HAPPY LIFE 6

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-From 1-

母親学級も数回受けた頃、父親学級の案内のプリントを渡される。

「男性は血に弱いという方も多々いらっしゃいますから出産で強制スプラッタ映画を鑑賞したように顔を青ざめ

て倒れる男性を防ぐ目的もあります」

助産師さんの言葉は参加者の笑いを誘う。

道明寺はどうだろう?

血を見て気絶するタイプには思えない。

立会出産すると今から張り切って予定日前後の1週間はスケジュールを空白にしてるらしい。

そんなにうまく産まれてくれればいいけれど。

「道明寺さんは別な日に個人で設定しますけど」

助産師さんに帰り儀は呼び止められる。

道明寺を連れてくるとなったら結構な有名人それ以外でも結構な特別扱い。

産婦人科の担当医は道明寺が無理やり女医に変えさせた。

検診も予約時間ぴったりにまたされることもなくスムーズに終わる。

待合室で他の妊婦さんと話をして情報交換なんて夢のまた夢状態で終わってる。

この母親学級だけが妊婦同士で語り合える時間なのだ。

妊娠の経過を話してみんなと同じだと知って安心できる感覚は捨てがたい。

「私は皆さんと一緒の方がいいんですけど・・・」

一人で母親教室を受けてもつまらないと極力集団での参加に努力している。

他のパパさんがどんな感じなのかは気になるところ。

「都合がつかなかったら連絡くださいね」

にっこりとほほ笑む助産師に頭を下げて別れた。

夜、道明寺の帰りを待って父親学級のプリントを渡す。

「行ける?」

「あたり前だろう。父親学級に俺が行かなくてどうすんだ」

「他の人と一緒でも大丈夫?」

「問題ないぞ」

張り切っているのは分かるがじっとプリントを見て子供みたいにほほ笑んでいる様子はワクワク感の期待感に

胸を躍らせている遠足前の小学生を連想させる。

父親学級前日は興奮して眠れないとか言いだすんじゃないだろうな。

父親学級当日仲良く二人で参加。

奥さんの気持ちを理解するという項目で「どう理解すんだ?」「やさしく接してやればいいんじゃねえのか?」

疑問符張り付けた顔で道明寺が私の顔を覗き込む。

『妊婦の気持ち養成ギプス』を渡されて着こむ道明寺。

「腹が重い、足元が見えねェぞ」とぼやくようにつぶやいた。

普段見られない様な格好。

それも高級スーツに身を包んだイケメンが腹ぼてのベスト着てるんだからそのアンバランスさは参加者の中でやたら目につく。

思い切りケラケラ笑っていた。

「転びそうになるな」

普通の状態に解放された道明寺は「お前は歩くな」って無理な要求。

「慣れてるから大丈夫だよ」

道明寺の心配症にも困ったものだこのままいったら車いすが準備されてそうだ。

次は新生児の世話の体験。

体重3キロのキューピーちゃん。

首がすわってない間の持ち方とか、赤ちゃんのお風呂、おむつのやり方の体験。

キューピー人形相手に緊張感を漂わせる道明寺。

お風呂に入れる体験で「赤ちゃんを上下にふって水切りしたりしてはいけません」と注意を受けて焦って私にキューピー人形を投げてきた。

「ボールの代わりにしてはいけません」

速攻で突っ込んできた保健師さんの言葉に教室から笑いが起こる。

アタフタしてる道明寺は新鮮で仕込みがいはありそうだ。

おむつ変えたりミルク飲ませたりする道明寺は想像できないけど。

赤ちゃんの世話をしたいのはタマ先輩を筆頭に事欠かない感じで使用人達も楽しみにしている。

道明寺の出番なんてあるのだろうか?

