第13話 愛してると言わせたい 6

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-From 1 -

「お帰りなさいませ」

出迎えの使用人たちが挨拶もそこそこに牧野を取り囲む。

「心配しました」

「元気そうで」

口々に言って牧野の姿に心からの安堵の表情。

戸惑ってるのは牧野本人ばかり。

この屋敷では俺より牧野のほうが好かれてる。

牧野が来ると俺が機嫌がいいから楽なのだとタマが言っていた。

昔ほどは暴れてねぇぞ俺。

「坊ちゃん・・・」

使用人の一人に耳打ちされて俺の歩く1歩が大きくなった。

足音も大きくこだまする。

「ちょっと待ってよ」

後ろで不機嫌そうな牧野の声が聞こえた。

パタパタと俺を追いかけるせわしい足音。

このまま追いかけさせるのも悪くねぇ。

問題はそんなことじゃないと頭の中から牧野を追い出す。

完全に追い出すのは無理だけどまずはあいつらだ。

俺の部屋のドアを勢いよく開ける。

「なんでお前らがいるんだッ!」

「あっ牧野がいる!」

目ざとく俺の後ろから息切らしてついてきた牧野に視線を向けたのはあきら。

「記憶戻ったのか?」

牧野から俺に視線を移して総二郎がつぶやく。

「そうじゃねぇよ」

ふてくされるように返事した。

「それじゃ、無理やり連れてきたとか?」

温和な口調には合わない類の言葉。

「そんなわけねぇだろう」

「無理やりみたいなもんでしょう」

俺の横でハーハーと乱れた息を整えながら牧野は足をとめた。

「ちげーだろう、お前のおふくろさんが面倒見てくれって頼んだんだろうが」

こいつらが変な勘違いするだろうがぁぁぁぁぁ。

昨日も散々こいつらには言われたんだぞ!

あせるな!

切れるな!

暴れるな!

優しく!

落ち着け!

「そうすれば夜明けは近い!」

ホントかよ。

「牧野のおふくろさん知らないんだ、牧野の記憶のこと」

冷静な分析をみせる類。

「ああ、俺の屋敷のほうが牧野の面倒見れるだろうからって」

「こいつの怪我は俺にも責任があるし・・・」

なに言い訳がましく言ってるのか。

総二郎!あきら!にんまりするんじゃねぇッ!

下心なんてねぇからな!

言葉の代わりに二人をにらみつける。

下心なんて叫んだら完全に牧野に警戒されると思ったからだ。

「牧野、よく納得したね」

「自分でもよくわかんないんだけど」

牧野に鼻先がくっつくぐらいに類が顔を寄せる。

牧野!頬染めんじゃねぇよ。

「こら、類!牧野を見んな!」

類からさえぎるように牧野を腕の中へ囲い込む。

「何すんの」

「イテッ」

思い切り足を踏んだ牧野は類の背中に隠れるように逃げ込んだ。

痛みに耐えられす座り込む俺。

「牧野が記憶をなくしてもお前らの関係変わんねぇな」

「牧野の防衛本能健在じゃねぇの」

口元に笑いを浮かべて・・・

そのあとに、くさびが外れたように腹を抱えて総二郎とあきらが笑いだす。

いい加減に笑いを止めろーーーーッ。

類まで「クス」と笑いやがった。

-From 2 -

「ねえ、猫いないの?」

「「「猫!」」」

声を上げたのは俺ではなく類達3人組み。

ピタッと笑いが止まった。

「病院でタマとか言ってたでしょう?」

「「「「タマ!」」」」

さすがにここは4人で声が揃って裏返る。

「タマが猫って勘違いする牧野も牧野だけど、司なにしゃべったの?」

笑いをこらえるように総二郎が俺の肩にトンと手を置く。

「俺はなにも言ってないぞ」

「牧野はタマのことも覚えてないわけだ」

類!牧野にほほ笑みかけるなッ。

類のもとに行きそうになる俺をあきらが押しとどめる。

「なんだ、離せ」

「類の後ろに逃げ込んでる牧野を無理やり引き離すのは無謀だと思うけど」

小声で耳元に囁かれて足を止める。

「わかったから離せ」

あきらの手を振りほどいてギュッと両手でこぶしを作る。

タマのことを一からこいつに説明する羽目になるとは思わなかった。

「じゃあ、私がここで使用人のバイトやっていたのホントなんだ」

相変わらず類の後ろから出てこない牧野。

見たくないからソファーに座って顔を横に向ける。

以前の俺ならこいつらさっさと追い出して、類に殴りかかってるところだ。

それができないのは牧野が時々俺に向ける非難気味の瞳。

そんな目で見られたことないよな。

口ではぎゃぎゃぁ言いあって怒っても、困っても、優しい光をお前は宿してくれていた。

それがないことに気がついて、そして悲しくなる。

俺・・・いつまで我慢すればいい?

我慢できるのだろうか・・・。

切ない思いがあふれ出て耐えられなくなりそうだ。

やっぱ、隣でお前がやさしくほほ笑みかけてくれなければ落ちつかねぇ。

この中で俺だけが異物みたいに感じてしまう。

情けないくらいにだらしない。

「なあ、タマに会えば何か思い出すかもしんねぞ?」

あきらが俺の横でつぶやく。

「牧野の記憶のこと知ったらびっくりして心臓発作を起こすんじゃねぇ」

「そんなタマかッ」

「おっ!司がまともに洒落を言ったぞ」

洒落じゃねぇよ、総二郎。

こいつらが俺の落ち込み様を心配しているのはわかる。

軽い口調も、俺をからかうような仕草もすべては俺の気を紛らわせるため。

大丈夫だと言われているようで苦笑する。

俺の気分変動半端じゃねぇぞ。

喜んだり、落ち込んだり・・・。

それがすべて牧野中心で、俺の心は乱れっぱなし。

タマに頼むか。

一緒にいれば牧野の気も和むかもしれない。

暗闇で見出した一筋の光。

そんな気がしてきた。

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