第12話 ないしょ?ないしょ!ないしょ!? 4

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-From 1-

昼食を終えて屋上の柵にもたれかかり空を見上げた。

雲ひとつない青空。

対照的に私の心の中には雨雲が覆い始めている。

悩みは一つ。

この状況で道明寺に会えるのかという問題。

西田さんの姪の話にバイトの話は避けると言うことが大事だ。

「私の前で他の女の人の話しはしないでよ」

この会話で一発で予防線が張れるはずだ。

後は勉強で忙しいからもうしばらく会えないからとそれで突き進もう。

それしかない!

頭の中でシュミレーションを繰り返す。

なかなか納得いかないリハーサル。

詰めが甘いように感じて、またため息をつく。

うつむいて見上げた視線の先でじっと私を見つめる視線とぶつかった。

あっ・・・

私を見ていた表情がクスッと崩れる。

「さっきはありがとうございました」

少し声を出せば届く距離。

少し前髪の後退気味の常務さん。

私の声に反応するようにその人が近づいてくる。

「なにか悩みごと?」

「・・・いえ、たいしたことじゃないですから」

答えながら視線をそらす。

「君、バイト?」

「はい」

「こんなところで働くの珍しいね」

「普通ならショップとか、もっと楽なバイトあるでしょう?」

腕を組んで柵にもたれながら軽く視線を向けられる。

馬鹿にした感じじゃなく私を気にかけてくれる様なやさしいまなざし。

「仕事に楽もキツイもないと思いますけど」

「ゴメン、気に障ったのなら謝るよ」

「君ぐらいの年頃の女の子って着飾って、化粧して、彼氏と楽しむのがメインの感じがするから」

青空の方へ向けて遠くを見つめる視線は君のことじゃないからと否定している。

「それって偏見ですよ」

「ゴメン、ゴメン」

本気で頭を下げる常務さんに笑いがこぼれる。

見えた頭のてっぺんも髪の毛の寿命は短そうだ。

「君みたいな子は初めてだ」

「俺の周りにはいないな」

それってよく聞く言葉、道明寺を先頭にF3にも言われてた。

口説き文句か?

「俺、幾つに見える?」

「30前後?」

気をつかって若く答える。

頭の感じは4、50代。

肌の張りは20代なんだよな・・・。

「これでも28歳、見えないでしょう」

「君ぐらいの子が見たらそれでもおっさんだろうけど」

照れくさそうに笑う顔は少年の様なすがすがしさ。

「この見てくれで若い子には気後れしてうまくしゃべれないんだよね」

「あの・・・私とは普通に喋ってますけど・・・」

「あっ!そう言えばそうだ」

クスッと笑ってポツポツとまた話し始める。

「気が引けるって言うか、自分に自信が持てなくて、親にも積極性を持てと発破をかけられている」

「ほらっここの・・・道明寺の後継者、自信に充ち溢れてる感じでしょう」

頷くべきか首を振るべきか戸惑いしょうがなく首を傾けた。

「うちとの取引あるから比べられてまた落ち込む」

「本当はこのビルには来たくないんだよ」

屋上で一人で気分を紛らわせていたとため息交じりにつぶやく。

「道明寺・・・いえ・・・ここの後継者は我がままで自己中で傲慢で好き勝手やってるだけですから」

「常務さんはその・・・ほら!私を助けてくれた時、落ち着いてて、やさしくて、大人で貫禄あるなぁって思いましたもん」

ここの御曹司には負けてませんと常務さんの肩を「バン」と叩く。

「テッ」

「あっ!すいません!調子に乗って」

「君は俺に謝ってばかりだ」

元気が出たと常務がゲラゲラと笑いだす。

「俺、常務じゃなくて的場圭介」

笑いを押し殺しながら遅ればせながらの自己紹介。

「牧野つくしです」

ぺこりと頭を下げた。

「君にかかれば女子社員のあこがれの的の御曹司もかたなしだね」

「やけに詳しいけど、知り合い?」

「えっ・・・まあ、知ってる様な・・・知らないような・・・」

バイトの事は内緒だし、道明寺との関係も今知られて困る状況。

焦って、困って言葉に詰まる。

「明日もここに昼来るからまた付き合って」

「えっ」

「じゃ」

返事もさせぬ間に的場常務は屋上のドアを開けて消えて行った。

またって・・・

別に付き合ってないですけど!

