記憶 パートⅠ

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第1話   記憶                            作 あいきさん

「ちょっと出掛けてくるね!!」

いつもの脱走。おきまりのこと・・・。

でも、今回はいつもと少し違っていた。

予定の時刻を過ぎても、ユーリが帰ってこなかったのだ。

「・・・ハディ、ユーリはまだ帰ってこないのか?探しに行く!」

心配になったカイルは、ハットゥサ中を探し回った。

そして・・・。

「ユーリ!」

ある民家の前で、水くみをしているユーリを発見した。

ユーリはきょとんとして、こちらを見ている。

「・・・あなたたち、誰?」

最愛の娘、ユーリから発せられたそんな言葉。

誰・・・・?だと・・・・・。

「あなたたち、わたしをしってるの!?」

バシャン。

水が、ユーリの手から、滑り落ちた。

「わたしのことをしっているのね!?誰?あなた達は誰?」

何も、答えられない・・・。

ユーリ、記憶をなくしたのか・・・・・・・!

第2話            家              作 ひろきさん

「・・・あの、失礼なんですけど・・・。あなた方誰ですか?」

ユーリの記憶がないと分かって、みんなが呆然としているときだった。

ユーリは、なぜ黙り込んでしまったのかが分かっていない。

「あの、とりあえず中に入りませんか?・・・で、お話聞かせてください!」

「あぁ、そうさせてもらうよ。」

何とか正気を取り戻したカイルは、ユーリの言葉に従った。

今のユーリに何を聞いてもワカラナイ。

それならば。

「おばさん、あのね、この人達私のこと知っているみたいなの」

「え?だれだい・・・?お嬢ちゃん、お茶でももってきな」

ユーリはおばさんの言ったとおりに奥に引っ込んだ。

この様子からして、おばさんはカイルに気がついたらしい。

「やっぱりあのお嬢ちゃんは、イシュタル様かい?陛下」

「・・・そうだ。世話になったらしいな、礼を言おう。

 ユーリを連れて帰りたい」

「あぁ、それが一番いいんでしょう」

ふぅ・・・。

大きなため息一つ。この女性は、何か知っている・・・?

「どうしてユーリは記憶をなくしたんだ?」

「・・・事故だよ。私がもっていた水をね、彼女がここまで運んでくれて・・。

 それで、帰りがけに目の前に飛び出してきた馬車に驚いて頭を打ったんだ」

頭を打った。

他には特に外傷はなかった。ユーリのことだ。

うまく身を翻したのはいいが、足を滑らしたのだろう。

「では、ユーリは連れて行く」

カイルはそういうと、かたんと席を立った。

第3話       帰れない                      作 ひー

「ユーリ帰るぞ」

ちょうど奥の部屋から御茶を戻ってきたユーリにカイルが声をかける。

「ちょっと待ってよ、なぜ私があなたとかえらなくっちゃならないの?

私はここにいるわよ、今はここが気に入っているんですもの」

「お前は私の妃だ、本当に何も覚えてないのか」

そういってユーリを抱きしめるカイル。

「ちょっと止めて下さい、本当に何も覚えてないんです」

「急に妃ていわれて、ハイハイてついていける訳ないでしょう」

カイルの腕から逃れて、おばさんの後ろに隠れるユーリ。

「大丈夫だからこの方たちについていってください、イシュタル様。少しの間でしたけど一緒に過ごせてうれしかったです」

「もうイシュタルとかユーリとかみんなで勝手に話を進めないで、私おばさんの息子が帰ってくるまでここから離れないんだから」

そう言っておばさんを抱きしめカイルをにらみつけるユーリ。

「帰らないって・・・ユーリ様・・・」

ユーリにつめよるハディを制してカイルが口を開いた。

「息子が帰らないとは・・・なにか問題がありそうだな?」

やれやれ、記憶が無くなっても何かのトラブルに巻き込まれているらしい・・・

平静を装いながらもカイルは心の中でため息をついていた。

第4話   問題&帰宅              作 あかねさん

「息子は、数ヶ月前に猟に出たまま帰ってこないんです。ただ、それだけのこと。 ですが、その、ユーリ様は・・・・。」

ユーリは、ぎゅっとおばさんにくっついてはなれない。

王宮には帰らないと言うし・・・。

「・・・ユーリ、女性の息子が帰ってくれば、私と一緒に王宮へ来るか?」

「・・・・・・・・そこに、記憶のヒントがあるならね」

ぷいっと、顔を背けるユーリ。

さっきいきなり抱きしめたのがいけなかったらしい。

「ふぅ、では、そのむすことやらをさがすか。なーに、すぐに見つかるさ」

ユーリは、きょとんとしていた。

今のユーリには、カイルが何者なのかさえ分かっていない。

「そんなにすぐに、見つかるわけないでしょ」

「まぁ、みてろ」

ー 数日後 ー

カイルの言葉通り、おばさんの一人息子は見つかった。

猟をしている途中道に迷い、帰れなくなっていたのだ。

「陛下、ありがとうございます、陛下!!」

「いや・・・。さて、ではユーリ。一緒に王宮へ行こうか」

おばさんと息子の隣でむすっとなっているユーリの手を、カイルは強引に引いていく。

そして、ひらりと抱き上げると馬に乗せる。

パカパカパカ。

急ぐわけでもなく、馬を進めるカイルご一行。

「ねぇ、貴男は何者?」

記憶のないユーリには、自分の愛した男でさえもわからない。

「・・・今から行くところへ行けば分かるけど・・・。私は、カイル・ムルシリ。

 このヒッタイトの皇帝であり、お前の夫だよ。ユーリ・イシュタル」

ユーリは馬から転げ落ちそうになった。

自分に、旦那がいる!?しかも、皇帝ですって!?

