HAPPY LIFE 8

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「仕事の能率が上がって助かります」

無表情の顔の下ににんまりとした顔が見える気がする。

つくしの出産予定日まで10日を切った。

前後の1週間の計2週間の休みを確保するためにこの俺様が西田の言うなりだ。

「30%は能率が上がりました」と頭を下げる。

たまにはうれしそうな顔を見せたらどうだこの能面秘書。

あと3日・・・

3日の辛抱で子供が生まれるまで側にいてやるからな。

「ありがとう」

照れながらうれしそうにほほ笑むつくしは俺の妄想。

「西田さんに苦労かけたらだめだよ」

「思ったとおりうまく生まれるとも限らない」

「明日、陣痛が来て産まれるかもよ」

俺を脅すように言ってつくしが苦笑する。

「いいか、俺が休みになるまで産まれるなよ」

呪文のようにつくしのお腹に向けて語りかける俺。

はやく産まれてこいって言っていたのはつい数週間前のこと。

変わり身が早いとつくしはケラケラと笑う。

「お産なんて坊ちゃんがいても邪魔にしかなりませんよ」

「仕事してもらっていたほうがどれだけ道明寺の為になるか」

それはタマの言い分。

うるさくてしょうがない。

私がついてるから大丈夫なんて出産経験のないお前が言うんじゃねぇよ。

口ごたえしたらどうなるかわからないから胸にとどめる。

タマよりおれの愛情ある応援のほうがつくしの力にはなるはずだ。

なんせ俺は産まれてくる子供のまぎれもない父親なのだから。

父親・・・

いい響きだ。

パパ、お父さん、お父様・・・

呼ばれたらたまんねぇだろうな。

早く抱きてぇーーーーー。

思わず叫びそうになっていた。

おっと・・・

抱きたいのはつくしじゃないぞ!子供だ子供。

周りに誰もいないことを確かめるように視線をクルクルめまぐるしくまわしてた。

静まり返った本社ビルの最上階の代表執務室。

誰もいるわけない。

ホッとため息ついて椅子に身体をドッと預ける。

産まれるまでの楽しみと性別も聞かなかったけど周りは絶対男だって言っている。

「凶暴さが似たら困る」とは姉貴の言葉。

「わがままには育てられませんよう、坊ちゃんのような苦労は骨身にしみます」

いいすぎじゃねぇのか西田。

俺は最近聴き分けいいぞ。

「自覚がないのも困る」と反論された。

「絶対そうは育てません」

言いきるつくし。

お前らの俺の評価はそんなもんなのか。

「いい加減にしろ」

すねたように言っても顔がほころんでしまってた。

「やっぱ、1日でも早くみてぇなぁ」

書類を持って現れた西田とパタッと視線がぶつかる。

「ご信望を・・・」

西田の顔が少し和らいだ様に見えた。

次はいよいよ出産編♪