霧の中に落ちる月の滴 29
おはようございます。
まだバレンタインのお話は全部終わってませんがひとまず休憩。
ということで連載部分を更新。
こうなるとそのままホワイトデーまでいくかも・・・
ホワイトデーの話は『まっさらさらさら』の白紙の状態です。
*「ま~きの」
少しおっとりとした花沢類特有のテンポの私の名前。
このテンポで名前を呼ばれると心配事があっても自然と笑顔が浮かんでしまう。
道明寺とは一味違った飼い慣らされ方をしてるって思う。
ご主人に名前を呼ばれて走っていくとご褒美にと頭を撫でらることに期待してる子犬のきもち。
「話ってなに?」
花沢類の呼びだしはそう珍しいことじゃない。
大学に顔を出してるのはF4の四人の中じゃ一番だし、大学で一緒に過ごしてる時間は道明寺より多いかもしれない。
「牧野を任せられるのは俺以外にはお前しかいない」
そこには私にはわからない道明寺と花沢類の信頼関係があったはず。
そう・・・
事故で花沢類が記憶をなくすまでは・・・
今、私の目の前にいる花沢類はどこか道明寺を許してなくて、私のことをとても気にかけていてくれている。
「牧野・・・俺・・・」
「なに?」
ゆっくりとした花沢類の唇の動きを追いながらめぇいっぱいの明るさで問いかけてみる。
ゆっくりと上に動いた花沢類の腕。
「えっ・・・」
手のひらがそっと私の左頬を包みこむように触れてきた。
その感触に戸惑ったままほほ笑んだいたはずの頬が強張る。
そして・・・・
首の後ろに回された腕は私を引き寄せて抱き絞められてしまった。
「しばらく・・・
このままにさせて・・・」
花沢類の腕がもう一度グッと私を抱きよせる。
「ひゃっ・・・」
しゃっくりにも似た声に思わず口をつぐんでしまった。
花沢類・・・
花沢類に抱きしめられたこと・・・
前にもあったよね。
私が道明寺のことで悩んで一人で泣いていた時、やさしく元気づけてくれたのは花沢類。
そして静香さんのことで悩んでいた花沢類に抱きしめられたときは私が助けなきゃって思った。
花沢類の腕の温もり感じるのは、初めてじゃないけどこれはあの時とは違う。
記憶をなくしてる花沢類は、私を好きだって思ってる花沢類のはずで・・・。
私を傷つけた昔の道明寺が今の道明寺で・・・
この抱擁の意味が何なのか恋愛に疎い私でもわかる。
「ダメだよ・・・
友達がこんなことしちゃ・・・」
押しのけるように花沢類の胸元を両腕で突く。
つま先になってしまってる私の腕にはほとんど力が入ってない感覚。
それでもここは花沢類に離してもらわなきゃだめだ。
もう一度押し返そうと腕に力を入れた瞬間に花沢類の身体が私から距離をとった。
少しの間の後に花沢類が「ククッ」と笑い声を上げた。
「まさか・・・ここで思いだすなんてね」
腰を折って膝に手をついて笑う花沢類に表情は隠れて私からは見えない。
それでも笑ってるってことは分かる。
「花沢・・・類?」
「俺、牧野にキスしたことあったよね?
疲労で倒れたあんたを俺は一晩ベットのそばに付いていたとき」
「え?あれはッ」
見慣れない病室のベットの上で目を覚ますと花沢類がいた。
私の手を握る花沢類にドキッとしたのも事実。
「すぐ来てくれたの?」
「暇だったからね」
「一晩中ずっとそばにいてくれたの?」
「そう」
「ありがとう。あのさ、ずっと手を?」
あの時花沢類はぎゅっと手を握り返してくれることで返事を返してきた。
学部審査があることを思い出した私をその件は学校に掛け合うからと身体のことだけ考えてと起き上った私を止めてくれた。
「ほんと優しいよな・・花沢類は。
また助けられちゃったな。
ピンチのときは花沢類って」
「なんで俺がピンチの時の花沢類か知ってる?
牧野のこと好きだから」
「え?」
そういった花沢類の唇が私の唇に触れてキスをした。
「びっくりするよ。
だめだよ友達はそういうことしちゃいけないんだよ
そうでしょ。いきなりだと心の準備が」
「だってしたかったんだもん。しょうがないじゃん」
どこまで本気かわからない花沢類を完全に意識してる自分がいた。
「あの時と、おんなじように返されるとは思わなかった
キスはしてないけど・・・」
「え?それって・・・
花沢類!記憶戻ったの!全部思いだしたの!」
言葉の代わりに私の目の前の花沢類がにっこりとほほ笑みを浮かべる。
「ほんと?」
「んっ。まだところどころだけどね。大事なとこは大体ね」
「花沢類ッ」
うれしさのあまり花沢類を押し倒す勢いで抱き付いてしまってた。