出会いその後(マリーカとケスラー)

 出会いその後

(マリーカとケスラー)

【夕食の約束1】

ヒルダが無事に出産した翌日の朝

、ケスラー上級大将はヒルダに呼び出されて、フェザーン医科大学付属病院に行った。

「皇子が助かったのは、大公妃殿下とケスラー上級大将のおかげです。

あらためてお礼申し上げます。

それともうひとつ。

ケスラー大佐、マリーカ・フォン・フォイエルバッハは私の大切な友人です。

彼女から個人的に優しい大佐さんに伝言を頼まれています。

明日夕食のご予定は?」

ケスラーは言葉をつまらせた。

「フロイライン・フォイエルバッハにお伝え下さい。喜んでお招きに応じますと。」

この時ヒルダはピーーンと直感が働いた。そしてつぶやいた。「この二人はうまくいくわ。」

ケスラーが退室してすぐ、ヒルダの部屋のドアをノックする音が聞こえた。

「どうぞ。まあ!マリーカ戻ってたの?じゃあケスラー上級大将と会ったんじゃないの?

するとマリーカは「ヒルダ様。私ケスラー大佐にお会いする事出来ません。わたし.......」

マリーカは頬を赤く染めて、ずーとうつむいていた。

「どうしたの?マリーカ。」

「ヒルダ様。あのあのっ....恐いんです。きっと断ってこられたんでしょ。

あーどうしましょう。私恥ずかしいですわ。」

ヒルダはくすっと笑って、

「マリーカ安心して。ケスラー大佐は喜んでお受けしましたよ。」

「ほっほっ本当ですか。きゃー嬉しい。」とヒルダに抱きついた。

「あっすいません。ヒルダ様」

「良いのよ」と優しくつぶやいた。

その時、アンネローゼが入ってきた。

「マリーカ、嬉しそうね!

その様子だとケスラー大佐とのお食事のデートが約束出来たみたいね。

「えっ!どうしてアンネローゼ様ご存じなんですか?」

「まあ!マリーカ。昨日カイザーリンにお願いしてたでしょ。

部屋の外まで聞こえてきてたわ。聞いてしまったの。御免なさい。

でも安心して、私以外は知らないから」

「えーーー!昨日の事ご存じなんですか。恥ずかしい」

昨日、ヒルダはマリーカに言ったのだ。

「私からも直接お礼を申し上げたいので。明日ケスラー大佐をお呼びして下さい」

「ヒルダ様。ケスラー上級大将でいらっしゃますよ。大佐様ではありませんよ」

「マリーカ。いいのよ。私達の間では大佐さんのままでもいいでしょ。ふふふ」

「まあヒルダ様、からかわないで下さい。それでしたらひとつお願いがあるんですけど」

「なあに?」

「ケスラー上級大将を夕食にお誘いしたいいんですけど。ヒルダ様からおっしゃっていただけませんか」

「それはいいけどどうして?マリーカ」

マリーカは真っ赤になり、両手で顔を包んだ。ヒルダはその姿を見て少し驚いた。

マリーカの足が震えていたのだ。

「マリーカここにおかけなさい。そして深呼吸をして。」

マリーカは言われた通りに深呼吸をしてかけた。

「私。さっきから変なんです。体全体が熱いです。

でも気持ちはすーとしてるんです。でも心臓がドキドキして。こんな事って初めてなんです。

病気になったんでしょうか?ヒルダ様。ケスラー上級大将の事を考えるだけで...」

「マリーカ。それは病気ではありませんよ。いずれ自分自身でそれが何なのかわかりますよ。」

ヒルダは心の中で、マリーカに言った。

”それは恋よ”と。

「マリーカ、自分で確かめたら。」

「でもどうすればいいんですか?」

うーーんとマリーカは考えた。

「ヒルダ様。ケスラー上級大将を夕食にお誘いしましょ。どうですか?

