第2話 抱きしめあえる夜だから 6

*

-From 1-

「・・・そんな小説と一色単にされても困る」

二人に詰め寄られて返す言葉が乏しくなった。

「いや・・・司とつくしって案外なサクセスストーリーだよ」

滋が顔を突き出してまじまじと私の顔を見つめる。

「ハーレクインみたいには色気がないですけどね」

「「ブハハハハハ」」

桜子の言葉に西門さんと美作さんは大喜びだ。

この二人・・・

ハーレクイン知ってるのだろうか?

F4みんなその男性主人公にはもってこいの人種だけど。

お金持ちでかっこよくて女性にもてて、口説き方も心得ている。

そのまんまでいけそうな気がする西門さんと美作。

それぞれに癖があるから大変だろうけど。

下着の色は・・・

司が帰ってきたら・・・

めーいっぱい甘えてにっこりほほ笑んでって・・・

ベットの中では・・・

ゴニョゴニョ~~~~~

さすがに男性陣を気にしてか声のトーンは下がる。

されるがままのマグロはダメって・・・

そんなの分かんないよーーーッ。

一番最初に結婚して今さらかまととぶるなと二人から肘鉄あてられた。

経験じゃあんたらには負ける。

声を出さずに心の中でつぶやいた。

いったい何をやらされるのか・・・

レクチャーされるのは私の無縁な事ばかり。

無理だッーーーー!

「司はさ・・・牧野が抱きつけばそれで一発じゃないの?」

相変わらずの無関心さで花沢類が本から目を離さないまま文章を読み上げる様な感じでつぶやく。

「牧野以外はなにもいらないって感じが丸出しだし」

フッと花沢類に視線を投げかけられて完全に体温が上昇しだしてる。

この人は突然なにを言い出すのか・・・

それが確信をついてるから侮れない。

「それもそうかもねぇ」

すんなりと二人の真剣度が下がっていく。

「それじゃぁ新婚生活の話をじっくり聞かせてもらいましょうか?」

芸能レポーター並みの執拗さで迫られる。

「『行ってらっしゃい、行っててくる』『お帰り、ただいま』のキスってやってるの?」

「使用人の前でもOK?」

「司ってどこでもブチュッてやりそうだけどねぇ」

滋と桜子キャッキャと手を取り合って二人で盛り上がる。

「は~あ~」

出てくるのは呆れかけたため息。

「今さらキスの話を聞いたってねぇ~」

「もっと深いところ~」

「つくしに聞くより司に聞いた方がおもしろそう」

勝手に言って勝手に盛り上がっている。

「いい加減に話題を変えない?」

そう言うのがいっぱいいぱいで・・・

私はなにも答えられるはずはなく真っ赤になって小さくなった。

*

-From 2-

昨日の夜はいったいなんだったのか・・・

途中でアルコールで気分が良くなって・・・

女3人で盛り上がっていた。

なにをしゃべらされたのか思い出すのも恥ずかしい様な・・・

恥ずかしくない様な・・・

うっ・・・

思い出せない・・・

自己嫌悪っ。

出勤前、プルッと携帯が鳴った。

・・・・?

・・・西田さん?

また珍しい人から連絡があったもんだ。

道明寺になにかあった?

少しばかりの不安を持ちこんで携帯にでる。

「お忙しいところ申し訳ありません」

相変わらず冷静な落ち着き払った声のトーン。

なにも予測することができない。

「楽しんでいますか?」

「はぁ?」

「SPの事は気にしなくていいですから」

「はぁ・・・」

きっと間の抜けた返事しかしてなかったと思う。

ふっと緊張感の溶けたような間合いが携帯の向こうからうかがえる。

西田さんが私に緊張するようなことは今もってないだろうけど。

昨日までの出来事も道明寺の耳には入っていると思わぬ情報にギョッとなった。

「知っているって・・・花沢類とか西門さん、美作さんに会っていたことですか?」

焦って早口になってしまっている。

「SPをまいたことも・・・」

「うっ・・・」

「怒ってますよね?」

か細い声になっていた。

西田さんになにを確かめるんだか・・・。

「大丈夫です。こちらでなんとかなりましたから」

西田さんの声が楽しそうに聞こえるのは気のせいか?