そんな突拍子もない話を聞きながら、ユーリ達は王宮へ帰ってきた。

第5話     戸惑い                 作 マユさん

記憶を無くしたままのユーリを連れてカイルは王宮に戻って来た。

ユーリはカイルが自分の夫と知り戸惑いを感じていた…

カイルはヒッタイトの皇帝だという…つまり自分は妃なのだ…

自分が一国の皇帝の妃?

何か違和感がある…

「さあついたよユーリ…疲れただろう湯殿に入ってゆっくりしておいで」

ユーリは3姉妹に連れられて湯殿に放り込まれた。

もともと埃っぽかったのでユーリは湯殿でくつろいでいた。

「う~~ん!気持ちいい~」

カイルが自分の夫だと言う以上、ユーリは信じていた。

カイルが人を騙すような人とは思わなかったから…

すっかりくつろいてせいたところに3姉妹がやって来て、服を着させられる。

「ねぇ…この服、嫌なんだけど…」

「あらどうしてですか?よくお似合いですわよ」

ユーリが着させられたのは脱がしやすそうなスケスケのドレス。

いくら記憶がないといえ、服の好みは変わってないのだ。

「まあよろしいではありませんの。これくらい着飾って陛下をお喜ばせになった方が良いでしょう」

「よ!喜ばせるって何であたしが!!」

「何で?って陛下とユーリ様はご夫婦ではありませんか」

(そ‥そっか…あたしとカイルは結婚してるんだっけ…あたしカイルの奥さんなんだよね…つまり…その…いや~恥かしい!!)

ユーリの顔は赤くなっていく。

「ユーリ様?お顔が赤いですけどお湯加減熱かったですか?」

「何でもないよ」

ユーリは笑ってごまかすしかなかった。

「ではどうぞこちらへ」

ハディに言われユーリはカイルの部屋に入る。

「ではお休みなさいませ」

ハディは扉を閉めて遠ざかっていく。

(どうしよう…カイルが来たら完璧に2人きりじゃない!あたし心の準備がまだ出来てないよ!!)

 キィーーーーーーーーー

「あ…カイル…」

振り向けばカイルが立っていた。

とても楽な夜着に身を包んでいる。

(いや~~どうしよう!!)

