第12話 ないしょ?ないしょ!ないしょ!? 13
*-From 1 -
デスクの上に無造作に置かれた書類にペンを走らせる。
仕上げのハンコに力を込めてドンと書類の上に押しつける。
書類が西田の顔に見えてくるから力も入る。
その横には同じ作業を待っているA4サイズの紙の山
これだけで日が暮れそうだ。
「ったく」
思いどうおりにならない腹だしさをそのまま仕事にぶつけたら、西田が喜ぶだけだと気がついて、ペンをデスクの上に投げ捨てた。
勢い余ってディクから転げ落ちたペンは入口へと向かう。
ペンを拾い上げた人物に思わず椅子から身を浮かせた。
「おふくろ・・」
「何しに来た?」
「別に司に用事があったわけじゃないわ」
デスクにペンを置いて笑顔を作る。
笑顔で緊張感が広がるのはお袋ぐらいのもんだ。
周りに社員がいたら一発で凍るぞ。
相変わらず感情が読めねぇよ。
最近はおふくろとも親子の関係は修復しつつある。
牧野と俺とのことを認めてくれたのが第一の要因。
「道明寺の嫁としてはまだまだね」
そう言いながらもおふくろの牧野への評価も上がってきてるはずだ。
今度のバイトの件は府に落ちないが、おふくろのことだ考えなしに牧野にバイトをやらせるとは考えにくい。
「牧野のバイトのことか?」
「珍しく察しがいいのね」
相変わらずの皮肉の混じった言葉もそれなりのおふくろの愛情だと最近は感じている。
昔はほとんど会話になんてならない一方通行だったもんな。
「どうして、いまさら牧野にバイトをやらせたんだ」
「さあ何故かしら?」
すんなり答えが帰ってくるとは思わないが感情をむき出しでおふくろと対立するほど馬鹿じゃない。
「思った以上に面白い結果がついているようだけど」
「なんのことだ?」
「つくしさん・・・もてる様ね」
「類君に的場産業の息子さん、後・・・誰だったかしら・・・」
含みを持ったようにちらっと視線を俺に向ける。
あの掃除婦のおばはんの息子だよ。
それで類と付き合う羽目に牧野がなったんだからなッ。
「そのくらいないと司も張りあいがないわよね」
いまさら張りあう必要ねぇだろう。
牧野が言いよられてなんでお袋が喜んでるのかその根本がわからない。
俺の理解できないところで何かを企んでいるその雰囲気に俺の限界が見えてきた。
「いまさら俺たちを別れさせようとか企んでるんじゃないよな」
返答によっては暴れるぞ!
凶暴さの目覚める一歩手前で立ち止まる。
こんな感情をお袋に向けたのは数年ぶりだ。
「いまさらそんなことしないわよ」
「あなたをしっかり調教できるのはつくしさんしかいないとわかったから」
お袋が見せる柔らかな笑顔。
めったに見れねぇぞ。
西田が見たら仰天しそうだ。
西田の笑顔とおふくろの笑顔どっちも見たくねぇーーーーー。
牙を抜かれるように拍子抜け。
「あと一週間、せいぜい頑張りなさい」
そう言って部屋を出ていくおふくろの後ろ姿は相変わらずの颯爽さ。
頑張れって・・・
何をどう頑張るんだぁぁぁぁぁぁ。
意味わかんねぇーーーッ!
-From 2 -
いったいどうやって仕事を終わらせているのかわからないまま時間だけが過ぎる。
道明寺のお母さんはどう思ったのだろう。
いつも周りを警護するSPがなんで加川さんを排除できなかったのかと恨みたくもなる。
最後に残った仕事は最上階。
結局秘書課への書類を届けられずにもたついていた。
「行かなきゃな」
自分に言い聞かせるようにつぶやく。
廊下の人目を避ける端っこでひそひそと響く小さな声。
背中を向けた女性社員が何やら男性と話してた。
何となくわかる意味深な関係。
視線をあわせないように通り過ぎる。
「おい君!」
「俺、あの子に用事があるから」とかけだしてきたのは以前小包を横取りされた過剰男だ。
置き去りにされた彼女に強気の視線を向けられた私はいい迷惑だ。
確か早瀬?早川?そんな名前。
名札を見たら早見だった。
私はなにも用事ない!
そのまま無視してコンテを押して歩きだす。
私の様子など気にしてないように並んできた。
足を速めても何らその調子は変わらない。
「君に頼みがあるんだけど」
「頼まれるようなことはありません」
これ以上まとわりつく男が増えたらたまんない。
「君・・・花沢物産の御曹司と付き合ってるんだろう?」
「あっ?」
驚いたまんまの顔で睨んでいた。
「どこからそれ?」
「花沢類君だっけ、うちの司ぼっちゃんとF4とか何とか言って有名だろう?」
「このビル内じゃ知らないやつはいないと思うけど」
「この前、君をこのビルまで迎えに来てたでしょう」
「見てたんですか?」
「結構目立っていたけど気がつかなかった?」
あのときは加川さんばかりに気を取られて何も考えてなかった。
確かに・・・
言われてみれば花沢類が目立たないはずはないんだ。
「だからって、なんで私が付き合ってると?」
「掃除のおばさん、なんでもよくしゃべってくれたよ」
「君、あの西田秘書の姪なんだろう」
加川さん、どこまで誰にしゃべってんだーーーーー。
最初の人選で西田さん、間違いを犯してくれたのではないだろうか。
道明寺にばれた今ではべつにどうでもいいことだけど。
私を脅すネタには弱すぎる。
「付き合いのある編集者が取材を申し入れてるみたいなんだけど断られるみたいでさ」
確かに花沢類が取材を受けるとは思えない。
のこりの3人は家業を告いでいるものだから宣伝がてらいろいろ受け入れてるみたいだけど。
なんといっても頻度が高いのは西門さんだ。
花沢類が雑誌に載ったのってそのほとんどが隠し撮りじゃなかったか?
「君から頼めない?」
「無理!」
速攻で返事をしてエレベーターに乗り込んだ。
パタンとしまった個室の中は私一人。
上昇するたびに気分は低下気味。
花沢類との噂が広まってる?
ぎゅあーーーーーーやばいよ。
折角落ち着きを取り戻してる道明寺にオイルと火を一緒に投げ入れた状態に陥りそうだ。
チンと開いたエレベーターの前に立ち並ぶダークスーツ軍団。
ど・・・うみょう・・・じ?
・・・
・・・・・
・・・・
お母様の方だった。
気がつけば9月も今日が最終日。
9月の総記事数55
一つの記事に2~3話書いているから・・・
計算すると100話越えてる?
頑張ったなぁ。
大体このペースで書いております。
いつまでもつのか・・・
明日からは10月。
早いですね。
そう思うのはやっぱり年のせいか・・・(^_^;)