入れ替わり大事件! パート2

このお話は入れかわり事件!パート1の第3話から分岐しています。

パート1を読まれた方は4話目からお読みください。

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第1話 入れ替わり大事件!    作 マユさん

それはある夏の日のことだった。

ユーリとカイルは追っ手達から逃げていた。

逃げていたと言ってもユーリは3姉妹、カイルはイルから逃げていたのだが…

ユーリはカイルと結婚して可愛らしい男の子が2人生まれた。

幸せなユーリだったが、何年ヒッタイトで暮しても慣れないものは…

「ユーリ様!どこにいらっしゃいますの!早くお湯浴みを!」

後宮にハディの声が響き渡る。

ユーリは柱の影から影を伝わりながら3姉妹から逃げ回っていた。

「冗談じゃないわよ!何が『今日こそは頭から爪の先まで磨きこんで差し上げます』なのよ!私は一人でのんびりお風呂に入りたいのに!」

ユーリはプクーッと膨れていたが、あの3姉妹がこんなことでやめるはずがない。

「仕方がない…3姉妹の熱が静まるまでカイルの部屋に行こう…っと、デイルとピアも連れてかないと…あの子達…まだ小さいからお菓子で丸めこまれるからね」

こうしてユーリは子供達を連れてカイルの部屋に避難(笑)することになった。

カイルは皇帝に即位してユーリを正妃にし我が子2人に恵まれていた。

とっても幸せなカイルだが今は別だった。

「陛下!どこにいらっしゃるのですか!さっさと書簡に裁可の印をください!」

執務室からイルの声が聞える。カイルは柱の影に隠れながら執務室から遠ざかっていた。

「イルの奴…私は人なんだぞ…丸一日以上ずっと執務室に缶詰にしやがって…」

カイルはのろのろと立ち上がり頭をかかえた。

「ダメだ…少しは眠らないと倒れてしまう。

そうだユーリの部屋で休もう

…ああ…久しぶりにユーリやデイル・ピアと会いたい…

どうして妻と息子達と一日以上も会わせてくれないのだ…」

カイルはよろよろしながら後宮はユーリの部屋に向かう

「ねぇ母様!今日は父様に会えるの?」

デイルが嬉しそうにユーリに聞く。

ユーリは右手に5歳のデイルの手、左手に3歳のピアの手を引いて歩いていた。

3姉妹のしうち(?)にイライラしていたユーリも可愛い我が子の笑顔を見てるとついつい顔がゆるむ。

「そうねぇ~父様も今日でお仕事 落ち着くみたいだから会えるわよ 久しぶりに父様にお風呂に入れてもらう?母様が頼んであげる だから3姉妹のオバチャンと会っても母様が父様の部屋に居るって言っちゃダメよ」

「うん!僕達、絶対言わないよ!だから父様とお風呂はいりたい!ねっピア」

兄の言葉にピアもコクンと嬉しそうに頷く。

「じゃ早く父様のお部屋行こう」

ユーリはうまいこと子供達を丸めこんだと心の底で笑っていた。

夫・カイルの疲れも気にしてないとんでもない裏取引だ。

「はあ…疲れた…早くユーリや子供達と会いたい…」

カイルはそうぼやきながらも脚はしっかり後宮に向かっていた。

「イルめ…体調が回復したらまた政務を押し付けて苛めてやる!」

カイルは王宮から後宮への渡り廊下を歩いていた。

まる一日、太陽の光を浴びてなかった為にまぶしくて目が痛い。

「うう…目が痛い…早くユーリの所で休ませてもらおう…」

そしてまたカイルが歩き始めたその時!

ゴンッッ!!バタッッ!!

そう…太陽で目がくらんで周りが見えてなかったカイルと息子に気を取られよそ見して歩いていたユーリがぶつかって倒れたのである。

2人の息子達は倒れた両親を見て慌てて声をかける。

「父様!父様!!」

「母しゃま~起きて~」

先に目が開いたのはカイルの方だった。

「…っつ…なんだ一体どうなったんだ?」

カイルはすぐに気を取り戻して立ち上がった

下を見れば息子のピアが心配そうに顔をのぞいている。

(はて?ピアが二日前よりもやたら大きく見える?どうしてだ?)

