下弦の月が浮かぶ夜 46
*「俺、本気だから。ゆっくりでいいから俺の事を考えてくれ」
抱きしめられたまま耳元に響く声。
確かにそう言われた。
頭がぼーっとして言葉が出てこない。
思考が止まる状態って本当にあるんだと実感した。
「今日は休んでろ。一之瀬にはうまく言っといてやる」
「大丈夫、出勤します」
熱くなる気持ちが数度冷却。
二日酔いで休むなんて恥の上塗りにしかならない。
「一緒に出勤するか?」
んな事出来る訳がない。
それこそ噂の再燃!勃発!今度は私が襲ったことにはならないだろうけど・・・。
無理やり車に押し込んだとか・・・
押しかけたとか・・・
昨日の女性への嫌がらせとか?
自分のマイナスの事しか頭に浮かばないってやっぱり頭がおかしくなってる。
「無理に決まってます」
必要以上に力を入れて声を上げる。
御蔭で最後は少し声が上ずった。
「俺はうれしいけどな」
くすぐったくなるくらいのやさしい声。
変な噂はうれしくないぞ。
熱愛とかなら良いけど・・・。
昨日の同僚の様子じゃ一発で失笑されるに決まってる。
それって熱愛がうれしいとか思ってるみたいだよ私。
錯覚だ!と、自分に言い聞かせる。
落ち着け!葵!
久しぶりのキスに舞い上がってるだけだ。
突然の事で拒めなかっただけ。
そこに愛があるのか?
キスが嫌だった訳じゃなかった様な気がする・・・。
この時点で完全に崩れてると気付くべきだった。
まだ抱き寄せられている状態は互いの体温を意識するには十分で・・・。
落ち着かない。
「お前との関係ばらしてもいい気分だ」
今度は悪戯っぽく笑いを浮かべる。
関係って・・・
キスしたこと・・・
やけに艶かしく唇が見える。
ウッ・・・
灰になるんじゃないかと思うくらい体中に火がついた。
キスくらいの経験はあるし・・・
初めてじゃないし・・・
触れるくらいの軽めのキス。
どうてことないはずなのに心音は収まらない。
腕の中から逃げようと身体を左右に振った瞬間もう一度抱きしめられた。
「・・・離してく・・だ・・・」
重なった唇はただ触れるだけじゃなくって・・・
わずかに開い唇から抵抗することも出来ずに舌先の侵入を簡単に許してしまった。
「ん、・・・んっ」
口の中をくまなくまさぐられる感覚は嫌悪感でも不快感でもなくむしろとろけるような感覚で・・・
このままじゃヤバイ・・・。
なすがままでどうにもなりなくなりそうだ。
目の前の胸を押し返そうとしても腕に力が入らない。
離れた口元から絶え絶えに息が洩れる。
息もするのも忘れた。
「そんな顔、俺以外に見せるなよ」
余裕を見せるあいつに全く余裕のない私。
「けっ結婚前にこんなことするなんて・・・」
一瞬の間の後、あいつはおかしそうに声を上げてわらった。
「今時、珍しいな・・・。結婚前にキスもさせてもらえないのか?」
確かに・・・
自分でもバカなことを言ってると自覚した。
「先に行く」
「えっ?」
「今日は出社前に寄るところがるから、お前は気をつけて行けよ」
エプロンを脱いでネクタイ締めてスーツを着こなす彼はとてもさわやかに見える。
この人に告白されたんだよな・・・私。
見送りながら何の返事もしてないことに気がついた。
間抜けだ。
「たぶん、私も好きみたい」
あいつの出て行った玄関のドアに向かって残像を思い浮かべながらつぶやいた。
拍手コメント返礼
hanairo様
は~い、やっとここまできました。(>_<)
でもここからなんですよ。どこかで区切りをつけないと・・・
やばいです。
匿名様
アキラと、滋とか桜子の組み合わせなんてつまらまいもの。
そう言っていただけるとノッてきますね。
これ以上ノッてしまうと隊へなことになるかも知れませんが見捨てずにお願いたします。