秘書西田の坊ちゃん観察日記 44 (IF 番外編)

yuminn様のリクエストにお答えして、「俺、本気でつくしちゃんが欲しいんだけど」の社員の言葉に司の代わりに動揺を見せた西田さんとつぶやきを一つ♪

IF4の番外編となります。

それでは続きからどうぞ

*

立ち聞きなど行儀が悪い。

楓様が傍に居たらきっと顔をしかめるに違いない。

違う意味でも・・・。

突然代表が立ち止まったのは予定がないと告げた直後。

「やっとお前の顔を見ずに済むわけだ」

代表の戯言もこの後に会えるはずのつくし様のことを考えてか、機嫌がいい。

「久しぶりにつくし様に会えますね」

「あいつはバイトだろ」

バイトが終わるのを待ってつくし様を迎えに行って驚かす魂胆。

そんな子供じみたことを考えてる坊ちゃんが私は好きなんです。

「なに、ニヤついてるんですか?」

「ニヤついてねェよ」

照れくさそうに変わる表情を強気な口調で誤魔化しても駄目です。

もう、心は会社じゃなくつくし様に向ってるのが良くわかります。

出張の合間は見れなかった柔らかな表情。

緊張を解くのが早すぎですよ。

「ねぇ、今日の新人歓迎会またここなの?」

「ごめん、ここ気に入ってんだよ」

「ばーか、気に入ってるのはここの女の子だろ」

「こいつ、ひとめぼれして週に3回は通ってるんだから付きあってやってよ」

聞こえてきた会話に気が付いた代表が珍しく足元に落ちてきた白い紙を拾い上げた。

総務部 新人歓迎会。

場所  居酒屋 ドッカン

大きな印字は流石に私でも読めました。

何かに気が付いたような代表の視線。

言いたいことは分ります。

そうですよ。その居酒屋ドッカンでただいまつくし様はバイト中です。

「部署の歓迎会にさ、代表が来てくれたら盛り上がるだろうね」

「キャー夢みたいなこと言わないでよね」

「そしたら代表の隣に座る席の争奪戦からすごいだろうね」

「げーーーッ、俺は緊張でビールも飲めなくなりそうだ」

この手の話題は聞き流すに限る。

早く代表をこの場から連れ去りたい。

どこで代表が「牧野にバイトなんてさせるか」という気持ちに変わるか分ったものじゃないと思う気苦労が私にはある。

「代表・・・」

言いかけた時に「俺はどっちでもいい。つくしちゃんに会えるだけで幸せなんだ」と聞こえた声。

敏感な反応を代表が見せたのは言うまでもない。

「誰?そのつくしちゃんって?」

「こいつが気に入ってるその店の子」

「俺がさ、つくしちゃんを一つって注文すると「つくねですね」て、にっこり笑って返してくれるんだよな」

「バカだろこいつ」

代表の背景が黒く塗られていくのが見える。

万事休すの感情が覆ってきた。

「西田、お前牧野のバイト把握してるよな」

誤魔化すなんて無意味なことはしません。

しゃがむと下着の見えそうなミニ、頭を下げると胸の谷間が見えそうなコスチューム。

若さを売りにしたバイトは即却下。

黒の作務衣に茶色の前掛け。

まとめた後ろ髪を地味色のバンダナが覆う。

代表が不服そうな表情を浮かべない完璧なファッション。

ここでつくし様に気持ちを寄せる男性が現れるなんて思いません。

あの明るさと愛嬌の良さは確かに手を出しやすい感じがある。

高嶺の花を思わせる雰囲気があればこんな簡単に口説こうとは思われないでしょう。

