危険な1日

 ラインハルトは悩んでいた

   キルヒアイスと同部屋にならなかった事を

   ここは帝国軍幼年学校の寄宿舎

   「なぜキルヒアイスと離れ離れにならないといけないのだ!」

   「ラインハルト様にはもうお分かりのはずです」

   「なぜそんなすました顔でそう言えるのだキルヒアイス

   「仕方がありませんここでは教官がいうことには絶対服従なのですから」

   「おのれ!!あのくそじじい、故意にやったとしか思えぬわ!!」

  「どうかお静まり下さい、ラインハルト様。」

  「”くそ”などという下賤なお言葉は似合いませんよ。・・・ここは寄宿舎といえども

   油断なりません。帝国内はもちろんのこと、あらゆる惑星からの志願者達が

   留学生として寄宿してるとのこと。壁に耳有り、障子に目有り、です。」

  「キルヒアイス、お前、言うことはもっともだが、じじむさいぞ。」

  「有り難き幸せ。」

  「・・・・・・・・。」

  「とにかく、これからが正念場だ。・・・色々な意味でな。」

  「そうですね。とりあえず情報収集の基本として、寄宿舎内の探検に参りませんか?」

  「うむ。そうだな。」

「探索なら夜を待って出かけよう、それに今から授業だしな」

「しかし机の上の戦術などつまらん、原始時代の妄想としか言えん代物だ」

「それにあの教授の目が気に食わんのだ」

「ラインハルト様教授と申されますとあの関西弁を喋るビュテンフェルト教授の事ですか?」

「あの関西弁で戦術を語りながら俺に流し目を送るのだ」

そうはき捨てるようにラインハルトは言うと背中にむしずの走るのを抑えられなかった

「ほな、授業始めるで。諸君もそろそろ寄宿生活に慣れてきた頃やさかい、

  びしびし行くで。同盟やらフェザーンやらに負けてられへんわ!!」

 ビュッテンフェルト教授は、意気揚々である。

 「今日からは諸君に”C級難度”をマスターしてもらお。」

 ざわっ。

 どよめく教室。「し、C級難度おお!?」「そ、そんな・・・・!」「無茶なっ !」

 波立つ空気。

 むろん、ラインハルトも、キルヒアイスも”C級難度”など知る由もない。

どうやら教授はとんでもないことを言いだしたようであるのは明らかなのだが。

「申し上げますっ!!おことばですが、我が国ではそのような事は考えもしないこと。

ましてや、マスターするなど、論外ですっ」

そう言ってたちあがったのは、眉目秀麗、茶色掛かった金髪に、ヘイゼルの瞳が

涼しげな、そう、ラインハルトの記憶が正しければ彼の名は、ザナンザと言った。

 「さよう。拙者も反対でござる。拙者の国ではそのようなことは、あり得ぬ。」

 と、叫んだのは顔にハの字のヒゲをはやし、髪型といえば、ポニーテールなのに

何故かおでこから後頭部にかけてはつるっぱげという妙ななりの、背の低い黒髪の東国男であった。

妖しげな機械的な瞳を不気味に光らせながら、黙っているキツネ顔の男もいる。

彼はオーベルシュタインと言ったか。

「おだまり!!ここでは教授のアタシの言うことは絶対。そうやろ?ローエングラム君」

そう言って、ビュッテンフェルトはラインハルトに流し目をくれた。

「君はわかってくれるな・・・・?」

世の中にこれ程不気味なモノがあるのか、ラインハルトは悪寒をこらえきれずに感じた。

何か良からぬ予感がする・・・。)

一方、キルヒアイスも同様に感じていた。

彼に向けられるビュッテンフェルトの、刺すような冷たい視線を・・・。

しかし、ここまで言われてしまっては従うしかないラインハルトとキルヒアイスであった

ラインハルトはこぶしを握り締め怒りを抑えながら吐き捨てるように言った

キルヒアイス私は誰にも指図されない力を手に入れるぞこんなばかげた事につきあう事ができるか」

学生たちが連れてこられた場所は体育館の中の体操競技

そこに体操のレオタードを無理やりきせられ身体にピッチリのフィット状態の二人が

顔を真っ赤にして並んでたっていた

その前に同じくレオタードを着込んだビュッテンフェルトが仁王立ちに立っている

「いいかおまはんら!宇宙に飛び立つためには器械体操で言うところのD難度まで

自分のものにせにゃあかん、最初はC難度からの挑戦やな」

そう言い放ったのはアンスバッハであった

このとき誰が数年後キルヒアイスの命をアンスバッハが奪う事になると予測できたであろうか

それではまず見本をビュッテンフェルト教授に見せていただこう

そう紹介されてまってましたばかりの勢いで床運動をはじめる

ビュッテンフェルト教授の姿がそこには会った

彼は美しかった。鍛えぬかれた、引き締まった彼の肉体は、

ショッキングピンクのレオタードによっていっそう際立って見えていた。

そして時折見せる彼のチャーミングな(少なくとも彼自身はそう思っている)

眼差しは、見る者を圧倒させた。

「さすがは、教授ですね・・・。」

「帝国の猛将といわれるだけのことはあるな。」と、ザナンザとオーベルシュタイン。

彼らももちろんレオタードを身に付けている。(ご想像におまかせしよう。)

事情をやっと飲み込めたラインハルトとキルヒアイスも、これには驚いた。

「<黒色槍騎兵>を率いるともなると、こんなにおぞましくも美しいものなのか、キルヒアイス。」

「私も驚きました。艦隊を率いるミソがここにあったとは。」

ふと、別の一角が騒がしくなった。

「何事だ!?」

ラインハルトはこれ以上何が起こるのか、と言わんばかりにざわついている方へ駆けつけた。

「ラインハルト様もお好きなんだよな・・・。」ぶつぶつとついて行くキルヒアイス

そこでは

鮮やかなライトブルーのレオタードを身につけ、今まさにC難度を披露している

ミッターマイヤーの姿があった。

蜂蜜色の髪がたなびいて、レオタードに良く映えていた。

「ラインハルト様、こ、これは・・・!?」

「速い・・・!!」

ミッターマイヤーの動きは想像以上に速かった。

「くそ、<疾風ウォルフ>と呼ばれるゆえんか。私はこやつらを負かさなければ、

いつまでも指図される立場にいるというのかっ。」

「よし、次は私がやる!」

体育館中に響き渡る声で、ラインハルトは叫び、すっくと立ち上がったのだった。

誰が気づいたであろう。

ビュッテンフェルトの視線は、またもやラインハルトにそそがれていた・・・。

ラインハルトは軽やかにそして優雅に床の上を飛びはねた

手の先にはピンクのリボンをもちくるくると回しジャンプ!!

ついでに3回転半のひねりを入れ着地を決めた

ラインハルトの金髪が汗にぬれ美しく光った

周りから感嘆の声があがる

「さすがはローエングラム」

悔しそうにビュッテンフェルトはその場を後にした

ビュッテンフェルトは演技に失敗したラインハルトを居残りと称し2人っきりで・・・・

と考えていたのだ

「さすがはラインハルト様、完璧な演技でした」

「私に不可能な事はない」

ビュッテンフェルトの背中を見ながらラインハルトとキルヒアイスは笑った

こうして二人の危険な1日が終わった

だがまだ寄宿生活ははじまったばかりである