ユーリの鼓動はますます早くなっていく。

そしてカイルは・・・・

第6話   少しだけ                    作 金こすもさん

「どうした、ユーリ? 」

真っ赤になり硬くなったユーリに、カイルは笑顔で接した。

「あっ、あの~。あたしたち夫婦だから、その~。愛しあわなければ、いけないの? 」

「そうだな。おまえしだいだな。私のことは、すべて覚えてないんだろう? それならば、仕方ないさ。ゆっくりとお休み、ユーリ」

カイルは自分の望みを抑えて、ユーリを安心させ眠らせてやるつもりだった。

時がたち王宮での暮らしに慣れれば、ユーリは落ちつき、きっと記憶を取り戻せるだろうと考えていた。

ユーリの顔が、哀しげに微笑んだ。

カイルから受ける優しさがわかり、ユーリはそ~と身体を投げかけた。

「ごめんなさい、陛下。あたし、早く思い出す。もう、いいよ~。陛下を、信じます」

「ユーリ、陛下とは呼ぶな。私の妃は、カイルと名を呼んでくれたぞ」

暖かいユーリの素肌に触れると、カイルは今までの決心を鈍らせていった。

「カイル、ごめんなさい」

華奢な身体に、大きな両腕がのび抱きしめた。

甘い香りと象牙色の肌のなかで、いつしかカイルは望みのままに愛しんでいった。

ユーリは、思いもつかない身体の反応のなかで、少しだけカイルへの記憶を取り戻していった。

この人は、こんなに自分を大切にしてくれていたのだと・・・・。

そして自分も、こんなに愛していたのだと・・・・。

第7話   夜明け                  作 あかねさん

「う~ん・・・もぉ朝?」

日が昇る頃、ユーリは目覚めた。

大きなのびを一つ。そして、フッと隣を見る。

そこには、皇帝陛下・・・

カイルという男性がいた。

まだ、すやすやと気持ちよさそうに寝ている。

「そっか、あたし、昨日・・・。でもこの人、あたしと何か深く関係しているような気がする・・・・・」

「気がするのではなく、実際そうなんだよ」

一人でぶつぶつつぶやいていると、ゆっくりと体を起こしたカイルが言った。

まだ眠たそうな感じだ。

「あぁ、ごめんなさい。起こしてしまったみたい」

「いや・・。しかし、まだなにも思い出さないか?」

ゆっくりと、首を縦に振る。

答えはイエス

何も思い出さないし、自分に夫がいたことすら信じられないし、自分が一国の皇妃だということも信じられない。

「まぁ、いいさ。時間をかけて思い出してくれ。・・・まだ、早いだろう。 ゆっくりとおやすみ」

ユーリは、しみじみと思った。

なんでこの男性は、自分のことを忘れている女にこんなに優しいんだろうと・・・。

自分は、なんでこの男性に恋をしたのだろうか・・・・と。

第8話      変化              作 にゃんこさん

ユーリに変化があったのは、王宮に戻って5日目の昼の事であった。

記憶が戻らないまま、それでも王宮での生活に慣れてきた矢先・・。

『3姉妹はいないか?ハディ!リュイ、シャラ!』

王宮の中に響きわたる声の主はカイルであった。

「はい!ここにおりますが、皇帝陛下・・」

ハディがカイルの呼び声にかけつけた。

「ハディか、ユーリは?先程から、どこにも見当たらないのだが」

「え?ユーリ様が?確か、中庭の木陰で・・・。双子達も一緒のはずです」

その言葉に従い中庭にやってきたカイルが見たのは、木陰で寝息をたてている、リュイとシャラである。

そこに、ユーリの姿は・・・・ない。

「あんた達!!」叫んだのは、ハディ。

「・・・んん?」

「ユーリ様は?!あんた達ついてたんじゃないの?なぜ、あなた達が気持ち良さそうに寝てて、ユーリ様のお姿が見えないの?」

「あの・・・ユーリ様があまりにも気持ち良さそうな寝息を立て始めたので・・いつのまにか私達も・・。」

「何てこと・・・私達が寝てしまってる間に、ユーリ様が・・・!」

「ユーリがいなくなった・・記憶がないままで、一体どこに行ったというのだ!」

何か嫌な予感がする・・。

カイルは胸のざわめきを押さえられずにいた・・・。

第9話  彼が愛しているのは                作 ひねもすさん

ユーリは神殿の前に立っていた。

そう、あのナキア皇太后が泉を埋め立てて建てた神殿だ。

記憶のないユーリは、自分とカイルとの馴れ初めやなぜ自分がイシュタルと呼ばれているのかそんなことを双子達から聞いていた。

そして、自分の家族はこの世界にはいないということを・・・。

双子達はもう、私が日本に帰ることができないと言ってた。

両親や姉妹にも会えない。

それでも、私が陛下と共に生きることを選んだのだと・・・。

陛下が私をどれほど愛しているのかは、記憶がなくても彼の指先が私に触れるだけで伝わってくる。

でも、でも・・・・・

彼が愛しているのは『ユーリ・イシュタル』・・・・

周りから聞けば聞くほど『ユーリ・イシュタル』はすばらしい女性だ。

でも今の私は?

彼女と今の私は別人だ。

そう思うと胸が苦しくなる。

本当の私を知る何かが日本にあるはず。

 

もしかしたら泉があった場所なら何か手がかりが残っているかもしれない。

私が元いた世界、日本のことが!

ユーリは神殿の入り口へ向かった。

第10話  カイルの愛情                  作 かずはさん

そのころカイルは、言いようのない不安の中にいた。

「・・・まさか、日本に帰れるあの神殿にいるんじゃ」

(もしかして日本に帰りたいと思っているんじゃないか。嫌だ!ユーリは私のものだ!誰にも渡したくはない!)

「すぐに神殿に向かうぞ!」

「はい!」

カイルたちは急いで神殿に向かいました。神殿の中のちょうど泉があった場所にユーリはいた。

「ユーリ!探したぞ!頼むから私の目の前から黙って姿を消さないでくれ!」

そういってカイルはユーリに抱きついた。

「・・・ごめんなさい。いろいろと考えていたの。私は記憶をなくす前はすごい人だったんだなって。でも今の私ではきっと前みたいにはできないから私は、必要ないかなって。」

ユーリは涙を流しながら言った。

その涙をふき取りながら、カイルはユーリに言った。

「私は別にお前が役に立つからそばにおいているのではないよ。お前を愛しているからそばにいてほしいんだ。それに私にはお前が必要なんだ。お前がそばにいるだけで心が落ち着くんだ」

「・・・ほんとに?私でいいの?」

「もちろんだ!記憶なんかまた1から作っていけばいいさ」

「カイル~!」

ユーリの顔に笑顔が戻った。

第11話    涙                   作 あかねさん

こうしてユーリは、王宮に戻ってきた。

記憶をなくしていたが、皇妃としてはちゃんとやっていてくれた。

「えっと、こんなものでいいんですか?」

「あぁ、上出来だ」

食後の一時。

この時間はいつもユーリの文字の練習の時間。

やはり文字は分からないようだ・・・。

「・・・あの、私、足手まといじゃないですか?陛下・・・いえ、カイルは、お仕事で 疲れているのに・・・。」

こんなこと、頼んじゃって・・・・・。

ユーリは、カイルや三姉妹、その他の側近のおかげで何とか暮らしていた。

しかし、ユーリは不安だった。

カイルは、じぶんのそのままを愛してくれていると言った。

そのままでいいと言った。記憶は、また作ればいいと・・・・・。

でもそれは、もしかしたら無理をしているのではないか・・・。

「どうしたんだ、ユーリ。急に黙り込んで。考え事か?」

「・・・・いえ、なんでもないです」

しかしまた、黙り込んでしまう。

ふぅ・・・。大きなため息が一つ。よくみれば、カイルの顔色は何となく悪い。

そのわけは、知っていた。自分のせいだ・・・と、いうことも。

カイルは、記憶のなくなった自分のために自分の仕事までこなしてくれている。

それは、私を愛してくれているからだと、イル・バーニは言った。

ユーリは不安だった。

ユーリの頬に、一筋の涙が流れた・・・。

第12話   ユーリの迷い              作 かずはさん

ユーリは、夜一人で星空を見つめながら、

(ほんとに、私がそばにいていいのかな?・・・カイルは、そばにいると心が落ち着くって言ってくれるけど、私は、カイルの負担にしかなってない気がする。

私が記憶があるときにしていたしていた仕事もしているし、夜は、私に楔形文字を教えてくれているし。

私が一番のお荷物になっている気がする。・・・一体私はどうすればいいの?誰か教えて~!!)

