第13話 愛してると言わせたい 25

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-From 1 -

こっそり、そ~っと足音を忍ばせる。

まるで泥棒にでもなった心境。

それは屋敷に私よりも先に道明寺が帰って来てると聞いたから。

大学から家族のいる家に帰るつもりだったのに大学の前に横付けされた運転手つき道明寺邸直通の高級車。

「一緒に来ていただけないと私が叱られます」

どうしても断れない私。

人がよすぎないか?

仕方なく乗り込んだ車の運転手席からは安堵のため息とうれしそうな「ありがとうございます」の感謝の言葉。

屋敷について開けられる後部席のドア。

運転手を筆頭に左右に並ぶ使用人さんの列。

「お帰りなさいませ」

音符付きで迎えられている。

この様子じゃもうしばらくはここに滞在決定かと肩を落として歩く。

「坊ちゃんは先ほど帰られてつくし様のお帰りを待ってらっしゃいます」

頭を深々と上げて告げらたのは見覚えのある男性。

道明寺につき従うSPの一人。

「どうにか会わずにすむ方法はない?」

困った様な顔で左右に顔を振られてしまった。

別に道明寺と会ったって大したことないはずなのに、記憶が思い出せない事が躊躇させる。

記憶をすべて思い出して会いたい想い。

淋しく笑うあいつの顔がたまらなく悲ししい気分に私をさせる。

まずは気付かれないように自分の部屋に行く。

あとはそれから考えよう。

一歩一歩踏みしめるように歩幅を進める。

道明寺の部屋の手前5メートルで右に進路をとる。

甘かった・・・。

私の部屋の前で腕組み状態で待ち構える道明寺。

しっかりと目が合った。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ」

叫んだ口を慌てて両手で塞ぎ180度に方向転換

「人を化け物みたいに驚きやがって」

頭の上から響く声。

化け物の方が怖くないかも・・・。

「怯える様な事はまだしてねえぞ」

まだって・・・

何かするつもり!?

思わず首だけ後ろに回して見あげてた。

すーっと伸びた鼻筋。

鼻毛でも出てれば笑ってやるのに。

完璧なバーツ。

弾力のある頬が優しくほほ笑む。

漆黒に輝く瞳。

力強く魅了する輝きを放つ。

見惚れそうになった。

「大学どうだった?何か思い出したか?」

不安の色合いを含む音色。

覗き込む瞳が心配そうに潤む。

「えっ?あっ?記憶ねッ」

素っ頓狂に震える声。

「友達に会ったけどその友達のこと覚えてないの」

「俺のこと覚えてないくて、そいつのこと覚えてたら気にくわねぇよ」

その友達が男性だとは言えない状況と判断して後は口を閉ざした。

「類に会っただろう?」

「類!類って、花沢類?」

半オクターブ上がる声、それも頭の先から抜けていくみたいな声。

「他にいるのかよ。類って知りあい?」

訝しげな視線をじろりと向けられる。

「いるわけないよね。いない!」

完全に焦って挙動不審気味になってしまってる。

「大学で花沢類に会ったからびっくりしちゃった」

わざとらしい言い訳。

「牧野が大学で男と二人でいた」

「司が知ったらどうするだろうね」

頭の中に浮かんでいるのは、意地悪だった花沢類。

「大学案内してもらったんだけどね、やっぱ、全然覚えてなかったわ」

「ハハハハッハァ~」

作り笑いから溜息が洩れた。

 *

-From 2-

定まらない視線。

俺と眼が合わないように完全に泳いでる。

何事にも負けない生命力を宿した大きな瞳。

キュッと引き締まった口元。

意思の強さは筋金入りだよな。

いつもだと・・・・・。

完全に挙動不審じゃねぇか。

お前の変化だとなぜこんなにすぐわかっちまうんだろう。

天真爛漫にわらうお前がみたいだけなんだ。

他人の感情も態度も俺中心で回ってるはずなのにお前だけは例外で、俺の頭の中では牧野が中心で考えてしまってる。

馬鹿とか・・・

わがままとか・・・

意地っ張り。

俺に言わせれば全部お前のことだ。

「・・・ごめん。思いだせなくて・・・」

悲しげな表情が長い睫毛をそっと伏せる。

今にも泣かれそうな感覚。

「お前、なんか悪いもんでも食べたんじゃねぇの」

泣かれたらどうする?

いつもみたいに俺の悪口言って強気で攻めるお前の方が対処しやすい。

わざとこいつを怒らせようと躍起になる俺。

俺の方が牧野を見れなくなっている。

「道明寺が時々、つらそうな表情で私を見るから・・・」

「さっき何か思い出したかって聞いた時も・・・」

「悲しませてごめん」

俺・・・そんな辛そうにしてたか?

つらいのは記憶を忘れてる牧野の方じゃないのか?

自分のことより相手のことを思いやるのは理屈じゃねぇこいつの性格。

忘れてた。

「俺のことは気にするな。側でお前を感じるだけで幸せなんだから」

抱き寄せるために牧野に回した腕。

そして、包み込むように抱きしめた。

素直にコツンと俺の胸の中に落ちる顔。

黒髪を梳く様に上下する指先。

シャンプーの香りに包まれながらその中にキスを落とした。

「もう、俺のこと嫌いじゃねぇだろう?」

牧野を抱きしめた指先は密着度を高めようと移動する。

どこにも置き場がないように下にだらんとぶら下がった牧野の両方の腕。

その腕が遠慮がちに移動して俺の背中を包み込んだ。

お互いに抱きしめあえたのってこいつが記憶をなくしてから初めてのことだ。

牧野が俺を受け入れた。

そう思った瞬間にどうしようもなく湧き上がる愛しさ。

止めようがなくなった。

「・・・好き」

わずかな沈黙は迷いじゃなくて決心した心だとでも言う様に俺を見つめてる。

お前は俺を喜ばせる天才だ。

たとえ記憶をなくしてても。

あふれだすうれしさをそのまま押し付ける様にもう一度抱きしめた。

拍手コメント返礼

ルール様

携帯からの訪問ありがとうございます。

基本的には楽しいお話が主体なので、どんなにトラブルがあっても最後はハッピーを期待してもらっていいですよ。

さあ次のお話の準備もしなくっちゃ♪