甲斐君のつぶやき Ⅱ ( watcher12)

このお話は香音(カノン)様のリクエストにお応えした watcher12の番外編のお話です。

ご希望に添いまして玲子さんの尻に敷かれてる設定にさせていただきました。

 *

午前11時外出から戻るところを数人に呼び止められる。

ここ数年なじみの顔ぶれ。

最初は支社の社長、次に常務、その後ろから現れたのは事業部の部長。

いつもなら肩張って颯爽と歩く幹部クラス。

これが日によって入れかわる。

御蔭で覚えなくてもいい次長クラスの名簿が俺の頭の中に植え込まれた。

この原因は『道明寺つくし』

俺の部下であって、雇い主の奥方と言う厄介な立場の年下のかわいい妹みたいな存在。

それは初めて会ったときから変わらない。

「甲斐君、今日は変わりないか?」

「変わりないですよ」

ため息交じりに返事を返す作業が社内で当たり前の様に繰り返される。

今では周りで聞き耳をたたておすそ分けを狙ってる社員の姿も常識化されている。

どんだけ影響力持ってんだ俺の妹分。

どうせなら電子掲示板でもつけて時間帯単位で警戒度の%を流した方がましだと本気で考えた。

『奥さまの機嫌が悪けりゃ代表に近づくな』

確認するために利用される俺。

その頻度はつくしちゃんが出産して産休復帰するたびに増大している気がした。

そして今日も聞かれる「奥さまの機嫌はどうかな?」

俺に聞くより率直に代表の顔色を見た方がいいと思うのだが「心構えが違う」と言われれば納得してしまう。

二人がけんかした後の代表の周りは100万ボルトの電流放出状態。

言葉を発しただけで感電死しそうでヤバイ。

最近のつくしちゃんは元気がないがなぜか代表はすこぶる機嫌がよさそうだ。

氷室物産のややこしい相続の件は俺も聞いている。

少しばかり松岡公平に頼みごとをしたことも聞かされた。

「それ代表は知ってるの?」

「内緒にしてるに決まってますよ」

困惑気味の顔は不安の表れ。

つくしちゃんに内緒ごとは俺は無理だと思う。

きっと松岡の事を隠すために道明寺の屋敷に帰れば気を張ってるんだろうとなんとなくわかる。

必要以上に気を使うつくしちゃんに代表は気分を損ねるはずがない。

「ばれないことを祈ってる」

本気でエールを送る。

・・・が。

今朝は少々違ってた。

出社したつくしちゃんは久しぶりに憤慨して興奮気味。

「あのバカ、人をだましてたんですよ!」

「公平まで巻き込んでッ!」

ガタンと大きく音を立てるデスク。

バカって・・・ここはどう考えても代表の事だよな?

氷室物産の会長宅でのやり取りを一部始終聞かされた。

敵をあぶり出すために松岡を孫娘の結婚相手にしたてて利用した。

つくしちゃんの行動も代表は把握済み。

さすがになかなかのやり手だと俺は代表に1票。

今日は代表に近づかない方がいいと返事をするしかなさそうだ。

会議で怒鳴りちらす代表の姿が浮かぶ。

これで数億無駄になるかもって上層部は頭を抱えるかもしれない。

ドタドダと床を突き破る様な足音。

ドアを蹴破るような勢いで明け放たれたドア。

息を切らせた現れたのは代表その人。

ドアが壊れなかったのが不思議だ。

「つ・・・つくし」

肩で息をして途切れる息使いから声が漏れる。

「なに考えてるんだ」

息が整った時点ですごみのある声が響く。

「これ、なんだッ」

右手に握られてるのはぐちゃぐちゃにしか見えない紙。

「なにって、実家に帰るッて書きおき」

「帰らせるか」

「帰るもん」

「だめだ」

「ヤダ」

にらみ合って極限まで近づく二人の顔。

あの・・・・

その・・・

なんだ・・・

夫婦喧嘩は家でやってくれ。

心の中でつぶやきながらじっと穏便に収まるようにと見つめてる。

そして代表の腕の中につくしちゃんが収まった。

「放してッ」

「帰らないって言ったら離す」

完全にスッポリと抗うこともできずに胸の中に抱き寄せられてしまってる。

俺・・・

ここにいて大丈夫か?

全然俺のこと気にしてないし・・・。

デスクを挟んで俺と目が合った玲子さんは気にするなって視線で合図してきた。

「謝ってくれたら許す」

小さく聞こえた声は完全許しているように俺には聞こえる。

「スマン」

代表がしかめっつらのままぼそっとつぶやいた。

「心がこもってない」

「悪かった」

代表の背中にスッポリとつくしちゃんは姿を隠す。

好きにやってくれ。

アホくさ。

落ち着きを取り戻した代表は「一緒に帰るからな」と言い残して出て行った。

「孝太郎、ボケ~としないの」

「仕事が終わるのが遅かった方が食事の準備ね」

「今日は玲子さんの番じゃないですか」

不満げに呟く俺。

なぜか冗談みたいに玲子さんと結婚したのは3年前。

序列の差はそのまま結婚生活にも反映されている。

「相変わらず尻に敷かれてますね」

つくしちゃんのところほどじゃねぇよ。

けど・・・

「代表のお気持ち、よくわかります・・・」

心の中で呟いて自分を慰めた。

香音様

コメントからこのように仕上げさせてもらいました。

いかがでしょうか?

確かに甲斐君と玲子さんもなかなかお似合いの様な気がしてきたから不思議です。

二人の結婚までのいきさつも思わず想像してしまった私です。(>_<)

拍手コメント返礼

b-moka

またまた横道にそれそうですが、お付き合いくださり感謝です♪

しっかりと新しいお話をUPしてますので~。

しっかり尻に敷かれるタイプの男性しか書けない気がしてきました。