父親学級に忙しい仕事の合間をぬって参加してくれた道明寺。

なれないことを一生懸命に取り組んでいるとこ初めて見た気がする。

そこには日本随一の道明寺総帥の姿なんて全くなくて新米パパの奮闘記。

ドギマギとしてるのが新鮮でうれしくて幸せな思いに包まれる。

「良いパパで良かったね」

お腹の赤ちゃんに向かってそうつぶやいた。

「次はラマーズ法についてです」

教室には夫婦そろっての参加者10組程度。

ちらちら見られるのはいつものことだが、落ち着かないのはさっきの赤ん坊の世話の失態のせい?

どこのパパぶりも大差がなくて俺は安心したんだけれど。

道明寺財閥の若き総帥、冷静に経済界をリードする。

なんて今週号の経済雑誌に載ってたはずだ。

今の俺とのギャップの差は明白で、意外性に驚いてる視線は煙たい。

会社でにらみを効かせる俺を取り戻せる状況に出来るはずはない。

つくしのそばにいる俺は完全に自分をさらけ出してしまってる。

それが十分に楽しいんだ。

『自分の力で出産するために独自の呼吸法と全身のリラックスにより、 上手に陣痛をのりきる出産法』

確かそんな説明は本に書いてあった。

「奥さまは痛みのために覚えたはずの呼吸法を忘れがちですからそばで一緒に呼吸法の手本を見せる旦那様の役目は大きいです」

立会出産で自分の役目を見出して力が入る。

おなかの大きくなってくるつくしの変化に子供がいるんだと実感しながらも、男はただ待ってるだけで何もできないからつまらないと思ってた。

「しょうがないですよ」

面白くないと言った俺にタマはやたらうれしそうににんまりと笑う。

「坊ちゃんも人の親にいなられるなんて」

「父親教室に、立会出産だなんて若奥様も幸せだ」

感無量に涙を流す1歩手前の状態で今日も送りだされた。

タマ!

俺の役目大事だぞ!

分娩の進行に合わせての説明。

陣痛が何分間隔で・・・子宮口が開いて、胎児が出てこられるのは・・・

全然わかんねえぞ?

「子宮口ってどこ?」

隣に座るつくしに耳に口を近づけて小さくつぶやく。

目を見開いて視線を向けるつくしの顔が見る間に真っ赤になる。

「赤ちゃんが生まれるところ」

「ああ、生まれるとこか」

生まれるところって・・・

大腿の付け根の大事な・・・その・・・あの・・・部分・・・

俺の好きな場所。

納得して気がついて俺も赤くなる。

10センチって・・・・

そんなに大きく開くのか!?

見たことねぇぞ。

開いたままじゃねえだろうな?

何考えてるんだか。

欲求不満じゃないぞと心の中を打ち消した。

怪訝そうにつくしが俺の顔をのぞきこむ。

「何考えてんの?」

「別に・・・」

ごまかすように呼吸法を真似する。

「ヒーヒーフー」

「ヒーヒー」

あと何だ?

言われるよう真似する俺を面白そうにニヤッとつくしが見上げる。

「笑うな」

「ラマーズ法やってる道明寺なんてめったに見れないなぁなんて思って・・・」

「この状況を会社の社員が見たら面白がるだろうねぇ」

誰の為にやってる思ってんだッ!

「しっかり覚えて、助けてね」

笑われてもけなされてもうれしいと思える瞬間がそこにある。

「オッ!任せとけ!」

照れくささととともに自然と笑顔がこぼれてくる。

それはまわりの参加者すべてにも当てはまることで・・・

おなかの中の子供と3人で穏やかに時が過ぎる。

俺たちが一番だと変な張り合い。

生まれて来るのが待ちどうしい思い。

「はやく生まれてこい」

「それは困る!」

まじめな顔でつくしが睨にらんでそして顔がほころんだ。

続きはHAPPY LIFE7

父親学級編はこれにて終了

後はどんなお話で進めましょうか?

いよいよ出産編に突入でしょうか(*^_^*)

拍手コメント返礼

ひふみ様

はじめまして、コメントありがとうございます。

映画は私も子供と一緒に行きました。

四人の中ならだれが好き・・・

親子で話していましたね。うちの娘は類君でした。

これからもよろしくお願いいたします。