Last Christmas  2

西田さんが帰った執務室。

司のそばにはつくしちゃん♪

しんみりと二人っきりの部屋で・・・(とはいっても会社よ~)

まずはこの二人の聖夜物語を書かないことには始まりません。

カップの中に満たされたコーヒ。

飲み干せないままに冷たくなった茶色い液体をぼーっと見つめたままつくため息。

遠くきらきらと輝くネオン。

クリスマスの夜はいつもより艶やかに多彩な色を映し出して街を彩る。

道明寺と一緒に行こうと約束したクリスマスツリーは東の方向だろうか?

いくつもの光が輝く場所からツリーの輝きを見つけることは無理。

チラチラと舞う粉雪が窓に張り付いて解けていくのをどのくらい見送ったろう。

窓に触れた指先は雪に触れるわけでもないのに雪の結晶が白から透明になって水に変わる熱を指先から奪い取るような気がした。

夜の会社って静かすぎて一人でいるには寂しすぎる。

いくつかのディスクが並ぶ秘書室。

真正面には一回り大きな西田さんのディスク。

秘書課の男女比は断然女性が多い。

「今日はクリスマスですから」

私を呼びだした西田さんはいつもは残業が多い部下を定時には帰している気遣い。

5時過ぎの秘書課に西田さんの姿しか見えない異例事態もこの人ならではの部下操縦法なのだと思う。

部下にはやさしいのに道明寺には手厳しい。

「代表の予定は夕方から入れてなかったのですが・・・

せっかくのイブに申し訳ありません」

頭を下げる西田さんに大丈夫だと笑顔を見せる。

道明寺から仕事が入ったと連絡が言ったのは1時間前。

楽しみにしていたクリスマスイブ。

道明寺と付き合ってると仕事を理由にデートがキャンセルになるのはありふれたことで私も理解はしてる。

それでもクリスマスが一緒に祝えないのはつきあって初めてだと人並みに落ち込んだ。

「少しの時間でもお二人で過ごしていただきたいので会社に来ていただきました」

道明寺が私を迎えに行く時間のロスを避けたいという西田さんの説明に迎えの車が私を運んだのは道明寺本社ビル。

仕事が終わった道明寺に会うのに1分とかからない。

「つくし様が来てることは内緒にしてますので」

道明寺を喜ばせたいという西田さんに私は執務室の隣の部屋で息を殺してる。

「つまんないなぁ・・・」

つぶやく思いはきっと道明寺が私の前に現れた時点で消えてなくなるって思う。

予定よりも短くて、冷めたコーヒーだけが残るテーブルでも道明寺と少しでも一緒にクリスマスを過ごせればそれでいいって思ってしまう。

来年は絶対ツリーを見に行くんだから。

「ガチャリ」

いつもよりドアノブの回る音に敏感に耳が反応を示す。

「終わりました?」

ドアが開きかけた瞬間に一気に振りかえった。

その速さはコンマ一秒。

どれだけ待ち焦がれてるのか・・・。

西田さんに気が付かれて笑われてる気がして頬が熱くなる。

え・・・・っ・・・

ドアを押し開くために伸びた腕は西田さんのそれより長くて・・・

一歩踏み出された脚の長さは西田さんの脚とは比べようがない長さ。

「待たせたな」

動いた口元がやさしい微笑みを作る。

いつもより和らいだ目元は涼しく甘く私を見つめる。

道明寺・・・?

西田さんじゃない!

西田さんを想定していた私の脳に一気に入りこんできた道明寺に思考が追いつかない。

道明寺に会たくて、一緒にいたくて、過ごしたくて・・・

増殖する思いが私を慌てさせる。

道明寺に会うには心の準備が間にあわない。

「西田さんは?」

道明寺に会ってすぐの私の第一声に道明寺が不機嫌に眉をひそめたのがわかった。

「俺を見て心配するのが西田かよ。

あいつは帰ったよ」

「え?でも、見なかったけど?」

不機嫌な口調の道明寺を気にしながらも西田さんは執務室に道明寺といたはずで秘書室には帰ってきてない不思議さが残る。

「秘書課を通らなくても俺の部屋からは廊下に出れるからな」

道明寺の説明に「あっ」と納得が言った。

道明寺の執務室は直接部屋に入れるドアと会議室からと秘書課を通って入るドアとあるんだった・・・。

西田さんは私のいる秘書課は避けて帰ったってことになる。

「そのくらいすぐに検討つけろよ」

きりっとした眉と、そこにつながるすっとした高い鼻筋。

冷酷に見えるクールすぎる印象の瞳。

片方の口角を上げるように動く頬。

文句ないしにイケメンなその表情は上から目線で威圧的に私を見下ろしてくる。

私の感じたトキメキを一瞬に対抗心へと変化させる傲慢さは健在。

だって私を呼びだしたのは西田さんで、私がいるのは内緒で・・・

仕事が終わったんなら終わったと連絡があると思うものでしょう。

道明寺が我慢できずに西田さんを押しのけたとか?

道明寺ならあり得る!

執務室で道明寺に倒されて転がってる西田さんを想像してしまった。

「・・・て、ことは、道明寺と私と二人だけってこと?」

道明寺の横から執務室を覗き込んで確かめた。

「西田なりに気を利かせたんだよ。俺たちが少しでも長く過ごせるようにな」

長い脚が一歩グイと足を踏み出せば私との距離は簡単に縮小される。

100倍から1000倍の地図の縮小の差。

本当に道明寺は西田さんを無理やり帰したってことやってないよね?

「どうした?うれしくないのか?」

うれしいと簡単に応えたくないのは道明寺が自信満々の顔を私の鼻先に近づけてきたから。

そんな感情とは裏腹に道明寺の息のかかる頬は熱を帯び始めている。

それ以上近づかないで!

腕を押しだして離れたいのに道明寺の腕がすでに私の腰に回されて道明寺の胸元に私の身体を引き寄せてしまってる。

互いの服が二人を隔てているだけの密着。

「予定が狂ってしまったな。悪いと思ってるんだ」

道明寺の手のひらが私の頭を包みこんで後ろ髪を梳くように何度も撫でつける。

道明寺の声が毛先を揺らして、私を包みこむ道明寺の温かさが細胞の奥まで浸透するようで動けない。

道明寺が謝るなんて・・・

それだけでジンとして目が潤んできちゃうよ。

私以上に道明寺も楽しみにしていてくれたんだと思ううれしさ。

特別なイベントを一緒に祝えなくてもこうして一緒に過ごせることが大切だって思える。

「道明寺・・・」

「ん?」

「メリークリスマス」

日付が変わる数秒前にそうつぶやいた私の唇に道明寺の唇が重なった。

拍手コメント返礼

りり 様

西田さんの粋な計らい~

司君をいい気にさせとくのその見返りは大きいことを西田さんなら知っている♪

さぁ次はつくしちゃんの誕生日よ~