第5話 HAPPY LIFE(完)

HAPPY LIFE 29

* 「・・・ねぇ」 「ダメだ」 「まだ何も言ってないけど・・・」 お前がそんなもの欲しそうな顔してる時は俺が喜ぶことじゃないってそっぽ向かれた。 「喜ぶことかもしれないよ」 んなわけあるかと訝しく表情を作って意地悪い笑いが浮かぶ。 「なっ・・・な…

HAPPY LIFE 28

* とぎれとぎれに流れていた時間がつながった瞬間に幸せだと思えた。 一緒にいることがあたりまで静かに流れる穏やかな日々に浸りきっている。 つくしと一緒になって駿が生まれて紡ぐ時間。 それが一番大切なんだと思える。 だから頑張れるんだ。 お前らの笑…

HAPPY LIFE 27

* 「こら!まて!」 いつもは静かなはずの邸宅で響く元気な声。 わりと乱暴気味に聞こえてくる。 それは奥に足を進めるたびに大きくなる。 声でけーよ。 なにやってんだ? 目の前で繰り広げられる珍事。 思わず「ククッ」と笑いが漏れた。 生まれたまんまの…

HAPPY LIFE 26

* 「つー」 「つー」 私を指さす小さな手。 つ? つ?ってなんだ? 「ママ、パパ、まんま」確実に言葉は増えている。 「ター」はタマ先輩。 「つー」って・・・ もしかして「つくし」と言いたいのか? 自分で自分を指さして「つ?」と発して駿の顔を見つめる…

HAPPY LIFE 25

* 抜ける様な青空にふんわりと霞むような春の雲が一つ浮かぶ。 ゆるやかに流れる風に吹かれて舞い落ちるひとひらの淡いピンクの花びら。 それを受け止める様にそっと手のひらを伸ばした。 「それ食うのか?」 手の中をのぞき込む様に首を伸ばした横顔は今に…

HAPPY LIFE 24

* 水面にきらきらと反射する日差し。 春の気配は少しずつ周りを淡い色に包み出している。 温かな陽気に誘われる様に駿をベビーカーに乗せて家を出た。 さすがに長身のダークスーツについてこられては目立つ。 近所の公園まで散歩だからと大丈夫だと断りを入…

HAPPY LIFE 23 by 司

* 久しぶりの穏やかな休日。 家族3人で楽しもうって言ったら思った以上にはしゃいだ笑顔。 母親につられる様に笑い声を上げる駿に無性にうれしくなる俺。 何気ないやりとりはかけがえのない優しい時間を作る。 それをかき消す携帯の着信音。 ボタンを押す前…

HAPPY LIFE 23

* -From 1 - 小春日和の休日の午後。 ただ一人除いてはだけど。 楽しみにしていた休日も西田さんからの慌ただしい電話で飛び出して行った約一名。 背中を見送って出るため息。 「今日も二人だね」と軽く駿に愚痴る。 仕事に復帰したいかもなんてことが頭に浮…

HAPPY LIFE 22 (St. Valentine's Day)

* 昼寝から覚めた駿を膝の上であやすひと時。 小さな箱を持ったつくしが俺の前にその箱を「ハイ」と差しだす。 今日はバレンタインだもんなぁ。 「おっ♪」 駿が差し伸ばすその先に腕を伸ばして横取りされないように箱を受け取る俺。 駿に取られればどっかに…

HAPPY LIFE 21

* 何してるのか・・・。 遊んでるのか? 遊ばれてるのか? 絨毯の上にお座りの駿。 その駿の前に寝そべって、顔を近づけて何やら必死にしゃべりかけてる司。 駿の手に握られたブロック。 舐めてべたべたのヨダレ付きのブロックでおでこ殴られて喜んでいる大…

HAPPY LIFE 20

* 「よく飲んでんなッ」 俺の帰ったのも気がつかずにつくしはソファーに座って駿に授乳中。 「あっ、お帰り」 駿から視線を外さずに背中越しの声。 駿が生まれたばかりの頃は「見ないで」って隣の部屋に移動してたものだ。 今は俺が覗き込んでもテンデ恥ずか…

HAPPY LIFE 19

* 「ぎゃーぁ!ダメッ!」 突然上がるつくしの叫び声。 静かな食卓風景は遠い昔。 つーか、動物園並みだよな。 駿が皿の中に手のひらをズブッと差し込んだ。 小さな指の間からはみ出るペースト状のオレンジの物体。 今度はべたべたとそれを叩きだしている。 …

☆HAPPY LIFE (クリスマスの夜に F ファイナル)

* 「寝ちゃったね」 いつまで見てても飽きない寝顔。 少し伸びてきた黒い髪の毛はパパ譲りにくるっとウエーブを巻きかけている。 キッと締まった薄い唇。 スーッと通った鼻筋。 涙で濡れて光ったままの睫毛 伏せた睫毛の長さは目覚めた時のくるっとした瞳の…

HAPPY LIFE ( クリスマスの夜に 3)

* 遠慮なく♪ 機嫌良く言い出そうとした唇を塞がれた。 背中から飛び上がって、抱き付いて俺の口をふさぐ暴挙。 左手で腕で首にぶら下がって右手は俺の口の上。 やれるのはこいつしかいねぇよな。 俺の背中反りかえったぞ。 「なにすんだ」 「死ぬぞ!」 「少…

HAPPY LIFE ( クリスマスの夜に 2)

