第12話 ないしょ?ないしょ!ないしょ!? 11

 *

-From1 -

失恋の痛手は大きい・・・

相手が提携先の坊ちゃんじゃなかったらと不敵に笑う。

ところどころで牧野のことをにおわせるはげ常務。

お前がどんなにモーションかけても俺にかなうわけねぇだろう。

負け犬の鳴き声がッ!

声にしたつもりはないのに横から西田が「遠吠えです」と訂正する。

提携は予定通り牧野のことに左右されることなく順調に進んだ。

「いい子ですね」

握手を交わした手のひらを力いっぱい握り絞められる。

こいつ・・・

牧野に未練いっぱいじゃねぇか!

負けじと野郎の手のひらを握る指先に力をいれる。

「人の女に手を出すなよな」

「そんな事どこにも書いてなかったもので」

飛び散る火花に気がついた西田が「そろそろ」と諭すように俺を促した。

「今度牧野に近づいたらぶっ殺す」

「そんなことしたら彼女の性格じゃ愛想尽かされるのは君のほうじゃないの」

一触即発の雰囲気。

「ぷっ」

冗談だからと頬を緩めて的場の御曹司が吹き出して笑った。

「仕事の時の雰囲気とえらい違いだ」

「感情むき出しで思う相手がいるのはうらやましい」

怒りのやりようがなくなって自分がガキに思える敗北感。

認めたくなくって不機嫌な表情を作る。

「幸せに」

そう言ってはげ常務は会議場を後にする。

「大人ですね」

しみじみとした感じで西田がうらやましいと口にした。

「俺よりは10歳以上は上だろうがぁ!おっさんが牧野にちょっかい出しやがってぇ」

「常務は確か今年28才ですよ」

「5.6年後、坊ちゃんがあのくらい大人になってくれていると私も楽なんですけどね」

たまには冗談ぽくにっこりと皮肉を言えないものなのだろうか。

西田の真顔に苦々しい思いが顔を出す。

「つくし様が待ってますよ」

最後にアメ玉を口の中に放り投げられた。

足早に向かう俺のオフィス。

途中で歩幅をゆっくりと進めたのは焦る気分を落ち着かせるため。

このドキドキ感はなんなのだろう。

いつもと違う雰囲気は牧野が部屋で待ってるという真実。

別にベットの置いてある部屋にいるわけじゃないんだが・・・

この高揚感は半端じゃない。

昨日も会ってるだろうがと自分に言い聞かせる。

握りしめた部屋のノブ。

ゆっくりとまわして開けた。

「待たせたな」

ソファーにもたれかかるように俺を待っている牧野。

弱弱しい雰囲気に見えるのは俺へ内緒にしてた引け目のためか。

さっきより優しい気分になっている。

結構な優越感。

「怒ってるんだからね」

俺を見て最初に出た言葉がまったく色気なしの非難の言葉って・・・

そんなのありかよ!

ピキッとこめかみに怒りが走ったのを自覚したまんま牧野を見下ろした。

 

-From 2 ‐

「他に言うことないのか」

静かに響く低音の響き。

耳の奥を通り過ぎて身体の奥まで突き通す。

ここで負けたらずるずると行くのは目に見えていている。

引かないようにグッと身体と心に力を入れた。

「類が恋人で、どっかの男を紹介されたの阻止したなんて言い訳は聞かないからな」

・・・なんで・・・

そんなことまで知ってんのよ。

「次は的場物産の御曹司に見染められて迫られて、オモテになることで・・・」

完全に怒らせてしまってる。

ひきつった道明寺のこめかみには青筋が数本浮かんでる。

口元には冷笑浮かべてって・・・

最悪だ。

強気で行くのはあきらめた。

ズルズルいきそうな雰囲気。

もしかして最初の対応を間違って自分からアリの巣地獄に飛び込んだ?

いまさら西田さんが言ったような坊ちゃんを喜ばす状況なんて作り出せそうもない。

「あの・・・」

「その・・・」

「バイトのことは・・・」

「バイトのことなんて大したことじゃねえだろう」

「お前に声かけた男ってこれだけだろうな」

目つきの鋭さまで増してきた。

「わ・・私そんなにもてないよ」

「これだけじゃ足りないのか?」

「そんな意味では・・・」

何を言っても上げ足を取られそうな雰囲気。

ゆっくりと近づく道明寺。

迫力に押されるように後ずさりしていた。

私の背中には道明寺の大きなデスクが逃げ場をなくす。

「道明寺・・・ここは冷静に・・・」

「お願いします」

道明寺の腕が私の身体を包み込む。

「嫉妬で狂いそうな気持をお前わかるか?」

「俺だけ、すげ~嫉妬して・・・」

「どんだけあのはげ常務殴り倒したかったか・・・」

「我慢するのにエネルギー使い果たした気分」

道明寺の腕が動いて胸の中に私を隠すように頭ごと抱きしめる。

「お前の言葉一つで馬鹿みたいに機嫌が良くなって、踊らされる俺は馬鹿みたいだ」

「ごめん」

胸元で小さくつぶやく。

「俺に嫉妬させんな」

「させてるつもりはないんだけど」

「その自覚のなさに腹が立つ」

胸元から上げた顔を優しくなった道明寺の瞳が見つめてた。

引かれるように唇が下りてきてそっと口づける。

「充電」

離した唇が待ちきれないように私の口をまたふさぐ。

「押し倒せないのが残念」

道明寺が照れくさそうに言って笑った。

続きは 第12話 ないしょ?ないしょ!ないしょ!? 12 で

坊ちゃん今日は大人だ~という感じで仕上げていました。

一応会社のTOPの自覚はないと(^_^;)

西田さんばかりに苦労させたらいけないよ♪