「大丈夫…母しゃまぁ」

「母様!?」

カイルは慌てて身体を見る。

滑らかでシミひとつない美しい手足…

柔らかい象牙色の肌…

そしてコシのある艶やかな黒髪…

間違えるわけがない‥これはユーリの身体だ。

「そんな…どうして…」

悩むカイルの前に「う‥んっ‥」という男の声がした。

目の前に映った男は紛れもなく自分‥ヒッタイト皇帝・カイル・ムルシリである。

しかし自分の意識はここにある…

ということは自分の中にいるのは…

「いったぁ~もう…誰なのよ急に…」

「あっ!気が付いたの父様!」

デイルがカイルに飛びつく。

父親の意識が戻って嬉しそうだ。

「父様?デイル何言ってるのよ」

(へんねぇ…さっきよりもデイルが小さく見える。ぶつかったせいで目がおかしいのかしら?)

「ユーリ…大丈夫か?」

(えっ…この声は…耳までおかしいのかしら)

何故だか分からないが自分の声がする方に顔を向ける。

「えっ!!私が二人いる!!!」

「やっぱりな…ユーリ…自分の身体を見てみなさい」

言われたとおりユーリは自分の身体をじっと見る。

ジャラジャラつけたアクセサリー…

逞しい腕…

そして金色の髪…

「………………カイルの身体……………」

男になったユーリは女になったカイルをじっと見つめた。

「ユーリ…どうやら私達はさっきぶつかった瞬間に心と身体が入れ替わってしまったらしい」

シーンとした両親…その2人を息子2人は不思議そうに見ていた。

第2話 気がついて~            作 あかねさん

「ちょっと、待ってよ。入れ替わったって事は、あたしがカイルでカイルがあたし?」

「それって・・・つまり、あたしが皇帝でカイルが・・・・。」

「ユーリ、そのすがたで”あたし”はやめてくれるか?」

ユーリは完全にパニックに陥っていた。

入れ替わったっていうことは、つまりユーリは皇帝なわけで・・・・・。

「陛下!探しましたよ。さぁ、今日という今日は政務をしっかりとやっていただきます!」

「まぁ、ユーリ様。お探ししましたのよ!!さぁ、こちらです!!デイル様達も。」

事情を知らない側近達は、そのままに連れて行く。

ユーリは政務室へ、カイルは湯殿へ・・・・・。

事情を知っている(見てた?)子供達は、まったくわかっていない。

「母様、お風呂はいるの?」

などと、のんきにいっている。カイルもカイルだ。

「あ・・・えぇ、そうね。お風呂行きましょうね~。じゃぁ、ユー・・・カイル。

 政務頑張ってね~~!!」

元々政務から逃げていたカイル。これよしとばかりに逃げた。

取り残されたのは、ユーリだ。

「さぁ、陛下。まいりますよ!!」

「陛下、そこではなくて、こちらで・・・あぁ、それも!!」

政務室は、今やパニック状態だった。

政務なんて、簡単なもの(しかも、カイルがほとんどやってくれる)しかやったことのないユーリが、皇帝用の政務をやっているのだから当然だ。

「陛下、きょうはどうなされたのですか?具合でも悪いとか・・・・・。」

「!!そう!具合が悪い!!じゃぁ、イル・バーニがんばってね。

 あた・・・・私は、えっと、そう!自分・・・ユーリの部屋にいるから!」

そそくさと、部屋を出ていくユーリ。

そのころちょうど、カイルはユーリの部屋にいた。

子供達は昼寝の時間だ。部屋には一人・・・・・。

そんなとき、

「カイル、ここにいたんだね。」

見慣れた自分の姿。ユーリだ。

「あぁ。ユーリ、これからどうするかな?かなり不便だな。まぁ、私はかまわないけ  ど。」

「そりゃぁ、カイルはいいよね。あたしなんて、政務政務・・・っていうか、慣れてな い仕事をするのよ!?いっそ今日から、病気ってことにしようかしら。」

カイルとユーリは、悩んだ。

「良い案がないわ!!とにかく、しばらくはこの姿よね・・・・・。」

「そうだな。それはしょうがない。ユーリ、頑張ってくれ。」

ふぅ・・・。深いため息を付く皇帝陛下。

その姿を、扉の向こうから見ているイル・バーニ。

