十六夜の月は甘く濡れて 12
10話での類の言葉。
「牧野・・・・・・ お願・・・ でいい・・・」
耳の状態は良好でしょうか?
類の声が聞こえてきますよ。
ジャジャジャーン♪
「牧野・・・お願い・・・軽くでいいから俺をぶって」
そんなわけないか・・・(;^ω^)
*深い澄んだ色合いを浮かべる瞳。
その瞳がなんの迷いもなく私だけを見つめてる。
吸い込まれそうだ。
花沢類を初めて見た時からそう思った。
花沢類に向ける初恋の淡い思いは道明寺に向ける恋心とは異色のものだって思う。
たぶんそれは一生変わることはないってあいつは分かってくれるかな?
「牧野・・・お願い・・・今だけでいいから俺を愛して・・・」
愛しての言葉に動揺しなかったわけじゃない。
花沢類を見上げた私の頬にそっと花沢類の手の平が触れて感じたぬくもり。
ドキッとしたのは一瞬。
花沢類の熱が頬から私に伝わる。
それは決して男性の下心を変に感じるものじゃなく安心してと私に花沢類が伝えてるようで・・・
フリデイイカラ。
目を離せないまま見つめていた花沢類の唇が私に読み取れるようにはっきりと一つ一つ無言で口の形をつくる。
ちらりと瞳が動いた先できらりと光りに反射して光るレンズ。
防犯カメラ?
この部屋は監視されてる。
花沢類の表情がそう私に告げてる。
理由はわからないけどここは花沢類を信じて花沢類の言うとおりにしたほうがいいのだろう。
花沢類を好きになったふりをするってことは道明寺を嫌いになったって演技をするってことだよね?
ここで花沢類を好きなフリをカメラの向こう側にいる相手に見せればいいってこと?
どうするの?
おーーっ。
いきなり花沢類の顔がアップで近づいて私の視線を覆う。
花沢類の身体がカメラから私を隠すよう動いて抱きしめられた。
「たぶん、カメラからはキスしてるように見えるはずだから」
そうつぶやく花沢類の息が首筋に触れる。
キスされなくてもそれ以上に密着を感じてしまいそう。
真似でも近すぎっ。
花沢類は本気じゃないってわかっていても心臓が跳ねる。
道明寺以外には慣れてない近さ。
それも花沢類。
F4のファンが見たら私に対する風当たりは数倍に膨れ上がりそうだ。
あっ・・・
もしかして・・・
私と道明寺が別れることで得する相手がレンズの向こう側にいるってこと?
それに手を貸す花沢類じゃないはず・・・
ならどうして花沢類が今私の目の前にいるのか。
F4の力ならこんな真似をしなくても事前に大勝できそうなものだ。
「まって・・・」
両手で押しのけた花沢類は思いのほか簡単に私から離れた。
「どうかした?」
「何が、なんだかわからなくて・・・」
もう頭の中は考えが絡み合ってほどけそうもない。
「俺を好きになった。
そう司に言えばいいだけだよ」
軽い調子の声はさわやかな笑みを浮かべる。
犬より猫が好きになった。
そんなノリの発言。
「司は信じないだろうけどね」
小さくつぶやく声はやっと聞き取れる小さなつぶやく。
私と道明寺が別れるってことが今回の狙いってことだけはわかる。
私と道明寺が別れて喜ぶ人って・・・
やっぱり道明寺HDと何らかのつながりを持ちたいってこと?
私と別れたからってそう簡単に思い通りになる道明寺じゃないって思う。
一体誰が?
私が知ってる人間じゃ少なすぎだ。
「司が牧野に振られたら、あいつはきっと立ち直れないよ」
え?
ということは・・・
道明寺に何らかの打撃を与えたい相手ってこと?
道明寺家と仲良くなりたい相手より恨んでる相手のほうが多いんじゃないの?
ますます敵を絞れそうにない。
「今は牧野が俺には必要なんだ」
もしかして、敵が誰なのか花沢類にもわからないってことなのだろうか?
虎穴に入らずんば虎子を得ずってやつなのかな?
進んで敵の中に入るような花沢類じゃないのに。
道明寺のために頑張ってくれてるんだろうな。
そう思ったら花沢類の言うとおりに協力して頑張れる気持ちがわいてきた。
道明寺は私が守る。
「あんたをしあわせにしてやるよ」
あいつのプロポーズにそう返事した私が私を奮い立たせる。
「花沢類・・・わかった。何でもする」
両手を首に回すように花沢類に飛びついた。
気持ちの上では道明寺に抱き付いてる。
恋人の役でも道明寺をフルふりでも、敵をあぶりだすためには何でもやる気になっていた。
私が飛びついた勢いに少し押された花沢類の腕がわたしの背中に軽く回る。
「頼もしいね」
クスッとした花沢類の声は同胞としての結びつきを強くにじませるさわやかなものに聞こえた。