第2話 抱きしめあえる夜だから 17

 *

-From 1-

「あっ、起きれたみたいだね」

にっこり微笑んでつくしが俺のそばに駆け寄った。

「・・・・5分」

「えっ?」

「5分でこの状況を説明しろ!」

理解できないような考え込むしぐさ。

「だから、なんであいつがここにいるんだ!」

しびれを切らして松岡公平を指さし叫んでた。

「実務研修うちの事務所で2週間受けるんだって」

「私が一応ここでは先輩だからオリエンテーションをやってたの」

悪びれる様子もなく「人を指さすなんて失礼だよ」と俺に注意しやがった。

親の心子知らず・・・

じゃない!

夫の心、妻知らずってやつだ。

松岡がいくらつくしに好意を寄せても、つくしがなびくはずはない。

つくしに好意を寄せている事実を知っている俺はそれだけで気に食わない。

会社で俺より過ごす時間は松岡のほうが多くなる。

朝の置いてきぼりにこの状況。

不機嫌さは募るばかり。

「仕事面は僕が松岡君をフォローしますからつくしちゃんは午前中だけです」

俺の怒りに気がついた甲斐があたふたと椅子から立ち上がる。

それならお前が最初から松岡のお守をしろ!

そんな思いで視線を投げつける。

切羽詰まった目で「つくしちゃん~」と助けを求めやがった。

「何を怒ってんの?」

「今日・・・起こさなかったの怒ってるとか?」

「・・・お前本当にわかんないのか」

食い入るようにつくしの顔に自分の顔を近づけた。

俺から距離をとるようにつくしが一歩後ずさる。

「他に・・・理由は」

あたりを見回して松岡公平と視線を合わせて「アッ!」と叫びやがった。

「もしかして・・・公平?」

だからそいつを呼び捨てすんなッ。

そしてまたピキッと青筋が増える。

「キャハハハハ!考えすぎだよ」

俺の怒りなんて感知してないように笑い飛ばされる。

そしてまた俺の怒のバロメーターが上がっていく。

「5分です」

ドアのそばで西田がつぶやく。

「一緒に来い!」

つくしの腕をつかみ歩きながら引き寄せた。

「しばらくこいつ借りるぞ」

「えっ!やだ!無理!」

「甲斐はいいって言ってるぞ」

俺の視線の先でコクコクと首を何度も甲斐がうなずく。

「そう言うことだ」

しょうがなさそうにつくしが俺に引っ張られながらついてくる。

仕事に戻ったら甲斐さんとっちめるんだからなんてぶつぶつ言いだしてる。

松岡と一緒にいさせたくない。

ただそれだけの理由。

言えば子供じみてるとなじられそうだ。

「西田!予定を30分ずらせ」

「・・・」

「わかりました」

少しの間の後に西田の声が聞こえた。

俺は満足してつくしと一緒にエレベーターに乗り込む。

「・・・5分の猶予を与えたのは私のミスでした」

ぽつりと西田が独り言みたいにつぶやいた。

 *

-From 2-

つくしの手を引いて最上階を歩く。

「いい加減、手をお離しになったらどうですか?」

ここは会社ですと非難気味な西田の視線。

その声に誘導されるようにつくしの腕がするりと俺の指先から抜け出した。

「ホントだよ。もう」

西田に同調するようにつくしが口をとがらせる。

さっきからすれ違う重役たちが何事かと目を見開く状態を気にしてなかったのはどうやら俺だけらしい。

「またなんて噂をされるか・・・」

「仲がいいって言われるだけだ」

頬を膨らませるつくしの耳元に唇を寄せてつぶやく。

後ろから「コホン」と遠慮がちな咳ばらいが一つ聞こえた。

西田!

邪魔すんじゃねぇよ!

最上階の奥まった行き止まり。

代表執務室のドアの前。

カチャッと西田がドアを開ける。

横のディスクに座っていた下っ端の秘書が立ち上がり頭を下げた。

俺の後ろにつくしがいるのを物珍しそうに眺めてる。

「お世話になります」

つくしに先に頭を下げられて恐縮するようにそいつがあわてて頭を下げる。

代表夫人に先に頭を下げられては立つ瀬がないだろう。

代表夫人の自覚がないつくしにも問題あるんだけどそれがこいつの取り柄みたいなもんだと苦笑する。

西田の舌打ちが聞こえそうだ。

そいつに何やら指示を出す西田を残して2部屋先の俺専用の部屋を目指した。

落ち着かなさそうにソファーに腰を下ろすつくし。

「やっぱりこの広さは私には合わないわ」

きょろきょろと視線が定まらずつくしの視線は宙を舞う。

ようやく安住の地を求めたように俺に行きついてニコッとほほ笑んだ。

「私を部屋に連れてきて何かあるの?」

「・・・別に」

「用事がなきゃ連れてこれない理由もねぇし」

「理由もないって・・・私は仕事ほっぽり出す羽目になってるんだからね」

「俺みたいに分刻みのスケジュールじゃないんだから、たまには付き合え」

「たまにはじゃないじゃない」

呆れたようにつくしがソファーから立ちあがった。

「10日前は昼前に現れてお昼の会食につき合わせて・・・」

あんときは先方も喜んでたぞ。

「出張前は朝、昼、夜ってたいした理由もないのに呼び出された」

仕事の合間まに出来た少しの時間をもっとも有効に使っただけだ。

お前の顔を見るだけで仕事の能率が上がる俺に西田は結構喜んでいたぞ。

その前も・・・

俺の前で指を折って数えだす。

つくしの指を握りしめるように手で包む。

もう一方の腕は腰にまわしてしっかり引き寄せた。

「なぜ起こさなかった?」

「よく寝てたから・・・」

「ほら!今日は遅めの出勤でも大丈夫って西田さんが言ってたし・・・」

警戒するようにつくしの身体が堅くなる。

たいしたガードにならないのはわかりきってるのにご苦労な奴だ。

「目覚めて一人はつまらない」

首筋を舐めるようにささやく。

「そばで起こしたらやばいかなぁなんて思って・・・」

「昨日も仕事に遅れそうだったし・・・」

完全に俺のペースに持って行けたと思えるつくしのうろたえぶり。

声・・・

裏返ってるぞッ。

心がざわめく。

声を発するたびに縮じまる距離。

唇が触れ合う距離まであと指一つ。

「目覚めのキス・・・まだもらってねぇんだけど?」

発した声は自分の声じゃないみたいに愁いを帯びて、せわしいほどに求めてる。

腰にまわした腕に力を入れて互いの身体の密着度を上げた。

「うっ・・・」

つくしの頬が少し染まる。

俺が見つめる先の瞳が閉じてつくしの唇が俺の唇に軽く触れた。

その瞬間を逃さないように手のひらを頭に移動させて抱き寄せる。

しばらくこのまんま互いを確かめ合うように熱く深くキスを繰り返す。

捉えたつぼみを離さぬように、逃がさぬように・・・

そして幾度と飽きることなく追いかける舌先を絡めあう。

指先に絡まる髪の先までが愛おしい。

つくしの腕が動いてしっかり俺の背中を捉えて抱きしめた。

続きは抱きしめあえる夜だから18

たまには西田さんも失敗することもある?

結局こんな感じかな~

30分すぎるにはまだまだ時間はありそうですけどね。

いいところで今日も終わってしまった(^_^;)

別なお話で司君苦労させそうだからこっちでは甘アマで~