大丈夫かァァァァ。

また一つ問題を背負った気分に落ち込んだ。

 

-From 2-

午後の仕事はいつの間にか終わってた。

考え始めると迷宮ラビリンスに迷い込んでしまいそうで床をピカピカに磨くことに没頭する。

「こんなに使える子は初めてだ」

「バイトじゃなくしばらく働かないかい?」

掃除婦の先輩おばさん加川さんの私に対する評価はウナギ登り。

少しは手を抜いたほうが良かったかもしれないと反省気味。

「大学がありますから」

「もったいないねぇ」

なにがもったいないのかよくわからないがひきつるように笑ってた。

仕事終了時刻は夕方5時。

道明寺のデートの待ち合わせまであと2時間。

家に帰って準備してぎりぎりセーフの時間帯。

あの後何度携帯鳴らしても西田さんにも道明寺にもつながらなかった。

周りの噂話の情報から支社での会議に出かけたらしい。

女子社員の御曹司情報網も重宝する事を実感した。

しばらくしてかかってきた道明寺からの携帯。

「夜7時、迎えに行く」

それだけで切るなよッと恨めしそうに携帯を見つめてた。

着替えを終えて本社ビルのエントランスをそそくさっと早足で抜ける。

「つくしちゃん待って」

「途中まで一緒に帰ろうよ」

加川さんに待ち伏せされていた。

「あの・・・方向違いますけど」

「いいから、いいから」と背中を押される。

「私、急いでるんでッ」

「大丈夫だから」

全然私の話し聞いていない感じに腕をつかまれる。

別れるまでの距離の数百メートルの間、聞かれるのは私の事ばかり。

家族構成に大学の事。高校時代バイトで苦労したことまで喋ってた。

これって状況調査?

