幸せの1歩手前 19

「自分の仕事に集中できない。こんな言いぐさなんですよ」

「今日は一緒じゃなくていいんだ」と、意外そうな表情を浮かべる玲子さんの言葉に対する私の返答。

相変わらずのわがままと横暴に加える自己中的考えに私の不機嫌な感情は横に置いておく。

道明寺が自分で私を振り回しているのに私が悪いとでもいうような言い草。

ここで反論して良かったためしはないとはじき出す経験。

やけに機嫌がいいからそのままの状態で出勤させたい本音。

朝の支度を甲斐甲斐しく手伝ってネクタイまで選んで結んでやった。

この調子なら私の方も落ち着いて仕事ができそうだと考える打算。

頭の中で浮かんだ西田さんの顔がほころんだような気がした。

西田さんに感化されてきてる影響がでてないか?

「いつも御機嫌な代表をお願います」

それはつくし様の仕事ですみたいな西田さんの態度。

西田さんの影響力は私に対しても半端なく容赦がない。

道明寺と乗り込んだエレベーターで西田さんと一緒になる。

ありがとうございますみたいな視線を向けられて想像の中でバトンタッチで手を鳴らす。

実際にハイタッチをする西田さんは想像できないと笑みが漏れた。

そんな余裕も道明寺の私を側に置きたいという独占欲が軟化したことから生まれてる。

「必要が有れば連れて行くからな」

エレベーターから下りる私の背中に投げられた声。

「今日はないでしょうね?」

ギクリとなって振り返った。

壁にもたれかかったまま左右のポケットに軽く手を入れて立つ。

見栄えがいいから様になる優雅さ。

私を見つめる視線の奥に身体が熱くなるような艶めいた瞳。

目が離せなくなりそうで・・・。

・・・・・困った。

「欲しそうな表情するな」

ニンマリと余裕のある表情を浮かべた道明寺。

軽く片眉を上げて形のいい唇がすっと笑う。

見とれるという表現だけでは不十分すぎる魅力。

どう反応するかすっかり分からない私の目の前で「ガシャッ」と閉じたエレベーターのドア。

今頃満足げに笑ってるに違いないあいつ。

「・・・ウソ」

数秒後ようやく我に返った私。

「なっ・・・なんだったの?」

「ヤダ―――ッ!西田さんがいたんだぞ」

恥ずかしすぎる。

見とれていた自分にも、何の臆面も見せない道明寺の態度もッ。

これくらいで済んでよかったと思うしかないと考えながら気持ちを切り替えて事務所のドアを開けた。

そして今度は目の前には玲子さん。

ついでの様に脇から入ってくる甲斐さん。

「不服そうだけど?代表との仕事は楽しかったと思うけど?」

「楽しくないですよ。緊張しまくりだったんですから」

仕事をしているあいつがカッコ良く思えたことは心の奥に秘めておく。

「いい仕事してったって岬所長も評価してたよ」

「さすがは俺が指導してただけのことはある」

「それ私じゃなく甲斐さん自分を過大評価してませんか?」

「確かにその傾向が強い」

玲子さんの言葉に噴き出す様に笑い声が事務所内に響いた。