第7話 満ちる月に欠ける刻 1

今回のお話はパラレル風のお話です。パラレル物が嫌いな方はお許しを~

司の部屋でずっこけて気を失ってしまったつくし・・・

気がつけば・・・

満月の夜、事件は起こる!

-From 1-

*大学が終わって牧野が現れるのを待つ俺。

最近は忠犬ハチ公並みの従順さだ。

牧野を見つけるまでの間の事だけどな。

俺を見つけた牧野の眉が困ったように八の字になりやがった。

「今日は付き合えない」と俺の横を素通りする。

俺様がわざわざ待ってるんだぞ!

それだけで済むと思ってるのか!?

このやろうーーーーー

数歩行った先の牧野をめがけてポップ!ステップ!で追いついてジャンプで抱きついてやった。

「ギャー」悲鳴を上げる牧野の羽交い絞めに成功だ。

周りの奴らも驚いて見ているだけで俺らに近づく奴は誰もいない。

大学でもF4の権力は健在なんだよ。

「忙しい!」「本当に今日は無理!」と、俺を突っぱねようと身体をバタつかせる牧野を肩に抱きあげて校内を出る。

そして無理やり車に押し込んだ。

「拉致されるっーーーーー!」

誰も助けに来るなんて思ってないくせにいつも無駄な抵抗ばかりしやがる。

いつも、いつも大げさなんだよ!

「本当に、今日は時間がないの!あんたに付き合ってる暇なんかない!」

「あっ!」

不機嫌にすごんで見せる。

「講義のレポート提出期限迫ってるの!」

「これ出さなきゃ、進級できないんだからね」

「そうなったら結婚伸びるよ!いいの?」

思わずギョッとする俺。

最後の切り札はいつもこいつが持ってやがる。

だが、ここで負けるわけにはいかねえ。

妙な対抗心が湧きあがる。

「うちですりゃいいじゃねえか」

「道明寺のうち?」

俺んち以外にお前はどこに行くつもりなんだ。

行くとこなんかねえだろう。

あったらその家ぶっ壊してやるけどな。

「別にレポートぐらいどこでもかけるだろうが」

「邪魔しない?」

牧野は疑わしそうな視線を俺に向ける。

「邪魔しえねえっ」

「ホント?」

「信用しろ!」

まだ真っ直ぐ見る牧野の瞳の中から疑いの色が消えてねえ。

「結婚遅らせるようなことは絶対しない」

ようやく牧野が「ウン」と頷いた。

俺の部屋に着いた途端、牧野は「ダーーーーッ」と俺を押しのけ速攻でPCの前をぶんどる。

「絶対、邪魔しないでね」と俺に念を押すのを忘れなかった。

仕方なくソファーにどっと身体を預け牧野を見つめる俺。

俺・・・

しっかり言いつけ守ってるからな!って・・・誰に教える気だ!?

カタカタとキーを押す音だけが部屋に響く。

今、キー打ち間違えてやがんの。

同じキーを何度も叩いてやがる。

今度は口をポカンと開けて固まった。

そしてキーボードを見つめダダダッーーーと同じキーを打だした。

まだ画面見たままキー打つ芸当は牧野には無理らしい。

削除の文字が頭から乱射しているのがわかる。

今度はパ二くって頭抱え出した。

使い方はまだ初心者だよな・・・

そのうちペンで書くなんて言い出しそうだ。

牧野見てても飽きないもんだと思わずにやついてしまう。

「なあ・・・」

「なに?」

「なんでもねえ・・・ただ呼んだだけ」

「ふ~ん」

何の意味もねえ短い会話。

訝しそうな目で俺をチラッと見て、愛しい彼女は忙しそうにPCのキーを叩いている。

ただ・・・

俺が呼んで・・・

すぐお前から返事が返ってくる。

ただそれだけの事なのに・・・

そのことに俺がすげ~満足して、幸せ感じてるなんて解かってねだろうな。

聞かれても絶対教えないけどな。

今この状態で アイシテルなんてあいつの口元動いたら・・・

速攻!あいつ押し倒す!

絶対にないそんな出来事。

完全に俺の妄想、想像範囲。

やっぱり部屋ではカタカタ愛しい女がキーボードと悪戦苦闘中。

それでも大人しく牧野を見つめてる俺。

だが・・・

真剣な瞳の牧野の横顔・・・

まじでヤバいと思った。

ここでちょっかい出したら肘鉄ものだと解かっている。

解かってはいるが・・・

抱きしめてっーーーーー! 

