第13話 愛してると言わせたい4

 *

-From 1 -

あくる朝、牧野の入院する病院へ車を向かわせる。

俺との事をすっかり忘れている牧野。

こわごわと他人を見るような表情。

俺に向けられていたやさしい温かな包み込む笑顔も感情もそこにはありはしない。

頼りきったまなざしは類へと向けられたもの。

俺が記憶を失っていた時、お前のことを類の彼女と言い放っていたんだよな。

今になって気がつくあの時の牧野の心の痛み。

二人の時間がすべて失われた感覚。

どうすれば取り戻せる?

牧野に会いたい、抱きしめたい思いは体中をひしめく。

迷惑そうに俺を見るあいつへの対応の仕方がわからずにその思いを押し込める。

情けねぇくらいに弱気になってしまう。

・・・ったく、俺らしくねぇ。

「会ってどう言えばいいんだ・・・」

つぶやく言葉はどうしようもできない心の叫び。

目の前に開く自動ドア。

牧野の病室は7階。

エレベーターに乗ってボタンを押す。

ゆっくり上がってくれてもいいんだが・・・

到着を告げる単純な音。

スーと開いたエレベーターから数歩踏み出す。

目の前に見える白い壁に向かって出たのはため息。

歩きながら牧野の病室を素通りしてしまってた。

牧野の病室から左に向きを変えて壁に背中を貼り付ける。

天井を見あげてまた一つ出るのはため息。

会わなきゃ先には進まない。

俺の記憶を失った時、あいつは俺になじられて来るなと何度言われても必死で耐えてくれたんだから、俺に出来ないはずはない。

「よし!」

右手を握りしめこぼすを作り気合を入れる。

牧野の部屋に向かおうと右に90度、身体の向きを戻す。

その視線の先に里井の文字。

すっかり忘れてた。

見舞ってやらなきゃな。

そう思わせたのは俺の弱気な心の部分。

まだ闘争心は最高値には達していないらしい。

里井の病室のドアを開ける。

頭に包帯を巻いて体には点滴の管。

全治三ヵ月とか言ってたもんな。

「坊ちゃん・・・すいません」

よわよわしい声。

起き上がろうとする里井に寝てろと声をかけた。

「申し訳ありませんでした。つくし様にまでけがを負わせて」

俺の声を無視してベットに体を起して頭を下げる。

「牧野の怪我は大したことないから心配するな」

記憶が抜け落ちてるのは最悪だけどな。

「会ってお詫びを・・・」

「おい、無理するな」

「どう見ても牧野よりお前のほうが重症だろうがぁ」

ベットから足を下ろそうとする里井に駆け寄って身体を支える。

「・・・ですが勤続30年、無事故で務めさせていただきましたのに・・・」

里井の勤続30年が始まると話が長いんだ。

「わかったから、もういいよ」

落ち着つくように言ってベットに寝かせた。

「坊ちゃんの大事なお方にけがを負わせてしまったのは不足の至り」

「本当に申し訳なく・・・」

サメザメと泣きだす始末。

どうすりゃいんだ。

今の状態じゃ里井を動かすわけにはいかない。

牧野を連れてきて里井に会わせればいいんだと考えが浮かぶ。

俺が里井のことを説明して牧野に会ってくれるように頼む。

あいつのことだこの申し出を断るようなことは絶対にない。

弱ってるやつを見捨てるようなことはできないやつだから。

ここで牧野のお人よしが利用できるとは思わなかった。

これなら俺も気兼ねなしに牧野に会える。

いい口実じゃねぇかぁ!?

我ながら名案。

里井、感謝!

抱きしめたい気分だ。

「里井、俺が牧野を連れてきてやるから」

「そんな、もったいない」

「遠慮するな、待ってろ」

後は里井を見もしないで病室を飛び出した。

錘から解放されたような身体の軽さ。

足の運びは速度を増しかけだしてしまってた。

牧野!待ってろーーーーッ。

 

-From 2 -

肩を道明寺に抱かれたまんま病室の中に入る。

ベットの上に横たわるのはうちのパパより年上っぽい叔父さん。

見おぼえなかった。

じっと見つめる叔父さんの視線。

それは私と道明寺に注がれている。

「ちょっと、ヤダ」

我慢できずに道明寺の腕を払いのけていた。

しまったという思いがふとよぎる。

叔父さん・・・里井さんだっけ?

変に思わなかったかな?

恋人の真似しなければならないのに無理だよーーーッ。

「相変わらず仲がよろしいですね」

ぬっ?

どう見ても私はさっき道明寺を毛嫌いした態度だぞ。

この叔父さんにはその様子が仲がいいと映るのだろうか?

さっきのような態度ならいつでもとれるのだけど。

「牧野を連れてきてやったぞ」

「坊ちゃん、ありがとうございます」

道明寺の手をとって頭をすりつけるように礼をいう里井さん。

「礼なんかいらねぇよ。それより早く治せ。お前が運転する車が一番安心できる」

そっぽを向いたままの道明寺の顔はなぜだか赤い。

意外にいいやつ?

ちょっと見なおした。

「つくし様申し訳ありませんでした」

いきなり振ってこられてあわてる私。

つくし様って突然呼ばれても自分のことだと認識するのに数秒の間が必要だった。

「私は大した傷じゃありませんでしたから、きょう退院できそうですし大丈夫です」と胸を張る。

「お前、今日退院なんて一言も言ってないじゃねぇか」

「別に言う必要ないでしょう!」

「本気で言ったのか?」

「だったらなによ!」

道明寺とにらみ合った瞬間にたらっと流れる顔の汗。

道明寺もごくりと唾を飲見込んだ。

ゆっくり、そっと二人同時に里井さんへと視線を移動させた。

「クーウッ」

里井さんが腕に両目を伏せて泣いている。

「俺たち喧嘩してねぇぞ仲いいからな」

あわてて道明寺が私を抱きしめる。

その中で何度も相槌を打つ私。

「いつものお二人が見れて幸せです」

なんだそれ?

安心したってなんなんのよーーーーッ。

私と道明寺ってどんな関係?

喧嘩して仲がいいなんて言われるなんてどうなってる。

頭の中は疑問符だらけ。

「里井さん、お大事にしてくださいね」

「それじゃ」

にっこり里井さんにほほ笑んで踵を返す。

「帰る」

一言だけ道明寺に言って病室を出て行く。

「おい待て!」

追いかけてくる道明寺を無視するように大股で歩いてた。

続きは愛してると言わせたい5

ヒョウタンから駒』的な発想で司の計画は始まった。

この後どうするかの筋書きは出来ているのか!

そんな思案出来るのかぁぁぁぁぁ。

司がんばれぇ!