あの道明寺が?

速攻で帰ると怒り爆発させそうだけど?

人がいないところでなにやってるっ!て青筋立ててるの想像してるんですけど・・・

西田さん調教出来ちゃったのだろうか?

西田さんの雰囲気からはどうやら安心できそうだ。

「明後日帰国ですがそれまでに充分に羽を伸ばして下さい」

「里帰りされるならそれなりの手配もしときますが?」

そう言えば結婚してからこのかた、実家に顔を出したことなんてなかった。

西田さんのニク過ぎるまでの心遣い。

ここまで考えてくれる秘書なんて他にはいないよ。

「します!帰ります!」

速攻で叫んでいた。

「それではそのように手配させていただきます」

切れた携帯を思わず宙に投げる。

実家に帰ったらなにをしよう~。

まずはママの手料理。

ごろんと畳に寝転んで背伸びして・・・

人の目を気にせず家族だけでのんびり~。

考えただけで顔がゆるむ。

頭に浮かぶのはここでは考えられない過去の生活。

「バンザイ!」

思わず叫んだ自分の声に驚いて周りに誰もいないことを確かめていた。

-From 3-

仕事を終えて会社を後にする。

乗り込んだ車はいつもとは違う方向に向けて走り出す。

しっかりと実家に帰る私の意向は伝えてあるようだ。

西田さんに感謝。

道明寺が知ったら俺には感謝しねぇのかッ!と、すねられそうだけど。

ん?

向かっている場所社宅と違うんですけど・・・。

私の知らない間に引っ越した?

社宅を追われた?

またまたパパがリストラ?

そんなことは今さらないと思うけど・・・

「ここどこ?」

車が止まったのは郊外の一軒家。

「うそっ?」

玄関先にはパパ、ママ、進が勢ぞろい。

「どうしたの!この家」

呆然と屋根の先まで眺めてた。

まじまじと家を眺めながらママに手を引っ張られる様に家の中に入る。

「買ったんだ」

にっこりパパがほほ笑んだ。

手には半分ほどの液体の入ったビール。

「二日で1本になったんだぞ!」

自慢げに話すパパ。

わが家の家計は相変わらずの中流以下だ。

「そんなお金うちにあったの?」

「50年ローン」

「パパ定年まで20年もないでしょう?」

「その後は僕が引き継ぐの」

進がポンと胸を叩く。

私が実家に帰る時の警備のことを考えると社宅では不備なので道明寺の方で家を用意するという話があったそうだ。

「それでは娘を売った様なものだと施しはいらないと断った」

「家を購入にするにははなにかと西田さんには骨を折ってもらったけどな」

西田さんが裏で動いていたってことか・・・

なんとなくなく納得する自分がいる。

「セキュリティーは万全になってるからつくしがいつ帰ってきても大丈夫だ」

パパがビールをグビッと一口のどに流し込む。

セキュリティーだけは道明寺の方で管理されてるらしい。

「頻繁に帰ってこられたら心配になるわよ」

「心配なんかさせないから大丈夫」

料理をママと一緒に運びながら顔を見合わせ笑いあった。

「お姉ちゃん道明寺さんと喧嘩するたびに帰ってくるかもしれないもんねェ」

「こらっ!」

久々の気のおけない会話。

顔も緩んで心も和む。

家族の顔がそこにあって、いつでも肌の触れ合う距離。

この賑やか感は久しぶりだ。

自分が暮した生活感がこの新しい家にないのは残念だけどホッとする気持ちにグッと背伸びをして畳に寝ころぶ。

「こら!行儀悪いぞ!」

「だって~これが一番やりたかったんだもん」

「やっぱ実家はいいね」

「道明寺が帰ってくるまでここにいようかな~」

思わず本音が漏れる。

「二日ぐらいはいてもいいよね?」

「しょうがないなぁ」

ママがうれしそうに目を細めた。

つづきは 抱きしめあえる夜だから 7 で

mebaru様のコメントリクエストにお答えして里帰り編追加予定です。

家に帰ったらどうなるのかな~