「なんだ、陛下達は。あのお言葉使いは、まるで・・・・・・・。」

早く、気が付いてやれよ。

第3話  カイル様がご懐妊               作 マユさん

身体と心が入れ替わってしまったカイル・ユーリ夫妻。

仕方がなしに側近達に事情を話し政務はすべてイルが取り仕切り、2人は急病ということにして後宮に引きこもっていた。

これで一息つけると思ったのだが後宮には意外な敵(?)がいたのだ。

「デイル!ちゃんと座りなさい!」

カイルになったユーリが食事中のデイルを座らせる。

「ほらピア!口をあけて」

ユーリになったカイルが好き嫌いを始めたピアを膝に乗せスプーンをピアの口に運ぶ。

両親が入れ替わったなんて側近には分かっても、小さな子供達に分かるわけもない。

だから互いが互いのふりをすることになったのだが…

お互いに互いがやっている子供の世話がうまく出来ず食事は大波乱になってしまった。

食事を終えたデイルとピアはお昼寝。

デイルはカイルになったユーリの膝の上で、ピアはユーリになったカイルの腕の中ですやすやと眠っている。

「おまえになるのも大変だ。好き嫌いの激しいピアに食事させるなど…」

妙に男言葉な自分がおかしくてユーリはクスッと笑う。

「カイルこそ大変ね~食事中でもちっとも大人しくしてないデイルを座らせて食事させるなんて…

父様事業も大変だわ!」

女言葉な自分の姿に笑いがこぼれてくる。

「あのさ…カイル…聞きたいことがあるんだけど…」

「なんだ?」

ユーリになったカイルは不思議そうに聞く。

カイルになったユーリは顔が真っ赤だ

(恥らうカイルの姿を想像してもらおう)

「あの…その…だからね…あたし‥そろそろ‥」

もじもじと言葉をつづるユーリ。

これがカイルの姿だけにすごい違和感がある。

「ユーリ様!じゃなかった…陛下ーーー!!」

ハディの声が聞えてきた。

カイルはすっと立ち上がるときれいなソプラノの声でハディに答える。

「私はここだぞハディ!」

「ああここにおられたんですの…お時間ですのでこちらへ」

「こちらへって…どちらへだ?」

ユーリがこの時間帯に何しているのか知らないカイルは不思議そうに答える。

「御子様方のご入浴のお時間です。いつもユーリ様が一緒に居られないと御子様方は語不安になられますので陛下お願い致します」

「何!?私が子供達を風呂に入れるのか!?」

「??どうかされました?週に一度はお子様方と一緒にご入浴されてるじゃないですか???」

「いや…だが…身体はユーリのものだし……」

カイルがぶつぶつ言っていると、誰かが服を引っ張った。

「父様一緒にお風呂はいろ!」

「はいろ~はいろ~」

子供達はあれよあれよという間にカイルを引っ張っていってしまった。

残されたのはカイルになったユーリだけ…

(あ~あ…カイル大丈夫かなぁ?あの子達カイルとお風呂入る時はすごい甘えるのよね~カイルは甘いからなぁ~でも姿はあたしだからそうでもないか。

けど困ったな~聞こうと思ったのに…こんなに遅れて急にきたらカイル驚くだろうし…)

一方こちらはお風呂。

「こら!デイル、ピア!暴れるな…じゃない…暴れるんじゃありません!!」

カイルは2人の子供達の入浴にクタクタである。

髪を洗って湯船に入れて…おまけに衣類の用意までさせられる。

「あいつ…こんなこと毎日やっていたのか…」

(それにしてもあつい…)

カイルはモウモウと湿気が篭る湯殿の中でのぼせそうだった。

(うっ…まずい…はきそうだ…そういえばユーリと入れ替わってからずっと吐き気がするし、身体は重いし…)

その中でカイルの意識は薄れていく。

「………ま!…あ…さ…ま…母様!!」

カイルは目を覚ました…目の前には自分の姿をしたユーリ。

我が子デイル・ピア…側近達…そして見慣れた侍医が立っていた。

「私は一体…」

「お湯殿で気を失われたんですよ」

キックリが心配そうに言う…ユーリの中に入っているのは我が国の皇帝陛下。

その陛下が倒れるなんてよっぽどユーリ様は弱っているのだろうか?

