第6話 Troublemaker 1

週刊誌に撮られた1枚の写真。

そこから何かが起こる?

-From 1-

*土曜の昼下がり、久しぶりに道明寺と外で待ち合わせをした。

ちょっと洒落た喫茶店。
早く着いた私は窓側の席であいつが来るのを待つ。

こんなのんびりとした穏やかな気分は久しぶりだ。

大学内でもどこでもあいつといると騒がしくなるから・・・・。

入り口でクルックル天パーがキョロキョロしているのが見えた。
あいつが店内に入ってきた瞬間に周りの空気が変わるのが分かる。
しなやかに伸びた体に、均等に保たれた筋肉。
すべてのバーツが完璧で・・・・
て・・・
見慣れてるはずの自分の彼氏に見惚れてどうする。

「かっこいい・・・」
どこからか女性のつぶやきが聞こえた。
その声につられるように店内の客の視線が一斉にあいつに注がれた。
店内がザワツキ出すのはいつものことで・・・。
やっぱり、のんびりとした気分はつかの間の出来事だった。

そして、私を見つけたあいつの顔に笑顔が広がる・・・・?
広がるはずなのに・・・?
あれ?
いつもとパターンが違うのはなぜ?

眉間にしわ寄せ、一目で不機嫌なのが分かる。
あいつが私に近づくにつれ怒りのボルテージが上がっていくように見えるのはなぜだ?

私は思わず自分のテーブルの周りを見直す。
別にあいつの気に触るようなものは何もないと思うんだけど・・・。

あいつは私の目の前のあいてる席にドカッと腰をおろし、テーブルの上に投げるように1冊の本を置いた。
「なに?雑誌」
「へぇ~道明寺、週刊誌なんて読むんだ」
「読むんだじゃねえ、ここ見てみろ!」
私に顔を横に向けたままふてくされたように雑誌の中を開いて私に渡す。
「えっ!なに?」
開かれたページに目を落とす。
仲良く寄り添って歩く男女の写真に、現代のシンデレラストーリー。
お相手は大学の後輩で高校時代からのお付き合い。
なんて、文章に添えてある。
女性の方はうつむき加減のせいか今一つはっきりと顔は解からない。
「えっーーー嘘ーーーーこれ、私じゃん!」
「いつ撮られたの?」思わず道明寺に聞いていた。

「俺が知るわけねえだろう!」
相変わらず機嫌が悪い
眉間の筋も一本から二本に増えた感じだ。


「なんで、類とこんな写真撮られてるんだ!」
「俺との方が、よっぽどお前と一緒にいる時間長いはずなのに、なんで撮られねえ」

そんなこと言われても私が解かるわけない。

この前バイト帰りに偶然、花沢類に会って送ってもらったことを思い出した。
「別に、これは偶然で・・・やましいことなんて何にもない!」
思わずリキ入れて否定する私。

「別にお前と類の関係疑っちゃいねえよ」
「気分は良くねえけどな!」
「なんで写真の相手が俺じゃない!それが許せねえ」

もしかして・・・・
さっきから道明寺が機嫌悪いのって・・・
私と花沢類の関係疑ったんじゃなくて、写真撮られたのが自分じゃないのが気にくわないてこと?
「ククク、それって、怒るところ間違ってない?」

なんか、思いっきり子供じゃない。

あきれ果てて思わず笑ってしまう。

「うるせえ、笑うな」あいつは真っ赤な顔で私の手から週刊誌を取り上げた。

「次、撮られる時は俺だからな」と言いつつまだあいつはふくれっ面のままだ。

「折角のいい男が台無しだよ」と私はにこっと笑てみせた。

その後・・・

週刊誌に載った類との写真がもとで、とんでもないトラブルに巻き込まれるなんて知るはずもなく、

私たちは久しぶりのデートを楽しんだのだった。

-From 2-

あいつら・・・

喧嘩してねえか?