私は料理が得意なのでそれでしたら大丈夫ですわ。」

すると「じゃあ。明日私から言ってあげましょ。」

「ヒルダ様。ありがとうございます。」

ヒルダとアンネローゼは昨日の会話を思い出していた。

マリーカは、夕食は何を作ろうかを二人に相談した。

「ヒルダ様、アンネローゼ様。わたし早いけど買物に行って来ます。じゃあいってきまーす」

マリーカはスキップをしながら、鼻歌を歌って部屋から出て行った。

残されたヒルダとアンネローゼは、

「うまくいくと良いわね。」

それは同時につぶやいた言葉だった。

【夕食の約束2】

ケスラーはヒルダの部屋から退室後、官舎に戻っていた。

ソファーに座り考えていた。というより思い巡らせていた。

マリーカとの出会いを。

そして「マリーカ」と一言つぶやいた。

心の中を暖かい風が注いでくる。

マリーカとの出会いはあの時だった。

マリーカが走ってきた。ケスラーは危ないと思いマリーカの肩をぐっとつかんだ。

すると「あ~」とマリーカが叫んだように聞こえた。

ケスラーは思った。「痛かっただろう。」

しまったと思っていた時に、マリーカが言葉をはしった。

「あー!私がチョコレートアイスクリームなんか買いにいかなければこんな事にはならなかったのに・・・・・」

ケスラーは「そういう物でもあるまいに・・・・」と思い巡らせた。

それから、目をつぶり考えていた。

マリーカに手を引かれて、カイザーリンのいる部屋の位置まで行った時、

地球軍残党を片付け火が回る屋敷から外に出るまで、アンネローゼ様とマリーカの肩に触れた瞬間を。

でもその時もマリーカの手と肩のやわらかしか覚えてなかった。

なんてたおやかなんだろう。ずっと触れていたい。

アンネローゼ様ではなく、マリーカだけを覚えていた。

「柔らかかった。細く今にも折れそうで。体の奥底からわいてでる、

この何とも言えない甘く切ない心地良い気分はなんだろう。」

そしてフェザーン医科大学病院で、マリーカと話した瞬間!

”この子は、ものすごく純真で素朴で感情が豊かだ。

でも心の奥はとても強くもろいところもあるだろう。純粋なのだ。

 この後にこのケスラーが思った”純粋” というのが大当たりするのだ!!

  今はまだ誰も知らないが。

明日マリーカと会えると考えただけで嬉しかった。ただ嬉しかった。

でも何故?私を誘ったのか?

マリーカに会った時、この件と自分に起こっているこの気持ちを確認しようと心に決めた。

そして、憲兵本部に連絡をしウェルナー中佐を呼び出した。

「明日の予定を確認したい。」

「明日ですか、地球教徒の取り調べが2.3件ございますが。」

「では夕方は何も入っていないな。」

「はい。何も入っておりませんが・・・・。総督閣下!それが何か?」

「何かとはどういう事かな。」

「いえ、このように予定を聞いてこられる事など一度もなかったので不思議におもいまして。

明日の夕方に何かご予定でもおありですか?」

するとケスラーは、ドキッとして!

「いや何でもない。ただ確認のためだ。

あっありがとう。では。」と言って通信を切った。

その時、ウェルナー中佐のいる憲兵本部では通信画面に映っていた

ケスラー上級大将の態度がおかしいのに気が付いていた。

ほかにもその近くにいた将校たちも、いつものケスラー憲兵総監閣下ではないと思っていた。

「なあ、どうしたんだ今の閣下は?」

「なんかそわそわしてなかったか?」

「いやそうじゃない。いつも冷静沈着さがまるっきり見られない。心ここに在らずって感じだ。」

「ひょっとして、恋人とケンカだったりして・・・。」

わははははと。皆一斉に笑いだした。

「もしそうだとしても、いつも表情に出さない総監閣下がそれは考え違いだよ。」

うわっはっはと、また笑いだした。

「でもさいつもと違う様子だったのは確かだぜ。」

「じゃあ、皆どうだい!ちょっとチェックしてみないか?」

「おいおい!?いいのか?」

「なあに!たいした事じゃないよ。明日の夕方、閣下がどちらに行かれるのか確認するだけさ。」

皆がう~んと頷いた。

ケスラーは、部下たちが自分の様子がおかしかった事を不思議に思っている事など、

思いもしなかっただろう。

通信が切れて、ケスラーはマリーカが喜びそうな物を持って行こうと考えていた。

「何がいいだろう。お菓子・花・人形・他には・・・・・。

あーー!くっそ!頭がごちゃごちゃする。なんでこんなに気になるんだろう。

あー!チョコレートアイスクリームを持って行こう。

火事の時には食べる暇なんて無かっただろうから・・・・」

ケスラーの顔は安堵して、いつもの冷静沈着に戻っていた。

「明日が楽しみだ。マリーカ・・・・」と優しく呟いた。

しかしケスラーの心の中で、マリーカの存在は大きくなっていた。

ケスラー自身が気付かぬうちに・・・・。