Happy Valentine(boys編 3-2)

え・・・・

たまに顔だす駿君の優柔不断な性格。

ここはつくしじゃなく司の血が濃く出てほしいところですが・・・

2話で終わらせたい!

 *

「あの、どうぞ」

差し出されたのはからになったグラスと交換された泡の立つビール。

「ビールでよかったんですよね?」

確信の浮かんだ笑み。

周りからは甲斐甲斐しく見える世話のやきよう。

さっきまで戸惑ったように合コンに参加してる雰囲気とは真逆の気づかい。

それは、参加者全員じゃなく僕限定に見える。

ありふれた会話を僕がふるようになってから変わる雰囲気。

大学はとか?

どこに住んでるの?

彼氏いる?

それは隣のやつが僕の肩越しに身をのりだして聞いていた質問。

そんな言葉をかけたら気があるって勘違いされそうなやつ。

それなのに彼女の明るく輝いた表情を僕だけを見つめてる。

そしてすらすらとよどみなく帰ってきた答え。

普通・・・

初対面じゃ教えないんじゃないの?

「ちょっと失礼」

ポケットの中で震えたスマホ

呼びだし音は小さく流れているがお店の雑音にかき消されてる。

スマホに出るつもりで席を立つ。

話し声のあまり聞こえない場所。

洗面室につながる一角。

スマホに出ようとして切れたベル音。

スマホの画面に表示された菜花の姿が写る写真。

一緒に撮った写真を珍しくはしゃいだ菜花が僕のスマホの設定を変えたもの。

「これで、いつも一緒だから」

菜花の肩に回した腕。

その手の中に菜花がスマホを返して、それを一緒に眺めた時間はずっと二人で微睡んでいたいような気分にさせた。

菜花のスマホにも同じ写真が僕の呼びだし音とともに表示されるはずだ。

「道明寺君かっこいいよね」

「普通の男とはオーラが違うよね」

「彼女がいても全然問題ないって感じ」

「一緒に過ごせただけで自慢になるよね」

洗面室の奥から聞こえた声。

自分の噂話に思わず耳を澄ませた。

話の内容から今日の合コンの相手だとわかる。

「でもさ・・・

ほんと、紗季ってすごいよね」

「私も道明寺君と話したかったのに~」

「相手によって雰囲気を変えるんだから」

「でもさ、いつもなら化粧映えする顔で美人を前面に出してるのに今日はまた全然違う感じに装ってたよね」

「あぁ・・・それね。

この前偶然道明寺君が可愛い素直な感じの女の子と楽しそうに歩いてたのを紗季が見たんだって」

「だからかぁ~。

あそこまでできれば女優になれんじゃないの?」

壁に背中を押しつけたまま彼女たちの会話から離れることができずにいる。

見られたのってたぶん舞だよな・・・。

可愛くて素直って評価は当たってる。

ついでに無邪気で純粋で・・・

騙されても騙すことは一生ないような妹

「はぁ・・・」

大きく吐いた息。

コツンと壁に押し当てた頭。

もっと強く打ち付けたい気分。

なんかおかしいとは想い出していたんだけど・・・

彼女の作るあざとさが直ぐに見抜けなかった自分に腹が立つ。

「悪い、帰る」

これ以上聞く必要もない会話を断ち切って席に戻った。

椅子の上に置いていた上着を無造作につかんで蒼を見下ろしながらつぶやく。

「おい、どうしたんだ」

「ここにいる必要はないし」

引き止めようとした蒼が珍しく強固さをあらわにする僕にたじろいでるのがわかる。

支払いは全部すませて店を出る。

彼女のあざとさに気づけなかった自分の不満を蒼にぶつけてしまったせめてものお詫びつもり。

吐く息は白く、頬に触れる北風の冷たさが皮膚をさす。

折角のバレンタインディー。

菜花の顔を見なきゃ終われそうもない。

待ち合わせ時間まではあと2時間。

菜花からの着信思い出してスマホを握る。

「もしもし」

着信から2回ほどのコールで聞こえた落ち着いた菜花の声。

「さっきは出れなくてごめん、待ってたろ?」

「別に、待ってないけど?」

「自分から電話したのに?何かあった?」

何気なさを装っていてもすぐに菜花が僕からの電話を待っていたってわかる。

「抜けだしちゃったから・・・合コン」

「合コン!?」

「言ってなかったけ?」

「聞いてない?」

「駿も、合コンだったんでしょ?」

合コンて知ったのは僕はお店に行ってからで・・・

なのになんで、菜花が知ってんだよ。

「蒼君が、私にわるいからって、駿は必ず自分が守るから許してって私にまずは断りを入れてきたの」

あのバカッ!

なんで僕にだけ何も言わないんだ。

何も返さない僕を菜花どう思ったのか・・・

気になって次の言葉が出ない。

「僕もさっき店を出たから」

動揺丸出しの自分の声にまた慌てる。

「それじゃ、待ってるから」

くすとした菜花の声が電話越しに聞こえた気がした。

普段なら倍は時間のかかる待ち合わせ場所。

恵比寿ガーデンプレイス

12月のクリスマス。

10万球もの光でライトアップされたクリスマスの夜を一緒に過ごしたのがもう懐かしく思える。

時計台の下に立つ菜花のすらりとした長身は嫌でも目立つ。

菜花ま数メートルの距離で息を整えるよう走ってきた足を歩きに返る。

「もしかしてフラれた?。こんな寒い中遅れてくるなんて許せないよな?」

たぶん30分は一人で待っていたはずの菜花。

軽い足取りで近づいてきたのはジャンバーを着こんだ若いやつを相手にしたくないというように小さく息を吐くのが見えた。

「気軽に声をかけないでくれるかな。

彼女、俺のなんで」

後ろから引きよせるように回した腕で菜花を抱きよせる。

睨みつけるように僕を見た男の表情が強張りを見せる。

後ろむきによろけるように後ずさりで下がった男。

くるりと背中を回して逃げた。

「僕、なにか、した?」

「すごみすぎでしょう。それに私、駿のものじゃないけど」

首をそらさすように僕を見上げた菜花。

少し怒ったような声とは裏腹に僕の腕をもっと抱きよせてとでもいうように握りしめてる。

僕を見つめる菜花の大きな黒い瞳はきらきらと輝いて見つめてくる。

「俺のものでしょ?」

菜花の瞳を覗き込んでそこから烙印を押すように強引にでも押し込みたい感情。

「仕方ないな・・・」

グイと襟元を引っ張られた僕は菜花に引き寄せられる。

そして背伸びをした菜花の唇が僕の唇につながってチュッと音をたてて離れた。

バレンタインの夜は始まったばかり。