今までの痴話げんかみてえなやつじゃなく、牧野が本気モード入っている感じ。

俺らが駆け付けようとした時、司を思いっきり振り切る感じで足早に牧野が行ってまった。

チラッと俺達に視線を向けたが、俺らの存在を無視するような足取りでその場から牧野は離れていく。

それも途中からはかけ足だ。

一刻も早くこの場から立ち去りたいという雰囲気。

今までの牧野なら絶対考えられない態度だ。

運悪く二人の喧嘩場面に出くわした場合、総二郎と二人で片方づつこいつらの不満の処理係担当にされてしまう。

その後は結局仲直りして喧嘩の原因に俺らを呆れさせるのが一般のパターンだ。

確か・・・

この前の喧嘩の原因は・・・

「週刊誌でなんで俺達の写真は撮られねえんだ」と司が言ったのが発端だったはず。

「写真撮られたら困る」の牧野の言葉に「じゃー、なんで類とはいいんだ」て司が文句って・・・。

一旦、収まった話ぶり返されて牧野も切れた。

大体がこの二人の喧嘩の発端は司にある。

普通は週刊誌に写真撮られたくないと思うのが一般的常識だと俺らも思う。

牧野なんて騒がれるの絶対嫌がるしな。

こいつらの喧嘩なんてジャレアイみたいなもんだと思っていた。

そう・・・

今日までは・・・・

呆然と司も立ち尽くしている。

こいつらが今さら別れ話をしているとは思えねえが・・・

今回だけは俺達も真剣に対応しなきゃいけない雰囲気だ。

総二郎は「牧野に話聞いてくる」と牧野が見えなくなった方向に走って行った。

どっちか言うと俺も牧野の方担当してえと思った。

が、総二郎に先越されて危ない方を押し付けられてしまった感じだ。

総二郎の奴、楽な方とりやがったと内心舌打ちする。

司が暴れても仕方ねえかと思いながらあいつの肩をたたいた。

「牧野となにがあった」

「いつもの喧嘩の雰囲気じゃねえだろう」

「俺にも解かんねえ」

司の肩に置いた俺の手から逃れるようにそれを振りほどくと司は俺に背中を向けた。

「急にあいつがしばらく会えない。大学でも声かけないでなんて言いやがった」

「ついでに訳も聞くなて言うんだぞ!」

司の顔からは怒りではなく戸惑の表情で支配されている感じだ。

こいつのこんな顔見た事ねえ・・・

普段ならその辺に目につくもの蹴り倒して、投げて、思いっきりぶっ壊して暴れるはずだ。

牧野の言葉が相当にショックを司に与えてると言うことなのだろうか・・・。

「あーーーーーーなんかすげー腹が立ってきた」

「ガっシャ」

突然、そばにあったゴミ箱が俺の目の前の宙を飛んだ。

こいつ・・・

予想もしてなかった牧野の言動を理解するまでに普通より時間がかかったて・・・ことなのか?

いつもの司の態度にフッと安堵のため息が俺から漏れた。

-From 3-

牧野・・・足早いな。

あきらと別れた後、牧野の姿を追って走り出したが、なかなか牧野を見つけられない。

久しぶりに走ったせいか息も途切れがちだ。

見失ったか・・・

そう思った時、車道に止めてあったいかにも高級車という黒塗りの車が目にとまる。

その車に乗り込もうとする牧野を発見した。

車からは中年の男性が後部席のドアを開け、丁寧に対応しながら牧野が車に乗るのを待っている感じだ。

どう見てもお抱え運転手付き高級車が令嬢を迎えに来たと言う雰囲気だ。

乗り込む牧野からはお世辞にも令嬢の雰囲気がある様には見えない。

なんだかアンバランスな違和感を感じてしまう。

牧野が一人で高級車に乗り込むなんてあり得るのか?

