下弦の月が浮かぶ夜43
*「・・・アッ、帰ってたんだ」
リビングのドアを開けて一歩足を踏み入れたところで葵の動きが止まった。
ホンノリと赤く色づいてる頬。
俺を見たせいじゃなくアルコールの所為だと分かるうつろがかった瞳。
「友達と飲んでたんだ」
「あの後すごい騒ぎでね。社長が女性と腕組んでビル内を歩いてた。あれはただの間柄じゃないなんて」
なにも言わない俺に一気に喋って最後にフーッと長い息を吐いた。
腕組んで歩いてねーし。
ただじゃない間柄は昔の事。
今さらよりを戻すつもりは毛頭ない。
「やっぱり社長と葵の事は誤解だったんだねってお詫びにって総務の仲間に誘われちゃった」
「その後にすぐにこのマンションには帰れないから、電車で一駅乗って降りて・・・」
「遠回りしたから帰る時間が遅くなちゃった」
聞いてもいないのに勝手にぺらぺらと葵が喋る。
いつもより饒舌なのはアルコールのせいなのだろうか。
いい訳されてるみたいな感覚。
素直に聞き入れられない感情。
「どうぞあの女性と仲良くしてくださいッ」
深々と膝に頭をつけるくらいのお辞儀。
「何でもないからな」
ソファーから立ちあがって葵の肩を起こす様に手をかけた。
「・・・えっ?そうなの?」
純粋な瞳の中に映る俺。
真面目な顔が見えた。
「一緒に住んでる間はお前に操は立てる。他の女に手はださない」
だからお前も・・・言いたかった言葉は心の奥に呑み込んだ。
お前も俺以外に目をくれるな。
これじゃ告白だ。
俺・・・こいつに惹かれてる?
爺様の思惑通り?
いや・・・そこまでは惚れこんでない。
何度も打ち消してまた浮かぶ想い。
自分じゃ分かんなくなりそうだ。
「お風呂・・・行ってくるから」
何の反応も見せずに葵がニコッと笑って俺の手から離れた。
「酔っ払ってフロって溺れても知らないぞ」
「溺れる訳ない」
尖らせた口元はすぐにクスッとした笑いを作って葵は部屋の片隅へと消えていく。
あいつ・・・俺の事どう思ってんだ?
予想できない反応。
俺が他の女と一緒にいてもどうとも思わないのだろうか?
さっきの『仲良く』って本心か?
俺が嫉妬してほしいって思ってるみたいじゃないか。
どれだけの時間考えても結果が見えなかった。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・?
風呂場からなんの気配も聞こえて来ない違和感。
あれから30分は経ってると時計を確認する。
リビングから出て浴室のドアに耳をあてた。
水音も人の動きも確認できず明かりだけがガラス越しに見える。
「おい、大丈夫か?」
返事もなく静まったままの個室。
ドアノブをゆっくりまわすと開いたドア。
湯気の向こうでバスタブの中に見える影。
「おい」
反応がないままに風呂場に飛び込んだ。
バスタブから床につくように伸びた片腕。
その先に頭が乗っかって、閉じられたまぶた。
「おい!こら!」
お湯に濡れるのもお構いなしに上半身を湯船から出す様に抱きあげる。
「・・・ネムッ・・・」
言ったままニンマリとなる葵の表情。
「この酔っ払いッ!」
バスロブを取って葵の裸体にかけて今度はしっかり抱きあげた。
「見てねえからな」
目をつぶって身体をふきあげるって、なにを遠慮してるのか。
自分でもバカげた行動に苦笑する。
脱がせるのは得意だけど着せるってめんどくさい。
なんとか仕上げてベットに寝かせた。
朝・・・気がついたら葵はどんな反応するんだろう?
つーかどこまで記憶が残ってるのか。
それも楽しみだ。
「いい夢を見ろ」
呟きながらそっと葵の部屋のドアを閉めた。
この後の展開は?
大体の見当はついてることと思いますが・・・
朝、目覚めた葵ちゃんの反応次第♪
拍手コメント返礼
きんた様
葵に振り回されている自覚のないあきらが書きたいんですよね。
もう少し調子の狂わされるあきらを見たい思っています。
匿名様
問題は翌朝の展開ですよね♪