幸せの1歩手前 16

 *

「・・・別人だね」

「何か言ったか?」

「べ・別に・・・」

言葉を濁して首をブルブルと音がするくらいに左右に振った。

待ち合わせた相手先の会社のエントランス。

道明寺から相手先に訪問するのは珍しいことだと聞いていた。

それだけ大切な相手なのだろうと私にも緊張が走る。

どこの大名行列だ?

と、思うくらい道明寺の周りに群がるスーツ軍団。

飛び出してるクルクルパーマが居場所を示してる。

つーより周りの女性の視線が集中する場所を辿ればわかるのはいつものことだ。

この点は助かる。

昔道明寺にそう言ったら「それにヤキモチ妬かねぇの」不服そうな顔をされたことを思い出した。

あの中にどう紛れ込むか・・・。

「お待たせ」と明るく近づいていく気にはなれない。

ゆっくりと周りの視線が私に向かないようにと歩み寄る。

私に最初に気が付いたSPが道を開ける様に動いた。

あの中に一気に飛び込めば私の姿はすっぽりと隠されてしまうだろう。

走りだそうと構えを取った瞬間に優しくほほ笑みを浮かべた道明寺と目が会った。

そして・・・

動けなくなる。

道明寺が横の相手と言葉を交わして目の前に近づいてきた。

颯爽と歩いてるだけなのにそれだけで周りの視線を引き付ける。

熱い空気がまとわりつく様に道明寺とともに移動した。

「俺様を待たせるとはいい度胸だな」

乱暴な言葉には似合わない柔らかい表情が見つめる。

「約束まで10分はまだあるけど」

照れを隠す様に強がる声。

「行くぞ」

「あっ、ハイ」

くるっと背中を向けて元いた場所へと引き返していく背中を慌て追いかけた。

そのあとは私のことなど単なる部下とでもいう様な態度。

途中、途中で必要な内容を確認するだけの会話。

何事にも動じなくて・・・。

必要最低限に的確に道明寺が指示を出す。

道明寺の思惑通りに進む会談。

私の側にいるのは私の知ってる道明寺じゃなくて世間の評価通りのやり手の若き実業家の姿。

一時間ほどで相手先の社長と握手をして話はまとまった。

「疲れたか?」

「・・・大丈夫だけど」

「けど、何だ?」

「しっかり仕事してるんだなって思ってね」

「ほれなおしたか?」

頬に寄せてきた道明寺の唇が軽く触れる。

「ばかっ、見られる」

焦る様に自分の頬を手のひらで覆った。

エントランスに向かうエレベータの中。

奥の壁ぎわに張り付いたま視線が泳ぐ。

目の前に立ちはだかるいくつものスーツの壁。

見てません!聞こえてません!と背筋が張りつめてるのがわかる。

その気遣いに恥ずかしさが増す。

その私を見つめて道明寺が楽しんでるのが分かるから悔しくなる。

「いつもそのくらい会社で私の存在を無視してもらってもいいんだけど」

わざとらしくため息混じりでつぶやいた。

「相手先で気を許したら仕事になんねぇよ」

「緩んだ顔を敵に見せられるわけねぇからな。結構しんどい」

「一緒に仕事するのは俺の執務室で十分だ」

子供見たいな無邪気な屈託ない笑顔。

私はその笑顔を向けらる唯一無二の存在なんだと知っている。

そして・・・

照れくささを隠す様に横柄な態度をとってしまう。

「だから、会社では止めてほしいのッ」

「素直じゃねぇやつ」

そう言った口元がまた優しくほほ笑んだ。

このお話は・・・どう終わるんだ。

つくしちゃんが自分の妊娠に気が付くまでのお話の設定の予定なんですが行きつけない。(^_^;)

少し焦り気味になってきてます。

拍手コメント返礼

匿名様

終わらないで~とコメントをいただけるのは大変うれしいのですが、いずれは迎える終焉。

近づくと新しいお話が浮かんでいる私です。

b-moka

たまには仕事モードの司でつくしちゃんにもほれなおしてもらましょう。

本当に我が家の坊ちゃんの仕事モードは貴重な感じがします。(^_^;)

エピソードてんこ盛りですか?

大丈夫でしょうか?