俺達抜きでは考えられねえ風景だ。

司の知らないところでおふくろさんがなにかしてるとか・・・

今さら二人の関係認めてるはずのおふくろさんが牧野に手出しするなんて考えられない。

この俺に道明寺の嫁として恥ずかしくない様に茶道を教えてやってくれて自ら頼みにきたくらいだ。

中年の男の風貌にもまったく見覚えがない。

なんかトラブルにでも巻き込まれているとか・・・

牧野の素直に車に乗りこむ感じや、あの中年男性が牧野に対する丁寧な物腰からはトラブルらしきものは

微塵も感じとることは出来そうもない。

いったい牧野とどんな繋がりがある。

全くわからない。

この組み合わせに俺の感じた違和感が大きくなってきた。

「牧野!」

今にも乗り込もうとする牧野に慌てて俺は大声で叫びながら車のそばに近づく。

なんとか牧野の肩に手を乗せ車に乗り込もうとする牧野の動作を止めた。

「お知り合いですか?」

そばにいた男が牧野に声をかける。

紺色のスーツをそつなく着こなし、何事にも動じない雰囲気はどこかの社長秘書て感じだ。

一瞬、司のところの西田を思いおこさせる。

「いいえ・・・ハイ」

気まずそうな表情で俺を上目づかいで見ながら途中で牧野は言葉を言い換える。

このまま俺をここで追い払うのは無理だと観念したようだ。

ここで俺を無理やり置いてっても車のナンバーで牧野の行き先見つけ出すのは容易なことだ。

その辺はしっかりと認識しているらしい。

「大学の先輩です」

牧野が俺に遠慮するかのような小声で言った。

俺って・・・そんだけの関係か!

