第13話 愛してると言わせたい 5

 *

-From 1 -

「おい待てよ」

牧野の背中を追いかける。

こんなこと今までも結構あったよな。

牧野の腕をつかんで立ち止まらせたのは牧野の病室のドアの前だった。

「もう、用事は済んだでしょう」

迷惑そうな表情を見せる牧野。

そんな顔が見たいわけじゃない。

それでも抱きしめたくなる衝動は抑えきれなくて思わずつかんだ腕をそのまま自分の身体へと引き寄せた。

牧野の触れる皮膚の温かい感触は何ら今までと変わることはなくてもっと強く抱きしめたくなる。

それを拒ませたのは俺の強引さ。

両手を突っ張って「何すんの!」と叫ばれた。

「バカ、暴れんなッ」

「バカはあんたでしょう!」

その反動で開きかけていた病室のドアを押し開いて病室の中に二人倒れこんでしまってた。

「うっ・・・」

こもるような牧野の声が聞こえる。

唇の先に柔らかい感触。

触れ合っていたのは牧野の唇。

けがしてるはずの腕で思い切り身体を押されてた。

「何すんのよ!」

「不可抗力、わざとじゃねぇ!」

俺を睨んだままみるみる耳まで真っ赤になっていく牧野。

「ファーストキスだったんだから・・・」

蚊の泣くような・・・

消え入りそうな・・・声。

瞳だけはいっぱいいっぱいに強がって俺を見ている。

こいつ、静のパーティーでのことも忘れているのか。

あん時も突発的なキスだった。

記憶なくしてても俺たちの始まりは繰り返されている。

無性におかしくて・・・

嬉しくて・・・

思わず声を出して笑ってた。

「何笑ってんのッ」

非難気味に牧野がつぶやく。

「俺たちらしいなと思った」

「なにがよ」

「なんでもねぇ」

あのときみたいに傍観者がいないだけでもましだぞ。

類に、あきらに総二郎、みんなの前でこれと同じ状況があったと知ったら牧野はどんなばか面を見せるんだろう。

それより・・・

俺とお前はキス以上のもん経験済みなんだけどな。

今は言えねぇ。

一つ牧野に近づいた気がして頬が緩む。

「イタッ」

今頃痛めた手のことを思い出したようで牧野が顔をしかめる。

「大丈夫か?」

「無理すんな」

差し出した腕を無視するように牧野が立ち上がりベットの端に腰を下ろした。

頬は膨れたまんまだが顔は心なしかまだか赤い。

俺を拒否する仕草もなんでもないような気になってきた。

またここから始めよう。

 *

-From 2 -

やだーーーーー。

なんでこんなに心臓が踊ってるんだろう。

心配そうに手を差し出して私を覗き込む道明寺の瞳が優しくてドキリとした。

キスのせい・・・?

視線を合わすことなどできなくて床を睨みつけるように見つめてた。

時折見せる道明寺の雰囲気は穏やかであったかくて私の知っている道明寺じゃないと認識してしまう。

見せかけでない優しさ・・・

私の知っている道明寺にはなかったよね。

赤札を貼っていじめられてるのをふんぞり返って喜んで見ていた姿は嘘のようで・・・

信じられなくて・・・

そしてまた私は気の強い態度をとってしまってる。

私のほうが子供だ。

誰が何と言おうと私は16才なんだからしょうがないと思いなおした。

「つくし、迎えに来たわよ」

「あら、道明寺さん来てくれてたんですか」

ママの声色が1オクターブ上がった。

「それじゃ、私はお邪魔かしら」

言葉の後ろにハートマークついてないか?

そんな気の使い方してもらっても困るーーーッの。

「ママ、一緒に帰るから」

早口に言って焦っている私をどう勘違いしたのか、「野暮は言わなくていいから」ってママが目配せ。

「2,3日道明寺さんい面倒見てもらった方がいいかもしれませんね」

「何、言ってんの!」

素っ頓狂に声が震える。

「腕をけがしてるからうちより道明寺さんお屋敷のほうが面倒見てもらえそうじゃない」

「いまさら照れることでもないでしょう」

そういうママのほうが真っ赤になっている。

そのままスキップして出ていくママ。

病室には突きはなされた茫然自失の私が取り残された。

「しっかり治るまで責任もって面倒見ます」

「交通事故にあわせたのは俺の責任ですから」

もっともらしい理由・・・

つけるなーーーッ。

ママの背中に向かって頭を軽く下げる道明寺はやけに喜々としている。

面倒見なくていいーーー。

言いたい言葉は喉の奥に絡まって言葉にならない。

息ができずに酸欠状態になりそうだ。

「しょうがないからうちに来い」

困った顔なんか全然してなくてにんまりしてるじゃないかぁぁぁ。

「ヤダ、帰る」

「まて」

私の腕をつかんだ道明寺の顔は真剣で威圧感まで漂っている。

「お前は記憶をなくしたままでいいのか?」

記憶をなくした感じははっきりとしない。

このままでも過ごしていけそうな気分。

今のところ道明寺が側にいることの方が問題だ。

「俺はお前に嫌われたまんまじゃ夜も眠れない」

「一緒にいれば思い出すものがあるかもしれないだろう」

道明寺からしたらそうなのか?

私はこ・・んやくしゃ・・・なのだそうだから。

自分で言ってる先から信じられないよ~。

切なそうな愁いを帯びた熱い瞳で見つめられて納得しそうな自分がいる。

「道明寺の屋敷なら私一人ぐらい泊る部屋にいっぱいあるか」

なんで知ってんだ?

かすかに残る記憶の片隅。

「牧野、お前うちで使用人したことあるんだぞ」

そのにんまりとした思いだし笑いはやめてほしい。

「襲ったりしたらすぐに帰るからね」

「お前こそ人の寝込み襲うなよ」

結局、なぜか必然的に?道明寺と一緒に帰る羽目になってしまってた。

それも道明寺のお屋敷へ・・・。

「同棲みたいだなぁ」

同居だーーーーぁ。

照れ笑いを浮かべる道明寺の顔に一発パンチを繰り出してしまってた。

続きは愛してると言わせたい6

焦らずゆっくりとだぞ!司♪

拍手コメント御礼

nanako様

UP後すぐでしたよ(笑)

早いなぁ~。

いいことがありますように、。幸運を♪

こう様

最初は私も切なくなるかなと思っていたのですがなぜかこちらの方向に進んでいます。

楽しんでもらえてるようでうれしいですね。

ささ様

二人なら同じ愛の軌跡をたどる奇跡ありそうですよね。