ユーリは、かなり戸惑いの中にいた。

カイルは、今も執務室で仕事をしている。

三姉妹も忙しそうだ。

夜遅く、カイルはユーリのところにやってきた。

「ユーリ、遅くなって悪かった。さ、文字の勉強をしようか」

ユーリには、カイルは、いっそう顔色が悪く、しんどそうに見えた。

そこで、ユーリは、カイルにあることを言おうと決心した。

第13話     お願い           作 ひねもすさん

「 カイル、お願いがあるの」

ユーリの『お願い』なんてめったにないこと。

カイルは喜んで「なんだい?なんでもかなえるよ。おまえが欲するものなら何でも与えよう」

「あのね、私に家庭教師をつけてほしいの。 だって、楔形文字はカイルからじゃなくても教えてもらえるでしょ」

「王宮の礼儀作法なんかも他の人からでも教えてもらえるし・・・」

「2人でいる時は、今までの私達のことを話してほしいの。そうすれば少しは記憶が戻るかも知れない」

(ユーリの『お願い』は、いつでもなんてかわいいんだろう。)

と思わず顔がにやけるカイルであった。

「おまえに教える事は私にとっても楽しみなんだよ。 私の教え方は下手なのかい?」

あんまりにかわいらしいお願いにちょっと意地悪を言ってみるカイルであったが、返ってくる答えは予想どうり。

「そんなことないよ!そんなんじゃなくて、 カイルの体のことが心配なの! 政務が終わってからも私のことで、煩わせたくないの・・・。 家庭教師はだめ・・・・?」

と上目づかいで聞くユーリにカイルがNOといえるわけがない。

次の日からユーリに優秀な家庭教師が付くことになった。

 

第14話    かてきょ!               作 あかねさん

「ユーリ様、陛下からの言いつけで今日から家庭教師をします。 イル・バーニです。もうすでにご存じだと思いますが・・・。」

カイルの用意してくれたのは、イル・バーニだった。

確かに頭は良さそう。

「よろしくお願いします、イル・バーニさん。」

こうしてユーリのお勉強が始まった。

夜・・・。

扉を開けて、カイルはユーリの部屋へ入った。

「・・・おや、寝てしまっているのか。よほど疲れたんだな。 まぁ、イルではしょうがないか。しかし、文字の練習にこんなに疲れるのか・???」

ユーリを抱き上げて、ベットまで運んでいく。

横に寝かすと、自分もその隣に横になる。

・・・カイルは、正直いってつかれていた。

自分の分の政務に、ユーリの分の政務。

しかし、ユーリの前でそんなこと言ったらユーリは何をしでかすか分かったもんじゃない。

「ユーリ、早くお前の記憶が戻るように・・・。」

実は、ユーリはイル・バーニから文字以外の授業も受けていた・・・。     

第15話   おべんきょ!               作 しぎりあさん

「では、ユーリ様。皇帝陛下の伯母上と、元老院議長、先帝陛下のご側室の三方がおられた場合には、どのような順で声をかけられますか?」

「えっと・・皇帝陛下の伯母上は皇族だから・・」

 ユーリは指を立てながら、一心に考える。

 実にややこしいのだが、宮中で皇妃が話しかける順番というものは、身分の上下で決まってくる。

本来なら、一番嫌いなモノ、宮中典礼

儀礼や、しきたりはもっとも苦手とするはずだが、皇妃らしくあるために、進んで教えを請うことにしたのだ。

 記憶を失う前は、きちんと身につけていたはずと信じ込んでいるモノ。

 カイルは、ユーリを溺愛するあまり人前に出さないよう最低限の式典にしか参加させていなかったので、実際のユーリはそんなものには詳しくなかった。

 もし、教えられたとしても反発しただけかも知れない。

 けれどイルは、ユーリからそれを習いたいという申し出があったとき、快諾した。

(ユーリ様も、ここらで正式なお后教育を受けるのも、悪くない)

 ユーリは、熱心に学ぶ。以前なら、投げだして脱走していただろう。

「ねえ、イル・バーニさん」

 ため息をつきながら、きく。

「あたし・・本当に、カイルにふさわしくなれるかな?」

第16話   もう一つの課題                 作 ひねもすさん

イルはユーリの質問に答えた。

「陛下にふさわしい女性になりたいとおっしゃるんですね。では、もう一つユーリ様が学ばなくてはならないことがございます。それさえ、修得すれば、歴代にないすばらしいタワナアンナとなられますし、皇帝陛下にもふさわしいお方となられるでしょう。」

「何?!イル・バーニーさん。教えて。ちゃんと勉強するよ。陛下にふさわしい女性になりたいの!」

カイルならこんな台詞を聞いた段階でデレデレだが、そこはイル・バーニー。

切れ者らしく早速、勉強に入る。

「では、その勉強を始めましょう。」

   

イルは、宮中典礼以外で、もう一つ以前からユーリに身につけて欲しかったことをこの際、学んでもらうことにした。

これさえ、身につけば、ユーリ様は完璧な皇妃、ヒッタイト史に残るタワナアンナとなるだろう。

そして、皇帝陛下ご自身のためにもなる。

そして我々側近のためにも。

   ***********

「では、ユーリ様、朝、なかなかご寝所をお出にならない陛下を執務室に向かわせるためには何と言われますか?」

「え~と、『あたしはカイルといられて嬉しいけど、カイルがお仕事しないと皆困るよ』かな?」

「いいえ!前半の部分は余計です!『カイルといられて嬉しい』なんておっしゃったら、何日たってもご寝所から出て来られなくなってしまいます!!」

「で、でも・・・」

「ユーリ様、あなた様が陛下にいかに上手くご政務をさせるかが、このヒッタイトの命運を分けるのですよ!しっかり修得してください。」

第17話   詐欺                      作 あかねさん

「おい、イル・バーニ。なんだか最近、ユーリが凄く疲れているのだが・・・。

それに、朝もなんだか忙しそうだし・・・。」

ユーリに、通称『歴代にふさわしくカイル(皇帝陛下)にふさわしい女性になろう計画』(そのまんま))は、着々と続いていた。

それにこの頃は前に比べて朝政務室に来るのが早くなったし・・・。

でも別に、不信感はないようだし。

やっぱり、この私の作戦は成功だったのだ!!

