幸せの1歩手前 15

 *

握っていた携帯を力が抜けた指先が落としそうになった。

そしてまたため息をつく。

「もしかして・・・私の読み当たったのかな?」

同情気味の声。

道明寺の考えを予測できる玲子さんが鋭すぎのか・・・。

それとも道明寺の考えが短絡的なのだろうか。

如何にして私を自分のそばに置いておくかのこの一点。

道明寺がその気になれば極めて小さい私の抵抗。

やっぱり短絡的だと肩を落とす。

「オッ」

握りしめた携帯から伝わるバイブの振動。

一応着信を確かめるために携帯の画面を見つめる。

西田の文字。

「ご迷惑をおかけします」

西田さんの第一声に「こちらこそ」と相槌を打つ。

同情相憐れむの心境だ。

「契約先の訪問は午後からですから、現地で落ち合う様に手配をしておきました」

「今からじゃなくていんですか?」

「そのほうがよろしかったですか?」

「いえ!全然!助かります」

喰いつくように声を荒げる。

携帯の向こうで西田がクスッと笑った様な気がした。

執行猶予数時間。

一息つく時間はありそうだ。

離れていた時の方が感じる心の余裕。

仕事でも余裕がないのに道明寺の策略に頭が痛む。

デスクに両肘をついて思わず頭を抱え込んだ。

「大丈夫か?」

覗き込む甲斐さんの心配そうな顔。

「・・・まあ、それなりの覚悟はしてましたから」

何とか上げた顔で笑顔を作った。

「惚れられてるんだから仕方ないか」

腕を組んで大きく頷いて大げさに感心して見せる甲斐さん。

「そんなんじゃありません」

「甲斐の言ってることが私も正解だと思うけどな」

玲子さんまで私をからかうことに乗っかってきた。

道明寺の周りの視線に躊躇しない態度は今さらながらに私を躊躇させる。

道明寺が私を無視する態度をここで示したら私は安心して仕事に没頭できるのだろか。

それはそれで淋しいものかもしれない。

・・・って、感情に浸ってる場合じゃない。

「・・・玲子さん、担当の交代ってできないですよね」

「私は猛獣担当じゃないし、まだ結婚もしてないのに死ぬつもりはないから」

優しくほほ笑んでいても言うことは強烈だ。

ここでも道明寺は猛獣にされてる。

「玲子さん結婚するつもりだったんですか?」

玲子さんの睨みで甲斐さんは首をすぼめる。

「つくしちゃん、道明寺の未来はあなたにかかってるのよ」

冗談じゃなく本気が7割は占めてる様な気迫を玲子さんに感じてる。

『頑張るのよ、つくしちゃん!』

私の肩を抱いた玲子さんが夕日を力強く指さして叫んでいる。

『さあ!一緒には走るのよ』

じゃあなくて・・・

『一人で頑張るのよ』と背中を押される自分。

まるで学園ドラマの砂浜で夕日に向かって走らされてる名?珍場面?が浮かんできた。

そこでガッツポーズ作れるほどお調子者じゃない。

「骨は拾ってくださいね」

「拾えるほど残っていればいいけど・・・」

「えっ!」

「冗談だから」

午後1時過ぎ・・・

にっこりほほ笑む甲斐さんと玲子さんが手を振りながら私を見送ってくれた。