生れる前から不眠症 10

追い込まれてるのはつかつくじゃなくてあきら君だってこと気が付いているのでしょうか?

さてどう乗り切る!!

「簡単に済みます」

社長室に白衣の男性。

突き付けられた綿棒。

その先が口腔内の粘膜をなぞる。

血液を採取するとかじゃないんだと初めて知った。

たったこれだけの単純な作業で自分のDNAが分析されるというのも怖い気がする。

母親と血がつながってないとか・・・

父親が違うとか・・・

あの二人からは想像もできない。

つーか、

今回は子どもが本当に俺の子どもかを判断するためのDNA判定。

「金を渡せば、都合のいい報告書も作成できるからな」

彼女から差し出された報告書だけじゃ判断できないと、俺にDNA判定を進めたのは総二郎。

美作家の主治医を会社に呼んで、俺のDNAを採集中の運びとなった。

彼女から提出された報告書は彼女の旦那との血のつながりを否定する内容。

「あの頃、恋人はあなただけだった」

彼女が儚げに浮かべた笑み。

忘れていた甘い時間。

確かにそんな時もあったと、かすかな痛みを胸の奥に感じる。

子どものことを否定するには、乱暴すぎる密な時間が、確かにあった。

だからって、なんで、今なんだ!

「コンコン」

静まる部屋に響くノックの音。

口腔内から綿棒が抜かれる瞬間に一歩踏み入れる人影。

綿棒を思いっきり噛みそうになった。

「なにしてるの?」

ソファーにスーツ姿で腰かける俺。

見おろす様に覗き込む白衣の男。

「大丈夫?何かあった?」

心配そうに駆け寄ってきた葵が俺と医者を交互に見つめてる。

見ようによっては体調を崩した俺を医師が診察中に見える。

そうカン違いしてくれた方が都合がいいような気もした。

「なに、こんなとこに医者を呼んでるんだ。そんな暇はねェぞ」

横柄に部屋の中に乗り込んできた司。

その司の腕を抑えるように牧野が袖口をグッと引っ張る。

この二人が揃って葵と一緒って・・・・

かもがねぎ背負ってるみたいに見える。

鍋ができあがって、箸が鍋の肉を狙ってる。

狙われてる肉はもちろん俺で箸を構えてるのは葵。

司!

お前も一緒になって箸を持ってんじゃねえだろうなッ!

「ちょっと、疲れていただけ、たいしたことは無い」

「一之瀬が心配性なんだ」

ここは一之瀬が気をまわし過ぎたことで乗り切ろう。

なにをやっていたか分ってる表情を浮かべてるのはただ一人牧野だけ。

「大丈夫ですよね!」

「あっ・・・ハイ、問題はないと思います」

牧野に何か言われた医者はそれに合わせるようにニッコリと笑みを浮かべる。

葵の気を逸らす様に仕事の終わった医者を牧野が部屋の外に送り出してくれた。

「それより、なんで3人が一緒なんだ」

牧野には弁護士としてこの件に携わってもらってるから呼んだ。

まあ・・・司が必死に暇を作ってついてきたというのもなんとなく予測できる。

問題は葵。

「心配して、私のとこに相談にきたのよ」

「何時もの美作さんらしくないってねッ」

責める口調。

脛でもつねってきそうな牧野の態度。

「浮気してるんじゃないかとか心配してるよ」

耳打ちするように牧野の顔が俺の耳元に近付く。

「おい、近すぎだろうがぁ」

俺と牧野の間を裂くように司が牧野の腕をグイと自分の方向へと引き寄せた。

相変らずだと笑う気にもなれない。

「単に、忙しかっただけだ」

「胎教に悪いぞ」

久し振りに葵の顔を覗き込んだ気がする。

グッとかみしめた唇。

不安そうな色を浮かべた瞳が眉と一緒に吊り上るのが見えた。

「心配しちゃいけないの!」

「帰りも遅いし、朝も早いし」

「ここしばらくまともに挨拶もしてないって分ってる!!」

「私を避けてると思ってもしょうがないでしょう!」

肩を揺らして息を切らせる葵。

「あんまり、興奮するな!」

「興奮させてるの誰よ!」

司より迫力がある葵。

葵を怒らせるとやべぇッ

「葵さん、落ち着いて」

牧野が葵の肩を押さえてソファーに座らせる。

「浮気なんてする時間もないし、しようとも思ってないから」

葵と知り合って他の女の誘いにも目を向けてない。

仕事以外の時間を葵以外と過ごした事はない。

あっ・・・

だから、今俺が避けてる時間を、葵は不番に思う状況に作り上げたわけか・・・

「時間があったらするんだ」

膨れたままの声が俺を責める。

「時間があれば葵に割くに決まってるだろう」

じっと見つめる視線は葵じゃなく牧野のもの。

牧野が照れて俺から視線が外れる。

司だってこれ以上のこと牧野に言うだろうがぁぁぁ!

俺らの方がテレる事が多いぞ!

忘れるなよ!

「私に言えないようなことがあるの?」

強気な瞳が一瞬で不安の色を浮かべる。

「落ち着いたら、何もかも話すから、俺を信じて」

これ以上葵に黙ってるのは無理だって思える。

俺の子じゃない!

今は言えないのが何とも情けなかった。

コツンともたれかかるように肩に葵の額が触れる。

「心配ないから」

抱きしめる代りにそっと髪を撫でる。

ほっそりとした体つきは丸みを帯びて妊婦の体形へと変わって柔らかさを増してる。

自分の子供を宿してる葵に今まで以上に愛しさを感じていた。

拍手コメント返礼

かよぴよ様

はじめまして。

スマホからの観覧ありがとうございます。

Pwが届いてないのなら私がPCから送ってるせいかもしれません。

携帯から返信しますので再度メールアドレスを記事のコメント欄から申請いただけないでしょうか?

宜しくお願いします。