かいに座る玲子さんがクスッと笑う。 「そんなについてました?」 「いきなり、難しい仕事を押しつけられて悩むのは分かるけどね」 なぜか玲子さんまでハァーと息を吐く。 「つくしちゃんの指導は甲斐君から…

幸せの1歩手前 12

* -From 1 - ややこしい。 もともとMBAを取得してる道明寺とは比べようがない。 経営的なことは金儲けみたいな気がして私の性格には合わない。 節約なら喜んで協力するんだけど、お金を使うのも持ってる者の務めだという道明寺の理論も分かる。 値段に躊躇す…

幸せの1歩手前 11

* 目的があれば人間は頑張れる。 誰が言った? 俺じゃねのは確かだよな? つくしか? 「つくし様がかかわると仕事がはかどります」 こいつか・・・。 満足げな表情で書類をもうひと束、目の前に積み上げる。 ゲーーーッ。 まだあるのか!? 心の中をそのまま顔…

幸せの1歩手前 10

* 「何喜んでるんだ」 「いや・・・別に喜んでるわじゃないんだけど・・・」 道明寺の顔色をうかがいながら下からそっと上へと視線を移す。 不機嫌そうに引きつる頬。 「ったく」 吐き捨てる様に言葉を吐いて強引気味に腰に回して来た長い腕が私を引き寄せた…

幸せの1歩手前 9

* 目の前で湯気を上げている。 怒りの色の中に見付ける不安げな表情。 まだ本気じゃ怒っちゃいない。 「遅かったな」 「いつもより30分は早いわよ」 俺からは行けねえからつくしから来るように仕向けるのも一つの手だ。 西田! 文句はねえよなとニンマリとな…

幸せの1歩手前 8

* 目覚めのいい朝。 思い切り体を伸ばして開いた瞼。 薄ぼんやりと見えるのは真っ白いシーツ。 さっきまで側に寝ていたはずの住人を探す。 いない? なんで? 別に私より起きても不思議じゃないんだけど・・・ って! 十分不思議なんだよ道明寺の場合はッ。 …

幸せの1歩手前 7

* 「そんなに俺が迎えに来たのが気に食わないのか」 じろり。 気の強い怒りを秘めた瞳が俺を見据える。 俺にそんな不機嫌な顔を向けるのはお前くらいのもんだ。 「だってまだ9時にもなってないじゃない」 「仕事どうしたの。まさか西田さんを振り払って飛び…

幸せの1歩手前 6

* 「なんで・・・」 「なんで、ここにいるのよーーーッ」 驚愕気味に上がる声。 「いたら困ることでもあるのか」 皮肉交じりの視線は甲斐さんを睨んだままだ。 困るのは私よりも道明寺の方だと思う。 こんなところに来たら騒ぎになる。 ただでさえ道明寺本社…

幸せの1歩手前 5

* 暗めに落とされたオレンジの光に包まれた数坪の小さなお店。 カウンター席に数人がけのテーブル。 十数人はいれば満員になりそうだ。 静かに流れるジャズの音楽に心地よく耳を傾けた。 雰囲気としては静かに落ち着ける感じのお店。 迷いもなく玲子さんは中…

幸せの1歩手前 4

* 「先に行っといて下さい」 甲斐さんの声に送られて事務所を後にする。 仕事の書類作成が終わらないと残業を余儀なくされた甲斐さん。 「甲斐君には悪いけど、女同士の方が安心よね」 玲子さんは意味深な笑顔を浮かべる。 「代表が不機嫌になる要素が一つ消…

幸せの1歩手前 3

* 「メールが来たよ」 携帯から聞こえるキティちゃんの声。 この設定は西田さん。 柄じゃねぇーーーといいつつ道明寺にはうけている。 道明寺がキティちゃんを知ってる方が意外だったけど。 ちなみに道明寺からの着信は相変わらずスターウォーズのテーマだ。…

幸せの1歩手前 2

* 「ご一緒ではなかったのですね」 そう言いながらスケジュールのファイルを表情も変えずに俺の前に差し出す剛腕秘書。 「一緒は嫌なんだと」 「それは困ったことだ」 ため息交じりの言葉の中に苦笑が浮かぶ西田。 西田が困ることあるのか? 俺とつくしが一…

幸せの1歩手前 1

* 心地よい風がそよぐ4月。 まっさらの新鮮な気持ちで地上に降り立つ。 コツコツと響くパンプスの音。 軽快なリズムは気分を軽くする。 頭上はるか上にそびえ立つ東京都内の道明寺グループ自社ビルの前。 「ヨシ」と一つ自分に気合を送った。 行きかう人々…