ごめん それでも愛してる 6
*エレベータの中で振りほどかれた腕はあいつの手に触れることが出来ずに拳を作る。
俺が渡したバックを胸元にギュっと抱いて唇をかみしめる葵。
開いたドアから俺を振り返ることなくすぐさま葵が降りる。
「はーぁ」ため息をついたままコツンとエレーベーターの壁に頭をつけてもたれかかった。
部屋に戻ってどうするのだろう。
閉まりかけたドアに慌ててエレベーターから飛び出した。
数歩前を歩く葵。
俺がエレベータから降りるのは待っていてくれた様子に少しホッとしている。
こんな事を喜ぶんなんて初恋みたいな純な感情は忘れてた。
・・・て、俺の初恋いつだ?
気がついたら女を知ってたような気がする。
本当の恋が初恋ならばきっと葵が俺の初恋なのだろう。
「仕事が残ってるんですか?」
執務室で向かい合う俺達二人。
「いや・・・」
仕事なんてとっくに終わってる。
「じゃあ、帰ります」
「帰るって、あいつとか?」
「えっ?」
「食事に誘われていただろう」
「聞いてたの?」
「聞こえたんだ」
あいつが葵を待ってるとは思えないのに問いただしている。
「断るつもりだった」の言葉が葵から聞きたいだけ。
「関係ないでしょう」
「俺には関係ないわけ?」
自分だって!強気な目は非難するように俺を睨む。
ゆっくりと葵に近づくように歩く。
「な、なに?」
後ずさり気味の葵の動きはデスクに遮られて止まった。
「そんな、怖い顔するな」
「俺が悪かった。軽率だった。謝る」
「えっ?」
もう二度としない!近づかない!
並べるだけの言葉を並べる俺。
平謝りってこんなもんか?
謝られるのは慣れてんだけど、この部屋に他に人がいたら絶対やらないぞ。
拍子抜けした顔が目の前に浮かんだ。
「そこまで謝ってもらわなくても・・・いいんだけど」
「もういい、忘れた」
思い切り吐き捨てるように言って上下する肩。
「あなたがモテるのは知っている」
「でも、私以外にやさしくするのはヤダ」
やっと葵が照れくさそうに笑みを浮かべた。
「俺も男に言い寄られてるお前見てすげームカついたんだけど」
「先輩は関係ないでしょう」
俺にはお前を口説いてる様にしか見えなかった。
「案外、モテルのかもなお前」
「えっ?」
俺が惚れたし・・・
「消毒してくれないか?」
葵の唇の前すれすれに唇を寄せる。
唇を突き出す様に動いて柔らかい感触はすぐに離れる。
その唇を追いかけるよう俺が動いて唇をまた塞ぐ。
ようやく自分の調子をとりもどした。