DNAに惑わされ 56
ジュニアたちの恋バナも再開しなければなりませんが、まずは長男坊からお届け。
一躍注目を浴びるようになった駿君。
騒がしくなってきたような気がしますがどうなる?
僕のスマホの電話帳は数日で元に戻った。
一番最初に来るのは鮎川ってとこは変わりなし。
相変わらず僕の周りは騒々しいが、それ以外はいたって平和な高校生活を送れてる。
父さんが何も言ってこないことが不気味だとは思うが、まあ、母さんがいるから大丈夫だろう。
学校を出ると整備された銀杏並木が続く。
茶色く変わった秋の風景。
そよぐ風に吹かれて舞い落ちるイチョウの葉はゆらりと揺れて目の前を落ちていく。
合服から冬服に変わった制服は、なんとなく窮屈。
僕らの自由を制限された学校に拘束されてる感じがすると蒼は一番上のシャツのボタンをはずしてネクタイをゆるくする。
お前は結構自由にやってるよ。と、僕は思う。
「で?修学旅行どこにする?」
来春予定された修学旅行は国内と海外に別れて希望を募る。
蒼が僕に聞くってことは一緒のとこに決めようって魂胆だ。
「蒼はどこが希望なんだよ?」
俺を見つめる真っすぐな瞳がにんまりと笑った。
「すまん、聞く順番を間違えた。
まずは鮎川だよな?
鮎川が行くところに駿も決めるよな?」
自分の考えを確信してる蒼が僕の両肩をぽんと叩く。
「鮎川~」
少し離れて僕と同じように銀杏の木を眺めていた鮎川に駆け寄る蒼が鮎川の空間を乱す。
数日前今日と同じように銀杏の葉の絨毯に足を止めた僕ら。
手のひらの上に落ちてきた葉っぱを指でつまんでくるりと僕の目の前で見せた鮎川のほころんだ笑顔。
ここで鮎川の父さんが鮎川のお母さんにプロポーズしたんだとお教えてくれた。
それは撮影の合間の出来事。
それから、この銀杏並木は鮎川にとっては特別な場所なんだと思う。
「鮎川、俺・・・」
いつもお気楽な蒼が鮎川の肩をつかんで振り向かせて真正面に立つ。
蒼・・・
お前・・・
修学旅行の行き先聞くだけだよな?
少し戸惑った表情を浮かべる鮎川が僕にちらりと移した視線はなんなの?と問いかけてくる。
少し言いにくそうな真剣な表情の蒼。
はたから見たら今にも好きだと告白しそうな場面。
ほら、
素通りしていった女子高生の二人連れがちらちらと期待する視線を送ってるのがわかる。
「キャー、いいなっ」って声まで聞こえてきた。
告白の結末を見届けたいように歩く速度も落ちている。
「お願いします。修学旅行どこに行くのか教えて!」
腕を差し出してぺこりと頭を下げた蒼。
その顔を僕のいる方向に向けて笑ってる。
鮎川の返事を聞いた蒼が足早に僕のほうに戻ってきた。
「本当なら、鮎川を拝んで教えてもらおうって思ったんだけどな」
蒼はそう言って僕らの横を通りすぎていった女子高生に視線を送る。
振り向いてチラチラと視線を送る彼女らに大きく蒼が手を振っていた。
「期待に応えるって言うのも疲れるな」
蒼より僕のほうが疲れるよ。
「鮎川の答えは聞こえた?」
「聞こえてない」
「知りたいだろう?」
「別に蒼に聞かなくても教えてくれるよ」
「せっかく聞いてやった俺の行為をありがたく受け取れ」
軽く僕の胸元を蒼の拳が打つ。
「駿と一緒のとこだってよ」
「あ~無駄骨」
背伸びをするように手を伸ばした蒼はそのまま僕らを残してぽつぽつと歩く。
「俺も彼女が欲しいッ」
聞こえてきた声は蒼らしいとぼけた声。
「蒼くん、なに叫んでるの?」
僕とようやく肩を並べた鮎川。
「あいつも暇だから」
ぽつりとつぶやく僕の横で鮎川が見せる穏やかな表情。
「修学旅行は僕と同じでいいんだ?」
「同じじゃ、ダメ?」
ダメじゃないとわかってる顔は無邪気に僕を覗き込んでくる。
「聞かなくてもわかるだろ?」
「あのね、わかっていても聞きたいものなの」
少しムッとなった鮎川が何かに気が付いたような表情を見せる。
前髪に落ちてきた銀杏の葉っぱ。
それのわずかな振動に気が付いた鮎川が見せる上目使い。
前髪から取り除いた銀杏の葉っぱを鮎川の目の前で今度は僕がくるりと回して見せた。
「修学旅行一緒に行ってくれるかな?」
この場所を僕と鮎川の特別な思い出の場所にしたいって思う。
「駿に頼まれたらしょうがないな」
少し憎たらしくつぶやいた鮎川が目の前で嬉しそうに微笑むのが見えた。