「イル?お前、何か私にこの頃隠し事を・・・・・。」

「いいえ陛下!!さぁ、御政務御政務!!ユーリ様にお会いになれませんよぉ!」

カイルの言いかけた言葉をさえぎって、政務を始める。

イルは、ちらちら時計をみて席を立った。

「では、陛下。ユーリ様のカテイキョウシにいってまいります。」

*      *      *      *      *      *

「ユーリ様、今朝はうまくできたようですね。」

「イル・バーニ!うん、ちゃんとやったよ!」

イル・バーニがユーリに教えた方法とは・・・。

『カイルが政務しに行かないと、みんな困っちゃうよ。』

の後に・・・。

『私、お仕事ちゃんとしているカイルが好き!!』:

第18話   そしてやっぱり             作 しぎりあさん

唐突にその日はやってきた。

風呂桶の中で、ユーリがすべった。

入浴中に良からぬ事をたくらんでいたカイルの伸ばした手は間に合わず、黒髪の頭は、浴槽に沈んだ。

ぶくぶくぶくぶく・・・・

「お、おいっユーリ!!」

慌てて引き上げると、目をまわしている。

どうやら、浴槽の縁で頭を打ったらしい。

抱き上げて、寝椅子に横たえる。

隣室に控えているはずのハディ達を呼ぼうとすると、うめき声があがった。

「うーん・・」

「ユーリっ!!」

のぞき込むと、まぶたをふるわせ、唐突にぱっちりと目を開いた。

「大丈夫か?」

「あ・あれ?」

焦点があわないのか、ユーリはカイルの顔を凝視した。

眉根を寄せると、考え込んでいる。

「あたし・・なんでびしょ濡れなんだろ?ああそうか、水差しの水かぶっちゃって・・・」

それから上体を起こして、自分の身体を見た。

「なんで裸なの?・・ていうか、カイルも裸・・」

「風呂に入っていたからな、当然だ」

なんだかヤバイことになりそうだった。

記憶を失う以前は、毎日一緒に風呂に入っていたと、だまくらかしたカイルだった。

騙していたことは、まだまだある。

たとえば、ユーリは皇帝の許可なく外出しない。

毎日ひらひらドレスを着ている。

政務の合間の休憩時間には、必ず執務室までご機嫌伺いに顔をみせる。

食事は必ずカイルのひざの上でとる。

などなど・・・・・

じつに、ばかばかしいが、以前のユーリなら恥ずかしがってやってくれなかったことだ。

「風呂って・・・」

ユーリはますます考え込んだ。

脱走して、民家で水くみを手伝ったことは覚えている。

そうだ、馬車が来て、それをよけようとして・・

「頭を打ったせいで記憶を、失った・・」

「そ、そうだ、ユーリ思い出したか!?」

わざとらしく、カイルは大声をあげた。

「良かったな、思い出したのか。心配したぞ!」

上手くすれば、記憶を失っていた間のことは忘れているかも知れない。

その間に、カイルがさんざん好きなように扱っていたことを知れば、怒るのは必至だ。

「・・・そう、カイルが迎えに来て・・」

甘かった。

ユーリは、どっちの記憶もしっかり持っているようだ。

全部思い出す前に、うやむやにしてしまうしかない。

幸い、服は着ていない。

「ユーリ、本当に良かった・・」

言いながら、抱き寄せようとすると・・

ばしーんっ!!

平手打ちが飛んできた。

「なにが、良かったよっ!!あたしのこと、いっぱい騙したくせにっ!!」

「騙したって、なんだ!?風呂に一緒に入っただけじゃないか!夫婦が一緒に入って、何が悪い!」

情けなくも、反論する。

レベルが低すぎる。

「風呂って、他にもあるでしょう!!」

「他ってなんだ!夜のことか?昼のことか?たまには私のやりたいようにつき合ってくれてもいいじゃないか!!」

何事がおこったのかと、ハディが顔をだしたが、全裸で口論する皇帝夫妻を見ると、さっと引っ込んだ。

かかわりあいにならないほうがいい、と判断したのだろう。

「記憶のない人間を騙したのが許せないの、サイテー!!」

「サイテーってユーリ!!」

抱き寄せようとのびたカイルの腕を避けるように後ずさったユーリが、寝椅子から落ちた。

そのまま、昏倒する。

頭を打った後に興奮したせいか?

「ユーリ!!」

必死の形相で抱き上げると、カイルはハディを呼んだ。

「ハディ!ハディ!すぐ来てくれ!!」

しぶしぶ、顔を出したハディは、気を失っているユーリを見て顔色を変えた。

「陛下、なんということを・・」

「な、なにを考えているんだ?私のせいではない!!それより、医者だ!」

「陛下、あまり浴室ではハメをおはずしになられないほうが・・・危険ですし」

侍医が首を振りながらいった。

べつに、ハメを外していたわけではないのだが、よからぬ事を企んだのは事実だったので、カイルは黙り込んだ。

「軽い、脳震盪ですな。ゆっくりお休み下さい」

言うと、一礼して侍医が退出する。

カイルはため息をついて、椅子に腰を落とした。

「ユーリ様が、記憶を取り戻されたと?」

寝台に横たわるユーリを見ながら、イル・バーニが言った。

ユーリの寝顔を他の誰かに見せるのはしゃくだったが、この場合頼れるのはイルしかいなかった。

「烈火のごとく、怒っている・・・どうしよう?」

第19話   えんどれす・・・?              作 あかねさん

そして、ユーリが脳震盪を起こしてから一週間。

一向にユーリの目覚める気配なし。

「おい!医者!!本当にユーリは大丈夫なのか!?」

さすがに一週間も目覚めないとなれば、カイルも気が気ではない。

せっかく、ユーリに謝る言葉を考えたのに!!

