第12話 ないしょ?ないしょ!ないしょ!? 12
*-From 1 -
くそーーーーーッ!
騙された!
「坊ちゃんが感情に流されず場を取り繕うことが出来たらそれは成長の証です」
「私も考え直さなければなりません。つくし様を坊ちゃんのそばにおいても問題がないと分かれば・・・」
全部言わなくてもお前の言いたいことは理解できたと西田の言葉をさえぎった。
牧野を責めずに包容力を見せて事を収める。
今の俺なら出来そうな気分。
それはあのはげ常務への対抗心だと否定はしない。
それが出来たら・・・
残りの牧野のバイトは俺の秘書とか?
そのためには牧野がそばにいても平常心が保てれば問題ないということだよな?
俺のまじめな仕事ぶりに牧野も惚れ直すのは間違いない。
朝も夜もたとえ数日でも一緒って・・・
すげ~誘惑。
駄目だ!
こんな考え西田にばれたら折角の牧野が逃げちまう。
西田に緩んだ表情を見られる前に引きしめた。
強気な態度の牧野を抱きしめて、責めずにしっかりと抱きとめる。
「ごめん」と俺の胸の中で呟く牧野。
思わぬ素直さに本気で胸が熱くなる。
いつも感情に任せて責めている俺は逆効果んなんだと初めて学習した気がした。
この調子なら西田のお墨付きももらえそうだとうれしさの過剰効果。
思いっきり優しい気分が俺を包む。
幸せって身近にあるものだ。
牧野に軽くキスを落として見つめた牧野の顔がわずかに高揚する。
ここがオフィスじゃなかったら・・・
即効押し倒す!
邪心な気持ちを押し隠すように照れて笑ってた。
そのあと・・・
たわいのないじゃれあいみたいな会話。
俺をのけ者にした今回のバイトの首謀者のおふくろに対する不満から会話が始まった。
「結構面白かったよ」
牧野がほほ笑む。
「掃除婦に書類運びがか?」
「俺の婚約者ならそれ相応の仕事もできるんだぞ」
俺の秘書とか・・・
言葉にしない胸の内。
「だって・・・あんまり近いと見れないものあるでしょう?」
「道明寺がどれだけ社内でもててるかわかったし・・・」
「冷静沈着でスマート、有望な後継者なんだってね」
私といるときとは別人みたいとクスッと笑う。
「私も美人で賢いお嬢様なんだって」
今ばれたらとんでもないことになりそうと話す牧野は、なぜだかうれしそう。
実際の自分とかけ離れた評判にも気分を害してないのは牧野らしい。
時間を見計らったように響くノックの音。
「うまくいったようで」
俺と牧野に視線を向けて西田が軽く会釈程度の頭を下げる。
「そろそろ次の予定がありますので・・・」
「次の予定は昼からだろう?」
怪訝に聞き返す。
「坊ちゃんじゃなくてつくし様のほうで、メッセンジャーの仕事が途中ですから」
何?
俺の秘書の話はどうなってんだ?
いまさらメッセンジャーってなんなんだ!?
俺のオフィスから出て行こうとする二人に、完全に不満と未練を混ざらせた感情を顔に張り付けてしまってる。
「おい、西田!」
「さっき考え直すとか、牧野を俺のそばにおいても問題がないと分かれば、とか言ってたよな?」
「私はつくし様のバイトのことに関しては一言もなにも申し上げてないはずですが?」
西田のメガネの奥の瞳が光ったように思えるのは気のせいか?
「牧野が俺の秘書になるのは?」
「坊ちゃんの勝手な妄想で」
「たった数日で秘書の仕事ができるほど簡単な仕事じゃありません」
いつものように冷静沈着な西田の声。
「道明寺・・・私も仕事残ってるから・・・じゃあ」
西田に促されるように牧野が俺のオフィスから出て行こうとしてる。
「話が違うじゃねーか!」
俺の叫びをさえぎるようにパタンとドアが閉めらて、だだっ広いオフィスに俺だけが取り残された。
-From 2 -
「あのままで大丈夫ですか?」
「あれでも自分の立場は分かってらっしゃいますから」
あれでもと頭につけるところが西田さんらしい。
「私、仕事に戻っても大丈夫なんですか?」
下手したら道明寺本社ビル珍百景に登録されそうな先ほどの珍事件、珍騒動。
女子社員のあこがれの的の御曹司道明寺司。
脛をさすりながらスケベ!変態!バカやろう!と叫んでいた。
膝を蹴ったのも、叫んだのも元をただせば私なんだけど・・・
極めつけは「彼氏に言う言葉じゃねぇ!」の捨て台詞。
しっかり秘書課のお姉さま方に見られてしまった。
「キャー」ッて悲鳴じみた声があがっていたもの。
「先ほど見たことに対してはかん口令が引いてあります」
「秘書は口が堅くなくては務まりませんから」
まったくの問題ありませんと西田さんは私の前を歩く。
「もうしばらくメッセンジャーをやれますか?いやなら別な部署を考えますが?」
「道明寺の婚約者とばれないのならこのままのほうがいいと思います」
「そう言っていただけると思いました」
「それではお仕事頑張ってください」
軽く会釈をして西田さんは踵を返した。
思わず頭を下げて西田さんを見送った。
ふと気がつく周りからの視線。
道明寺財閥の剛腕秘書と知らない小娘の取り合わせは人目を引いたようで興味深げに見られていた。
「誰あの子?」の疑問符付きで。
西田さんといても目立つのか・・・
その場をそそくさと離れる。
次はどこだっけ?
げーーーッ!
秘書課に書類置いてくるの忘れてる。
また最上階か・・・と肩をおとす。
「つくしちゃん」
♪つきで声をかけてきたのは加川さん。
また厄介なおばさんにつかまった。
「つくしちゃんしっかりあんたのこと頼んでいたからね」
頼んだって何を?誰に?
いやな予感。
「ここの坊ちゃんに花沢物産の御曹司とつくしちゃんが付き合ってるから応援するって伝えたのよ」
「それ聞いて驚いたようだけどしっかり応援するように頼んでたからね」
道明寺が全部知ってるわけだとすべてに納得。
悪の根源はここだったか。
花沢類と私の交際を頼まれてよく道明寺が加川さんに何も言わなかったものだ。
「坊ちゃんも応援してくれるって」
絶対道明寺がそんなことを言うわけない!
完全に迷惑な自分勝手な解釈に加川さんは陥っている。
つ・・・疲れる。
加川さん・・・
どこそこで花沢物産の~ 西田さんの姪が~ なんてスピーカーになってないだろうな?
「他にも誰かに言いました?」
不安な面持ちで問いかける。
「ここの会長さんにも応援を頼んだ」
にっこりとほほ笑む加川さん。
会長・・・
会長!?
道明寺のお母様・・・ってこと・・・?
「会長って道明寺楓会長のことじゃないですよね?」
「他に誰がいるのよ」
「これで完璧でしょう、ついさっき会ったのよ」と満足そうに加川さんが私の肩をたたく。
思わずよろけそうになってビルの柱にもたれてしまってた。
どうなるのーーーーッ。
続きは ないしょ?ないしょ!ないしょ!? 13で
いよいよ終盤戦突入。
楓さんどう登場させるか悩んじゃいました。
でも登場させないと話が締まらないということでまたまた加川のおばさんにお出ましいただいたわけでして(^_^;)
重用キャラになってしまった・・・