* 「西田、最高!」 満面の笑みでシャンパングラスを頭の上まで持ち上げて響く感嘆の声。 ソリの上のサンタが赤い三角帽を取って頭下げた。 その下に現れる白い髪。 最高に凝っている。 優しく目を細めている様にサンタが見えるのは普段つけてるはずのメガネ…

HAPPY LIFE ( クリスマスの夜に)

* 「じゃあ、よろしくな」 最後の言葉を西田に告げて会社を後にする。 さすがに今日はビルの中も静かなもんだ。 今頃仕事をしているのは仕事人間か、クリスマスなんて関係ないと強がってるやつくらいのもんだよな。 折角のイブの夜も仕事なんてついてねぇ。 …

HAPPY LIFE ( Happy Xmas)

* 絨毯の上で座り込んで駿をあやす。 フカフカの深い毛足に沈む感覚がやたらうれしそうで笑って垂れるヨダレ。 よござない様にタオルで口元を拭き上げる仕草も素早くなった。 手の甲がすべて隠れて、四つん這いで見えなくなる膝。 その状態をものともぜず突…

HAPPY LIFE 18

* そろそろ来るかな? つくしに携帯をかけてから2時間後、俺の仕事も片付いた。 何食わぬ顔でちらりとドアをうかがう。 まだなんの気配も感じないドアの向こう側。 何してんだ。 俺を待たせるのはお前らぐらいだよな。 不満を打ち消して机の上の書類に最後の…

HAPPY LIFE 17

* チャイルドシートの中ですやすやと寝息を立てる駿。 車に乗ったとたんに寝てしまった。 車の振動が心地よいのだろうか? 愚図った時も効果あるのかな? 新しい発見だ。 泣き声に疲れ果てる体験がないのはきっと楽な育児なんだと思う。 駿の泣き声を聞きつ…

HAPPY LIFE 16

* お座りができるまでに成長した駿。 最近はいろんな表情も増えてますます見ていて飽きなくなった。 声を立てて御機嫌に笑う駿に一番喜んでいるのは道明・・・司・・・だけど。 「俺がいると御機嫌だ」って御機嫌なのはパパ。 事あるごとに「駿の前で道明寺…

HAPPY LIFE 15

* 「おい、今、笑ったぞ!」 顔を手で隠してそして手を開いて顔を出す。 朝からそれを繰り返して喜んでいるのは駿よりパパのほう。 他の人には見せられないようなこのはしゃぎ様。 クールビューティーで名をはせる道明寺グループ代表の姿はここしばらく見て…

HAPPY LIFE 14

* 「起きてるか?」 最近の帰宅の第一声はいつもこれだ。 「今、寝ちゃった」 帰り際に出された書類にサインするんじゃなかったと後悔する俺。 クスッとつくしが笑う。 「起こさないでよね」 昨日は我慢できずに俺が抱き上げたらすぐに泣きだされた。 寝てる…

HAPPY LIFE 13

* 駿を大事そうに胸に抱くつくし。 病院のロビーには見送りの人であふれかえっている。 この病院の寄付は4D超音波診断装置だったか・・・。 これだとエコーで胎児の立体的な画像、しかも動画で素早い動きや可愛い仕草などもリアルに映し出されると言われて速…

HAPPY LIFE 12

* 見ていて飽きない。 そんな思い本当にあったんだと今の幸せをかみしめる。 出産後3日目。 授乳におむつの交換に沐浴の赤ちゃんの世話も何とか形になってきた。 これが結構楽しい。 隣でハラハラした雰囲気で赤ちゃんの世話をする私に「あっ」「おっ!」「…

HAPPY LIFE 11

* 「生まれた、男!」 分娩室を飛び出した俺に真っ先に駆け寄って来たのは牧野のお袋。 思わず抱きしめてしまってた。 「道明寺さん」 牧野のお袋が顔を真っ赤にしてうごめく。 慌てて腕を外した。 「おめでとう」 牧野のおやじさんは涙を流して俺の手をガシ…

HAPPY LIFE 10

* 陣痛の始まるつくし。 俺は腰をさすってやりながら陣痛の間隔を時計で測る。 「大丈夫だ、俺がついている」と、励ましながら病院に向かう。 何度も頭の中で繰り返したシュミレーション。 なんにもならねっ。 突然生ま温かい透明な液体が足へとかかった。 …

HAPPY LIFE 9

* 「急に大きくなったよな」 まじまじと人のお腹をさすりながら道明寺がつぶやく。 「太った」と言われないだけましな方。 幸せそうな顔で・・・ こぼれそうな笑顔で・・・ うれしそうな表情を見せるのは妊娠を知った時から変わらない。 「名前決めてくれた…

HAPPY LIFE 8

* 「仕事の能率が上がって助かります」 無表情の顔の下ににんまりとした顔が見える気がする。 つくしの出産予定日まで10日を切った。 前後の1週間の計2週間の休みを確保するためにこの俺様が西田の言うなりだ。 「30%は能率が上がりました」と頭を下げる。 …

HAPPY LIFE 7

* -From 1- つくしのお腹も随分と張り出してきた。 この中に赤ん坊がいるんだと納得できる大きさ。 「これでも小さい方なんだから」と優しい表情でつくしがほほ笑む。 時折愛おしそうにお腹の中の赤ん坊に話しかけるつくしは一人だけ先に母親の表情を作りだ…

HAPPY LIFE 6

* -From 1- 母親学級も数回受けた頃、父親学級の案内のプリントを渡される。 「男性は血に弱いという方も多々いらっしゃいますから出産で強制スプラッタ映画を鑑賞したように顔を青ざめ て倒れる男性を防ぐ目的もあります」 助産師さんの言葉は参加者の笑い…