第12話 ないしょ?ないしょ!ないしょ!? 5
*-From 1-
「このままだと司様は掃除婦に目を光らせそうですから近いうちの別の部署を準備しておきます」
そうしてもらえばどんなに助かることか。
道明寺の視線を気にしながらの掃除は1日で疲れ果てた。
加川さんの息子自慢の話をされる必要もなくなる。
「なるべく早くお願します」
思い切り頭を下げて西田さんと別れる。
自宅に帰り加川さんの息子の件や的場常務の事を西田さんに言うべきだったかどうか迷った。
が・・・
ベットに入ってすぐに忘れて眠りについた。
今日は朝からエントランスの床を磨きにかかる。
いきかう人の邪魔にならないようにそろそろとモップを動かす。
誰も私を気にする人はいない。
私の方が入口の自動ドアが開くたびにギクッとなって人影を確かめてホッとため息を吐く。
10時を過ぎたこの時間なら道明寺もエントランス通り過ぎ重役室でふんぞり返っている時間だろう。
そう思い直してモップを握り直し床を擦る様に磨き上げる。
「キャッー」
一瞬にして空気の色がピンクに変わった。
ざわつき感はさすがに控えめだが色めき立った女性の視線が1点に注がれる。
来た!
現れた道明寺!
なんでこの時間なのよッ。
確かめるのも怖くて柱の陰に身をひそめた。
「やあ!」
背中からポンと軽く肩を叩かれた。
道明寺の声じゃなくてもギョッと身体が強張る。
的場さん・・・
その横を部下とSP引き連れた御曹司の大名行列。
私との間を遮る様に一つの影が斜め横に数歩足を速める。
西田さんの姿だった。
道明寺と私との距離の間に柱と的場さんと西田さんの3重の柵。
そして私を身を縮めて息を殺す。
西田さんが私に気がついたことは一目瞭然で・・・
道明寺に気がつかれないように西田さんが視線を私に向けることなくそのままエレベーターまで何事もなく道明寺を誘導し消えて行った。
エレベーターが閉まる前にシカっと西田さんと目があった。
的場さんと私は西田さんにはどう映っただろう。
道明寺に見られればとんでもないことになりそうだ。
「あ・・・おはようございます」
「なにかあった?」
「いえ!仕事してただけですから」
「しかし相変わらずここのボスは颯爽としてる」
「そうですね・・・」
これ以上話をするとぼろが出そうでモップを動かす。
「常務急いでください」
秘書に声をかけられて僕も忙しいと的場さんが笑顔を作る。
「昼休み、待ってるからね」
「じゃあ!」
頭を見なければすがすがしい青年の笑顔。
禿の与える比重の割合は結構大きい。
そんなこと考えてる間に的場さんはエレベーターに乗り込んだ。
断るチャンスを自分で逃してしまってる。
もっ!
ふがいなさにモップを床に投げつけたい気分だ。
西田さん!
早く配置換えお願いします!
天井見上げてぼやいていた。
-From 2-
2日目の昼休み。
加川さんと並んでベンチでお弁当を広げる。
「ねえ1度会ってみて」
「断ります。彼氏いますから」
続く会話はどうどうめぐり終わりが見えない繰り返し。
突然加川さんがとんでもないことを言いだした。
「じゃ・・・つくしちゃんの彼氏が見たいなぁ」
「それで納得したら諦めるから」
納得、諦めるって言われても会わせられる訳ないじゃない!
もう会ってます!とも言えるはずもなく箸を落としそうになって固まった。
「あっ!本当は彼氏なんていないんでしょう?」
「心配しなくても大丈夫だから。うちの子やさしいよ」
「つくしちゃん、奥手そうだし、すれてなし、今まで彼氏いなくても大丈夫だから任せなさい」
加川さんの勝手な解釈に驚いて反論することを忘れてしまってる。
「彼氏本当にいます!」
私がようやく叫んだ言葉は加川さんには届いていない様で完全に私無視の世界で話を進めている。
「こうしちゃいられない。待っててね」
弁当を片づけてさっさと加川さんはいなくなった。
なにをする気だーーーーッ。
想像つかなくて頭を抱え込む。
明日からこのバイト止めようかなぁ。
道明寺に知られる前に・・・
そんなのあのお義母様が許すがずないよな。
逃げ場は西田さん頼みかと最上階を仰ぎ見る。
「ハイ、コーヒー」
目の前に差し出された紙コップをじっと見つめる。
「的場さんかぁ・・・」
「がっくりしたような顔されると淋しいなぁ」
私にコーヒーを手渡しながらベンチに的場さんが腰かけた。
「ハァー」
私の横で的場さんがため息一つ。
「どうしても自分に有利なように仕事を詰められなくてね」
「仕事も、女性にも今一つ積極的になれないのは容姿のせいかな」
自信のなさを見抜かれてしまってると小さく笑う的場さんは淋しそう。
「全然気にしなくていいんじゃないんですか」
「禿でもカッコイイ人いるじゃないですか。外国の俳優さん!」
元気を出してもらおうと髪の毛の状態を口にして思わずヤバイと口をつぐむ。
的場さんが「プッ」と噴き出す様に笑ってた。
「ズバッと言ってくれたの君が初めて」
「えっ?」
「ハゲって」
「・・・すいません!」
「いや、うれしいよ」
これは隠し様がないもんなと自分の広い額をなでる仕草を的場さんが見せる。
「見えてるのに見えないようにされるのがいやだったんだ」
「君に言われて気が晴れたって感じだよ」
ありがとうとほほ笑む的場さんに釣られる様に私も笑っていた。
「元気づけてくれたお礼に今度食事でもどう?」
「あッ下心はないからね」
胸の内ポケットから名詞を一枚渡される。
「電話待ってるから」
言い残して的場さんは消えていく。
受け取った名刺を見つめて出るのはため息。
どうして私、受け取ってしまったのだろう。
連絡しなければいい!
そう思いながらも連絡しないと悪い様に思えるのは的場さんの人柄だろうか。
このまま無視したら的場さんを傷つけそうだ。
下心はないって言ってるし・・・
加川さんよりは安全?
どっちも道明寺に知れればただで済む訳ない。
食事する方向に傾いている自分を頭を振って追い出す。
背水の陣から四面楚歌に追い込まれて逃げ場を完全に失いつつある状況。
西田さんに相談できる範囲から逸脱してしまってる。
漏れるのはため息ばかり。
無事に終わるのだろうかこのバイト・・・
そしてまたため息が一つ大きく漏れた。
続きは ないしょ?ないしょ!ないしょ!? 6 で
あとはどう加川おばさんの息子さんが絡むのか~
ホントに絡んでくるのかな(^_^;)
つくし頑張れ~