-From 2-

「ねえ、さっきからなにしてる?」

窓の外からはいつの間にか月明かりが差し込み満月の光が部屋を照らし出していた。

夢中でPCと悪戦苦闘をしていた私は結構長い時間、道明寺の部屋であいつを無視しづけていたことになる。

日が沈んで夜空に月が浮かぶまで、私の言いつけを守って大人しくしていた道明寺がさっきから落ち着きない仕草を見せはじめていたことにようやく気がついた。

「いや・・・ちょっと飽きてきたから・・・」

「お前にちょっかい出そうなんて全然思ってねえからな!」

ないからな!て・・・

道明寺・・・

声、裏がえっているんですけど・・・。

めちゃくちゃ何かするつもりだったんじゃない!

結構わかりやすい奴。

そう思ったら思わず「プッ」と笑いが私の口から飛び出した。

私の態度になにを勘違いしたのか道明寺は私の後ろから私の座ってる椅子の背もたれごと抱きしめた。

半分身体をひねって道明寺を見ていた私は結構きつい体勢を余儀なくされている。

「苦しいーーー離して!」

「しばらくこのままいさせろよ」

「俺的には頑張っていたんだからちょっとしたご褒美くれても罰当たらねえだろうが」

椅子の背もたれが邪魔して私の行動範囲が抑制されてしまっている。

ご褒美って・・・

あんたは自分の部屋でのんびりくつろいでいるだけでいいんでしょうが!

来たくもなかった私を無理やり自分の部屋に連れ込んで、言いたいこと言いだしている。

それは言いがかりと言うもんだーーーーー。

ご褒美もらいたいのは私の方じゃないんだろうか。

でも・・・

それが道明寺なんだよね。

なんて・・・その俺様感覚に納得してしまう。

そして、それでも仕方ないと思う私はやっぱり道明寺に甘いんだろうなと自覚してあいつを許してしまってる。

これって・・・

結局のところ道明寺に惚れている証拠なんだろうけど・・・

「ちょっとだけだからね」

困ったような顔して睨みつけてやった。

子供みたいな無邪気な笑顔で「ラッキー♪」なんてあいつの口元はハミングしている。

「結局・・・こうなっちゃうんだよね」

「なんだよ、俺はまだお前をちょっと抱きしめてるだけだろうが、これぐらいならまだ我慢の範囲だ」

我慢の範囲って・・・。

これから何かする気なら問題外だ!

私の方はこれでも妥協してるんだからねと強く言いたい気分になった。

「これ以上私に触れたら許さないからね!」

机の横に置いていたシャープーペンシル握りしめ道明寺の首元へ狙いを定めて見せる。

「あぶねえだろうが!」

そう言いながら口元には「フッ」と笑いを浮かべているのが分かる。

言葉ほどたいして危険を感じてないのがばればれだ。

それがまた私の癪に障るから始末が悪い。

「あんたほど危なくない!」

私の首に巻きついていた道明寺の腕を「バリバリ」とはがしながら私は椅子から立ち上がった。

立ち上がったつもりだったのに・・・

なぜか道明寺の顔がひっくり返って見えている。

私の体が反転し頭から床に落ち様としていることに気がつくのにそう時間はかからなかった。

その上、倒れる椅子から飛び出した私の上に道明寺が降ってくるのが見える。

ギャアーァァァァァァーーーー

このままいったら、抑え込まれて道明寺の思うつぼじゃん!

頭にタンコブこさえる痛さより、貞操の危機勃発。

私って・・・

何考えてるんだろう。

かりにも彼氏に対する考えじゃないよね。

でも!でも!でもーーーーーーーーー

この体勢は本気で困る!

道明寺を押しのけて逃げ出せる可能性は何パーセントあるのだろう。

頭の真中で必死でシュミレーションをはじきだす。

はじきだせないっーーーーーーー

思わずシカッと両目をつぶる。

・・・・・・?

