HAPPY LIFE 11

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「生まれた、男!」

分娩室を飛び出した俺に真っ先に駆け寄って来たのは牧野のお袋。

思わず抱きしめてしまってた。

「道明寺さん」

牧野のお袋が顔を真っ赤にしてうごめく。

慌てて腕を外した。

「おめでとう」

牧野のおやじさんは涙を流して俺の手をガシッと握り、手が抜けるような力強さで上下に振られる。

「僕・・・叔父さんだ~」

うれしそうにつぶやく進。

そして俺はパパだよなぁ。

「これで思い残すことはありません」

タマが目頭を押さえる。

まだ100年は生きていそうだよ。

「おめでとうございます」

頭を深々と下げてその頭が上がりきったところでなぜだが西田に抱きついてしまってた。

「西田、やったぞ~」

「坊ちゃん、私にそのような趣味はありません」

相変わらずの高低差のない声が耳元に聞こえる。

「俺にもねぇよ」

そういいながらもなぜか手を離せずガバッと西田に腕を巻きつける。

こみ上げるうれしさをすべて出しつくすにはなんでも抱きつくぞ!

そんな感じだ。

西田!もう少し付き合え!その思いを押しつけてまた腕に力が入る。

「うれしさが暴走するのはわかりますが抱きつくのはつくし様にしていただきたい」

的を得た答えが返ってきて正気になった。

分娩室からうぶ着に包まれた赤ん坊を抱いた看護婦が現れる。

どうぞと渡されて初めて抱くわが子。

落とせないとすげ~緊張感。

自分の腕じゃねぇみたいにギシギシした動き。

くにゃくにゃした赤ん坊は力を入れたら壊しそうな危うさ。

どう抱いたらいいかわかんなくて高まる緊張感。

看護師に助けられながら何とか腕の中に赤ん坊を収める。

洒落になんねぇほど抱いたまま焦る。

俺の腕の赤ん坊から伝わる温かな体温。

こみ上げる愛おしさは半端じゃない。

俺を中心に周りに集まる牧野の家族とタマに西田。

「かわいい」

赤ん坊を覗き込んで表情が緩みっぱなしの大人たち。

タマは心なしか曲がった腰が伸びている。

西田は・・・

喜怒哀楽わかんねぇ。

そして赤ん坊は新生児室へと運ばれた。

ここでも窓に張り付いて赤ん坊を眺める。

「うちの孫は一番かわいい」

俺もそう思う。

ギュッと握った両手が動いて、小さく欠伸。

「あくびした」

それだけでうれしくて歓声をあげる。

一目で夢中になれるものがあるなんてつくしに会った時以来か?

たまんねぇ。

病室に戻ったつくしを囲んでまた赤ん坊の話。

そして気を利かしたようにみんなが帰っていた。

病室には俺とつくしの二人っきり。

この照れくささはなんなのだろう。

「つかれたか?」

手を握りしめて、もう一つの手はつくしの髪をなで上げる。

「根も性を尽き果てた感じかな」

「もうニ度と産めないって思ったんだけど、赤ちゃん抱いたらまた生みたくなるね」

「えっ?もう次作るのか?」

俺はいつでもいいぞ!

「そんな意味じゃないでしょう」

口をとがらせて照れた様な笑い声を発せられた。

「トントン」病室のドアが開いて運ばれてきた赤ん坊。

初乳を飲ませるとか言ってつくしの腕の中に赤ん坊が居場所を変えた。

俺よりはましだがぎこちない抱きかた。

胸元を広げようとしてつくしが俺に視線を投げる。

「見ないでよね」

「見てたら悪いのか?」

「いまさら胸の一つや二つなんでもねぇだろう」

クスッと看護師に笑われた。

いろいろ指導を受けて赤ん坊の顔をつくしの乳房に寄せる。

自然に食い付きやがった。

「あとは大丈夫ですね」

出ていく看護師の肩はまだ笑ってた。

もぐもぐと動く赤ん坊の口元。

「飲んでる」

喜々とした声がつくしから漏れる。

「あんまり見ないでよね」

変な気は起きねぇよ

照れるつくしに俺もつられて赤くなる。

すげよな、誰が教えなくてもわかるんだから。

おっぱいの吸い方。

「名前決めた?」

視線を赤ん坊においたままつくしがつぶやく。

「シュンってどうだ?」

「駿馬、駿才、駿足の駿」

「並はずれた才能に優れているって俺の子にはぴったりだろう」

つくしの反応が気になってじっと見つめてた。

「道明寺らしいね」

ククと喉の奥から笑い声が飛び出す。

「シュン君、ママだよ」

母親の顔で愛しそうに赤ん坊を見つめながらつくしがそうつぶやいた。

名前のアンケートでは『駿』が圧倒的人気でした。

222票のうちの87票を獲得。

2位が『蒼』

一番多い票を集めた名前を今回使わせていただきました。

たくさんの投票ご協力ありがとうございました。

二人目は蒼になるのかな(^_^;)

ってまた男か?

拍手コメント返礼

しずか様

名前が決められたのは皆様のおかげでして、感謝です。

つぎのUPも近日中に♪