牧野の答えに腹が立ってくるのはなぜだろう。

「西門総二郎と言います。牧野とは高校時代からの付き合いでして、今は茶道を教えています」

「僕の内弟子てところでしょうか」と、にっこりほほ笑む。

男にほほ笑むなんてあんまり乗り気はしないんだが、本能でこの辺がセールス的ポイントだと感じると

笑顔を作ってしまう。

人を引き付けるための生まれながらの才能ってやつだ。

この秘書みたいな男に自己紹介して、この男の反応を見る。

これで俺に対する警戒心をこいつは解いているはずだ。

そして、牧野にはタダの先輩じゃねえだろうみたいな視線で、にらんでやった。

「一緒に来て」

牧野が俺に名刺を差し出そうとする男の手を止めた。

この男の正体を俺に知られたくないから名刺が俺の手に入るの拒んだような仕草だ。

「その代わり、美作さんにも道明寺にも私がいいと言うまでは絶対内緒だからね」

いつにもない強い口調で念を押される。

牧野の気迫の強さに俺は頷くしかなかった。

「わかった、約束する。でも嘘は、なしだぞ」それだけ言って牧野の後に車に乗り込んだ。

「パタン」と後部席のドアが閉められる。

珍しく類の名前が出てこなかったなと不思議に思う俺を乗せ、高級車が静かに街の中を走りだした。

-From 4-

「司と、なに言い争っていた?」

「いつものあほらしい雰囲気じゃなかったよな?」

牧野の沈黙に耐えられず俺から口を開く。

「別に喧嘩していたわけじゃあ・・・ただしばらく会えないて言っただけ」

「それだけじゃねえだろう?」

「大学でも私に声かけないで無視してて言った」

牧野はうつむいたまま俺に聞こえるか聞こえないかのような小さな声で呟く。

「それじゃあ、別れますて言ってるようなものじゃねえか!?」

「別れるとかそんな気持ちは全然ないだけど・・・」

ようやく牧野が俺に視線を合わせるように顔を上げる。

「全然要領つかめないんだけど・・・お前の説明」

歯切れの悪い牧野の言葉にフッと俺の口元から小さくため息が漏れる。

「別れるつもりはないのに別れるセリフを司に言いはなったことになるんだぜ」

司がそれを別れ話と思ったかどうかは今のとこ疑問だけどと俺は思う。

「お前の煮え切らないような態度とこの車の行き先と関係あるよな?」

牧野がコクリと頷いた。

司・・・

荒れてるよな・・・

あきらは大丈夫だろうか・・・

一瞬あきらの身の心配をしてしまった。

「絶対、誰にも死んでも言わないでよ」

牧野は俺の胸ぐらをつかむような勢いで顔を近づけ俺にすごむ。

俺ってそんなに信用ないのかとクラっときた。

「墓場まで持って行ってやるよ」

覚悟を決めたように牧野が後部座席に上半身を預ける。

そして、ゆっくりと言葉を確認するよう一言、一言、話し始めた。

-From 5-

事の起こりは2週間前。

道明寺が週刊誌の写真のことでふてくされた言い合いから1週間が経過していた。

そんな週刊誌のことなんて私は忘れていたのに、大学でその話をぶり返す道明寺に美作さん西門さんの目も

気にせずいつものような言い合いをしてしまった。

結局この時も気がつけば、火種がこの二人によって消火された感じで収まってしまった。

この後私は3人と別れて大学を後にした。

歩道を歩いてる私の横に車体を寄せる様に一台の黒塗りの高級車がスーと止まった。

道明寺?

私の歩きも警戒心なく止まる。

止まった車の助手席が開いて一人の紺のスーツを着込んだ中年の男性が現れた。

「牧野つくしさんですね?」

「はい・・・そうですけど・・・」

見覚えのない男性の出現に思わず体が硬くなるのを感じる。

警戒心は歪められないがこの男性からは危険なものは感じとれなかった。

それはきっと、短めの髪をがっちりとポマードで固め一寸の隙もない仕草に、西田さんと同じ匂いがすると

思ったからだと気がついた。

「突然、声をかけて申し訳ありません」

男性は背広の内ポケットから名刺入れを取り出し1枚の名刺を私に渡した。

桜井物産 会長第1秘書 川崎昭二 と印刷されている。

「桜井物産て・・・あの大手出版社とかプロダクションとか持っているあの会社ですか?」

「よくご存じですね」

さっきまでの事務的な表情とは対照的な笑顔が川崎からつくしに向けられた。

「ええ、まあ・・・」

F4の中にいると知らず知らずのうちに経営に関する情報は私の耳にも入ってくる。

「いろいろ知っとくのも俺と一緒になるためには大切なことだからな」なんて、結構詳しく道明寺も私に

説明してくれるのだ。

こんな時の道明寺には、いつもの単純思考回路の単細胞の暴れん坊的要素は微塵も感じられない。

さすがは大財閥の後継者だと惚れ直してしまう自分がいる。

「会長秘書の方が私に何の用事ですか?」

いくら私がF4と交流があっても目の前の桜井物産との接点なんてある訳がなく・・・

また道明寺関連でトラブルに巻き込まれた!?

