幸せの1歩手前 9

 *

目の前で湯気を上げている。

怒りの色の中に見付ける不安げな表情。

まだ本気じゃ怒っちゃいない。

「遅かったな」

「いつもより30分は早いわよ」

俺からは行けねえからつくしから来るように仕向けるのも一つの手だ。

西田!

文句はねえよなとニンマリとなる。

いつもと違うそぶりの一つでも見せればつくしはきっと不安になると読んだ俺の思惑は成功。

だがこの手は連日では使えないのが難点だ。

目の前のつくしの頭の中は自分の同僚に何かするんじゃないかといっぱいになってるはずだ。

そんな姑息な手段を使うほど落ちぶれてはいない。

甲斐が本気でつくしを口説いてたら人間のいないところに飛ばしてたかも。

人がいなけりゃ弁護士なんて必要ないか。

「なにニヤついてるのよ」

頬を膨らましたままドンとデスクの上に両手を突かれた。

椅子に座ったままの俺と同じ高さで視線がぶつかる。

「あいつらになにもする気はないから落ち着け」

「言われなくても冷静です」

「じゃあ、なんでこんなに早く出社してるの?西田さんもまだ出社してないみたいだし・・・」

キョロキョロと部屋をつくしが見渡す。

西田を探すな!

思わず椅子から腰を浮かす。

言いたくなった言葉を飲み込んで座りなおした。

「しばらくお前の仕事場俺の隣な」

「ななななな・・・」

言葉にならない驚きを見せる。

「何言いだすのよーーーーー」

やっと言葉になった。

「岬所長にも話はついているから」

「ついてるって・・・ここでなにを私が仕事するのッ」

「これだ」

ポンと目の前に厚みのある書類を投げる。

企業との契約書。

法律上の不備がないかのチエック。

内容によっては誰にでも見せられるものじゃない。

お前なら問題なく安心っして任せられる。

俺の仕事も理解できる一石二鳥。

棚からボタ餅。

道明寺総帥の妻としての立場上もプラスになる。

これ以上の適人はないと岬所長をくどいてみた。

笑いを浮かべながらも了承してくれた。

「企業関連の法律って得意じゃないんだけど、どっちかって言うと人相手で・・・」

「バン」

デスクの書類がわずかに浮かんで元に戻る。

打ちつける様に置いた手のひらが大きく音を立てた。

「俺の為に何かするのも内助の功ッてやつだろうが」

内助の功・・・って・・・、良くそんな言葉知ってたね・・・」

言いにくそうに言って「ハハ」っと小さく作る笑い。

「るせ」

対抗するように声を吐き出した。

「だからって、なんで道明寺の横で仕事しなきゃいけないの?」

「事務所に持ってかえってやればいいんじゃない?」

息を吹き返して正論で責める。

その辺はシュミレーション済み。

「重要書類だからここから持ち出し禁止だ」

「それにまだ、お前が個人で仕事できる部屋はもらってないだろう」

俺の考えた姑息な言い訳。

岬所長が今まで自分のオフィス内で確認していたことはこの場合は内緒にしておく。

「無理」

「やったことないし、法律以外の専門用語なんて分からないし・・・」

「誰かに教えてもらわないと・・・」

「やる前からあきらめんのか?」

「お前らしくないじゃん」

「わかんないのは俺が教えてやるよ」

俺が教えてやる。

いい響きだ。

「法律のこと分かるの?」

「わかんないけど契約書は飽きるほど見てるからな」

「じゃあ私は必要ないじゃん」

「弁護士が確認したと言うことが必要なんだよ」

「一日中というわけじゃない。俺がいないときは事務所に戻っていいぞ」

「横暴ッ」

諦めた様につぶやく口元。

無性に楽しい。

「あっ、それからしばらく夜はパートナー同伴で出かけることが続くから」

「同伴って私?」

「お前以外にだれがいるんだ」

一つじゃものたりないから用意していたもう一つの構え。

そろそろ俺の妻だとつくしの顔を世間に知らせるのも必要だと西田に手配させた。

そこは西田も反論しなかった。

「トントン」

ノックの後静かに開く執務室のドア。

「おはようございます。今日はお早い出社で」

ちらっとつくしを横目で見てすぐに俺に移る視線。

深々と目の前で下がる頭。

一気に部屋の空気が静けさを取り戻す。

「ご迷惑をおかけします」

つくしに軽く会釈する西田。

「迷惑なわけねえだろう」

「迷惑です」

間髪いれず俺と西田の間に割り込むつくし。

「代表・・・今日はこれから関西支社に向かう予定です。お帰りは19時を過ぎ予定です」

心得てますとでも言いたげな表情のまま落ち着いた声が部屋に響く。

「聞いてねぇぞ!」

「代表が無理やり夜の予定を変える様におっしゃいましたので昼間の予定も組み替える必要が出てきました」

「しばらくは本社より支社での仕事が優先されます」

昼間の仕事まで予定を変える必要があるのか考えるのは愚問だ。

絶対わざとだろう。

「やった!」

横で飛び上がって叫んだつくしが慌てて口を両手で押さえこんだ。

思うどおりには進まない結果で~。

幸せの一歩手前ですからね。

なかなか司が満足する結果は得られないと言う結論。

最近ドS倶楽部の存在忘れてる様な気がしてます。復活!

次は西田さん日記の登場かな?

拍手コメント返礼

b-moka

しっかりとドS倶楽部の方々には喜んでもらえたみたいです。

いいのだろうかと不安だった気持ちはなくなりました。

西田さん日記もUPしますね。

たまこ様

この道明寺の行動がたまらないのですが(^_^;)

大丈夫か道明寺財閥!

司に甘えるつくし。

たまには見たいと思いつつこのパターンの方に進んでしまいます。

hokuto☆raou様

坊ちゃんの望みをかなえてやりたい様ないじめたい様な・・・。

最後は甘アマになると言うことで許してこれないでしょうか?司クン。