誰もがそう思っていた時…侍医が「よいですかな?」と声をかけて来た。

「侍医‥殿‥私はどうして倒れたんだ…いえ…ですの?」

何とも使いにくい女言葉を必死につづるカイル。

侍医はにこにこすると伝える。ベットに横たわるカイルの手を取り、皇帝になったユーリの方を見て侍医は病名を言う。

「皇帝陛下、皇妃様!おめでとうございます、もう五ヶ月目ですよ。第3子ご懐妊でございます!今度は皇女様かもしれませんよ」

「ええ~~~~~~~~~~~~~~」

部屋にデイル、ピア、侍医を除いた者達すべての声が上がった。

第4話   めちゃくちゃ不安    作 しぎりあさん

「そっ・・・それって・・私が産むのか?」

カイルは焦りながら言った。

「?はい、皇妃様がお産みになるのです」

怪訝な顔で医師が言う。

「いやあ、めでたいっ、よかったなユーリ!!」

カイルの姿のユーリが間に割り込み、イルに目配せをする。

「こほん、陛下方はお二人きりになられたいようです」

「そうですな、では私はこれで」

にこにこしながら、医師は部屋を出て行く。

見送りのハディに、皇妃様はベテランだから今度も安心ですと言いながら。

「かあさま、赤ちゃんできるの?」

デイルがカイルにすがりつく。

カイルは、息子の髪をかき回しながら、自分の姿のユーリを見た。

「・・・多分・・出来る」

「・・・大丈夫?」

ユーリが、不安そうにカイルを見る。

「あのね・・・すっごく、痛いよ」

「痛いのか?」

「痛いですとも」

自信たっぷりにシャラも言う。

出産に立ち会ったことのあるハディとリュイもうなずいた。

「あれは、殿方には耐えられないって、聞きますわよね」

不安にさせて、どうするのだろう。

「困りましたな」

イルが、つぶやく。

「陛下・・ユーリ様の身体が妊娠中となれば、お二人をもう一度ぶつけるとか、同じ釜で煮るとか、籠に入れて振り回すとか、試してみたくともできませんな」

そんなことを考えていたのか!?

カイルは、こみ上げてくる吐き気に顔をしかめた。

初めて知った、つわりの味だ。 

第5話  カイルの決意                  作 ポン子さん

ユーリの部屋では戦闘前の会議さながらの「カイル懐妊会議」が行われていた。

参加者は、カイル、ユーリ、イル・バーニ、キックリ、三姉妹である。

「もう一度、私とかいるが頭をぶつけ合ってみるっていうのはどうだろう・・・・」

ユーリがいった。

「うむ、すごく痛かったが、まず試してみるのはそれだろう・・・」

カイルが答える。

「お待ちください。今はまだ安定期とはいえません。母体を危険にさらすわけにはいきませんから、実行するならばもうちょっと後の方がよろしいのではないでしょうか・・・?」

