第2話 抱きしめあえる夜だから 9
*-From 1-
「・・・なあ、この薄っぺらなのなんだ?」
鶏のパリパリ揚げを箸でつまんで眺めて道明寺が私の耳元で囁く。
「鶏の皮を揚げたもの」
「鶏の皮?肉ついてねぇのか?」
「そんな料理なの。食べた事ない?」
「唐揚げならあるんだけどな」
「一緒みたいなもんだよ」
貧乏人の節約料理だとは黙っておく。
テーブルの上に並んでいる肉じゃがに唐揚げ、鶏のパリパリ揚げ、ポテトサラダ。
うちにしたら豪華ごちそう軍団だが道明寺の目には珍しい食べ物に映ってるに違いない。
最近は「食べれるのか?」と聞かないだけましになってきた方だ。
「いいつまみになるんだ」
パパが道明寺のコップにビールを注ぐ。
「あっ!俺が」
なんてビール瓶を手にとってパパのコップに道明寺が返礼のビールを注ぐ。
道明寺が気を使うなんて初めて見た気がした。
「なんかいいな、つくしについでもらうよりうれしいかも」
照れ笑いのパパに「もうついでやらないから」とビール瓶を取り上げる。
「あっ!よせ!今日はいっぱい飲めるのにッ」
焦るパパにみんなで笑った。
食事が終わって私とママは片付けの為台所に立つ。
ママと二人で並んで洗った皿を受け取って布巾で拭く流れ作業。
台所に立つのも久しぶり、皿洗いが楽しいなんて初めて思う。
居間ではソファーに男3人が座ってテレビを見てる。
みんなが一緒に入る空間が暖かで肌で幸せを感じてた。
「司君、先に風呂にでも入ってくれ」
「分かりました」
居間の方から聞こえる話声。
慌てて途中で買ってきた下着とパジャマを準備する。
「道明寺、これ着替え」
「行くぞ」
手渡す私の肩を道明寺が抱き寄せる。
「えっ?行くって・・・」
「フロ!」
「えっ・・・えーーーッ」
「一緒に入ってきます」
ニンマリとして当たり前のように軽く宣言。
反論する間もなく道明寺に私の身体を引きずられて行く。
完全に抵抗するチャンスをなくしてる。
照れてる暇もないくらいに強引に強制的で狭い空間では逃げ切るのは無理な話。
「行ってらっしゃい」
明るい調子の進の声が居間から聞こえた。
「風呂場どこ?」
「狭い家の中でも迷うもんだ」
鼻歌交じりに道明寺の機嫌が上がる。
「うちの風呂狭いよ」
「・・・大人二人なんて無理だと・・・思う」
逃げ切れるとは思ってないのに素直に「ウン」とは言えずに否定的な言葉を口にする。
「狭い方がいいだろう」
「お前の素肌に触れる面積が増す」
耳たぶに唇が微かに触れる感じに道明寺が悪戯っぽくつぶやいた。
-From 2-
湯船に浸かり両足を伸ばす。
膝を少し曲げればなんとか伸ばせた。
その上につくしを乗せてだっこ状態。
「狭いよ~」
それがいいんだ。
心の中でつぶやきつくしにまわした両腕にわざと力を込める。
俺の両方の手のひらは乳房に張り付いたまんま。
「・・・いい加減に離してくれない?」
「なにを?」
「胸!」
狭いから振り返られずに顔を横に少し向けてつくしが口を尖らせる。
「ギャー!もまないでよ」
「お前が動くからだろうがぁ」
「だから手をどけてよッ」
「やだ」
「やだって・・・なに?」
「これが一番落ち着く、頬をすりよせたいくらいだ」
「ここ、実家だからね」
「実家じゃなきゃいいのかよ」
ニンマリする俺の膝からつくしが立ち上がり、クルッと向きを反転させてざぶんと膝を抱えた状態に湯の中に身体を入れ込む。
完全にふくれっ面が出来上がっていた。
面と向かってにらめっこ状態。
「狭いぞ」
「こっちの方がましだもん」
「スケベ」
ふくれた顔が真っ赤になっている。
さっきまでは二人仲良く楽しんで身体を洗いあっていた。
触りたいのを我慢して真面目にお前の背中を流していたぞ!
湯船につかって胸を触っただけで「スケベ」って・・・
ふだんはもっとすごいことやってるぞ俺達!
思い描いて俺まで真っ赤になった。
まだ純情じゃねぇか俺?
本来なら自分の家でもっと濃厚な緻密な時間を過ごせてた。
それ以上に家族の中でまっさらに笑顔を見せるお前がまぶしくて、かわいくて、うれしかった。
心の底からこんな時間を持ちあうのもいいと思えてる。
二人っきりの時間を割いてでも・・・
だから胸ぐらい触ってもいいだろうーーーーーーッ。
スケベはねぇだろうがぁ!
単純な方程式。
俺の頭の中では完璧な理屈。
あいつにしたら屁理屈か?
「これくらいたいしたことじゃないだろう」
無理やり腕をつかんで引きよせ腰を抱く。
「お帰りのキス・・・まだもらってねぇんだけど」
「それで我慢する」
ねだるように言って強制する。
「おかえり」
小さく形を変えた唇が俺の唇に重なった。
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