下弦の月が浮かぶ夜20

 *

花沢類に連れられてやってきた美作さんの会社。

漆黒調のデスクの真中に美作さんの性格そのままに几帳面に整理された書類は角がピタッと合わさったまま置かれてる。

そこで今仕事をしていたのだと主張しているみたいにポンと1本のペンが平行に書類の上に置かれてた。

「噂をすればってやつだ」

美作さんの横になぜか西門さん。

最近やたら、テレビや雑誌に引っ張りだこで一日が二十四時間じゃ足らないって言っていた。

今日は暇なのだろうかと首をかしげた。

「噂って俺?それとも牧野?」

落ち着いた響きの中に語尾だけが強まる花沢類の声。

ふと「司だからあきらめた」その言葉がまたよみがえる。

美作さんに嫉妬するの道明寺一人でも大変なのにッ。

「両方かな」

「やっぱり類は牧野に会いに行ってたか」

「牧野を引っ張ってここに来るとは思ってなかったけどなぁ」

軽快にしゃべる西門さんを美作さんは落ち着いた表情のまま黙って見つめてる。

容姿端麗な長身の男性3人。

黒目がちで濡れた様な瞳を覆う長い睫毛。

耳元までわずかに伸びた黒髪。

あっさりと着こなす高級スーツにも嫌味がない。

清々しく響く声。

華やかな雰囲気はこのまま落ち着き感のある部屋の中に溶け込んで1枚の完璧な絵に完成している。

思わず見惚れた。

F4の人を引き付けるオーラーは半端じゃない。

最上階に到着するまでに耳にした言葉を思い出す。

歩くたびに増えていく花沢類に注がれた熱い視線。

「キャー」「ワァー」の感嘆符の後に聞こえた女性の興奮気味の声。

「今日何かあるの?」

「今日はすごい」

「F4が見れた」

美作さんが見れるのは当たり前。

西門さんに花沢類まで集うのはたしかに興奮するはずだ。

思い出す英徳の校門の前でF4を一目見ようと集まっていた黄色い声の集団が集まる風景。

ぬっ?

確かF4が見れたとかいう声も聞こえてなかったか?

最悪の場面を想像して息をのむ。

「ねぇ・・・」

「もしかして・・・」

「・・・道明寺も来てた?」

言いたくない名前を必死で押し出す。

「俺はすれ違っただけだけど」

美作さんが応えるより早く西門さんがつぶやく。

そしてなんだか楽しそうに笑みを浮かべた。

「もしかして、暴れてないよね」

「そう思うよな」

軽い笑みを浮かべたままの西門さんとは対照的に美作さんは冷静に表情の読めない雰囲気を作っている。

「牧野を利用するなって忠告されただけ」

一瞬淋しそうに見えた美作さんの表情が気になった。

「さっき、この部屋に来る時女性とすれ違わなかったか?」

西門さんが軽口に呟く。

それはまるで私の興味を反らす様な感覚。

「一人すれ違ったけど」

花沢類の声に「アッ!」と声をあげていた。

その女性には見おぼえがあった。

美作さんと昼食を食べてたときにテーブルの側を通り過ぎた女性。

見合いする相手だと紹介された。

「一緒に住むことになったらしい」

露骨に面白がっている西門さん。

見合いからいきなり住むってことは、見合いがうまくいったのだろうか。

昨日の今日でそんなに意気投合するものなの?

美作さんなら女性を口説くのは楽勝だろうけど。

私を使って女性と別れた意味はなんだ?

私の必要性はどこ?

恋人のふりすることないんじゃないか?

一つの考えが枝分かれして自分ではまとまりが付けられなくなった。

キツネにつままれたような展開。

「同棲してるの?」

驚きを張り付けたまま美作さんを凝視。

「同居だ」

珍しく不機嫌な感情をそのままに乗せた美作さんの声が響いた。

つづきは21で

拍手コメント返礼

b-moka

ややこしくなってます。

ここからどうする気なんだろうって感じなんですけどね。

いえいえ、こちらこそいつも温かい拍手コメントありがとうございます。