秘書西田の坊ちゃん観察日記 22(幸せの1歩手前 )
この物語は 幸せの1歩手前2 のside storyとなります。
*これで落ち着いた生活に戻れるはず。
そう安心するにはまだ早い。
司法修習を終え、弁護士への第一歩を歩みだされたつくし様。
それに加え道明寺総帥の妻としての役割も大きくのしかかる。
仕事ではゆるぎない地位を占めて、業界でも一目置かれる様になった道明寺総帥、道明寺司。
世間の評判は上々だ。
が・・・
なるべく機嫌よく仕事に専念していただくためには安定剤を準備しておくことが先決。
そのほうが周りで仕えるものの被害は少なくて済むのだから。
仕事がしやすくて済む様に最善の方法をとる。
これも秘書の役目と私は思っている。
つくし様が同じビル内に一緒にいる。
そのことで他の社員が浮足立ったのは半年前に経験済み。
代表に落ち着いてもらわなければ一番の被害をこうむるのはつくし様という観念は揺るぎはない。
そこをどうするかが今一番の悩みどころだ。
久しぶりの日本本社への出社。
執務室で代表を迎える。
「ご一緒ではなかったのですね」
代表よりつくし様が一足早く出社されたのは確認済み。
「一緒は嫌なんだと」
差し出したスケジュールファイルを眉をしかめながら代表が受け取った。
「それは困ったことだ」
思わず漏れた本音。
「会社にいるのは午前中の1時間だけか?」
スケジュールから視線を外した代表が不服そうにつぶやく
やはり執務室抜け出してつくし様に会いに行くつもりなのだろう。
以前は社内で平社員が代表を見かけるのは出社時のエトランスで垣間見る程度。
滅多にないレアな瞬間と噂されたもの。
それが社員食堂に出没。
つくし様の法律事務所のある10階での頻繁な目撃情報。
どれだけ仕事に支障が出たことか。
部長クラスからの苦情は一つ二つではありませんでした。
「久々の日本ですから」
休暇はたっぷり差し上げたはず。
ロスでゆっくりお二人で過ごせたかどうかは別問題。
しっかり仕事に専念してもらいますと微動だにしない態度をとる。
「さっさと仕事を終わらせるぞ」
しぶしぶと観念した様に坊ちゃんはデスクの書類を乱暴に手に取り捲る。
「なぁ、このスケジュールの調子はいつまで続く?」
私を下からの目線で上目遣いに向ける視線は子供の時のまま。
「しばらくは」
ゆっくりとした言葉はまるで子供に言い聞かせるよう。
「つくし様も仕事に慣れるまでは大変でしょうから、代表がお忙しいぐらいの方が邪魔にはならなくていいでしょう」
「どうして、俺が邪魔になるんだ」
不服そうに口をとがらせる表情は少年のままのあどけなさを残す。
スーツの内ポケットから手帳を取り出して几帳面に並ぶ箇条書きの文字を読み上げた。
「会社内の徘徊で女子社員が仕事にならないとの苦情が数十件。
社員食堂へ会食をキャンセルして行ったのが3回。
スケジュールの調整をさせられたのは数知れず。
用もないのに法律事務所の方に時間があるたびに行ってたのは・・・」
「もういい」
途中で聞きたくもないと言う様に手を振ってそっぽを向く横顔。
「そこまではもうしない」
「そこまではと言うとどこまではやるつもりですか?」
「必要以外の所をうろつかなければいいんだろ」
早く出て行けと言わんばかりの不機嫌な態度。
昔のやんちゃな部分を思い出して心がゆるむ。
「出来れば私の仕事を増やさない程度でお願いします」
「仕事すればいいんだろうが」
「ご尽力をお願いいたします」
頭を下げて総務室を後にした。
あんまり手を焼かせることを思いつきませんように。
そう願いながら。
拍手コメント返礼
なおピン様
このシリーズを好きといってもらってそして結局全部好きと言ってもらえてテンションあがります。
西田さんどこまで頑張れるのか!
b-moka様
本編ではきっとまた西田さんが翻弄?されるのかな?
西田さん日記のファンの方が多くてなかなか終われそうもありません。
ありがとうございます。