下弦の月が浮かぶ夜21
*相変わらずだ。
牧野が絡むことになるとどうしてこうも皆行動が早いのか。
「噂って俺?それとも牧野?」
目の前に立つ類は完全に俺に敵対心を見せて隠そうともしない。
類の敵対心が俺に対する嫉妬心だと牧野は気が付いているのだろうか?
きっと・・・
気が付いてはいないよな。
気が付かせたらそれこそ司に殴られそうだ。
司が高校を卒業と同時に日本を離れた冬。
牧野を見守っていた俺達。
1番そばにいつもいたのは類。
牧野に冷たくする司に3人で詰め寄ったことも覚えてる。
「一年もほったらかしにして、彼女作って、婚約して、今さら彼氏面するんじゃねぇ」
他人に無関心すぎる類が初めて感情を爆発させるのを目のあたりにした。
司と牧野を取り合った類。
類の思いが本物だったのは俺達は皆知っている。
だから・・・
何も言う必要はないと思っていた。
司以外は許さない。
たぶん類もそう思っているのだろう。
そう睨むな。
声に出さずに類を見つめる。
一瞬の夢。
儚いものだとは自覚しているのだから。
それくらいはダメか?
一つの思い出だけでもいいと思っているのだから。
「ねぇ・・・」
「もしかして・・・」
「・・・道明寺も来てた?」
挙動不審気味のオドオドした挙動を牧野が見せる。
鈍感な牧野も司のことに関しては気が付くのが早い。
何しに司がここに来たのかと俺とのことがばれてる状況じゃ不安になるのも仕方がない。
「俺はすれ違っただけだけど」
「もしかして、暴れてないよね」
「そう思うよな」
苦笑していた俺より先に総二郎がおどけた調子を見せる。
「牧野を利用するなって忠告されただけ」
殴られた方がどれだけ楽だったか・・・。
総二郎みたいにおどける気分にはなれそうもなかった。
「さっき、この部屋に来る時女性とすれ違わなかったか?」
困惑気味に首をかしげる牧野の気分をそらすように総二郎が話題を変える。
こんな時の総二郎の判断は的確だ。
悪いな総二郎。
言えるわけねぇーーーーー。
普段なら感謝するところだがここでその話題を掘り起こす必要あるのか!
「一人すれ違ったけど」
類の声に思い出した様に「アッ!」と牧野が声を上げる。
ほら、みろ!葵のことを牧野が思い出したじゃないか。
「一緒に住むことになったらしい」
牧野の反応を完全に総二郎は面白がっている。
総二郎を睨みつけたくなった。
「同棲してるの?」
驚きを張り付けたまま牧野がじっと見つめる。
「同居だ」
俺にしては珍しく否定する声が腹の底からそのままに叫ぶように大きく飛び出してしまった。
「成り行きでそうなっただけだから」
「あいつとはなにもない」
「時期が来たら解消できるはずだ。多分そうなる」
言い訳気味に喋る俺に総二郎が「ククッ」と笑いを洩らす。
類は「フッ」と鼻で笑いやがった。
「まあ、見合いがうまくいったんならいいんじゃない?」
「まだ、見合いもしてないよ」
牧野の言葉にため息交じりに呟く。
「じゃあ、なんで一緒に住んでるの?」
「いろいろあるんだよ」
瞳を輝かせる牧野。
「女が勝手に押しかけた」
普段ならこれくらいの言葉で軽く嘯く。
「総二郎に聞いてくれ」
俺から説明する気力なんてとうにしぼんでしまってた。
「仕事だから・・・」
適当な理由をつけて3人を部屋から追い出した。
今さら牧野を恋人に仕立てる理由なんてない。
椅子に身体を沈み込める様に座り込んでしまってる。
見たい夢は見る前に目覚めるものだ。
こんなもんかもしれないな。
落胆ぶりがおかしくて思わず「クスッ」と笑い声が口元から洩れた。
続きは22でどうぞ♪