なんて・・・ことしか思い浮かばない。

「不躾で失礼とは思ったんですが、あなたにお願いがあるのです」

「少しの時間でいいので私に付き合ってもらえないでしょうか?」

私も名刺をそのまま信じていいのかどうかぐらいの警戒心は持ち合わせている。

これは道明寺がらみでいろんな危ない目にあわされていることに他ならないのだけれど。

「ちょっと・・・電話をかけてもいいでしょか?」

「どうぞ」

川崎はにっこりと笑顔で反応した。

「失礼します」

私はちょこっと頭を下げると、車のそばから少し離れ、花沢類の携帯に電話をかける。

これは商社繋がりで花沢類が一番詳しいかもと思って相談相手に選んだ私の感みたいなものだった。

「珍しいね、牧野から電話なんて、なんかあった?」

「ちょっと聞きたい事があって・・・あのね桜井物産の会長て知ってる?」

「ああ、知ってるよ。家族同士の付き合いもあるから」

「じゃあ会長の第1秘書は?」

「川崎さんのこと?」

「川崎さんて髪の毛ポマードで固めた長身の細めの感じの中年男性?」

「牧野よく知ってるね。そんな感じだよ」

「ありがとう」

「まって!まき・・・」

花沢類の返事も聞かずに携帯のボタンを押した。

この男性、桜井物産の会長第1秘書なんだとようやく確信できた。

花沢類の家族同士の付き合いがあるとの言葉は、私が川崎さんの話を聞くだけならば十分な理由となった。

「お話伺います。でもお願い聞けるかどうかの拒否権はあるんですよね」

「それはもちろんです」

後部座席のドアを開けて川崎さんに促されるまま私は車に乗り込んだ。

-From 6-

車が走り出して30分もした頃、郊外の周りを長い壁に囲まれた一区画を走り抜ける。

壁が切れかかった頃、いかにも金持ちという純和風の門構えを通り抜け、これまた和式の平屋造りの豪邸に

車が横づけされて止まった。

「どうぞ、こちらは会長のご自宅です」

車のドアが開けら川崎さんが車から私に降りるように促す。

川崎さんの後をついて行く様に私は歩みを進める。

案内されて部屋は外観からは想像できない洋間造りのモダンな一室だった。

「こちらでしばらくお待ちください」

そう言って私一人を残し川崎さんは部屋のドアをパタンと閉めた。

こんなお屋敷にも洋間なんてあるのねと変なことに感心してしまう。

「コンコン」

数分もしないうちに部屋のドアがノックされる。

「お久しぶりね」

私の前に現れた上品な年配の女性がにっこりとほほ笑んでたたずんだ。

「あっ!」

対照的に私は女性を指刺しながら大口開けて驚きの声を上げてしまった。

1か月ほど前通行人の若い男と肩が当たって倒れそうになった初老の女性に駆け寄り助けたことを思い出す。

あの後その女性を無視してそのまま行こうとする男性に後先考えず食ってかかった事も思い出した。

「会長の奥様で美鈴様と申されます」川崎さんが私に説明してくれた。

「この前はお世話になりました。どうしてももう一度あなたに会いたくて川崎に頼んだの」

私の驚いた態度など気にも留めない感じで私の目の前まで女性は歩み寄ってくる。

私はあの時名前も告げずにその場を離れた。

よく私のこと探し当てられたよねと不思議に思う。

私の疑問がわかったのか「あの時、私のそばにいた使用人に後を付けてもらったの。悪く思わないでね」と、

こぼれるような笑顔を私に向けた。

「いえ・・・そこまでされるようなことはしてないので」

「別に気にしないでください」

「あの・・・これで用件が済んだのなら失礼させていただきたいのですが・・・」

あんな事のお礼だったのかと私の気も緩む。

「お礼が言いたかったのも本当ですが、あなたにどうしても頼みたいことがったのです」

ホッとしたのもつかの間、こんなお金持ちの奥様が私に何の頼みがある?と身が強張る。

「この写真を見てくれる」

私の緊張を解きほぐす様なやさしいまなざしで一枚の写真を手渡たされた。

ずいぶん古い写真の様だけど・・・・

40代くらいの男女の写真とその間に若い女性がほほ笑む家族写真。

一人は会長の奥様の若い時と気がついた。

じゃあこの男性が会長で・・・

若い人は娘さんかなとあたりをつける。

「似てるでしょ?」

「えっ」

「あなたに助けられた時、娘が生き返ったのかと錯覚してしまったわ」

まじまじともう一度、写真に穴が開くくらいの感じで見つめてしまった。

経過した時間の長さで写真はセピア色に変わっている。

言われれば似てるのかな?くらいしか私には確認ができない。

生き返ると言うくらいだから娘さんは死んでいるてことも理解はできる。

それで私に何の用事がある!?

