幸せの1歩手前 17

 *

満足だった。

いや、そのはずだった。

相手先のエントランスでつくしの到着を待つ。

すぐに俺の居場所わかるだろうか?

周りにはガタイのいいSPが数名。

西田に今回のプロジェクトの担当者数名。

男ばかりの集団に何事かの視線を投げながら素通りしていく知らねぇやつら。

部下と会話しながらも神経の半分以上は入口の方に向かっている。

出迎えに現れた相手先の社長と握手を交わした。

入口の自動ドアが開いた瞬間にあいつの足音までキャッチした俺の五感。

思わずほころびそうになる口元。

「・・・代表」

西田の低めの声に押しとどめられた。

俺の心の変化に敏感すぎるんだよ。

たぶん西田、お前以外誰も気がついてねぇよ。

素知らぬ顔を装い相手方と言葉を交わす。

「失礼」

言い残して集団からわずか数メートルの場所にいるあいつにゆっくりと歩み寄る。

何やってんだ?

スタート前の走者のスタイルの固まってるつくし。

理解しがたいが相変わらずおもしれぇやつ。

手のひらでほころんだ口元を隠す様に覆った。

「俺様を待たせるとはいい度胸だな」

「約束まで10分はまだあるけど」

強がる口調。

照れくさいのを隠してるのミエミエだつーの。

これ以上こいつと視線を合わせていると表情が保てなくなりそうだ。

西田になに言われるかわかったもんじゃない。

ここはしっかり仕事をこなしてると西田にアピールすることが肝要だ。

後々面倒にならないために。

「行くぞ」

「あっ、ハイ」

そっけなく背中を向ける。

以前ほどつくしを妻だと相手側に紹介したい気分は影を潜めてる。

俺の妻だと言う世間の認識はちらほら定着した感があるからに他ならない。

つくしはまだ気がついてはいないみたいだけどな。

通された会議室で始まる会談。

俺の横で食い入る様につくしは書類を見つめてる。

時々触れあいそうになる肩。

書類を確認するふりをして近づける頬。

それに満足して楽しんでいる。

後ろからの刺す様な視線が現実に引き戻す。

西田だよなぁ・・・。

俺なりには冷静沈着に相手方を分析して思惑通りに進めてる会談。

十分に役割はこなしてはずだ。

一時間ほどで相手先の社長と握手をして話はまとまった。

会社に向かう車に2人乗りこむ。

「・・・別人だね」

車の窓に映るつくしの口元が小さく動く。

「何か言ったか?」

「べ・別に・・・」

俺に向き直って言葉を濁しながら首をブルブルと音がするくらいに左右に振った。

「エレベーターの中のことで機嫌悪くなってんじゃないよな?」

「機嫌なんか悪くなってないよ。少し恥ずかしかったけどね」

「じゃあなんだ?」

初めての顧問弁護士としての仕事に俺なりに見せた気遣い。

相手に説明するよりこいつに分かるようにと解説気味に話を進めた内容。

エレベーターの中ではこいつの気分を解そうとしてた俺。

つくしは分かってるのだろうか。

柄じゃなかったかもな。

こいつと仕事するの結構しんどいかも。

二人で仕事ができて同じ時間を共有できると満足してたのは数時間前。

必要以上にエネルギーを消耗してる。

こんな時は甘いものが欲しくなるって聞いた様な気がした。

俺にとって甘いものって・・・。

さらりと唇が軽く触れた頬。

指を伸ばした身体。

ヤダと言う様に身体を離された。

エレベーターの中でこれは余計だったか。

「・・・・・」

無言の反応がやけに長く感じる。

「見なおしたっていうか・・・カッコ良かったっていうか・・・」

「惚れなおした・・かなって・・・」

頬を赤らめてうつむくつくし。

つられるように俺まで赤くなりそうだ。

この後・・・

仕事に戻る気になんてなれそうもなくなった。

期待を持たせる終わり方♪

どうする?どうなる?どうしましょう~。

このままで~って・・・だめですか?