なんだかやけに道明寺が落ちてくる時間が長く感じる。

窓から満月の光がさしこんでスポットライトを受けてるような感覚が私を包んだ。

そこから私の記憶が「プーン」とどこかに飛んで行ってしまった。

-From 3-

「いてっ・・・」

まったく、無茶なことしやがる。

もう少しで牧野を下敷きにするところだった。

牧野の座っていた椅子を咄嗟に横に押しのけて牧野の体を腕でかばいながら俺は床に倒れ込んだ。

御蔭で脛と肘を思いっきりぶつけてしまっている。

「大丈夫か?」

牧野からの返事が返ってこない。

そういや・・・

「ゴーン」て、結構いい音が牧野の頭から聞こえてたもんな。

後頭部を思い切り床にうちつけた状態で倒れ込んだ様なもんだ。

さすがに俺も牧野の頭をかばうことはできなかった。

自分の下敷きに牧野がならないことを優先してしまったからだ。

こいつの石頭なら床の方に穴が開くぞ!

なんて・・・

思っていたんだが・・・

「おい!牧野!」

牧野の体を抱き起こし、ほっぺを軽く叩いてみる。

全く反応がない。

気絶してるだけなら問題ないが、頭を打っていることが明白なだけに、さすがに心配になってきた。

「誰かいないか!医者!イヤ、病院に行く」

全く動きのない牧野を抱えている俺を見て使用人たちがなにがあったのかと騒ぎだした。

知らせを聞いたタマまで飛び出してきやがった。

「坊ちゃん、つくしになにをしたんですか?」

さすがのタマも真っ青になっている。

「俺は何にもやっちゃいねえ」

それどころかこいつにけがさせないように俺は守ってやっていた。

それがなんでこんな事になる?

「1メートルぐらいの高さからずっこけて頭を打ったようなもんだ」

普通なら頭にタンコブ作って笑える話じゃねえか。

嘘だよ~て、目を開けても全然おかしくね状況だぞ。

牧野からそんな冗談めいた感じがすることはない訳で、ますます俺を慌てさせる。

牧野を抱きかかえて屋敷を飛び出し速攻で車に飛び乗ると病院に急がせた。

「頭には何の異常もなく脳波も正常です。医学的には問題はないのですが・・・」

気を失ってるだけの状態だと医者は説明を繰り返すだけだった。

「じゃあ、なんで起きねえ!?」

同じ意味を何度も繰り返す医師に俺のイラつきは募っていくばかりだ。

それなのに・・・

朝になっても牧野は目を覚まさずにべットに横たわっている。

確かに見た目は「グーグー」いびきでもかいていそうな寝顔の牧野だ。

「待つしかありませんよ」

「お医者様は大丈夫だと言ってるんですから・・・」

つくしが心配だとついてきたタマにソファに座るよう促される。

大丈夫と言ったって、もしこのままてことになったらどうなる!

牧野の事になると、どうしてネガティブにしか考えられないんだろう。

普通なら楽観的に考える人間だと俺は自分の事を思っていたはずなのに・・・

牧野・・・

目を開けろよ!開けてくれ!

そして、俺にほほ笑みかけてくれ!

そうしたらほかには何にもいらないのだから・・・

頭を抱え込んで、この俺が神に祈っている。

「いつもつくしには心配かけどうしなんですから、坊ちゃんにはいい薬ですよ」

いつもいつもタマは痛いところをついてくる。

俺に遠慮と言うものが全くないから厄介だ。

タマはつくしには絶対の信頼を置いているから、なにかあると責められるのは俺って図式ができつつあるのが現状だ。

「チッ」舌打ちするしか反抗できねえ。

「つくし、気がつきましたよ」

タマがにっこりと俺に笑いかけて振り返っていた。

タマを押しのけるようにベット近づく。

まぶたが開いてる牧野を確認すると「ホッ」と安堵のため息が漏れた。

膝をついて俺の視線を牧野の顔に合わせて覗き込む。

「よかった・・・」

布団の隙間から出ていた牧野の右手をしっかりと握りしめる。

「牧野・・・解かるか?お前一晩気を失っていたんだぞ」

まだボッとしているのか牧野の視線は宙をさまよっているようだ。

「牧野・・・」

俺に気がついたのかようやく視線を牧野が俺に向けた。

「ま・き・の・・・?」

牧野がぽつりと絞り出すようにつぶやいた。

突然なにかに驚いたように牧野が布団を蹴り飛ばすような勢いでべットの上に飛び起きる。

そして、自分の両手を見つめなにか考え込んでいるような仕草を見せた。

しばらくして病室をクルッと見回して、壁に掛けてある鏡を見てその動きがぴたりと止まった。

「誰・・・」

牧野の表情からは驚きと戸惑いを混ぜ合わせた感情が飛び出していた。

-From 4-

身体の節々が痛いのはなぜだろう・・・

確か・・・

道明寺から変なことするぞ~みたいなオーラーを感じたから逃げようとして・・・

椅子からひっくり返って・・・

それから・・・

どうした?