別れて気がつく私は相当なお間抜けぶりを発揮してしまってる。

素直に応える私もバカだよなぁ。

加川さんのあの強引ぶりは脅威だが、まさか息子さんを会社まで引っ張ってくるのは無理だろうとタカをくくった。

会う段取りさえつけさせなければ2週間後にはなんの接点もなくなるはずだから。

家に帰りついてバタバタと着替えを済ませ準備をする。

こんなに緊張して道明寺を待ったのは初めてかもしれない。

うれしいドキドキのときめきの緊張感なら問題ないが、道明寺がどう追及してくるか見えない恐怖と闘ってる。

気合を入れるように両方の頬をバンと叩いた。

道明寺の訪来を告げるベルにドタドタと高速に反応して家を出て迎えの車に飛び込んだ。

たいした距離でないのに息切れしてるのは心拍上昇のせい。

「牧野、お前そんなに俺に会いたかったのか」

道明寺の自分に都合のいい解釈に助けられる。

「まあ・・・そんなとこかな」

今はそれに乗っかり笑みを作る。

「やけに素直だな」

テレッと笑って道明寺の顔が緩んだ。

「なんか、いつもより頬も真っ赤だし」

それはさっき気合の為に頬を自分でぶったせい。

「ちょっと暑いかな」出てもいない汗を額から抜ぐった。

「食事、まだだろう」

連れて行かれたのはホテルの最上階のレストラン。

相変わらずのVIP待遇で個室に通される。

人目も気にせず騒いでも物一つ外に漏れない完璧な造り。

取調室みたいに感じるのは西田さんのせいだぁぁぁぁぁ。

誰かを恨まないと自分が保てない感じでパワーが出ない。

グッと腹に力を入れて昼間のリハーサルを頭に浮かべた。

「忙しくて会えないっていったけどすぐに会えたな」

和んだやさしい視線を道明寺に向けられた。

チクッと傷む心をギュっと奥に閉じ込める。

なにも悪いことはしてないんだからと呪文のように頭の中で繰り返す。

「本当に忙しいんだから、帰ったら徹夜で勉強だよ」

ここはすんなり言葉がつながった。

「会えただけでいい」

思わずドキッとときめくように熱く見つめられてまた罪悪感がよみがえる。

料理の味も分からなくてただ反応するみたいに口の中にフォークで押し込む。

「なぁ・・・お前、西田の姪って会ったことある?」

急な道明寺の反撃に口いっぱいに放りこんだ料理に蒸せて吐き出しそうになった。

水で流しこんで窒息前でようやく助かる。

「私が知る訳ないでしょう」

「まあそうだよな」

「でもなんでお前がそんなに焦るの?」

訝しそうな目で見られてる。

ここからが勝負だ!

どこに力を入れているのか緊張感で心音が1割上昇気味。

「道明寺の方こそどうしてそんなに西田さんの姪が気にするの?」

「いやだからね」

「なにが?」

「道明寺が・・・私以外の・・・女の人・・・気にするの・・・」

言葉を考えてとぎれとぎれにつなげていく。

緊張感で唇が震えて身体の高揚感も隠せない。

ついでに全身の筋肉が固まりすぎて視線も道明寺から外れなくなってしまってた。

「牧野・・・」

つぶやくように言った道明寺が「ガタッ」と椅子から立ち上がり私の方に歩み寄る。

椅子ごと背中から抱きしめられてしまってた。

「俺・・・すごくうれしい」

「お前が嫉妬してくれて・・・」

何もかもがうまい具合に作用してばれなかった。

ホッとしながらこの後どうなるのかの一抹の不安。

「道明寺・・・私帰んないといけないんだから」

「つれねぇこと言うな。もう少しこうしていたい。椅子が邪魔」

言いながら完全に椅子から私をはがして自分の胸元へ引き寄せる。

「コホン」

「なんでお前が出てくんだッ」

「お邪魔かと思いましたが・・・」

姿を見せたのはどんな場面でも動じない西田さん。

慌てて道明寺の腕から飛びのいた。

「今日はお時間は2時間程度しかないとお知らせしていましたが・・・」

「お前が牧野とデートしてもいいと言ったんだろうが、どうにかしろ」

「私は今日とは言っておりません」

「しっかり働いてもらわないと下の者に示しがつきませんから」

「今日ぐらいいだろう」

すねた調子で道明寺が西田さんに抗う。

「今日ぐらいで済めばいいですが、明日も明後日もになる可能性が坊ちゃんの場合否定できませんから」

「今仕事を終わらせておいた方がつくし様が暇になられた時に一緒の時間が作れるかと思いますが」

抗いきれずに道明寺が観念した。

「チッ」

「牧野また連絡する」

私との距離を縮じめて道明寺の腕が私を捉えて抱きしめた。

「西田、牧野を送ってくれ」

未練を断ち切るようにサッと私を離してSPを引きつてれた道明寺の後ろ姿を西田さんと見送った。

空気が抜けた風船のように一気に身体の力が抜けて床に座り込む。

「心労おかけしまた」

西田さんに抱き起こされてホッと一息。

「もう必死だったんですからぁ」

泣きそうになるのを必死に耐えて西田さん相手に愚痴をいっぱい言って落ち着いた。

続きはないしょ?ないしょ!ないしょ!? 5

そろそろ外観が見えてきたでしょうかここからはどうなる?

どう絡むのかもう一人の男性。

そこまであと少し♪

拍手コメント御礼

nanako様

一人がようやく公開という感じでしょうか?

髪はいつか抜けるんだ!そこは問題ですが物語での作用はあるのかぁ~

このキャラを生み出していいのかどうか迷いましたけどね(^_^;)

的場つながり的場浩司

スィートの本とか出してるんですよね。

お茶目な部分を 圭介さんに引き継いで目キャラ狙いもおもしろそうですね。

考えてみます♪