ハディが慌てていう。

「そうですね。ユーリさまの身体に万が一のことがあってはいけません」

イル・バーニも同意する。

「それでは、まだしばらくはこのままでいるしかないということなのか?!」

慌ててカイルが怒鳴った。

「お静まりください、陛下。そのような大声をおだしになることは胎児に良くありません」

「・・・・・・。」

反省して黙り込むカイル。

「それではとりあえずはこのまま陛下が管理しておられるユーリ様の身体を大切にする。そして、完全な安定期に入るまでに何らかの方法を探していくと言うことで・・。

三姉妹は、大変だとは思うが懐妊中の陛下とユーリ様お2人に仕えてください」

三姉妹は神妙な顔でうなずいた。

「それでは今日のところはここまで・・」

イルが勝手に会議をしめくくり出て行った。

キックリも、「俺はいなくてもよかったんじゃないか・・・?」

とつぶやきながら後に続いて出て行った。

ユーリの部屋ではとこについているカイルをユーリが見守っている。

三姉妹は気を利かせて出て行ったようだ。

「大丈夫?カイル・・・。」

「あぁ、今は吐き気もおさまっている」

・・・・・・・・。

沈黙・・・・。

あまりの出来事に特に対策もなく口数の少ない二人。

カイルが突然口を開いた。

「考えたんだが、このまま出産してみようかと思う」

「えっ?!何いってるの?すっごく痛いんだよ」

「わかっている。しかし、私もこれを体験することで親として一回り大きくなれるような気がするし、ユーリの痛みを自分のものとすることで更におまえに近づける気がする」

「カイル・・・・。」

「なんだか、これも私が皇帝として与えられた試練なのではないか、という気すらしてきた」

まるで何かを悟ったような顔のカイル。

子供を身ごもるとここまで変わるものなのか・・・?

「政務はどうするの?私さっきちょっとやらされたけど、全然だめだった」

「私も政務には参加しよう。臨月になっては無理かもしれないけれど、そのときにはイルが何とかしてくれるだろう。もちろんおまえにも手伝ってもらうよ、ユーリ」

カイルがやさしくユーリの手を包む。

「も、もちろんだよ」

ユーリは目に涙を浮かべてカイルのやさしさと勇気に感激している。

「ところで、妊娠中といっても愛し合うことはできるんだろう?前から、女性の身体で愛されるとはどんなものか知りたかったのだ。ユーリだって、男がどんな感じか知りたいだろう?」

カイルがうれしそうにいう。さっきまでのつわりの苦しみなど忘れてしまったようだ。

「え?!カイル、まさか・・・・?」

顔を引きつらせるユーリ。

「そのまさかだ。これから何ヶ月もおまえの身体無しなんて耐えられない」

カイルが突然出産をすると言ったのにはどうやらこういう裏があったらしい。

第6話  すごくヘンな気分             作 しぎりあさん

「そうと決まれば、やってみよう!!」

言うなり、カイルは服を脱ぎ始めた。

何のためらいもなくユーリの身体があらわになる。

「ちょ、ちょっとカイル!!やめてよ!」

さすがに、見かねてユーリが押しとどめる。

「・・・!」

カイルが顔をしかめた。

力が強すぎたのだ。

「あっ、ごめん・・」

あまりにも簡単に力が入ったことにユーリは驚いた。

ほんの少し押したつもりだったのに、カイルの身体は傾き、肌の上には赤く痣が出来ている。

思わず、自分の両手を見る。

「・・・考えたら、カイルっていつも加減してくれてたんだね」

手荒に扱われたと感じたことは一度もなかった。

心遣いを感じないほどに、大切に接してもらっていたのだと、気づく。

「・・・今のは、すこし気を抜いていたからだ。さあ、続けよう」

カイルは言うと、ユーリの腕を掴み、自分の胸に押しあてた。

「いつも私がしているように、してごらん」

「ええっ!?」

いつものやり方は、それなりに覚えているけれど、それを自分の身体に対してするのか?

ユーリは、まじまじとカイル(ユーリの姿だ)を見下ろした。

どうしよう。

ユーリは覚悟を決めると、そっと自分の(今はカイルの)乳房を掴んだ。

「どうだ?」

カイルが尊大な態度で訊ねた。

どうだと言われてもねえ。

「手触りは、どうだ?」

「ええっと・・・柔らかい」

「すべすべしているだろう?」

まあ、確かにすべすべはしている。

自分の手で触ったときにはあまり感じないが、カイルの手で触ると、しっとりとした肌が吸い付くようだ。

ユーリはゆっくりカイルの腰に腕をまわすと、身体を重ねようとした。

「違うぞ、ユーリ」

「え?」

いつもカイルはこうしているはず・・・

「お前は、腰に右手をまわしている。これでは次の行動に移りづらい。支えるときは左を使え。利き腕は常にあけておくものだ」

「・・・そうなの?」

そんなこととはつゆ知らず。カイルは毎晩考えて行動していたのだ。

欲望に突き動かされていただけでは、ないということか。

「・・・次、どうすればいいの?」

「キスをして、耳たぶを噛む」

ハタから見れば(誰も見ていないが)手練れの女に教えを受ける少年のようだった。

   

