HAPPY LIFE 26

 *

「つー」

「つー」

私を指さす小さな手。

つ?

つ?ってなんだ?

「ママ、パパ、まんま」確実に言葉は増えている。

「ター」はタマ先輩。

「つー」って・・・

もしかして「つくし」と言いたいのか?

自分で自分を指さして「つ?」と発して駿の顔を見つめる。

うれしそうに笑い声を駿が上げる。

子供のはしゃぐ声って聞いている方も楽しくなる。

このまま「つー」って呼ばれるのは問題だろうけどな。

司が「つくし」って連発するから覚えたんだ。

つくして呼ばれるよりママの方がいいに決まってる。

今度はドアの方を指さして「つー」

つ?

「あれはドアだよ」

抱っこした小さな体を乗り出す様に「つー」の連発。

つくしじゃなかったのだろうか。

首をかしげてドアの前まで歩いてドアノブを握った。

パッと開いたドアの向こう側から現れた司。

「あっ、びっくりした」

ぶつかりそうになって踏み出した足を後ろに戻す。

そう言えばあっちも「つー」か。

きょとんとなってる司の顔を見ながらげらげらと遠慮なく笑い声を上げた。

「なんだ?」

「何がそんなにおかしいんだ?」

「駿が私たちの名前を言える様になったみたい」

司に顔を向ける様に駿を正面に向けて抱き変える。

「駿、誰だ?」

「つー」

口をとがらす様にして発する幼い声。

「ママは?」

「つー」

声を出してすぐに胸に顔押し付けて甘える仕草を駿が見せる。

「俺がつで、お前もつ?」

「分かんねえぞ」

私の手から抱き上げた駿に「つーじゃねぇ」と真剣な顔を作ってる。

「そのうちしっかりつかさって呼べるようになるんじゃない」

「子供に呼び捨てにされてたまるか」

「つーじゃねぇ、パパだ」

眉をつり上げた怖目の顔で駿を睨む。

「ビェーーーン」

すぐに反応して駿が泣き出した。

「大人でもビビるんだから怖がらせないでよね」

「お前がつかさって呼ぶから真似するんだろうが」

「お互いさまでしょう」

私に手を伸ばして助けを求める駿を司から受け取った。

「道明寺って呼んでたら、どぉじって呼ばれてたかもよ」

「ドジはお前の方だろうが」

名前の呼び方で言い合うなんてなんだかみみちくないか?

赤ん坊相手に脅しをかける道明寺ホールディングス代表。

誰にも見せられない姿だ。

「まあ、言葉が増えるのはいいことだよな」

さっきの大人げない態度を誤魔化す様に司が愛想いい感じに笑顔を作る。

「駿、こい」

駿の前に司が両手を差し出す。

それを拒否するように首を反対へと向けて駿は顔をそらした。

困ったような表情と怒って無視する大小の顔。

対照的な表情もそっくり過ぎて笑いをこらえるのは苦痛だ。

我慢できなくて「ブーッ」と声が吹き出た。

「ヤダって」

小さな笑いを保ったまま呟く。

「一人前に怒るのかこいつ」

「つーって呼んでも怒んないから、なっ」

「ほら、おもちゃもあるぞ」

テーブルの上に置いてあったウサギのぬいぐるみを左右に振って駿の興味を引くのに必死だ。

悪戦苦闘気味に司が機嫌を取ろうとするのは駿くらいのものか。

将来はパパより大物になるかも。

大丈夫だからと一緒に私も機嫌を取りながら必死になる司の声にまた顔がほころんでしまってた。