幸せの1歩手前 7

 *

「そんなに俺が迎えに来たのが気に食わないのか」

じろり。

気の強い怒りを秘めた瞳が俺を見据える。

俺にそんな不機嫌な顔を向けるのはお前くらいのもんだ。

「だってまだ9時にもなってないじゃない」

「仕事どうしたの。まさか西田さんを振り払って飛び出して来たんじゃないわよね」

責める様な口調。

つくしが気にしてるのは俺の仕事つーか、西田か?

気にくわねぇ。

「早く終わっから迎えに来たとか思わないのか」

つくしに並んで腰をおろして不機嫌なまま腕を組む。

「西田さんが10時くらいまで仕事って言ってたからそんなに早く終わるわけないと普通思うわよ」

「それにGPSって、いい気がするわけないじゃない」

早く仕事が終わって、わざわざ居場所を見つけて迎えに来てやって文句言われるとは思わねーぞ。

居場所見付けたのはわざわざじゃないけど、結構面白がっていた。

すぐにわかるもんだよな。

これからもこの機能は十分に重宝しそうだ。

「別に仕事を途中で放り投げたわけじゃねえよ」

自分の立場を見失うほど馬鹿じゃない。

今回は相手側に俺が気の乗らないふりをする方が効果的だと判断したから早々に切り上げただけの策略。

俺の仕事での手腕は西田も認めてるから俺のやり方に口をはさむことなどない。

「早く終わって良かったですね」と文句を一つも言うことなく俺を送り出してくれたぞ。

俺の仕事ぶりには満足しているはずだ。

「今日はつくしの仕事の邪魔はしてねぇからな」

何となく西田に断ったのは珍しい俺の気遣いてやつだ。

「俺が行かなければどうなってた?」

「どうって?」

不機嫌な顔の真中に疑問符が張り付いた。

これだから気が抜けねぇんだよ。

「お前、甲斐って野郎に告られてたよな」

スキとかなんとか。

それもお前の横に並んで座ってニヤケ気味でな。

「あれ、冗談じゃない、本気のわけないってさっきも言ったでしょう」

「それに甲斐さん彼女いるしね」

「あいつ彼女がいるのにお前に言いよったのか」

「だから違うって」

「どう違うんだよ」

「はぁー」と呆れた様なため息

俺を見てため息つくな。

話しても無駄だみたいな諦めの表情まで顔に浮かんでる。

「仕事・・・」

「んっ?」

「仕事行かせねぇとか言いださないでよね」

「言ったらどうする」

「私の夢を全部叶えてくれるって約束してくれたよね?」

グッ・・・

こいつの夢は弁護士になることで、夢をすべて叶えてやると約束した俺。

「言ってくれたよね」

「うれしかったんだから」

強気な瞳の奥から甘く緩む色が浮かぶ。

反則だ。

強気で強引に責めることなんてできなくなる。

最近つくしの俺の扱いうまくなってねぇか?

「我慢してやるよ」

「我慢て・・・」

「しょうがねぇから我慢してやるって言ってんだ」

呆れた様に大きく見開かれる瞳。

その中でニンマリとほほ笑む俺が映し出される。

仕事はさせてやるよ。

邪魔にならねぇ方法を思いついた。