第7話  レッスン1          作 ひねもすさん 

愛のレッスンが始まった(いや、もう始まっていたんだけど)。

講師はカイル(体はユーリ)、生徒はユーリ(体はカイル)。

言われたとおり、キスをしようとすると、これまたカイルから指示がとんだ。

「違うぞ、ユーリ。まずは舌を入れるんだ!唇が触れるのは後だ。」

「え・・、同時じゃないの・・・?」

「違う!少し舌を突き出すようにしてから唇を重ねるんだ。」

「ああ・・・そういえば、そうだったね。」

そんなことまで毎回考えているのかな・・・そう思いつつ言われた通り、舌が先に入るようキスをする。

次に耳たぶに移動。

「そうだ、耳たぶは軽く噛む。ユーリ、指の動きが鈍いぞ。絶えず、どこかに触れていろ。指先まで神経を集中するんだ!」

そういうとカイルはユーリの右手を持ち、あらぬところへ誘導した。

「ちょっ、ちょっと、カイル」

ユーリの戸惑いも気にせず、次の指示がとぶ。

「さあ、耳たぶの次は、首筋に唇を這わせる。強めに吸い付くように!後が付いてもいいからな」

「そんなのやだよ。皆に見えるじゃない・・・」

カイルは何か考えるようにユーリを見つめた。

「まどろっこしいな」

そう言うと、カイルは両手でユーリを突き飛ばした。

「どうしたの、カイル。もうやめにする・・・」

少々、期待を込めてカイルに尋ねたユーリだが、すぐにカイルが何を望んでいるのか分った。

カイルはすばやくユーリとの位置を逆転させたのだ。

「初めはこの方が教えやすいからな。」

自分の姿を見下ろしながらカイルはニッコリ微笑んだ。

それって、今までの経験談なのかしら?

自分の姿を見上げながらユーリは思った。

第8話   レッスン2        作 水青 さん

「ちょ、ちょとカイル!?」

「いったいなにする気なの!?」

「決まってるだろう?今からわたしがするようにおまえもするんだぞ。」

「な、何言って・・・」

ユーリにそんな言葉も聞かずにさっさと始めるカイル。

「いいか?まずさっき言ったようにキスはこのように舌を入れてから唇を重ねる。」

「ん・・・カイル!?」

「次に耳たぶをかむ。」

「あたしはそんなこといつもしてないよ!」

「だからこれからするんだ」

「あのねぇ・・・」

「いいかユーリ、これはわたしとおまえの体がもとに戻ったときおまえがすることだぞ」

「ええ!?あたしが!?」

「ほかにだれがいると言うんだ?」

そりゃそーだわな・・・

「つづいておまえがわたしの手をにぎり、そのままわたしの手を自分の胸にもっていく。」

「いやよ!そんな恥ずかしいこと!!」

「なにが恥ずかしいと言うんだ?今まではわたしがおまえの胸に手をもっていっていたんだぞ?結局、同じことだろう。 それともそっちのほうがいいのか?」

「そういうことをいってるんじゃない!」

そんなユーリの意見も無視して最後の項目に進もうとするカイル。

「そして最後にわたしの耳元に甘い声で『カイル』とささやく」

「これだけでわたしは理性が切れて歯止めがきかなくなる」

「そしたら後はわたしにまかせろ」

「まかせろって・・・あのねぇ!!」

「さあ、ユーリ。体がもどったあかつきには、いまいったようにしてもらうぞ」

「とりあえず今日はわたしがリードするから安心しろ。もとにもどったときが楽しみだな!そのためにもなにか方法を考えねば・・・」

まじめな顔をして言っているカイルにユーリはあきれていた。

そして、この入れ替わり事件が起きて始めてユーリは『もとにもどりたくない』と思ったのでした。

そして今日、ユーリはカイルにリードされながら夜をすごすのでした・・・ 

 