そっと薄目を開けてみる。

真っ白い壁の無機質な四角な空間が見えた。

「病院?」

確かに病院だと解かったが、道明寺が運んでくれたのだろうか。

でも病室には私一人っきりで誰もいない。

これは結構さびしいものだと思った。

ベットから起き上がると、そのままベットの端に腰を下ろし直す。

「トントン」と音がして看護師さんが入ってきた。

ギョッとした顔をしてその後「キャー」て短めに叫び声をあげた。

「先生ーーーー 301号室の患者さん覚醒されました!」

転がるように看護師さんが出て行って病室のドアはその反動でバタンとしまった。

私が目を覚ますことがそんなに大げさに驚かれることなのだろうか・・・

椅子から転げ落ちて頭を打った程度だよな。

頭を触ってタンコブがないか確認してみる。

なにか、違和感を感じるけど・・・何なんだ?

髪・・・

髪がない!

肩を覆うストレートの長い髪のはずなのに首元から下にその存在を探し出せずにいる。

それにいつもより目線が高く感じるのはなぜだろう。

なんか足も長いぞと気がついた。

すね毛・・・

私ってこんなに毛深かかったっけ?

慌てて病衣の上から胸のふくらみを確認する。

そこまで大きくないはずのふくらみが・・・

ない!ない!ないっーーーー!

慌てて病衣を胸元から押し広げてみる。

ペッタン胸板て・・・

私の胸どこ行った?

「ギャァァァァーーーーーー」と顔面青ざめた。

胸がないどころの騒ぎじゃない!

これって男性の体型じゃないか。

慌てて病室を見回して洗面所を確認。

鏡の前にダーと走った。

鏡を壁から剥がす勢いで覗き込む。

見たこともない知らない男性の顔がそこに映し出されていた。

鏡の前で呆然と立ち尽くしてる私の前にさっきの看護師が医師を連れだって現れた。

ベットに寝かされた私をいろいろ診察して「もう大丈夫だね」なんて医師から声をかけられた。

どこが大丈夫なんですかーーーーーーー

と叫んで医師にこの状況説明したいが出来るはずなどない。

これは私じゃない!なんて叫んでも今度は精神が壊れたかなんて思われるだけだ。

身体が入れ替わったなんて誰が信じるだろう。

よりによって高校2年生の男の子だなんて・・・

この先どうすればいいんだろうか。

入れ替わったのがおっさんじゃなく若い男の子でよかったなんて思えるはずもなく、まずは私の体がどうなってるか確かめるのが先決だと気がついた。

病室で一人になってすぐに着替えるものを物色する。

誰もが知ってるブランド物の服が数着ハンガーにかけてあった。

女性物などあるはずなくすべて男性ものが並んでいる。

なんか違和感あったがそれは仕方のないことで目をつぶって、その中から無造作に選んで急いで着替えた。

この子結構いいもの着てるじゃん。センスも割とよさそうだ。

そういや病室も個室だしこの子もどこかの金持ちの息子なんだろうか、なんて思ってしまった。

ジャケットのポケットに手を入れると財布らしき感触に手が触れる。

見てもいいよね・・・

一応今はこの子が私なんだし・・・私がこの子!