「陛下、ユーリ様が心配なのも分かりますが・・・御政務が・・・・。」

「うるさい!!ユーリのが先だ!!」

「・・・陛下・・・。すみません・・・。」

イル・バーニはキックリとカイルの両腕をつかみ、ユーリの部屋から引きずり出した。

「なにをするんだ!!」

「政務が終わるまで、一歩も外には出しませんっ!!!!!」

イル・バーニの厳しいお言葉。

その頃、後宮のユーリの部屋では・・・。

「どうだ?目を覚まされたか?」

「いや、だめだ・・・。しかしいったい・・・・。」

医者が、何人もの医者が集まりおろおろするばかり。

中には、エジプトの医者も混じっていたとか・・・(ラムセス?)

「・・・う~ん・・・・。」

「おぉ!ユーリ様、陛下を呼べ!!」

数分後。

ユーリの部屋に、カイルは急いで戻ってきた。

「ユーリ!!よかったぁ、目を覚ましたんだな。」

「・・・ここどこ?あたしは、氷室とデーとしてたんだけど・・・。」

????????

その場にいる、全員の目が?に染まる。

氷室・・・・デート!?

もしかして今度は・・・・今度は・・・・・。

「ねぇ、あなた!ここどこよ!氷室は?」

第20話   カイルの質問           作 匿名さん

氷室だと?

皇帝陛下の眉がきりきりとつり上がる。

こめかみの血管がいまにも破裂しそうだ。

医師団は、そーっと部屋を抜け出そうとしていた。

「待て」冷たい皇帝の声が響く。

「これは、どういうことだ?」

「頭を打たれたことが原因かと・・しかし、皇帝陛下が一度は直されたはず・・・

再度同じことをなさっていただければ・・・・・」

医師団は言い終わらぬうちに逃げ出した。

「氷室はどこなの?」とユーリ

怒りを抑えながらカイルは聞く。

「氷室とやらとどんな関係なんだ?」

ユーリは絶対にしゃべらなかった。

ユーリを自分のものにしたあとも、心のどこかで気になっていた。

今なら、しゃべりそうだ。

「きゃ、恥ずかしいこの前初めてキスしたところなの。そっと触れた唇がやわらかくて・・・ちょっと何言わせるのよー。」  

ほんとうにそれだけなのか?

肩すかしをくった気分だった。

そうだ、この際聞いて置きたいことは他にもある。

「わかった。氷室とやらを捜させよう。黒い髪 黒い瞳の15歳の男だな?」

キックリに指示を出す。

「陛下、そのようなことおしゃられても無理ですよ。」

「解っている。捜している振りだけでいいんだ。私はユーリに話がある。いいから行け」

ふたり、ぼそぼそと話をしている横でユーリはきょろきょろ。

うーんここはどこ?

いつのまにこんなところに来ちゃったんだろう。

確か公園を歩いていたはずなのに 。

「ユーリ、ちょっと教えて欲しいことがあるんだが?」

「わたしでわかるかしら?」

「ああ、絶対わかる。実は、クリスマスと七夕とバレンタインとやらはどんなものか教えてほしいんだ」

いつのまに用意したのか、カイルの手元には粘土板が用意されていた。 (記録しておくつもりらしい)

「さあ、始めてくれ」

    

第21話   長年の疑問              作 あかねさん

「え?え?クリスマスに七夕にバレンタイン?・・・あなたには氷室を捜してもらって るし・・・。いいよ!!教えてあげる!!」

今でこそ見せてくれていたが、会った頃には絶対に見せてくれなかったユーリの笑顔がそこにはあった。

ユーリは、今は15歳ではない。

当たり前だ。

でも、今のユーリは15歳なのだからカイルは15歳(自称)のユーリの笑顔をみれた。

「うんとねぇ、クリスマスって言うのは・・・キリストっていう人の誕生日なの。 

 大好きな人と過ごすんだよ!!今年は氷室と過ごす・・・まぁ、それはいっか。

 でね、七夕はねぇ、う~ん・・・とにかく、一年に一度星の恋人が会えるの。」

「ふむふむ・・・・・(これでやっと、ユーリと話が合うな)」

カイルは一生懸命メモをしていく。

「でねでね、バレンタインはね好きな人にチョコを送る日なのよ!!」

「そうか・・・・・。うむ、お前の国には色々とあるからな・・・・・。

 では、ではもう一つだけ。・・・お前の国では愛した女にハートを送るそうだな?

 それは本当か?」

カイルの、長年の疑惑である。

第22話   秘密だけど               作 しぎりあさん 

「ええっ!?」

 ユーリの瞳が見開かれる。頬が赤くなる。

「べ、べつにハートを贈るわけじゃないけど。でも、『好きです』ってイミだから、バレンタインのチョコレートをハート型にしたりして・・」

 もじもじと、うつむく。

「ハートのクッキーを焼いて、氷室にあげたんだよね」

 カイルがむっとした。

そりゃ、今のユーリは氷室とやらと恋人同士なんだから(そう思いこんでいる)ハートをやってもおかしくないが、なにか気に入らない。

だいたい、自分はユーリからハートをもらったことがない。

「ユーリ」

「なに?」

心なしか不機嫌な皇帝の顔を、不思議そうに見返す。

「わたしにも、それをくれないか?」

「それって、クッキー?でも、あたし、あんまり上手じゃないし・・・ハートのはだめ。だって、特別だもん」

あっさり断られて、カイルの不機嫌は増した。

怒っても仕方ないのは分かっている。

だいたい、ユーリの一途なところに惹かれたはずだ。

氷室の恋人のユーリ(ものすごく不本意)が、恋人以外にハートを贈るはずもない。

はずもないが、欲しい。

「氷室を探してやるかわりに、ハートが欲しい」

「・・・」

君のハートが欲しい。

すごい口説き文句だ。(いろんなイミで)

