門前の虎 後門の狼 13

坊ちゃんはレンタル店は初体験ですよね?

なんにも起きないわけがない♪

「新作・・・」

ぽつりとつぶやいて立ち止まった道明寺。

お店の入り口一番目立つとこに並んでするDVD

黄色のテープの中に白抜きで新作と印字された文字は嫌でも目立つ。

新作じゃなくて旧作を借りる。

3倍は借りる値段が違うんだから!

そんな説明は道明寺には省く。

説明する労力は途方に終わることは見に沁みてわかってる。

貧乏くせぇ~から始まって笑われるのは落ち。

そこから始まる喧嘩は慣れたもの。

一緒に住む初日から喧嘩は避けたい気分。

「見たいものある?」

ジロリと私を冷たく見下ろす視線。

興味ないって態度がありあり。

道明寺が目を輝かせてDVDを選んでる姿は確かに想像不可能。

別に私も見たい!てものがあるわけじゃない。

テレビのドラマのDVDを見出しちゃったら次回が気になってしょうがない。

全巻見るまで落ち着けなくなる。

そんな暇な時間があるわけない司法試験を目指す大学生。

それでも道明寺と見るなら恋愛ものの映画とか?

一緒にソファーに腰を下ろして肩を寄せ合って・・・

ドラマよりそばで感じる道明寺にドキドキしそうな気もする。

ホラーとか?

夜が眠れなくなったどうする。

それも今日初めて止まるマンションの一室。

枕もベットも変わって眠るベッド。

ベッドの大きさはキングサイズ。

あのベッドに一人で寝るってことはないと思うけど、恐怖で道明寺に抱き付いてしまったら私から誘ってしまったことならないだろうか?

血のりのべったりついたゾンビの顔と道明寺の顔がかぶって恐怖の声を上げそう。

それはそれで道明寺のプライドをイタく傷つけそうだ。

今日はとにかく無難な映画を借りよう。

「おい」

突然肩をつかまれて必要以上にビクとなる。

「この隅のカーテンはなんだ?」

「え?」

目立たない店の奥の一角。

あっ・・・

そこって18歳禁って大人のDVD。

「道明寺が気にするものじゃないって思う」

そんな私の説明なんか聞いてない道明寺が堂々とカーテンを大きく捲って中に踏み入れた。

先着の足が何本か見えて私は目をそらす。

道明寺と叫んで中に入って道明寺を連れ戻すには黒いカーテンは威力を発揮してる。

まさか・・・借りてこないよね?

借りてきたらどうする?

それ・・・二人で見るの?

話には聞いたことはあるが見たことはない。

男性が一つや二つ持ってるのは当たり前みただとか、彼氏と一緒に見たことがあるとかの話を聞いたことある。

興味が全くないといったらそれは嘘。

でも初日から借りて二人で見るべきものじゃないよ。

ジェットコースターが徐々にレーンを上って下に落ちる前のドキドキ感。

カーテンが揺れるたびにドクンと心臓が跳ねる。

「牧野?

牧野だよね?」

私を呼ぶ声は道明寺がいる場所とは反対の方向。

従業員だとわかる店の名前が背中に入る紺色のポロシャツ。

腕には返品されたDVDを抱えてる。

「久しぶり」

少し大人びた表情には懐かしい幼い顔が残る。

中学の同級生だとすぐに思いつく懐かしさ。

サッカー部のミッドフィルダーでキャプテンで女子にも人気のあった田畑君。

クラスは一緒になったことはないけど、生徒会で一緒で、放課後一緒に過ごすことも多くて、私の知る男子のなかでも中の良かった分類に入る。

「俺、ここでバイトしてるんだ、牧野は?」

「何か借りようかなって・・・」

「それじゃこの近くに住んでるの?」

「今日引っ越したばかりなんだけどね」

中学以来の再開で懐かしさに話が弾む。

いつ道明寺が大人のDVDのところから出てくるかを考えたらその懐かしさを楽しむ余裕もない。

「それじゃ、私、あっちに行くから」

そそくさと田畑君の前を通りすぎて進んだのは新作の作品の棚。

今年の公開の映画の話題になった作品のDVDを取って眺める。

読んだ文字は全く頭の中に入ってこない。

「探したぞ、お前入ってこねぇし」

「あのね、あんなとこ入っていけるわけないでしょう!」

声を張り上げそうなところでぐっと我慢して声を押さえこむ。

「カップルで選んでるやついたぞ」

耳元に寄せる唇はにんまりと口角を上げた。

「どんなDVDがおいてあるかはお前も知ってるんだな」

道明寺の声とともに肩越しに目の前に降りてきたDVD。

道明寺が持ってるのって・・・

飛び込んできた題名が今度はしっかり脳に焼き付いてきた。

ツンデレご主人様ってまるで道明寺じゃん。

そのあとにメイドの文字って・・・

連想しがちなポルノの題名。

全部題名を読み終わる前に目をそらした。

「そんなの借りるつもり?」

大体そんなの一緒に見るとかの発想はなしにしてほしい。

「まずいか?」

「見る必要ないでしょう!」

まずいってものじゃない。

二人で座って画面を見てるなん無理に決まってる。

正視できるわけない。

これで楽しめると本気で思ってないよね?

「お前が奉仕してくれるんなら、いいけど」

奉仕・・・

報酬を求めず、また他の見返りを要求する でもなく、無私の労働を行うことの意味合いもやたらと卑猥な感じに聞こえてしまう。

「冗談!そんなの借りるんだったら一緒になんて寝ないから!」

新作コーナーの棚が私の声の振動で揺れた。

周りの視線が私に集まるのを肌で感じる。

シマッタッ。

今更口を押えても遅い。

人の悪い笑みを浮かべてにんまりしてる道明寺のムカつく顔を本気で殴りたい気分。

ぐっと左で押さえこむ右の拳がわなわなと震えてる。

「心配するな、お前から俺を強請る様にする自信はあるんだよ」

私の肩にわざと自分の腕を乗せて肩に体重を乗せてきた道明寺。

このバカッ!

肘を前に前に出して道明寺のわき腹に一発入れようと身構えた瞬間、私を見つめてる田畑君と目が合ってしまった。