DNAに惑わされ 53
そろそろこの話の収拾をつけなくてはと思ってます。
え・・・司とつくしはまだ真美氏に捕まっちゃってるのかな?
あの状況もこの状況も気になるところではありますが、あきらくんは何してる?
心はここにあらず。
そんな心境のまま、手に持ったジュースのグラスの量も変わることなく、氷の解けた生ぬるい感触を手の中に感じてる。
炭酸の消えた気泡を再生させるようにわざとぐるぐると回すグラス。
なにやってんだろう。
そんなため息の向こうに再び泡を浮かべはじめる液体。
コツンとテーブルの上にグラスを置いて、手持無沙汰の手をスラックスのポケットの中に突っ込んだ。
僕の横で青葉は手でつまんだクラッカーを口に放りこんでもぐもぐと口を動かしてる。
遊園地に初めて来て興味をわき立てて興奮してる子供。
そんな雰囲気。
興奮するたびに僕に「見ろ」って命令するのだけはやめてほしい。
「駿ッ」
僕に体当たり的にやってきたのは母さん。
きょろきょろとあたりを見渡し何かから逃れるような素振りを見せる。
父さんから逃げてきた?
ってことはないよね?
「もう相変わらずのご都合主義って言うか、思いこみが激しいって言うか・・・」
独り言をつぶやくならもう少し小さい声がいいと思うよ。
「どうしたの?」
「ん・・・っ?」
「司より先にキレそうになったから逃げてきた」
ちょっと考えておちゃめな表情で母さんはほほ笑んだ。
「母さんをキレさせるの父さんだけかと思ってたよ」
半分本音の母さんでからかう。
「この人、お前の母親?」
僕の横から顔を出した青葉がしげしげと母さんを眺めながらぼそっとつぶやく。
「ああ」
さすがにこれで気が付くだろう。
僕と道明寺司の関係。
さっきまで父さん、つまりは道明寺司の横にずっと一緒にいた女性。
その女性を僕は母さんと青葉の前で呼んだ。
二人そろってひっきりなしに招待客からあいさつを受けていた状況を見ればどんなバカだって気が付くよな?
「ふ~ん」
ふ~んって・・・
それだけか?
驚く表情も動揺する素振りも0%。
こいつ・・・まだ・・・理解してないんだ。
「勝った」
小さく腰の脇で拳を握って作ったガッツポーズ。
勝ったって・・・なにが?
「俺の母さんのほうが綺麗だぞ」
さっき見たよ。
そこそこだって思う。
「牧野」
すれ違う人に軽く会釈をしながらやってきたのは美作のおじさん。
「えっ?お前んち離婚してたの?」
意外そうな表情から同情的な視線を青葉が僕に送る。
牧野は母さんの旧姓。
父さんの親友3人がいまだに牧野って呼ぶんだよ。
そんな説明するのも青葉にはバカらしくなってきてる。
「駿・・・一人か?」
美作のおじさんの言葉で母さんも鮎川が僕と一緒にいないことに気が付いて、目で鮎川を探してる。
「相手が違ってないか?」
かあさんには父さん。
僕には鮎川。
そのはずが、今の組み合わせは美作のおじさんじゃなくても不思議だって思うよ。
僕と青葉と母さんと美作のおじさん。
「まあ、すぐにあいつなら飛んでくるだろうけどな」
そう言いながら美作のおじさんは軽い調子で母さんの肩に腕を回した。
「おい、誰がこいつに触れるの許可した」
本当に父さんがすっ飛んできた。
美作のおじさんから引き離され母さんはすっぽりと父さんの腕の中に抱き込まれてる。
「おい、息子!お前もしっかりつくしの相手しとけ」
ここで父さんに文句言われる筋合いはないって思う。
「駿も、美作さんも悪くないから」
「大体、俺がいない間にお前は何やってんだ」
「何やってるって、いなくなったのは司だから」
え・・・と・・・。
おじさん・・・止めなくていい?
美作のおじさんと見合った視線。
苦笑気味の表情はそのままやけに楽しそう表情を見せる。
「ガタン」
テーブルに腕をついた青葉。
目と指が僕と父さんの間を行き来して何やら考え込んでる。
やっと父さんと僕との関係に頭が動きだしたのか?
いや・・・
まだ油断できない。
「駿、こんな親を持つとお前も苦労するな」
それ、本気で言ってないよね?
「ガチャン」
テーブルクロスが大きくズレて落ちたグラスが床で割れて散らばる破片。
その散らばった破片の横で腰が抜けたように座り込んだ青葉が見えた。
「あれが母親で・・・
道明寺の・・・代表が・・・息子・・・って・・・
道明寺が同じ道明寺で・・・
駿・・・親・・・
離婚していて・・・
本当に親子って・・・こと・・・か?」
ぶつぶつとお経のような声で青葉がつぶやく。
一気にやつれた顔が僕を凝視した。
離婚してるとこだけ間違いだから。
「大丈夫か?」
青葉の前に差し出した腕は軽く振り払われてしまった。
「お前、俺をだましてたのか?」
「僕は、道明寺の息子だって言ったはずだけど。
信じてくれなかったのは僕の責任じゃないと思うよ」
「いや~、なんか、人っと違うって思ってたけど、そうだったのか。
ほんと騙されたよ」
「ははは・・・はぁ・・・」
わざとらしい笑い声は力ないため息に変わる。
僕はだましてないから。
「許して・・・」
今にも抱き付かれそうな哀願
「別に、なんとも思ってないから」
「それより、高校じゃ、今まで通りで頼むよ」
「いいの?」
もう一度差し出した手をようやく青葉が取って立ち上がった。
「そうか、そうだよな。
天下の道明寺につりあうほどの相手は高校じゃ俺以外にはいないもんな」
え?
さっきの憔悴した青葉はどこだ?
簡単に元気を取り戻して復活した様子の青葉が目の前にいた。
父さんと母さんの間には美作のおじさんがいて和やかな雰囲気に変わってる。
3人がおもしろそうに僕と青葉を見てるのに気が付いた。
僕の高校生活は大丈夫なのだろうかと不安になってきた。
拍手コメント返礼
りり 様
親子二代でこの勘違いの親子の餌食になりそうですよね。
駿君ならうまくあしらえるよ~
アーティーチョーク 様
苗字が違えばそう思うもわかりますが司に聞かれた日には未来はないでしょうね。
この後駿君の高校生活にどう影響あるのかしら?
そうそう女優にこの二人の親のことがばれたらちょっかいだすのやめるのかそれとも自分を売り込むのかどっちでしょうね。