なんだか訳がわかんなくなってきた。

気を取り直して財布を取り出す。

ブラックカードに万札も結構入っている。

絶対高校生が持ってる金額じゃない。

学生証・・・

キリッとした眉毛にスッーと真っ直ぐ通った鼻筋

涼しげな大きな瞳と引き締まったうすい唇がバランスよく並べられた顔写真。

さっき鏡に映った顔と全く一緒だった。

白鳥学園 2年 D組 英 慶介・・・

ゲーーーー

英徳と並ぶ私立の名門校だよ。

この子・・・

いや 英 慶介もやっぱりボンボンなのかとなぜかガクッとくる。

これが今の私ってことなんだよね。

思ったより私って従順早いじゃんなんて思ってしまった。

病室のドアのノブをゆっくり回す。

少し開けたドアの隙間から顔だけ出すと左右を確認して、そっと身体を病室から抜けださせた。

「道明寺?」

廊下を右に曲がったあたりで病室に入る道明寺を見つけた。

病室に前に早足で近づく。

牧野つくし・・・病室の前の名札で確認する。

こんなにすぐ会えるなんてまさしく神の導きだよ。なんて感激してしまった。

焦る気持ちを抑えることなんてできるはずもなく、足で蹴破る感じにドアを思いっきり開け放した。

ベットに上半身を起こして座っている私がシカッと目を見開き幽霊でも見たような驚きの表情を私に見せていた。

あっっっっーーーーー

私、生きている!大丈夫だった!

本当にこれでいいのか解からないがこの時は本当にうれしくて、うれしくてしょうがなく、すぐに自分を確認してもっと安心したいと思っていた。

「なんだ、お前!」

突然の見知らぬ訪問者に道明寺が素っ頓狂な声を上げる。

道明寺のそんな声にはお構いなく、気がついたら私は私にガシッと思い切りしっかりと抱きついて、頬をくっつけ合っていた。

-From 5-

こいつら・・・

なにしている!?

よりによって知らない男が牧野に俺の目の前で抱きついた。

すり寄っていた頬を一度離したと思ったら・・・

じーっと見つめ合って今度は牧野の方から抱きつきやがった。

目と目が合ったら心が通じるみたいな印象・・・

それを見て驚き過ぎたせいか声も出ず、身体を動かすことができないまま呆然と見つめる俺。

まるで足が床にくっついた様だ。

俺が抱きついたら滅多に大人しくすることなんてない牧野が・・・

自分から抱きつくなんて・・・

ありえねっーーーーーーーーーー

なんか・・・おかしくねーかって気分になってきた。

俺は・・・俺は・・・・俺はーーーーーーーー

さっき牧野に「誰?」て言われたんだぞ!?

この違い納得できるはずがない。

医師の奴は一時的な記憶喪失でしょうと説明した。

俺も記憶なくして牧野につらい思いさせたことがあったから、今度は俺がお前の記憶呼びもどしてやる!

なんて思った矢先に、なんでこんな男が飛び込んできた?

さっきまで自分の名前も年も何もかも全く答えられなかった牧野が唯一見せた反応。

それが男と抱き合うなんて・・・

すげーフェイントじゃねえか!?

なんとか頭の中を整理しようとするが、この二人の関係にムラムラするもんしか浮かんでこない。

俺を唖然、呆然、自意消失にからめていた鎖がブチッと音を立てて切れた。

思いっきり乱暴に二人の間に入り込み男をきつく睨んですごむ。

「お前、誰なんだ!牧野とどんな関係がある!」

男が身体を固くしたのが解かった。

俺が怒鳴ると周りが萎縮する見慣れた感じに高校時代をふと思い浮かべる。

「関係と言われても・・・困るような・・・困らないような・・・」

「なんなんでしょうね・・・・」

必死に笑おうとしているが男の頬がピクピク痙攣しているのが判る。

「お前っ!俺をからかっているのか!」

男の両襟を手でつかむと俺の顔の近くに持ち上げた。

「ヒーッ」男の口から短い悲鳴が上がる。

まだガキじゃねえかと気がついた。

その時、背中に痛いほどの視線を感じとる。

ゆっくりと後ろを振り返った。

「牧野・・・」

すげー怒り爆発寸前の表情で睨んでる牧野と視線が絡み合う。

思わず男の掴んでた襟を離してしまった。

「出て行ってもらえますか」

「えっ!」

思わず裏返るような声を上げてしまった俺。

「出ていけって言ってんだよ!」

今まで聞いたことのないような、牧野らしくない乱暴などなり声が、病室中に響いていた。

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今回のお話は、つくしを記憶喪失にしようかな~と言うところから始まって、From 1の序章を書いてみました。

From 2を書きながら、つくしと司の入れ替わりとか・・・

つくしの意識が別世界に飛ばされて、そこではつくしがお嬢様で司が貧乏だった!

なんて事も考えていました。

結局パラレルものではよくある設定ですね。

どこかで見た記憶が・・・なんて、がっくりしないでもらえるとありがたいのですが・・・(^_^;)