なんでこの人、こんな事言うのかな。

ユーリは困ってしまった。

       

第23話    ハート              作 ポン子さん

ユーリは考えた。

ハートをくれって言ったって、そう簡単にあげられるものではないし・・・。

だいたいこの人はなんなんだろう。

変な服着て、言葉遣いもやたら丁寧、というかお固いというか・・・。

 

「私は、ハートがほしいんだ。」

そうそう、ハートね・・・。

ユーリはふと、カイルが持っている粘土板に目を留めた。

「ちょっとそれ貸して。」

「ん?、この粘土板か?」

カイルは、自分の手にあった粘土板を渡そうとして、ふとひらめいた。

「ちょっと待て。」

なにやらカサゴソしている。

「これでいいか?」

カイルがユーリに手渡したのは、カイルが持っていた粘土板の4分の一もないような小さな粘土板だ。

「うん、ちょっと小さいけど、これで十分だよ。」

ユーリはその粘土板にハートのマークを書いて、カイルに渡した。

(ハートがほしいって言ったって、私の心はあげられないし、これで勘弁してもらおう。)

カイルは自分の手の中の粘土板をじっと見つめる。

これは、カイルがユーリに贈った粘土板とそっくりだ。

カイルがユーリに粘土板を見せる。

「これを見て何か思い出さないか?」

第24話  性格改善                作 ひねもすさん

「え?思い出さないよ。なんかあんの?これが?」

そう言ってユーリは粘土板を見ながらながら、横目でちらちらカイルの様子を覗った。

なんか、この人、大丈夫なのかな?

ハートがどうのとか、バレンタインがどうとか。

どう見ても20代後半でしょ?そんなこと気にしてるなんて、もてなかったのかしら?

でも、凄いハンサムよね。

あたしの氷室より、まあ、ちょっと上かしら?

こんなハンサムなら、もてないってことはなさそうだけど・・・・・・・・。

そうか、凄い内気なのかもしれない!

大人の女性と話せない男性が増えてるってテレビでやってたもん。

だから、独身男が多いし、お見合い斡旋所も繁盛してるんだって!

勝手な解釈をしたユーリは、カイルが内気な独身男と思ってしまった。

氷室を探してもらっている間、お礼を兼ねて彼の性格改善に協力しようと考えた。

「え~と、あたしは鈴木夕梨。あなたが氷室を探してくれている間、あなたの話し相手になってあげる。あたしはまだ子供だけど、きっと大人の女性とも話せるようになるわよ!あなたハンサムだもの。がんばって、内気な自分を変えなきゃ!」

カウンセラーのようなことを言うユーリであった。

第25話  勝手な解釈・・・・・すれちがい         作 あかねさん  

「そうか、ユーリ。では、色々と話そうではないか。」

カイルもまた、勝手な解釈をしていた。

ユーリは、わたしのことが気になり始めているんだ!!・・・と。

「じゃぁ、まず・・・・・。あ!あなたのことを教えて!」

まずはこれから・・・と、ユーリ。

わたしのことか・・・・・・・と、カイル。

「私は、カイル・ムルシリ。このヒッタイトの皇帝だよ。」

ふむふむ、皇帝陛下・・・って、偉い人じゃない!?

そうか、自由がなくて内気になってしまったのね・・・・と、ユーリ。

さっきから、ちらちらとこちらを気にしているな・・・・と、カイル。

「皇帝陛下さんね・・・・・じゃぁ、次ぎ。ずばり!で、答えてね。」

「あぁ、何でも答えよう。」

「・・・あなたの気にかけている女性は誰?」

私が相談に乗ってあげるんだもん。

相手の女性のことも知っておかないとね・・・・なんか、うれしいな。

人の役に立ててるなんて!!・・・と、ユーリ。

なんだ、ユーリは!?気にかけている女性だと?

そんなのお前に決まっているじゃないか・・・・・と、カイル。

「ユーリに決まっているだろう?」

「・・・・・え?あぁ、だから、本当に気にかけている女性だって。」

きっとこの人、緊張してるから変なこと言うんだわ。

あっ!?もしかして、ユーリって言う名前の別の人かも!?あたしじゃなく・・・。

「!ユーリさんね。どんな人なの?」

ユーリ”さん”?・・・そうか、ユーリは記憶がないのだったな。

・・・しかしまぁ、どんな人・・・と、聞かれてもなぁ・・・・・。

「おてんばで、じゃじゃ馬で・・・でも、とってもかわいいんだ。

初々しくて、そんなに発達している体とは言えないが、綺麗な肌をしている。」

「そうかぁ・・・・う~ん、じゃぁ、私をそのユーリさんだと思って話をしてみよう」

完全にカイルの性格を誤解しているユーリ。

「話?・・・そんなまどろっこしいものはいらん。この帝国では、女を愛しいと思った ら・・・・抱くんだよ!!」

カイルは、一人でニコニコと笑っているユーリを押し倒した。

当然ユーリは、何をされているのか分かっていない。

「ちょ、ちょ、ちょ!!こーゆーことは、本人にやってよ!!今は、ふりだけだって!!

実演しなくていーの!!!!!!!!!!!!!!」

「・・・お前、何か相当な誤解をしていないか?」

「だってあなたは、内気で。だから、好きなユーリさんともお話ができないんでしょう?