どんな頼みごとが目の前にぶら下げられているのか・・・

これからの展開は全く予想不可能で・・・

断れそうもない雰囲気に向かって転げ落ちていきそうな感覚に私は陥ってしまった。

数時間後・・・

私が納得すれば問題ないという両親の承諾済みという用意周到さのもと、会長夫人と会長秘書の川崎さん

二人かがりの説得にほだされた形でこの屋敷でしばらく生活をすることを約束させらていた。

話をまとめれば、桜井会長は3か月前体調を崩し自宅療養の状態に陥ってるらしい。

病状は小康状態を保っており今すぐ生命に危険がある状態ではない。

だが、これもまた金持ちにはよくある話で倒れた先から財産分与の話がちらほら持ち上がる。

唯一の遺産相続人である一人娘は20年ほどまえ、これもまたよくある話で結婚を反対されて駆け落ち。

数年後探し当てた時は娘を一人残し事故で他界していた。

そこまでは・・・

だから私に何の関係があると言う感じだったのだけれども・・・

その後から蜘蛛の糸を絡められるように抜き差しならない状態に陥ってしまった。

娘夫婦が亡くなってから、今年20歳にあるはずの一人残された孫娘の行方を探してはいる。

だがいまだに少しの手がかりも見つかってない。

会長が倒れた途端、親戚一同それらしき娘を連れてきては屋敷に置いて行く。

今までほとんどが偽物で、はては自分の娘をお孫さんが見つかるまでと置いて行くものまで出てくるしまつ。

もしかしたらという微かな期待で受け入れては来た。

だが、きりのない押し付けにこれでは治るものも治らないと、もう辟易してしまった状態に会長夫妻は

陥ってしまった。

そんなときに娘そっくりの私に出会い秘書の川崎さんが中心となって一つの計画を思いついたというのが、私に

声をかける発端となったらしい。

そっくりの若い女性を自分たちの屋敷に引き取っていると噂がたてばこれらの騒ぎが収まるのではという

ものだった。

孫娘が見つかったと周りに思わせること!