これはけして代表がいつも不満げに言う様につくし様が無防備だとか鈍感だとか私が思ってるわけじゃないですから。

「西田さん、時間給がいいバイトって夜の飲食店しかないんです」

坊ちゃんにプレゼントしたいって言われたら無碍にできません。

あとひと月ほどでバイトは終了する予定だったのです。

そんな情報は今必要ではないですよね。

ハァ・・・。

「仕事はもう終わりだったよな?」

「何をするつもりですか?」

「つくし様のバイトを邪魔しようなんて思ったら事がややこしくなるだけですよ」

一応は止める姿勢を見せる。

抑制力としては低い私らしくない攻め。

「西田、社員が何を考えてるか親しく付き合うのも必要だとか説教してくれたよな」

代表が覚えていたことも意外だったが、随分前のことを引き合いに出された。

社員がものを言える雰囲気を作る。

小さく硬くなって震えてる社員を威嚇するのはやめていただきたい。

そんな願い。

「それじゃ、参加するよ」

拾った紙を女子社員に差し出す代表。

今、女子社員に微笑む必要はあると思えません。

大体の行動は読めてました。

バイト先に来るなと言われてる代表にとっては渡りに船。

どうせ、お前を見に来たんじゃないって顔で居酒屋に行く魂胆。

ミエミエです。

そして今、私は代表と離れた席で総務部部長と席を並べる。

司様を見て動揺を見せたつくし様が私を見てホッとした表情を見せる。

それでもバイトを続けるのが無理な状況になるのは九分九厘間違いないと思います。

つくし様に熱を上げる社員に代表に熱い視線を送る女子社員。

ここで見せる嫉妬がつくし様から代表に向けられるものならことは静かに収まる気がします。

道明寺のバカでもアホでもスケベでも言って拗ねてもらえたら・・・

「嫉妬すんな」と緩む頬。

容易に想像できるんです。

そんな私の希望を簡単にうち崩す社員の暴挙。

「つくしちゃん一つ」

そう口にした男性社員は自分が代表に睨まれてる事には気が付きてない。

「冗談言わないで、つくねって言って下さい」

つくし様が気が気じゃないのは分る。

社員を見ながら全神経は代表に向けられてる事も理解できる。

どうしたら言いですか的な哀願する視線を向けられる私も辛い。

キレたらやばい。

たぶん不安な状況は一緒です。

つくしちゃんとつくねのやり取りは会社で聞いているから代表も我慢できてる様子。

それにホッとしてる。

代表も少しは我慢の意味を理解してるらしい。

そうです。

ここでつくし様が代表のフィアンセだと分かったら男性社員の立つ瀬がありません。

部下の立場を考えることも上司としての務めです。

このまま何事もなければいい時間帯で切り上げさせます!

無駄に身体に力が入ってしまった。

「俺、本気でつくしちゃんが欲しいんだけど」

ブッー

思わず口にしたビールのジョッキから音が出た。

慌てて口元を拭いて視線を代表に向ける。

凝視した先で口角を上にあげて引きつる笑。

代表の前でつくし様を口説くという命知らずな展開。

流石に予想できなかった。

以前の粗暴な代表が浮かんで消えた。

「すいません、彼氏いるんです」

必死な形相で断るつくし様。

この返答は悪くない。

ついでに婚約してるんですって言ってもらえたら花丸の回答だったんです。

ちらちらとつくし様が代表に向ける視線。

この状態でその意味が理解できるのは多分私だけだろう。

怒るな!キレるな!我慢!

