霧の中に落ちる月の滴 8

類君目覚めましたがこの後はどうなるのかなぁ・・・

つくしより司がねぇ・・・

ちょっと心配。

 *

白いカーテンの隙間から差し込む日光の日差しが柔らかい光を作る。

ベッドの上を照らすその光が顔の片側から光を当てて顔の片側に作りだす影。

その影さえもすらりとした形のいい影を作りだしてる。

「道明寺、後で来るって・・・

だからもう少し待ってやって・・・」

小さくつぶやく声に、花沢類の唇がかすかに動くのが見えた。

少し荒れた唇が意識を取り戻さず昨日まで眠っていたんだと思わせる。

少しやつれたような頬の花沢類に泣きそうになった。

ウトウトした状態のまま寝ぼけた頭の中で聞こえた道明寺の声。

「どうしても会社に行かなきゃいけなくなった。

類には後で会うから」

柔らかい唇の感触を額に感じたのはほんの一瞬。

ちょっとでも花沢類の病室に顔を出したらいいのに・・・

その思いは言葉にならないままにドアが閉まる音を耳が捉えた。

まだ、身体は思った通りに反応してくれなくていつもよりワンテンポ遅れてしまう。

いつもの道明寺だったら・・・

相手の迷惑なんて考えずに昨日の夜のうちに花沢類を起こしてでも会いに行っていたんじゃないのだろうか?

消灯が過ぎたといっても寝るには早い時間。

花沢類の記憶が数年抜け落ちてしまってることを考えたら眠れなくなっていた。

そんなときに現れた道明寺。

心配そうに私を見つめる道明寺に、花沢類が気が付いたと連絡を入れてなかったことに気が付いて・・・

感じたうしろめたさ。

道明寺も心配していたはずなのに・・・

連絡できなかったのは花沢類のなくした記憶の断片が私たちは一番つらかった時期と重なるから。

道明寺に残した心のままの私を救ってくれたのは確かにあの時も花沢類だったんだよね。

道明寺の顔を見たら一気に安心してしまったというか考え込んでいた感情がそのまま吹き出してしまってた。

記憶が少しなくなってること。

「今度の事故のことを覚えてないの・・・

私が高校を卒業して、道明寺と婚約したことも忘れてる」

「そんなこと説明すればいいだけだろう」

「それが、そうじゃない」

この会話の中できっと道明寺も思いだしたはずだ。

道明寺の瞳の奥が感情に揺れ動いてる。

まっすぐに私を捉えてるはずの瞳は私を見てない気がした。

あのころどうなやり取りが二人の中にあったのか詳しくは知らない。

けど・・・

道明寺には私しかいなくて、私には道明寺しかいないって確かめたそのあと・・・。

私たちを祝福するように笑顔を見せてくれた花沢類のことは覚えてる。

言葉にならない二人の絆。

それは私が呆れるくらいしっかりと結ばれてるって理解できた。

「心配するな」

微笑んみせた道明寺はどこか悲しそうに見えた。

明日になれば記憶戻るかな?

戻ってほしいよね。

あの時が、みんな一番つらかったって今なら思えるから。

私の横で瞳を閉じてる道明寺が寝てないことに気が付きながら気が付かないふりで瞼を伏せてはずなのに、

道明寺より先に寝入ってしまったんだと思う。

何も話せないままに道明寺を見送って訪れた花沢類の病室。

点滴スタンドからぽたぽたと落ちる黄色い液体。

病院独特の薬剤の匂いが私より重症だったんだと花沢類の状態を私に印象付ける。

「牧野・・・来てくれたんだ」

「無理しないで」

ベッドに起き上ろうとする花沢類を慌てて止めた。

「自分の身体じゃないみたいだな」

「当たり前でしょう。数日寝たきりだったんだから」

わずかに浮いただけの上半身をバサッとベッドの上に戻しただけのはずなのに花沢類の呼吸は痛みに耐えるように乱れてる。

「だから、無理しないの」

「牧野は?牧野のほうこそ無理してんじゃないの?」

私だッてまだ歩くのにも息を切らす状態。

隣の病室でなければ一人で来れるかどうかわからない。

私の空元気に花沢類が見せる気遣い。

「花沢類がかばってくれたおかげで、花沢類よりは軽い怪我ですんでるから」

「だったら俺は牧野を守れたんだと思っていいのかな?」

「うん。思いきり恩にきせてくれてもいいから」

いつもと同じようにいつもと同じ感じで進む花沢類との会話。

それが私をホッとさせてる。

「司とは会ったの?」

「うん・・・」

「牧野は司に会って大丈夫だった?

あいつどんなつもりで牧野に会いに来たのかな?」

花沢類の瞳はどこか遠くを見ていて訝しい感情と不愉快さをにじませた色をのせてる。

花沢類の記憶は元に戻ってなくて・・・

私のことで道明寺のことを責めてる花沢類の姿が目の前にいる。

「花沢類・・・」

「俺、牧野をなにか悩ませているのかな?」

柔らかい笑みを浮かべる花沢類に、なくしてる記憶の部分をどう話すべきなの迷ってる私がいた。

拍手コメント返礼

スリーシスターズ様

なかなかトントンとは進まないんですよね。

微妙に短い流れでお話は進んでいくと思います。

次回は司君サイドで行きます。

りり 様

この時期みんないろいろと辛い時期ですよね。

総ちゃんもあきらも本気で心配してましたもんね。

さて今回この二人はどう動いてくれるのかなぁ~