それが第一の目的だと言う。

別の目的もあるんだろうか、なんて思ったがその時は別に深くは考えなかった。

孫娘が見つかればそれに越したことはないのだけれど、せめてまわりが落ち着くまで病人を助けると思ってとか、

哀れな年寄りを・・・なんて私の手を両手でしっかり握り涙を流す感じで頭を下げられる。

「会長夫妻の話相手をするバイトだと思って引き受けてくれませんか」なんて川崎さんにとどめを刺される。

普段の生活には支障がないと言う約束で「わかりました」と私は頷いたのだった。

桜井会長は気さくなおじいちゃんと言う感じで、身構えて挨拶した私は拍子抜けしてしまった。

会長夫人を助けた時、むこうみずにも相手の男に喧嘩売った私の行動は結構大受けだったとか。

相手がすぐに謝ったので私は拍子抜けしたのだが、なんでもその時夫人の後ろでSP数人が睨みを利かせていて、

それに気がつかぬまま私は啖呵を切っていたことになる。

訳を聞けばすごくはずかしい結末だ。

それでも、高校時代の赤札事件なんて興味深深で二人で聞いてくれた。

すぐに私たちは意気投合。

こんなお願いだったら楽勝だなと思いながら時間は過ぎていくと思われた。

1週間が過ぎた頃そんな私の考えはガタガタと崩れ去ったのだった。

-From 7-

日曜日の昼下がり会長のベットの側で私は椅子に腰かけ、たわいもない話を繰り返す。

「そう言えば花沢類を知ってるんですよね?」

話が途切れた間を埋めるためのつなぎに聞いてみる。

「ああそうだ、類の爺さんの頃からの付き合いだな」

なにか思い出すように顎に手を添えながら会長は言葉を続ける。

「類と最後に会ってから5年以上は経ってると思うが・・・・」

「なんだ、つくしは類を知っているのか?」

「高校からの知り合いで大学でもよくしてもらってます」

「川崎さんからここに連れてこられる前も用心のために、花沢類に携帯をかけて川崎さんのこと知ってるか

確かめたんです」

「結構な念の入れようだったんだな」

「準備万端な構えで私をここに置くことに成功した会長には言われたくありません」

「「ブッハハハ」」

二人顔を見合わせどちらからともなく吹き出してしまった。

なんだか穏やかなんだよな~と、ここに来てから一週間、会長と過ごす時間に自然となじんでいる私がいる。

「トントン」

ドアがノックされ会長に面会者が現れたことを告げる。

「それじゃあ、私は部屋に戻っています」

「ここに居ていい」

険しい表情の会長が病人とは思えない強い力で私の左手を掴んで立ち上がった私を椅子に引き戻した。

案内された訪問者は6名程度

「こんな小娘どこから拾ってきたんですか!」

部屋に行ってきた途端、開口一番にその中の一人が私を指さした。

「別にお前たちに許可をもらう必要はないと思うが」

今でに聞いたことのない威圧的口調で会長が私を指さした男性を睨みつける。

「私たちが連れてきた娘達はすべて追い帰しておいてその子をそばに置くのは納得できません」

「お前たちが納得する必要は別になかろう」

「要は私が気にいるかどうかだけだ」

「会長は騙されてるんです。財産目当てに決まっているわ」

会長にことごとく反論を封じられる男性陣にしびれを切らしたように後ろの女性が叫んだ。

「ほう、それではお前は損得抜きで私のことを心配しているんだな。それは知らなかった」

女性を皮肉るように片唇を少しだけ上げて会長は冷笑する。

突然の来訪者にさっきまでの明るい気分は一気に急降下を告げた。

会長の本来の姿を目のあたりにしてさすがだわと感心するが、私は自分の身の置き所がわからず椅子から

立ち上がるべきかどうか迷っている状態だ。

「あまりお嬢様を辱める言動はお慎み頂いた方が賢明だと思いますよ」

それまでそばで静かに控えていた川崎さんが来訪者の目の前のテーブルに一冊の本を開いて置いた。

「あっ!」

その本を見て思わず私は声を上げてしまった。

花沢類と私の二人の写真の載ったあの週刊誌が私の目の前に広げられていたのだった。

忘れかけていた週刊誌をこんなところで目にするなんて・・・。

あり得ない情景。

それも川崎さんの手元から週刊誌が出てくるなんて・・・・。

似合わない。

どう考えても川崎さんからは経済雑誌でしょうなんて思ってしまう。

その週刊誌発行が会長の出版社だなんて・・・

どう言うつながりなんだ!

だから一体何なの!て関連性の見えない展開にますます私の頭は混乱してしまった。

私の感情抜きで時間は流れていく。

「こんな週刊誌なんて信用するに値しませんわ」

さっき自分を財産目当てと言い放った勝気な目をした女性が私を睨みつける。

「私の出版社で発行してる雑誌は事実無根の内容を全国に発信してるとでもいうのか!」

会長はそばにあった大きめのクッションを女性めがけて投げつけた。

女性はそのクッションを横に倒れかかる状態でかわした。

目標を失ったクッションは偶然にも半開きになったドアの前に立つ男性の腕の中にすっぽりと収まる。

「手荒い歓迎ですね」

「あまり無理するとまた倒れますよ」

私は思わず椅子を倒す勢いで立ち上がり「えっーーーーー」と奇声にも似た驚きの声を上げた。

ドアをパタンと閉めてクッションを抱きしめた花沢類が私の目の前に立っていのだ。

確かに私も会長も花沢類を知ってはいる・・・。

だからといってなんで花沢類が現れる?

それもこんな絶妙のタイミング?

ドラマでもこんな登場なかなかないぞ!なんて傍観者気味に見とれてる自分がいた。

そんな私の気持ちを知ってか知らずか花沢類は私の側に歩み寄ると「久しぶり」なんてにっこりほほ笑む。

「牧野になにか言動起こす時は僕に向かってやってることだと覚悟を決めて下さい」

「牧野に対する侮辱は僕に対する侮辱と一緒ですから。花沢物産を敵に回すつもりで」なんて私の肩に

左手を回しながら来訪者を一通り見渡した。

わたしが初めて目にする花沢類の強い威圧的感情。

いつものおっとりとした無関心的花沢類には予想もつかない。

私を快く思っていない者の言動を閉鎖するには十分すぎる花沢類の姿だった。

「今日は帰ります・・・・」

渋々と部屋を出ていく来訪者を事の展開が今一つ理解できてない私は呆然と見送る。

そんな私を蚊帳の外に置いてる感じで会長、川崎さんそれに花沢類3人はにこやかに握手を交わしていた。

第6話 Troublemaker ② にお進みください

今回の作品の題名をusausaさんのから頂ただいた時、どんな話にしようか考えました。

司にお金持ちのお嬢さんの横恋慕はありきたり、つくしにアプローチもネタとしては使ってしまったので、もっと面白い展開ないかと考えた結果この話を思いつきました。

今回やっと類を登場させることができました。これでお話の後半が見えてくる感じでしょうか。

もう少しお付き合いお願いいたします。