代表に似つかわしくない言葉が私とつくし様の頭の中を占めている筈。

「えーーーッ、彼氏っていくつ?」

「私の一つ上ですけど・・・」

「年上の男も悪くないと思うけど」

「デートも割り勘なんてことはしないし社会人なり立てのガキより楽しい事いっぱい教えてあげられるかもよ」

もう・・・終わった。

「おい」

「ハイッ!」

代表の声につくし様の身体が半分飛びあがった。

とうとうキタって覚悟を決めたのはつくし様だけではありません。

私も一緒です。

「つくしちゃん一つ」

ぶっきらぼうに響く声。

口もとに薄く浮かぶ笑み。

社員のセリフをそのまま返すとは予想外。

それでも十分すぎる威圧感を発揮してる。

しかし代表がチャン付けで呼ぶ意外性に驚きを隠せない。

たとへそれがつくし様だとしても。

「ブッー」

「コホン」

吹き出しそうになった声を咳払いで隠した。

「お持ち帰りで頼む」

しっかり願望をアドリブで入れる強かさは仕事面で発揮してもらいたいものです。

なんとかボルト一本で持ちこたえている命綱というところか。

緩んで穴から抜け落ちそうなボルトが私の目の前でカチャカチャと音をたてる緊張感があります。

このままお開きを目論んで「代表 時間です」と立ち上がる。

誰がお前の考え通りにするかの反抗的な視線。

席を立った代表がつくし様の行く手を阻んだ。

ヤッパリ・・・ばらすつもりなんですね。

このまますんなり居酒屋を出て行けば私もつくし様も代表を見直したと思います。

このおもちゃは俺のもんだ、誰も触るな!見るな!

子供の独占欲は健在らしい。

ことつくし様に関しては感情が豊か過ぎです。

そして露わに溢れすぎる。

そんな代表が私は嫌いじゃないから困る。

「なに?」

「なにじゃないだろう」

「野放しにしとくとすぐこれだ」

「西田、牧野のバイトは今日で終わりだ。話をつけてこい」

視線はつくし様に向けたまま後ろで控える私に命令が飛ぶ。

「あの・・・どういうことでしょうか」

不安そうに私に声をかけたのは総務部部長。

なにをしでかしたのかわかってないのはきっとこの場にいる総務課社員一同。

「彼女は代表の婚約者です」

卒倒しそうな面持で「ヒャー」と上がる声。

その声に気が付くものは誰もいない。

頭を下げて代表に了解の意思を伝える。

そろそろバイトはおやめいただきたいとつくし様に進言しよう。

私の心労を減らしていただきたいと。

「勝手なことしないでよね」

「自分の好きな女を目の前で口説かれてたんだぞ。俺としては随分我慢したって思うけどな」

代表の横暴さに反論する声。

つくし様も代表との関係を隠すことをあきらめたのか?

それとも怒りが冷静さを失わさせたのか?

どちらだろう。

どちらでも結果は分ってますが。

「つくしちゃんの彼氏って・・・」

「俺だよ。社会人なり立てのガキで悪かったな」

凍りつく社員の顔が見える気がした。

久々の西田さん日記です。

今回のIf 4 では西田さんの吹き出す姿がお茶目で~。

楽しんでいただけたら応援のプチもよろしくお願いします。

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拍手コメント返礼

たま様

お久しぶりです♪

今回はいつもとは一味違う西田さんでお届けしました。

案外今回は司君に軍配が上がってるのでは?

sanarin様

抱腹絶倒とはうれしすぎる感想をありがとうございます。

司&西田の主従は切り離せないですよね。

yuminn様

いえいえこちらこそ(平伏)

コメントがなければ書く気が起きなかったかもしれない西田さん日記。

200以上の拍手をいただいて、リクをいただき感謝です。

ブンちゃんのママ様

初めまして、ご訪問ありがとうございます。

うれしくなるコメントもいただき恐縮です。

ありがとうございます。

伊賀のカバ丸懐かしいですね。

私も読んでました。

パスワードおお送りしたいのですがメールアドレスの記載がなくて送れません。

もう一度ご連絡をお願いします。

かじぃ様

はじめまして。丁寧な感想を添えていただき有り難うございます。

西田さんの話が加わるとまた違う味合いが出てきて面白くなると思っています。

これからもよろしくお付き合いをお願いします。

はるちゃん 様

おはようございます。

西田さん日記の影響で松潤まで正視出来なくなっちゃたんですか?

わぁぁぁぁ。

嬉しいような悪かったような気がします。(笑)

西田さんは真面目に観察してるだけなのになぜこんなに笑えるのか、不思議ですよね。

これが西田さん日記にファンが多い理由でしょうか?

グーリンラベルってもしかして5人グループポスターばっちりですか?

携帯からのコメントエラー多いみたいです。

私なんて管理者なのにはじかれてます。(/_;)