第9話  ゲゲゲッ              作 こまきさん

もう今日は最悪の日だっただろう・・・・・

カイルからレッスンを受けて・・・・・

そして全然眠れぬまま朝を迎えた。

そして―――・・・・

「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!?」

そう、ユーリは元の体に戻ったのである。

おそらく、これがユーリの人生最悪の日だっただろう・・・・

「・・・・ん?ユーリ・・・?」

「(心のさけび)げげげげげげげげげ!!!何でこんなタイミングで起きてんのよ~~~~~~~~~~~~~~~!!!!」

ど~しよ~かな・・・・・

もどったらレッスンの成果をださなければならない・・・・・

最悪?

第10話       レッスン成果         作 水青さん

(ど、どうしよう!?このままカイルが目を覚まして元にもどったことに気づかれたら・・・)

「・・・ん・・・ユーリ、もう起きたのか?・・・」

(と、とにかく気づかれないように・・・)

「ユーリ、寒いだろう?もっとこっちによれ。」

いつもなら自分がユーリの体で、自分の体に抱きつくのだが、今回は

なにかがちがう。

自分がすりよった体は、肌がなめらかでやわらかくて、抱きごこちがよく

とても安心感がある。

(自分の体はこんなだったのか?・・・)

疑問に思い、起き上がって見ると・・・

な!なんと!!となりにいるのは、自分の体であったはずのユーリが

黒い髪、黒い瞳、すべらかな肌をした姿で自分の目に飛び込んできた。

「ユーリ!?本当におまえか!?」

一方ユーリは内心、喜ぶどころか、ひじょ~~~~~~にあせっていた。

「や、やだカイルったら!こんなの夢に決まってるじゃない!もう少ししたら

 夢からさめるわよ。」

「そうか・・・・」

「・・・って!夢なわけないだろう!」

「あ、やっぱし?」

ユーリは青ざめた顔をしていた。

「ユーリ!!」

カイルはユ-リを抱きしめた。よっぽどうれしかったんだろう。

「あ、あのカイル・・・そろそろ離して・・・もうすぐ政務の時間だし・・・」

「なにをいってるんだ、そんなこと後回しに決まってるだろう?せっかく

 元にもどったのだから。さぁ、レッスンの成果をためそうか。」

「な、なにいってるのよ!」

「なにをいってるって、昨日教えたこと、もう忘れたのか?だったら

 もう一度教えなおそうか?」

「い、いいです!おぼえてるから!」

「そうか、ではためしてみよう。」

「そういうことを言ってるんじゃな~い!!」

「まぁ、いいじゃないか。おまえがしないというなら、わたしがやるぞ。」

「あ、あのねぇ~~~~」

さぁ、ユーリはどうなってしまうんでしょうか?

第11話  一時停止          作 こまきさん

げ!げ!げ~げげ~げのげ~!!!

ど・・・・・どどどどどどどどどうしよう・・・・・・・!!!

何かいい方法は・・・・・・!!

「カ・・・カイル!よ・・・夜にゆっくりやろう!!」

「いまやろう」

「い・・・いやだってば!政務がもうすぐあるし・・・・!!」

「や・・・・!やめ・・・」

そのとき

「陛下!」

ユーリにとっては天使のようなイル・バーニがきた。

た・・・・・・たすかったあああ・・・・

きっと政務しろ!というので来たんだろうと油断したユーリ・・・。

「なんだ!!!」

少しきれているカイル。

「政務をする陛下以外が皆、かぜをひいたのでしばし会議はあとになります!」

「また・・・かぜがひどいので、明日ではなくあさってに伸びました。どうぞゆっくりお休みください。」

・・・・・・・・。

悪魔イル・バーニ・・・・・・・。

うらめしやとイル・バーニをたたったゆーりであった。

しかし、カイルには天使のようなイル・バーニになった。

「さ、ユーリ。あさってまで時間はたっぷりある。レッスンの成果を見せてもらおうか!」

・・・いったいどうなる?