花に嵐のたとえもあるが・・・おまけのはなし

 *

・・・いったい・・・どこなのよーーーーッ!

道明寺に促されるまま始発の電車に乗った。

公共の乗り物の方が足がつかないと道明寺がほざく。

電車の中は貸し切り状態。

ぽつぽつとまばらに席が埋まってる。

道明寺と向き合って座る電車の中。

「座りごこちわりー」

文句を言う割には楽しそうだ。

「俺、こんなの乗ったの初めて」

「スピードでねぇな」

見るものすべてがおもしろいって小学生のノリで喜んでる。

降り立ったのは誰もいない小さな山の中の無人駅。

こんなとこなにがる?

駅を離れてみればネコが一匹のんびりとあくびをしながら身体丸めたのどかな風景。

こんなとこに降りてなにがある?

観光地にはほど遠い。

不安になってきた。

「・・・どこ行くつもり?」

「考えてない」

「あっ!」

「お前と二人ならどこでもいいだろう」

・・・・だからって・・・

こんな何にもないとこで降りてどうすんだーーーーーッ。

頭を抱えて座り込む。

「行くぞ!」

「待ってよッ」

さっさと歩きだす道明寺を慌てて追いかけた。

「車通らねぇなぁ」

それよかまだひとこっ一人会ってない。

「歩けばどうにかなるだろう」

楽天的すぎだ。

やっと見つけたバス停。

バスが来るのは1日4回って・・・

それもあと2時間後。

これまでで半日費やした。

あのままホテルにいたら豪華な昼食が~

と、頭に浮かぶ。

「おい!看板!」

「えっ?」

・・・秘境の地の隠れた名湯。温泉宿

これより2キロ・・・?

あそこまで行けばなんとかなる!

「行こう」

2倍の重さに感じる荷物が肩に食い込む様だ。

フッと軽くなった。

「ほら!行くぞ!」

私の荷物を片手で持って道明寺が私の前を歩いてく。

クスッと口元が緩んだのはあいつのやさしさがうれしかったから。

「まって」

走って追いついて道明寺の腕に自分の腕を巻きつけて歩き出す。

ぶつかった視線の先で道明寺が照れくさそうにクスッと笑った。

見えてきたのは純和風の質素な作りの門構え。

品のある優雅さが目についた。

こんなとこ予約もなしに泊まれるのだろうか?

ふと浮かぶ一つの不安・・・。

「道明寺」

道明寺の腕を引っ張り引き寄せる。

「なんだ?」

道明寺が足を止めて振り返る。

「ここで無理やり強引に道明寺の名前をひけらかさないでよ!」

「あっ!」

不満そうに唇の片方が上がる。

強く睨みつけた私に舌打ちして分かったと頷いた。

玄関をくぐりぬけ板張りのロビーをぬけフロントを探す。

にこやかに「いらっしゃいませ」と和服美人が頭をさげた。

「予約してないんですけ一晩泊まれますか?」

道に迷ったことをそれとなくにおわせる。

「大丈夫ですよ」

にっこりと天女がほほ笑んだ。

「助かった・・・」

この時は本当にそう思った。

きっと今回の夏休みで一番うれしい出来事だったと思う。

案内された部屋は一つ一つの別棟造り。

高そうな高級感。

道明寺がいるかららお金のことは心配ないが私だけならカバンをひっくり返してお金をかき集めても泊まれそうもない。

「道明寺?道明寺っ!」

やけにさっきから顔が緩んで締まりがない。

「あ?」

返事した顔も上の空。

「どうしたの?」

「さっきな、宿の宿泊帳に道明寺司、つくしって・・・書いた」

いい終わらないうちにまた道明寺の顔が緩みだす。

それを見ているだけで私も真っ赤になってきてなんとかやっと「もう」と頬を膨らませたがはじけて笑いがこみ上げる。

バカなんだか・・・

単純なんだか・・・

だけどそれがうれしいと思える自分が今はうれしい。

「わー!この部屋、露天風呂がついている!」

部屋の窓越しに見える小さな庭園の横にヒノキ作りの露天風呂。

「おッ!一緒に入れるじゃねぇか」

「私は母屋の方の温泉の方でいい!」

肩に置かれた道明寺の腕を振りほどいて部屋の居間へと引き返し、座布団の上へとぴょこんと座りこんだ。

「・・・なあ・・・いいだろう?」

背中から覆いかぶさった道明寺が耳元で甘く囁きかける。

火照り出す身体の感覚は防ぎようがないくらい私の体を包んでいった。

 

拍手コメント御礼

mieko様

拍手一番乗りありがとうございます。

早々に書いてしまいました。

おまけでなくならない程度のお話を考えています(*^_^*)

なにか思いついたらリクエストお待ちしています♪