だから、氷室を捜してくれているお礼に、私があなたの性格を直してあげるって ゆーの!!」

そういうことか・・・・・・・。

カイルは、ショックと驚きと、あきれとでがっくりと肩を落としてしまった。

その姿を見たユーリは・・・・・。

「何々?あんなに落ち込むなんて・・・・・。やっぱり、図星だったんだわ!」

と、また勝手に解釈していくのだった・・・・・。

第26話   ライトに行こう               作 しぎりあさん

「思うんだけど、あなたいろいろ考えすぎじゃないの?」

腕組みしたままユーリが言った。

「あんまり考えすぎないで、行動した方がいいよ」

いつも、考えずに行動するユーリが言うと、説得力があるのかないのかよく分からない。

(私が考えないでお前を押し倒したら、大事になるだろう)

恨みがましい目で、カイルは見る。

(あんなに思い詰めた顔をして・・・そうよね、考えるなって言ったって、考えちゃうよね)

そこが、人間の難しいところなんだけど。

さも分かったように、ユーリはため息をつく。

「ん~ねえ、あなた。今一番やりたいことはない?」

やりたいことがあれば、積極性に結びつくかもしれない。

「・・・(お前とヤリたい)」

カイルは懸命に言葉を押さえた。

賢明だ。

ユーリの性格は把握し尽くしている。

無理強いすれば反感を買うだけだろうし。

「そうだな・・・少し、歩き回りたいな」

「??」

歩き回ることぐらいいつでもできるだろうが、皇帝ともなるとそういうささいな行動も制限されるのか?

ユーリは疑問だらけになる。

一方カイルは、王宮内を連れまわすことで、少しは何か思い出すのではないかと期待した。

  

第27話  挨拶してみましょう           作 ポン子さん

きっとこの人はすごく引っ込みじあんなんだわ。

だから、人とお話をするのが苦手なんだ。

で、思い人に気持ちも伝えられないって事なのね。

どんどん勝手に解釈してくユーリ。

「じゃあ、まず出会った人たちに声をかけていきましょうね。」

カウンセラーの役がとても気に入った様子のユーリ。

「ほら、もう誰かいるわよ。」

カイルがなんて声をかけるのかワクワクしてみているユーリ。

いっぽうカイルは

どこへ連れて行ったらユーリは記憶を取り戻すのだろうか・・・

と真剣に考えていた。

私の部屋か、三姉妹の部屋か、そうだ、アスランに会わせると言うのもいい考えかも知れないな。

夢中になって考えていて、声をかけることはすっかり忘れていた。

「ほら、どうしたの?ま、始めはこんなもんかな?じゃあ、次の人には頑張って一言でもいいから話してね。」

「ん?あ、あぁ。」

やっぱりこの人はすごくシャイなんだわ。

氷室が見つかるまで少ししか時間がないけど、頑張らなくっちゃ!

使命感に燃えたユーリを引き連れて、カイルは馬屋へと向かった。

第28話  潮時             作 あかねさん

(何、この人私を、なんでこんなところに連れてきたの!?)

カイルがユーリを連れてきたのは、馬屋。

アスランがいるところだ。

(ついでに、シムシェックもな)

「・・・ここが、どうかしたの?」

「・・・いや、どうもしないよ。」

だめ、か。

一番に好きだった場所。

ユーリの一番の思い出の場所・・・・・ん~~~。

(そうか!!この人の好きな人は馬が好きなのね!!だから、きっとここに来たのよ。

 ふ~ん、馬が好きなのか・・・・・。)

確かにユーリの考えたことはあっている。

カイルの好きな人は、ユーリであって、そのユーリは馬が好きだから。

ただしユーリは、そのカイルの好きな人が自分であるとは気がついていない。

「じゃぁ、次はどこへ行こうか・・・・・?」

こうなったら、ユーリに聞いてみるしかない。

(どこへ?自分で決めればいいのに・・・・あっ!そうか!!

 きっと、何かアドバイスがほしいのね。)

「じゃぁ、ね・・・・・。あなたが一番好きな場所!!」

そこに彼女を連れ込むのよ!!

我ながらに完璧な作戦だわ!!

「・・・・陛下、少しよろしいですか?」

キックリが遠慮がちに声をかけてきた。

ユーリはあっさりと身を引いた。

「あたし、ここで待ってるね。」

何となく、お仕事っぽかったから。

もちろん、キックリの来たわけは決まっている。

「(ぼそっと)陛下、いつまで”ヒムロ”探しをすればいいんですか?」

この世界にはいない人を捜すのほど困難なことはない。

みんな、困惑している。

「そうだな。そろそろ潮時か?しかし、なんといって話そう・・・・・。」

第29話   事例             作 しぎりあさん

「まず、氷室は死んでいた、と言う」

「ユーリ様、後を追ったりされませんかね?」

キックリは、心配そうだ。

ユーリが他の男の後を追うなんて、考えるだけでもイヤだ。

「では、氷室は他で幸せに暮らしている、と言う」

「絶対に、会いに行かれますね」

それは困る。

「氷室は先に帰ったと言う」

「ご自分も帰るって言われます」

ううむ。

やはり現状維持しかないのか?

カイルは考え込んだ。

キックリを見る。

気の毒だが、もうしばらく走り回ってもらうしかないのか?

「やはり、本当のことを話されたほうが」

いずれは話さなくてはならないだろう。

けれど、ユーリの心の準備ができてからにしてやりたい。

カイルの妃として暮らすことの準備だ。

「あまり、ご心配はされなくても。ユーリ様、一度記憶を失われてからも、陛下のことを想われたではありませんか」

「それは、氷室という恋人がいなかったユーリだ。いまのユーリはカレシ持ちだぞ」

なんだって、こんなややこしいことに・・・

キックリはため息をついた。

「?どこへ行く?」

「氷室の捜索に、もう一度行って参ります」

とにかく、時間を稼ぐしかないのだ。