迷うひつじを惑わすオオカミ 6

進が気を利かせて出て行ってくれたのに道明寺までいなくなった。

玄関でへたり込んだ身体を引きずる様に道明寺の家のトイレより狭い居間に戻る。

スイッチの入ったままのテレビからはスーツをバシッと決めた道明寺ホールデングス代表として大人びた表情を見せる

道明寺が映る。

この前どこかの会社と提携を結んだ時の映像。

さっき家から飛び出していった道明寺は何かを企んでうきうきしちゃっていた。

何時もならあり得ないでしょう!

久し振りに二人で向き合って、二人っきりで・・・

今日は両親も進もこの家に帰ってこない状況。

「この狭いベットもいいよな」

私のシングルベットに隙間を作れない状況で肌を寄せ合えるの本気で喜んじゃう。

こんな機会は滅多にない。

直ぐに帰っちゃうんだもん。

泊まらなくてもいいから私の手料理を道明寺に食べてもらいたかった。

2人分で用意してたから無駄になるじゃないか!

「進帰ってこい」

やけ気味に進の携帯に連絡を入れた。

「道明寺さんは?」

「帰った」

「え?まだ僕が家を出てそんなに経ってないのにケンカしたの?最短記録じゃん」

「いいから帰れ」

進でもおかしいって思う道明寺の行動。

ケンカはしてないツーの。

ここからどうなるかわからないけれども・・・。

ケンカの方がまだましな気がする。

セミナーをドタキャンしたら道明寺になにか言われそうな予感。

参加するしかないのだろうかとドタキャンの決心が揺らいできた。

どうしてセミナーに興味持つかな。

塚原真美は、どうでもいいか。

そんな気分になってきた。

心配なのは道明寺。

頭の中で不安が渦を巻きだした。

「必ず来いよ」

「必ず来てね」

私の気持ちを見透かす様に道明寺と塚原真美からメールが届く。

セミナー前日最後はとどめを指す様に道明寺からの連絡が携帯を鳴らした。

「本当なら俺がお前の側に付いていてやりたいけど大事な仕事があるから無理になった。大丈夫か?」

やけにやさしい声。

学生のセミナーに道明寺が付き添ったらそれこそ大騒ぎだよ。

セミナーの意味わかってるのだろうか?

学生の就職のための会社の説明会。

会社の概要とか、仕事内容とか給料と休暇とか待遇の話。

道明寺ホールデングスの魅力を学生に見せて優秀な社員を選考する第一段階。

道明寺が学生の前に姿を現せば間違いなく女子学生のテンションは上がると思う。

会社の概要や待遇より道明寺の方が魅力だと思うもの。

セミナーを受けなきゃ就職は始まらない。

私は道明寺の会社に就職するつもりもないのに、なんだか道明寺が勝手に解釈してる節がある。

頭痛いっ。

本当に道明寺は来ないよね?

仕事を入れてくれた西田さんに感謝しちゃうぞ。

セミナー当日。

道明寺本社ビル前に待ち構えてる塚原真美を見つけたのは開催時間30分前。

「遅いよ~」

ちょっと頬を膨らませた顔が満面に笑顔を作る。

その顔に見惚れるように横を通り過ぎ様とした男性が歩く速度を緩めて振り返る。

自分が見られてる様子をしっかりと気付いた彼女はその男性にちらりと視線を向けて笑顔で軽く会釈を返した。

うわ~。

自分を可愛く見せるコツは桜子を思い出す。

私に絶対に真似できない。

受付を一緒に済ませて会場への案内の道順に沿って進む。

指定された場所には数十人のリクルートスーツが並ぶ。

「やっぱすげーな、セミナーだけでいったいどんだけいるんだ」

「日本トップの企業だからな」

数人でできた小さな集団はそれぞれに会話を続けてる。

「ねぇ、道明寺司、来ると思う?」

「見たいよね」

「会えたらそれだけでこのセミナーの価値があるわよ」

「目があったらどうする」

女子数人で出来た集団のノリは大学の構内のノリと一緒だ。

滅多に大学に来なくなった道明寺に構内でばったり会えたら一日ハッピーだとか。

英徳だけで通じる道明寺占い。

「目の色変えても道明寺司って婚約してんじゃなかったけ?婚約してなくても彼女の一人や二人いるだろう」

「週替わりとかで恋人いたりしてな」

君たちじゃ相手にされないとでも決めつけた中傷的な視線。

私達も一色単に見られてる雰囲気。

ここに来てるみんながみんな道明寺目当てじゃないツーの。

私はここで道明寺に会わないことを願ってる。

「ねぇ、牧野さんは英徳高校に行ってたんだよね?」

ここで高校の話題を振られるとは思わなかった。

道明寺司って私達より一つ上だっけ?」

「代表の彼女って英徳の後輩だって噂だけど、牧野さん知ってるの?」

私が雪山遭難で道明寺に助けられてた話は新聞の一面をにぎわせた。

知ってる人がいても不思議じゃない。

「それ・・・私かな」

言えるわけない。

優紀にも道明寺との関係をばらすなって言われちゃってるし、ここは優紀の助言には従おうって思ってる。

嘘をつこうとすると脈が速くなる。

唇も乾いて張り付いて知らないと答えたいのに声にならない。

「英徳って言っても接点があるわけじゃいわよね」

私の表情をどう勘違いしたのか呆れるほどの爽やかな笑顔を塚原さんが浮かべた。

ごめんなさいバカなことを聞いて。

そんな表情が瞳に浮かべてるのが分る。

そう思われて安心するべきなのに片方でムッとしてる自分がいる。

「君、ちょっと」

その声ににっこりと視線を送る塚原さん。

「君じゃなくて、隣の子」

えっ?私。

振り返るとイケメンの分類に入る整った顔立ちに清々しい瞳を縁どるクッキリとした二重瞼。

F4と比べても見劣りしない気がする。

塚原さんの意外そうな表情がキツく変わったまま私を見てすぐにソッポを向いた。

「どこかで会ったことない?」

こんな人あったら忘れない。

道明寺にばれたら睨み付けられそうな発想を頭から追い出す。

「それ、ナンパの常套句ですよね」

「あっ、そんなつもりじゃないんだ」

はにかんだ笑顔で私から視線を外して頭を書くようなしぐさを見せる。

見た目の雰囲気には似合わない素朴な仕草が年齢よりちょっぴり幼い印象を見せて、私の警戒心は一発で離れた。

「ごめんなさい、あなたと会ったことないです」

「そうかなぁ・・・」

納得できない様に首をかしげる

「俺、木崎、木崎隆弘」

「あっ、私牧野つくしです」

私の名前を聞いた瞬間に彼の表情が嬉しそうに微笑んだ。

「やっぱりつくしちゃんだ、変わってないよ」

え?

にこにことはしゃがれても本当に木崎隆弘って知らないんだけど・・・

「静岡から東京に初めて遊びに来たとき、駅で迷って困っていた僕を親切に助けてくれたの覚えてない?」

「何年前になるかな、7、8年?中学の時だよ」

説明されても思い出せなくて首をひねる。

「本当に忘れてるの?」

「ごめんなさい、覚えてなくって・・・」

謝る私に彼はそのうち思い出してって気を悪くする様子も見せずに大人の対応。

「こうやって偶然に会えるって運命を感じない?」

同意を求められても困るのに、頬に息の触れそうな距離に彼の顔が近づいてそうつぶやく。

反射的に身体を離して、速攻で周りを見渡して道明寺のいないことを確かめてしまった。

拍手コメント返礼

まちゃこ 様

塚原さんだけかと思ったら意外な伏兵登場です~。

登場人物増えると書くの大変になっちゃうんですよね。

話が長くなりそうな予感・・・

みわちゃん 様

読破ありがとうございます。

更新に追いついたということで頑張って私も更新していきたいと思ってます。

なかなか更新が進まない連載もあるんですよね。(^_^;)

Gods & Death 様

新しいキャラ登場です。

司が気になるのは女より男でしょうしね。

楽しくなるようにいろいろ動いてもらうつもりです。

かよぴよ 様

怪しげな男って~

登場しただけで警戒してる方が多いんですよね。

つくしちゃんもが警戒してくれたらなぁ~。

それではお話が面白くないので・・・(^_^;)

つくしちゃんごめんなさい~。